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新潟家庭裁判所 昭和42年(家)1400号 審判 1967年6月06日

申立人 早川キミ(仮名) 外一名

相手方 大西保二(仮名)

主文

一、相手方は申立人早川キミに対し財産分与として金三〇万円を支払え。

二、相手方は申立人早川キミに対し、右金三〇万円の支払債務を担保するため、相手方所有の別紙第一物件目録記載の建物につき抵当権設定登記手続をせよ。

三、相手方は申立人早川進に対し、扶養料として

(一)  金一万六、〇〇〇円を

(二)  昭和四二年六月以降毎月一一日限り

申立人進が成年に達するまで金八、〇〇〇円づつをそれぞれ新潟家庭裁判所に寄託して支払え。

理由

一  申立人らの申立趣旨

(一)  相手方は申立人早川キミに対し財産分与として金五〇万円を支払え。

(二)  相手方は申立人早川進に対し扶養料として毎月八、〇〇〇円を支払え。

二  相手方の申立趣旨

財産分与の請求には応じられないが、扶養料については毎月五、〇〇〇円なら応ずる。

三  事実関係

(一)  離婚に至るまでの経緯

申立人早川キミと相手方は昭和三〇年四月七日婚姻(同月二二日届出)した夫婦であつたが、昭和四二年四月一九日調停により離婚したものであり、その経緯は次のとおりである。

相手方は婚姻前より現在に至るまで国鉄職員として勤務している者であるが、同人は元来多量の飲酒癖があり、婚姻当初既に約三万円の酒代の借金があつたばかりでなく、その後も酒量を抑制しなかつたので、同人の給料だけでは生活費に困窮を来すようになり、まもなく申立人も燕市の洋食器工場へ働きに出るようになつた。昭和三三年一〇月一五日長男進が出生したが、それでも相手方の飲酒量は減じないだけでなく、却つて増大するばかりで夫婦仲も次第に悪化し、遂に昭和三五年頃申立人は長男を連れて実家に戻り別居することとなつた。約二年間におよぶ別居生活の後、申立人は相手方との婚姻の継続を断念し、昭和三七年七月九日当裁判所へ離婚の調停を申立てた(昭和三七年(家イ)第一八〇号離婚等調停事件)ところ、相手方が酒を慎むと誓約し、当事者双方の親族の懇請もあつて、両当事者は同年一一月二三日再び同居するようになつた。

しかるに、相手方は他に楽しみもなく、寂しさの余り翌昭和三八年五月頃より再び飲酒を始め、前回調停において話合つたことも所詮徒労に帰するに至つた。こうして相手方は飲酒に耽り、その借財のため高利貸を利用し、果ては肝臓障害を惹起するようにさえなつた。このようにして夫婦仲は再度悪化し、昭和四一年三月初め、両当事者および双方の親族の間で協議がなされたが、打開策も見られなかつたので申立人は長男を連れて実家に戻り別居生活を始めることとなつた。

一方相手方は、妻と別居後まもなく肝臓障害のため入院したところ、結核罹患の疑ありとして結核療養所に収容された。次いで強度のノイローゼのため一時精神病院に入つたが結局前後三か月余の入院生活の後退院した。而して昭和四二年三月六日当裁判所へ、夫婦関係の調整を求める調停(昭和四二年(家イ)第七二号夫婦関係調整調停事件)を申立てたが、申立人キミの離婚意思固く、結局当事者は同年四月一九日調停により離婚し、長男進の親権者は申立人キミに定めることとなつた。申立人キミは調停離婚に際し、長男進の扶養料および財産分与の申立をしていたが、当事者間に協議が成立しなかつたので当審判を求めるに至つたものである。

(二)  当事者の財産および収入関係

相手方は別紙第一物件目録記載の建物一棟を所有(その敷地は同人の兄大西泰治の所有であり、期限の定めなき使用貸借関係にある)するが、右居宅は、当事者が婚姻直後、相手方が実父大西富造より金一六万円の贈与を受け、更に勤務先より金一〇万円を借用してその建設資金としたもので、右借用金一〇万円はその後一〇年間の婚姻中その収入から割賦弁済したものである。その後昭和四〇年一二月再度国鉄から七万円借用して風呂場を増築している。

