新潟家庭裁判所 平成14年(家)5455号 審判 2002年7月23日
申立人 X
相手方 Y
未成年者 A
B
主文
未成年者らの監護者を申立人と指定する。
理由
第1申立ての実情
未成年者らは、児童相談所による一時保護措置の後、父母である申立人及び相手方の同意により里親委託措置をされ、現在、里親に監護されている。申立人と相手方は、別居中の夫婦であり、相手方は申立人が未成年者らの親権者となることに反対している。そのため、離婚前に申立人が子を里親から引き取ったとしても、監護者の指定を受けないと、相手方から未成年者らを連れ戻されるとして、主文同旨の審判を求めた。
第2当裁判所の認定した事実
一件記録及び関連する夫婦関係調整調停申立事件(当庁平成13年(家イ)第×××号)の記録(いずれも家庭裁判所調査官作成の調査報告書を含む。)によると以下の事実が認められる。
1 申立人と相手方とは、平成7年11月26日婚姻の届出をした夫婦であり、両者の間に、平成8年○月○日に長女未成年者A、平成10年○月○日に長男未成年者Bが生まれている。
2 申立人と相手方とは、当初は、相手方の実家で相手方の両親と同居していたが、相手方に多額のサラ金ローンがあることが分かった。申立人は、実家に戻り、長女を出産したが、出産後も相手方がなかなか同居に応じなかったため、半年から1年ほど別居生活となった。平成8年後半、相手方は会社の先輩との関係が悪化して退職した。相手方は、会社や借金のことで悩み不眠となり、鬱病の診断を受けた。平成9年1月には、負債総額が約800万円となり、相手方は、同年3月に自己破産宣告を受けた。
3 申立人は、長男出産のため、実家に戻り、半年ほど別居を続けていたが、その間に相手方に再び借金や移動電話の料金滞納があることを知り、離婚を決意し、平成10年7月10日に夫婦関係調整調停を申し立てた(当庁平成10年(家イ)第×××号)。相手方は、調停中に母が死亡し、その死亡保険金を借金返済に充てた。調停は、同年9月17日に不成立となった。申立人は、同年10月から未成年者らとともに市営住宅に入居し、生命保険外交員として働いた。平成11年初めに相手方が復縁を求め、再び夫婦は同居した。しかし、結局、相手方の収入は安定せず、昼夜忙しく出かけるようになり、他方、申立人も成績不良のために生命保険会社を退社し、生活のために夜働きに出ることも考えたが、相手方からは、夜のアルバイトを強く反対されるなど、同居したものの、生活もすれ違い、意見の合わないことが多かった。
4 申立人は、生活が不安定であることや夜のアルバイトを禁じられたことでストレスがたまり、パチンコに興じたり、ローンで貴金属を購入するようになった。他方、相手方も、生活費を稼いでも申立人が浪費することや部屋の片づけを行わないことなどに不満を覚えるようになった。平成13年6月には、相手方は再び鬱状態となり、受診し、申立人も同年9月ころからイライラ感、めまい、頭痛が続き、精神心療科でストレス性の症状と言われ、投薬治療を受けた。生活費不足のために申立人名義で借りた借金が100万円を超えたことから借金問題を巡る夫婦間のトラブルが続き、平成13年10月1日から別居し、申立人は、同月19日、夫婦関係調整調停(当庁平成13年(家イ)第×××号)を申し立てた。
5 平成13年10月15日、申立人は、未成年者らを虐待しそうだとして、自ら通報し、これを受けてa児童相談所は、未成年者らの一時保護委託措置を執った。保護後、未成年者らには、発達面の問題はなく、両名ともに安定した人間関係の中、家庭的な環境での生活が望ましいことから、養護施設よりも里親委託が相当であったことから、a児童相談所は、同年11月1日、申立人及び相手方の同意のもとで、里親委託措置を執った。現在、未成年者らは、里親夫婦の下で監護されている。
6 相手方は、別居後、長男の腹に痣があると聞きつけ、申立人が未成年者らに繰り返し虐待していたのでないかと疑い、夫婦関係調整調停において、申立人を親権者とすることに反対し、相手方が親権者となることを主張した。結局、親権者について双方が譲らず、平成14年3月27日、夫婦関係調整調停は、不成立で終了し、同日、申立人は、子の監護者指定の調停を申し立てた。調停は、2回で不成立となり、本件審判に移行した。
7 当裁判所は、夫婦関係調整調停事件及び本件で、子の状況の調査及び意向調査並びに申立人及び相手方らの環境調査などを含む包括調査を行った。
未成年者らは里親のもとで心身ともに健康的に過ごしているが、監護者が定まらず、里親委託が長期化すると実親への引渡しの際に障害が生じる可能性があることが懸念された。長女は、親の事情で預けられていることを理解している。長男は、預けられている事情を理解しておらず、長女に助けられ、自由に生活し、また、里親からも大事にされている。
相手方は、住所が定まらず、週に4日実父の家で泊まるか、インターネットカフェで一晩過ごす生活をしていると当初述べていたが、本件調停期日(平成14年6月7日)には、友人の所に身を寄せて、アルバイトをしていると述べた。相手方は、申立人を監護者とすることに同意せず、調停は不成立となった。審判期日(平成14年7月15日)に、相手方は、住所及び勤務先を報告する予定であったが、欠席した。翌日、相手方は、電話で、胃潰瘍や十二指腸潰瘍のため連絡できず、審判期日に欠席したこと、現在、実父の家に週2回帰っていることなどを担当書記官に対し述べた。
申立人は、a児童相談所の指導を受けて、未成年者らを引き取った場合に備えて、料理の練習や部屋の片づけに力を入れている。また、生活保護受給の相談に行っており、夜の仕事はせずに日中の仕事と生活保護により子育てを中心とした生活をする予定である。申立人は、未成年者らの引き取りを希望しながらも、監護者が定まらなければ、相手方が連れ戻しに来ると考えている。
8 a児童相談所は、申立人に育児能力が不足していることから、申立人が監護者に指定された場合であっても直ちに未成年者らを申立人のもとに戻すことは考えておらず、申立人の生活状況調査をした上で、指導しながら、慎重に対応する予定である。
第3当裁判所の判断
1 前記認定事実によると、長女及び長男ともに出生時から申立人が継続して監護してきたことが認められ、特に長女は、母親である申立人との親和性が認められる。申立人は、一時、未成年者らの養育を十分行わず、また、虐待するかもしれないと児童相談所に援助を求めたが、その窮状は、相手方との夫婦関係の問題から生じた一過的なものと推測できる。申立人は、経済的に不安定であるが、生活保護により夜の仕事をしないで、未成年者らを養育する予定であること、ストレスから安易にパチンコや浪費、夜遊びなどを行うなど未熟な点はあるものの、a児童相談所による指導が見込まれるところである。
他方、相手方は、未成年者らの養育できる住居を確保できる状況ではなく、収入も安定せず、子の監護能力はない。
2 以上によると、現実に未成年者らを里親から引き取るかどうかは児童相談所の措置決定に委ねることになるが、申立人と相手方との監護者としての比較においては、相手方が監護者として相応しくないことは明白である。また、未成年者らの里親委託が養子縁組を前提としていないことから、里親の愛情に満ちた家庭環境が優れているとしても、未成年者らと実親との関係修復や引渡しを考慮する必要もある。そうだとすると、申立人が児童相談所の指導を受けることを前提として申立人を監護者として指定するのが相当である。
よって、主文のとおり審判する。
(家事審判官 中山直子)