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新潟家庭裁判所佐渡支部 昭和61年(家)387号 審判 1992年9月28日

申立人 大下賢一

相手方 大下忠和

主文

一  被相続人大下暢夫、被相続人大下トメの各遺産を次のとおり分割する。

1  別紙遺産目録記載の番号1ないし18、23、24の各不動産は、申立人大下賢一の取得とする。

2  別紙遺産目録記載の番号19ないし22の各不動産は、相手方大下忠和の取得とする。

二  上記遺産取得の代償として、申立人大下賢一は相手方大下忠和に対し、金36万3200円及びこれに対する本審判確定の日の翌日からその完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

理由

一件記録に基づく当裁判所の認定判断は、以下のとおりである。

一  相続の開始、相続人及び法定相続分

1  被相続人大下暢夫は、昭和47年9月6日新潟県佐渡郡○○○町で死亡し、相続が開始した。その相続人は、妻である被相続人大下トメ、長女である申立人小田ヨシ子、長男である中村秋夫、次男である大下正次、四男である申立人亡大下英男、次女である申立人大下マチ子であった。その後、昭和53年8月31日秋夫が死亡したことにより、同人の相続分は、その妻である申立人中村カツコ、長男である申立人中村洋一、前妻との長男である申立人大下賢一、前妻との次男である相手方大下忠和が相続した。さらに、昭和61年4月21日正次が死亡したことにより、同人の相続分は、その妻である相手方大下セツ、長男である相手方大下知也、次男である相手方大下宏人、三男である相手方大下保が相続し、また、平成3年7月26日申立人英男が死亡したことにより、同人の相続分は、その長女である申立人承継人大下伸子が相続した。

2  被相続人トメは、昭和61年3月19日新潟県佐渡郡○○町で死亡し、相続が開始した。その相続人は、長女である申立人ヨシ子、次男である正次、四男である申立人英男、次女である申立人マチ子、長男である秋夫の代襲相続人として申立人洋一、申立人賢一、相手方忠和であった。その後、1のとおり正次の死亡により、相手方セツ、同知也、同宏人、同保が相続し、英男の死亡により、申立人承継人伸子が相続した。

ところで、被相続人トメの相続に関しては、同人作成名義の昭和60年11月2日付自筆証書による遺言書(当庁において昭和61年4月16日検認)が存在するが、申立人マチ子と相手方忠和との間では、遺言無効確認請求訴訟により、右遺言書が無効である旨の判決が平成2年4月17日確定しているところ(当庁昭和62年(ワ)第×号、東京高等裁判所平成元年(ネ)第××××号)、右訴訟の第一審及び控訴審の各判決書によれば、右遺言書は被相続人トメが第三者の下書きしたものをその文字を理解しないままなぞったにすぎないものであって、自書という要件に欠けていることが認められ、申立人賢一、相手方忠和との間においても、右遺言書を無効とすべきである。

3  以上の結果、被相続人暢夫の相続に関しては、被相続人トメが3分の1、申立人賢一が135分の4、同ヨシ子が15分の2、申立人承継人伸子が15分の2、申立人マチ子が15分の2、相手方忠和が135分の4、同知也が45分の1、同宏人が45分の1、同保が45分の1、同セツが15分の1、申立人カツコが45分の2、同洋一が135分の4の相続分を取得し、被相続人トメの相続に関しては、申立人賢一が15分の1、同ヨシ子が5分の1、申立人承継人伸子が5分の1、申立人マチ子が5分の1、相手方忠和が15分の1、同知也が30分の1、同宏人が30分の1、同保が30分の1、同セツが10分の1、申立人洋一が15分の1の相続分を取得した。

二  相続分の譲渡

1  申立人ヨシ子、同マチ子はいずれも平成4年8月14日に、申立人承継人伸子は同年7月17日に、相手方セツは同年7月22日に、いずれも申立人賢一に対し、被相続人暢夫、同トメの各相続に関して、それぞれその相続分を譲り渡し、申立人賢一はこれらを譲り受けた。

なお、申立人ヨシ子、同マチ子の申立人賢一に対する相続分譲渡証書(C甲7、9)には、被相続人暢夫の相続に関する相続分を譲渡する旨の記載があるだけで、被相続人トメの相続に関する相続分の譲渡の記載はないが、申立人ヨシ子、同マチ子は右譲渡に伴い、本件遺産分割手続からの脱退を届け出ていること、後記のとおり、被相続人トメに固有の遺産はないこと、及び調停時における右申立人らの意向からすれば、被相続人トメの相続に関する相続分も合わせて譲渡したものと認めるのが相当である。申立人承継人伸子、相手方セツについても、各相続分譲渡証書(C甲11、13)には、被相続人名の記載がないが、両名に対する審問の結果に加え、両名も脱退を届け出ていること、その他右に挙げた事情からすれば、同様に被相続人トメの相続に関する相続分も譲渡したものと認められる。