相手方の収入は国鉄職員の給料であるが、前記のとおり、飲酒による借財により、その収入の三割ないし四割が消費されている。他方、申立人キミは婚姻後約二か月頃から稼働し、生活費の一部を補つてきている。その割合は現在の収入から推して両当事者収入全体の約三割に相当するが、しかし、相手方の手取収入額が相当減少していたことから考えるとその貢献度は更に高く評価すべきである。

しかるに申立人早川キミは現在西蒲原郡○○村○○所在の○○硝子工業所に勤務し、月平均約一万二、〇〇〇円の月収を得、長男進と暮しているが、生活の窮迫甚しく兄弟の援助を受けている状態であり、他方、相手方は前記自宅で独身生活を送つており、目下病気療養のため休職中であるが、後記認定のとおり月平均約二万八、〇〇〇円の収入がある。

以上の事実は、当裁判所の申立人早川キミ、相手方、参考人大西泰治に対する各審問の結果、本件記録添付の登記簿謄本、申立人早川キミおよび相手方の給与明細書、昭和四二年(家イ)第七二号夫婦関係調整調停事件についての当裁判所調査官の調査報告書等を総合してこれを認める。

四  財産分与の額および支払方法

そこで当事者離婚による財産分与の額を検討するに、先ず、前記認定事実において認められるように、当事者婚姻破綻の原因は主として相手方の過度の飲酒にあるとみざるを得ないのである。相手方は、申立人キミが相手方の飲酒について理解が乏しいと非難するけれども、高利の借金までしても飲酒に耽り、それによつて家計に対し恒常的な圧迫を加え、自らは健康を害したうえ職場の勤務成績も低下するようでは、このうえなお妻である申立人キミに対し飲酒につき理解をもてといつても無理であろう。

右事実のほか、前記認定事実において認められるように、当事者の婚姻期間、婚姻中の収入および支出、財産取得状況、離婚後の生活状況等をあわせ考えると、相手方は申立人早川キミに対し離婚による財産分与として金三〇万円を支払うのが相当であると認める。而して相手方の財産状態を考慮し、相手方の申立人キミに対する右金三〇万円の支払債務を担保するため、家事審判規則第五六条、第四九条により相手方は申立人早川キミに対し、相手方所有の別紙第一物件目録記載の建物につき抵当権設定登記手続をすべきである。

五  扶養料の算定

前記証拠資料によれば、相手方の現在の給料は

33,700-(2,780+1,200+100+230+1,210)=28,180(円)

(但し、普通貸付弁済金、住宅貸付弁済金、労金弁済金等はまさに収入そのものと認めるべきであるから控除しない)であり、他方、申立人早川キミの月収は前記認定のとおり、平均約一万二、〇〇〇円である。

そこで財団法人労働科学研究所の調査による「最低生活費消費単位」に基き以下相手方の申立人早川進に対する扶養料の額につき検討するに(消費単位および最低生活費の額については別紙第二参照)、

(一)  申立人進が母親キミとの共同生活において費消すると認められる生活費は

12,000円×(75/(90+75)) = 5,454円

(二)  申立人進が相手方と共同生活をしていると仮定した場合の申立人進の生活費は

28,180円×(75/(100+75)) = 11,505円

(三)  申立人キミの最低生活費は、

12,200円×(90/100) = 10,980円

従つて、申立人キミが自己の収入から自己の最低生活費を支出したのち申立人進のために負担し得る養育費は

12,000-10,980 = 1,020(円)

(四)  申立人キミが申立人進の養育費を分担することによつて、相手方はそれだけ支出を免れ、生活程度が上るわけであるから、相手方の分担すべき金額は結局

(28,180+1,020)×(75/(100+75))-1,020 = 11,494円

となる。

ところで申立人進の扶養料請求額は一か月金八、〇〇〇円であるから、民事訴訟法第一八六条の趣旨に則り、相手方は一ヵ月金八、〇〇〇円の限度で扶養料を負担すべきである。而して右扶養料の請求は昭和四二年(家イ)第七二号夫婦関係調整調停事件の記録(第二回調停期日における事件経過表)によれば昭和四二年四月一一日に為されたことが明らかであるから、相手方は同年四月一一日以降毎月一一日限り金八、〇〇〇円を、すなわち同年四月一一日以降六月一〇日迄の二か月分である一万六、〇〇〇円は即時に、六月以降は毎月一一日限り金八、〇〇〇円宛を申立人進が成年に達するまで支払う義務がある。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 山下薫)

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