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新潟家庭裁判所 昭和48年(家)2386号 審判 1973年9月17日

申立人 平野美子(仮名)

事件本人 宮本亜紀子(仮名) 昭三五・一一・一〇生

外一名

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は「事件本人らの親権者を亡宮本広幸から申立人に変更する」との審判を求め、その理由とするところは、申立人は昭和四七年七月二七日、事件本人らの親権者を宮本広幸と定めて、同人と協議離婚したが、親権者である広幸は同四八年六月一四日死亡した。申立人は事件本人らの親権者を亡宮本広幸から申立人に変更したい旨、市役所の戸籍係員に相談したところ、その係員の説明では、この場合は後見人選任の審判を求めなければならないとのことであつたから、申立人は同四八年七月三日後見人選任の申立をした結果、同月一八日事件本人らの後見人に申立人を選任する旨の審判を得た。しかし申立人は、事件本人らの実母であり、現在事件本人らと同居してこれを扶養し、実質的に親権を行使しているので、この際事件本人らの親権者を亡宮本広幸から申立人に変更するとの審判を求める、というのである。

案ずるに、父母が離婚し、その一方が単独で親権を行使している際に、その者が死亡すると、後見が開始するのが原則であるから、当裁判所は申立人のした後見人選任申立に基づき、昭和四八年七月一八日申立人を事件本人らの後見人に選任する旨の審判をしたのであるが、成程民法は、未成年者の監護教育は第一次的に父母が親権者として、親の自然的愛情に基づきその任に当り、補充的に親権者がその任務を遂行できない場合に限り、後見を開始させる立前をとつているから、後見人選任後でも、生存配偶者が親権者となることを希望し、かつその者が親権者として適任であるならば、本来の姿にもどし、その者を親権者として、未成年者の監護教育にあたらせた方が、制度の趣旨に合致し、子の福祉にも適合するとする見解も理解できないことはない。

しかしながら、同じ後見人選任であつても、本件の場合は生存配偶者が後見人に選任されたのであつて、名義は後見人でも実質的には、親の自然的愛情に基づき、親権者同様の結果の実現を期待することができるのであるから、特段の事情のない限り後見人に選任された生存配偶者を改めて親権者に変更する必要はない。もつとも、父母が離婚したところの子弟は、えてして境遇に恵れない場合が多いので、実の父母でありながら後見人であることを知つて暗い気持になるかも知れない不安はあろうけれども、しかし実質は親権者と同一であつて、名義がそうであるに止まるゆえんを説明すれば、十分納得できる事柄であるから、このことのために、直ちに後見人に選任された生存配偶者を改めて親権者に変更する理由とはなしえない。

よつて、本件申立は理由がないのでこれを却下することとして、主文のとおり審判する。

(家事審判官 田畑常彦)

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