ところで、相手方セツは平成4年8月10日相手方忠和に対しても、その相続分を譲渡したことが認められる(相手方忠和に対する審問の結果、C乙11、12)。しかし、相手方セツは、それ以前の遅くとも平成4年7月22日には自己の相続分を申立人賢一に譲渡しており、その譲渡は真意に基づきなされたものと認められ、これが無効であることを窺わせる事情はない(相手方セツに対する審問の結果、C甲11、12)から、後に二重になされた相手方忠和に対する相続分の譲渡は無効である。

2  申立人カツコ、同洋一、相手方知也、同宏人、同保は、いずれも平成4年8月7日に相手方忠和に対し、被相続人暢夫、同トメの各相続に関して、それぞれその相続分を譲り渡し、相手方忠和はこれらを譲り受けた。

なお、本件遺産分割事件について、申立人カツコ、同洋一作成名義の、辞任した前申立人代理人弁護士○○○○に対する委任状(昭和61年10月9日付)、相手方代理人弁護士○○○△に対する訴訟委任状(同62年7月9日付)、同弁護士の訴訟代理権消滅通知書(平成元年1月27日付)、同弁護士に対する訴訟委任状(同年3月8日付で公証人の認証のあるもの)が存在し、右訴訟代理権消滅通知書には、それぞれの相続分を申立人賢一に対して譲渡した旨の記載がある。しかし、青森家庭裁判所八戸支部に対する調査嘱託の結果、及び右通知書には印鑑登録証明書の添付がないことなどに照らせば、申立人カツコ、同洋一の両名が真意に基づき、相続分を申立人賢一に対して譲渡したとは認められない。他方、申立人カツコ、同洋一それぞれと相手方忠和との間の平成4年8月7日付相続分譲渡証書(C乙7、9)があり、これらはいずれも同日付の印鑑登録証明書(C乙8、10)とともに提出されたものである上、その内容も、前記嘱託による調査時の両名の意向と合致していることからすれば、これらの相続分譲渡は真意に基づくものと認められる。

3  以上の結果、被相続人暢夫の相続に関する申立人賢一の相続分は135分の67、相手方忠和の相続分は135分の23となり、被相続人トメの相続に関する申立人賢一の相続分は30分の23、相手方忠和の相続分は30分の7となった。

三  遺産の範囲

1  被相続人暢夫の遺産

被相続人暢夫の遺産は、別紙遺産目録(以下、目録という)記載の各不動産(以下本件各不動産という)である。

2  被相続人トメの遺産

被相続人トメの遺産について相続開始した昭和61年3月19日当時、その固有の遺産が存在したことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被相続人トメの遺産は、被相続人暢夫から相続により取得した本件各不動産についての3分の1の共有持分のみである。

3  遺産に対する相続分

結局、本件遺産分割の対象となる遺産は、本件各不動産に限られるところ、その遺産に対する申立人賢一及び相手方忠和の各相続分は、被相続人暢夫の相続に関する被相続人トメの相続分につき相続した分を合わせると、申立人賢一が270分の203、相手方忠和が270分の67となる。

四  遺産の評価

申立人賢一ら提出の不動産鑑定士○○○○作成の不動産鑑定評価書(C甲1)によれば、本件各不動産の平成3年4月1日現在の評価額は、目録の評価額欄記載のとおりである。右評価書の評価過程に不合理な点はなく、また、本審判との間に約1年6か月を経過しているが、その間、本件各不動産の近隣においては都市部とは異なり、著しい不動産価額の変動はないと認められる上、申立人賢一、相手方忠和は、いずれも右評価額により審判することに異議はない旨述べているから、右評価額を前提として本件遺産分割審判を行うこととする。

五  各当事者の生活状況及び分割についての意見等

1  申立人賢一は、昭和46年から横浜市で居住し、トラック運転手として運送会社に勤め、現在年収約500万円(税込み)を得ており、妻と19歳の長女(短大1年)とともに生活している。資産としては、預金の外、平成4年4月現在の評価額で約4700万円余りの、現に居住しているマンションがあり、負債としては右マンションの購入資金の借入残金が同月時点で約1900万円ある。

本件各不動産のうち、目録番号6の畑及び9、12、14ないし17の田はいずれも、被相続人暢夫の死亡後休耕地となっており、他方、7、8の田は、被相続人トメが知人に依頼して耕作してもらっていたが、被相続人トメ死亡後は英男が耕作し、同人死亡後、申立人賢一や同ヨシ子、同マチ子の依頼で田代豊が耕作している。申立人賢一は、田植えや刈入れの時期には佐渡に帰り、田代の手伝いをしている。5の宅地上には23の居宅、24の倉庫があるが、老朽化しており、現在は誰も居住ないし使用をしていない。

