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新潟家庭裁判所 平成18年(家)5331号 審判 2006年11月15日

申立人

相手方

事件本人

Z1

参加人

Z2

主文

1  相手方は,申立人に対し,金90万円を支払え。

2  相手方は,事件本人に対し,平成18年4月以降,事件本人が○○○に入所している間,1か月金3万円の割合による金員を,毎月末日限り支払え。

理由

1  申立ての要旨

申立人,相手方及び参加人は,事件本人の子である。

事件本人は,4年前から□□に入所中であったが,平成17年11月×日に○○で病院に入院した際,△△が悪化,□□□が必要となった。□□からは,症状悪化を理由に退所を余儀なくされ,ケアワーカーと相談,○○○を紹介され,過日,入所した。

申立人は,従前,事件本人を扶養してきたが,年金生活となった。事件本人の子らで,施設の入居時一時金,月々の室料等の諸経費及び医療費の分担をしたい。

相手方に対し,入居時一時金の分担金として90万円,月々の室料等の諸経費及び医療費の分担金として月3万5000円の負担を求める。

2  相手方の意見

月額利用料として1万円を負担するが,それ以外の負担は無理である。

申立人は,父母と同居し,経済的援助等を受けてきた。父の相続時,相手方や参加人が相続分を主張しなかったのは,申立人が参加人や事件本人の面倒を見るということだったからであり,その後,事件本人から実家の土地建物の持分贈与も受けている。今になって相手方らに応分の負担を求めるのはおかしい。

3  当裁判所の判断

(1)  本件記録によれば,以下の事実が認められる。

ア  事件本人は,大正8年×月×日,E,Fの二女として出生,昭和16年×月×日,Gと婚姻し,申立人X,相手方Y,参加人Z2をもうけた。

事件本人は,平成13年ころから,□□に入所していたが,平成17年11月×日に○○で病院に入院した際,△△が悪化し,□□□が必要となった。

□□からは,症状悪化を理由に退所するよう言われ,ケアワーカーと相談したところ,○○○を紹介された。

事件本人は,平成18年3月×日,株式会社△△△との間で,有料老人ホーム入居契約を締結し,□□□を受けられる○○○(以下「本件老人ホーム」という。)に入所した。身元引受人には,申立人と参加人がなった。

本件老人ホームは,終身利用権方式をとっており,終身利用のためには,居室のタイプに応じた入居時一時金と月々の室料等の諸経費を支払う必要がある。入居時一時金は,契約時に20%,残額が5年間月割で償却される。

事件本人は,入居に際し,入居一時金270万円を支払ったが,同金員のうち,申立人が180万円,参加人が90万円を負担した。

事件本人が本件老人ホームを利用するにつき,月々かかる諸経費は,室料が4万5150円,管理費が4万5150円(平成18年5月以後値上げされた。従前は3万6750円)及び食費7万3500円(合計16万3800円)のほか,電気料(23円/KWH),電話料,居宅サービス介護利用者負担額(549円/日。なお,平成18年10月から616円/日に値上げされた。),施設立替金等である。

事件本人は,本件老人ホームから,平成18年3月31日付けで20万6336円(繰越金額を除く。以下同じ。),同年4月30日付けで17万3695円を,同年5月31日付けで18万2665円,同年6月30日付けで18万1803円,同年7月31日付けで18万2426円,同年8月31日付けで18万3622円,同年9月30日付けで18万2068円,同年10月31日付けで18万4193円を請求された。

事件本人は,平成17年中,厚生年金108万96円,国民年金10万6296円の給付を受けている。

申立人が管理する事件本人名義の○○銀行○○支店の普通預金口座の残高は,1万5705円(平成18年1月×日付け),□□銀行の普通預金口座の残高は33万6478円(平成18年1月×日付け)にすぎない。

なお,申立人は,本件老人ホームからの請求に対し,平成18年4月25日に11万円,以後,各月10万円ずつ,事件本人が給付を受けた年金を原資として,請求額の一部を支払っている。本件老人ホームからの同年10月31日付けの請求において,支払いがなく,同日までに繰り越された金額は,58万2615円となっている。

イ  申立人は,○○として勤務した後,退職,現在は,年金生活者となった。平成17年に支払を受けた年金額は,299万5300円である。

申立人は,婚姻後も,父母であるG,事件本人と実家に同居し,昭和57年7月×日,父Gが死亡した際には,実家の土地建物を事件本人1/2,申立人1/2の持分割合で相続した。

申立人は,事件本人から,実家の土地建物の事件本人持分につき,平成13年8月×日,平成14年3月×日と2回にわたって贈与を受け,その全部を譲り受け,移転登記を経由している。

ウ  相手方は,△△に勤務しており,平成17年中に支払を受けた給与等の金額は880万2049円である。

相手方の妻であるHは,□□□□の障害により身体障害者等級2級の判断を受けている。同人は,□□□□の治療のため△△病院への入・通院を余儀なくされるなどしており,相手方は,平成18年1月に16万4637円,同年2月には8万1776円,同年5月には7万6430円を支払った。

相手方は,住宅ローンとして,平成10年4月×日○○銀行から1470万円を,平成4年3月×日□□から1300万円を借り入れており,その返済として,1月,7月に37万3027円,2月~5月,8月~11月が7万9498円,6月,12月が22万5742円を支払っており,その額は年額183万3522円(月額15万2793円)となる。