申立人賢一は、相手方忠和には退職金を前借りするなどして代償金を支払って、本件各不動産をすべて単独で取得したいとしており、その場合には、長女が短大を卒業する平成6年4月ころに現在の会社を辞め、マンションを売却して妻とともに出身地の佐渡に戻り、23、24の居宅、倉庫を取り壊して家屋を新築して居住し、7、8の田を耕作して農業を継続するかたわら、義兄の勤める建設会社でトラック運転手として働きたいとの意向である。

2  相手方忠和は、20歳ころに出身地の佐渡を出て、以来調理師として働き、現在月収が手取り約43万円で、東京都渋谷区内の賃貸マンションに妻と13歳の長女とともに生活している。資産としては預金が600万円ほどあり、負債はない。

相手方忠和は、本件調停の当初には、本件各不動産のうち目録番号5ないし8、19、20の各土地を取得したいとしていたが、その後は審判に至るまで、本件各不動産をすべて取得して、申立人賢一には代償金を支払いたいとしており、その場合には、資本金500万円の有限会社を設立して、農地について転用許可を得た上、本件各不動産中、目録19、20以外の土地を利用してドライブインを営むとともに、土産用などの花造りや椎茸栽培を行い、19、20の土地上には貸別荘を建てるとの計画を立てている。相手方知也、同宏人、同保は、いずれも右計画に賛同しており、相手方忠和とともに佐渡に戻って、調理の仕事等を担当することを承諾している。右計画によると、総工費として4898万円余りが必要であるところ、ドライブインについては銀行から本件各不動産等を担保に1800万円の借入をし、相手方忠和が600万円の自己資金を拠出する外、相手方知也らから資金提供を受け、貸別荘については、相手方忠和が金融機関から長期で1500万円を借り入れるとしている。

六  当裁判所の定める分割方法

そこで、分割方法を検討すると、出身地の佐渡に戻って農業を継続したいとする申立人賢一の意向やその実現の見込み、及び農業基本法16条の趣旨に照らせば、本件各不動産のうち農地はできるだけ申立人賢一の単独取得とするのが相当と解されること、相手方忠相の前記計画についてみると、同人が本件各不動産のすべてを単独取得した場合はもとより、右計画中、花造りと椎茸栽培を除外しドライブインと貸別荘の設立に限定した際に必要となる土地として、目録5ないし8、19、20の各土地を単独取得した場合においても、右計画の遂行に必要となる多額の資金負担に加えて、さらに相手方忠和が申立人賢一に対して代償金を支払うことは極めて困難であると認められること(この点につき、相手方忠和は、銀行からの借入に頼るほか、有限会社に出資してもらう相手方知也ら3兄弟及び従兄弟の上田幸一から、さらに金銭の援助を受ける旨供述するが、容観的裏付を欠いており、直ちに採用できない)、他方、遺産分割においては、現物分割を原則とするべきであるから、本件各不動産をすべて申立人賢一の単独取得とすることは、公平を欠く結果となること、その他、本件各不動産の種類、地目、現況、相互の位置関係(一団と評価しうる土地の場合には、その利用上の便宜から、所有関係があまりに区分化されないように配慮する必要があろう)、使用状況、相続人の年齢、職業、収入、資力、住居その他の生活状況、分割方法についての意見、遺産取得の希望等、前記認定の諸事情や本件記録上現れた一切の事情を考慮した上で、次の方法により本件遺産分割をするのが相当である。

1  本件各不動産中、目録番号1ないし18、23、24の各不動産を申立人賢一の取得とする。

2  本件各不動産中、目録番号19ないし22、23各不動産を、相手方忠和の取得とする。

3  申立人賢一は、相手方忠和に対し、その取得分の価額、すなわち遺産である本件各不動産の評価額に相手方忠和の相続分である270分の67を乗じた金額と、同人の現実の取得額との差額を、代償金として支払わなければならない。その金額は、次のとおりとなる。なお、申立人賢一にはその支払能力があるものと認められる。

(1784万5000円×(67/270))-(277万5000円+81万1000円+18万4000円+29万5000円) = 36万3200円(100円以下四捨五入)

ところで、相手方忠和は、被相続人トメ作成名義の前記遺言書には、相手方忠和に全財産を相続させたいとの被相続人トメの意思が現れているからその意思を尊重すべきである旨主張するが、右遺言書が自書の要件を欠く理由として前述した事情からすれば、右主張は採用できない。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 西田眞基)

別紙遺産目録<省略>

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