相手方は,平成16年6月,平成17年1月から同年12月まで月額1万円ずつ,事件本人名義の□□銀行の普通預金口座へ振り込んでいた。

妻以外に扶養親族はいない。

エ  参加人は,△△に勤務しており,平成17年中に支払を受けた給与等の金額は872万9882円である。参加人には,高校2年生,小学校3年生の息子がいる。

オ  申立人,相手方及び参加人は,事件本人が介護付有料老人ホームである本件老人ホームに入居することについて,異議を述べていない。

(2)  事件本人の扶養の必要性

まず,事件本人は,△△の悪化により□□□を必要とするため,本件老人ホームに入所しており,事件本人が同施設で生活を行うことにつき,申立人,相手方及び参加人の間で異議が述べられていない以上,同人が同所で生活を行うことを前提として,扶養の要否を検討せざるを得ない。

事件本人名義の預金残高は,本件老人ホームの入居に必要な入居一時金にすら足りず,必要であった270万円は,申立人が180万円,参加人が90万円を負担していることや,事件本人が本件老人ホームを利用する上では,およそ月額18万5000円弱(平成18年5月から同年9月までの間,本件老人ホームから請求された額の平均額は18万2516円であり,同年10月以後,居宅サービス介護利用者負担額の値上げにより約2000円の増額となる。),年間で約222万円を要するところ,事件本人の年間収入は,約120万円(118万6392円)にすぎず,年間102万円(月額8万5000円)が不足する。

したがって,事件本人は,本件老人ホームで生活する上での生活費が不足していることが明らかであり,事件本人には扶養の必要がある。

(3)  相手方の負担額

申立人は,相手方に対し,入居時一時金の分担金として90万円,月々の室料等の諸経費及び医療費の分担金として月3万5000円の負担を求め,相手方は,月1万円以上の負担は無理である旨主張する。

上記(2)で認定したとおり,事件本人が本件老人ホームで生活する上で,その生活費として,年間102万円(月額8万5000円)が不足する。

この不足する生活費を事件本人の子である申立人,相手方及び参加人で均等に負担するというのであれば,月額2万8333円,季節での増減等や今後の施設費用の値上げ等を考慮すれば,月額3万円を負担するということになる。事件本人が入所する本件老人ホームは,□□□を受け入れる施設であり,申立人,相手方及び参加人の間で事件本人が同所で生活を行うことに異議がない以上,事件本人が同所で生活を送る上で必要となる生活費を子らで応分に負担することが望ましい。

ところが,子の老親に対する扶養義務(民法877条1項)は,いわゆる生活扶助義務,すなわち,自らの社会的身分に相応しい生活をしてなお余力がある限りにおいて負う義務であり,余力のない者に対して負担を義務づけることはできない。そこで,相手方の余力に応じた負担の程度を検討する。

上記認定のとおり,相手方が平成17年中に支払を受けた金額は880万2049円であるところ,総務省統計局の家計調査年報平成16年《家計収支編(二人以上の世帯)》第14表(住宅ローン返済世帯)世帯主の年齢階級・年間収入五分位階級別1世帯当たり年平均1か月間の収入と支出(勤労者世帯)によれば,年間収入五分位階級(Ⅳ \7,470,000~9,580,000)の場合,実収入が66万3295円(月額。以下同じ),実支出が49万4788円,保健医療1万3403円,土地家屋借金返済10万232円,繰越金6万8572円,黒字16万8507円(うち貯蓄純増5万4229円)となっている。

上記統計は,住宅ローン返済世帯であって世帯主の年間収入が相手方と同レベル世帯の家計収支であるから,相手方の余力の有無を検討する上で重要といわなければならず,相手方と同一条件と思われる世帯においては,繰越金の額と貯蓄純増の額を合計した12万2801円が余力に当たると解される。そして,上記認定のとおり,相手方の住宅ローン返済額は月額15万2793円と上記統計数値より5万円強(5万2561円)多いばかりか,妻であるHが□□□□の治療のため入通院を余儀なくされ,多額の医療費の出費(半年間での出費であると考えると,月額5万3807円となり,統計数値より4万404円多い。)を余儀なくされているが,他方,相手方世帯には扶養親族はいないが,上記統計数値の世帯人員は平均3.74人であるから,その家計の消費支出は相手方家庭よりは多くなるはずであると予測されること,相手方は,事件本人の生活費として月額1万円を負担していたこと等を総合勘案すれば,相手方には,上述した事件本人の子ら3人で均等に負担するということを前提とした額を負担する余力が存するものと認めるのが相当である。

また,事件本人は,本件老人ホームに入居するに際し,入居時一時金として270万円を支払ったが,同金員のうち,申立人が180万円,参加人が90万円を負担している。このような入居時一時金のような経常的に発生しない,多額の出費は,関係者の月々の収入によって賄えるものではない。相手方は,事件本人が本件老人ホームで生活することについて異議を述べず,事件本人を同所で暮らさせることを望んでいるのであるから,蓄えから支出せざるを得ないとしても入居時一時金についても応分の負担をするのが相当である。上記認定のとおり,申立人が入居時一時のうち180万円を負担しているから,相手方は,申立人に対し,90万円を支払うべきである。

(4)  よって,主文のとおり審判する。

(家事審判官 鈴木正弘)

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