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新潟家庭裁判所長岡支部 平成15年(少)250号 決定 2003年6月17日

少年 H・K (平成元.5.9生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

理由

(触法事実)

少年は、

第1  同級生で同じ○○部員のAに対し、以前からよい感情を持っていなかったが、同人に陰口を言われたり、のけ者にされるなどと感じ、同人が自分の目の前からいなくなればよいと思い、同人の住む家に放火しようと考えるに至り、

1  平成15年2月23日午後9時30分ころ、新潟県○○郡○○町△△×丁目×番××号所在の○○方コンクリート高床式木造2階建て住宅の階下高床部分車庫兼物置の玄関西側出入口シャッター前に置かれていた段ボール箱等に灯油を撒いて所携のマッチで点火して火を放ち、前記A及びその家族ら合計6名が現に住居として使用する前記住宅を焼損しようとしたが、コンクリートの床面及び壁面の一部等を燻焼させたにとどまり、その目的を遂げなかった

2  先の放火行為では、前記Aの家を焼損することに失敗したため、再度、同年3月6日午前1時から午前2時ころの間、同所において、前記○○方コンクリート高床式木造2階建て住宅の北東側高床部分に置かれていた竹棒等に灯油を撒いて所携のマッチで点火して火を放ち、さらに同住宅の高床部分南側シャッター付近に灯油を撒いて所携のマッチで点火し、同住宅を焼損しようとしたが、自然鎮火したために竹棒等を焼損したにとどまり、その目的を遂げなかった。

3  もう一度、前記Aの家を焼損することを考え、同月20日午前3時30分ころ、同所において、前記○○方コンクリート高床式木造2階建て住宅の北東側勝手口前の風徐スペースに新聞紙を置いて灯油を撒き、所携のマッチで点火して放火し、同住宅を焼損しようとしたが、同所に置かれていたポリバケツ1個及び電気コード等を焼損したにとどまり、その目的を遂げなかった。

第2  上記第1記載の○○方への放火行為が学校で噂になり、○○方にばかり放火することで自分が怪しまれると考え、人目をそらすために、同じ○○部員のBの家にも放火しようと考え、同年4月20日午前0時ころ、同町大字△△××番地所在の□□方において、前記B及びその家族ら合計5名が現に住居として使用する居宅兼店舗を焼損する目的で、同居宅兼店舗に隣接する物置小屋内に新聞紙を置いてその上に灯油を撒き、所携のマッチで点火して放火したが、同物置小屋を焼損したにとどまり、その目的を遂げなかった。

第3  上記第1及び第2記載の放火行為が少年によるものと発覚して補導されるなどし、友人や母親によそよそしくされていると感じ、また、兄に放火のことを知られたら見捨てられるのではないかなどと考えて不安になり、自分のことを心配して欲しい気持ちから、自宅に放火しようと考え、同年5月1日午前0時ころ、同町大字△△□××番地△△方において、同人他4名が現に住居として使用する同人方二階建て家屋が焼損するかもしれないが、それでもかまわないと思って、同家屋と一体の建造物である2階建て物置小屋内1階の床上に筒状に丸めて置かれていたカーペットの空洞部分にティッシュペーパー数枚を詰め、所携の自動着火装置で点火して放火し、同家屋(一体となっている物置小屋も含む)を全焼させた

ものである。

(事実認定の補足説明)

上記第2について、送致事実(送致書が引用する○○警察署長作成の平成15年4月23日付児童通告書記載の通告理由(2)記載の事実)は、現住建造物等放火(既遂)とされているが、関係証拠によれば、少年は現住建造物である□□方居宅兼店舗を焼損する目的で隣接する物置小屋に放火したものの、物置小屋を焼損したにとどまり、居宅兼店舗は焼損していないことは明らかであり、物置小屋と居宅兼店舗が一体の建造物であるとも認められないから、現住建造物放火未遂の限度で認定した。

(法令の適用)

(編略)

(処遇の理由)

1  本件は、当時13歳であった少年が、中学校の同級生1名の家に3回放火し(いずれも未遂)、別の同級生の家に1回放火し(未遂)、さらに自宅に放火した(既遂)という現住建造物等放火未遂及び同既遂の触法事案である。

2(1)  本件の動機・経緯をみると、少年は、小学校時代からよい感情を持っていなかかったAと、中学校入学後同じクラスになり、かつ、○○部でも一緒になったことから、Aに陰口を言われたり、○○部の練習などの際にのけ者にされるなどしたため、同人と一緒にいなくてはならない状況を苦痛に感じ、同人が自分の目の前からいなくなればいいと考えるようになった。少年は、明確に、Aを殺したかったとも述べ、その方法として、刃物で刺したり、金槌で頭を殴ることなども考えたが、結局実行できず、テレビ番組から放火を思いついたものの、放火はしてはならないことだと思って実行に及ばずに辛い状況に耐えていた。しかし、この悩みを兄に相談しても、先生に相談するようにとのアドバイスしかもらえず、少年の我慢は限界に達し、もはや自分で解決するしかないと思って、Aを自分の前から消すために、同人の家に3度にわたって放火した(第1の事実)。また、学校でこのようなAの家の放火被害が噂になったため、自分が怪しまれるのを避け、捜査を攪乱する目的で、特に憎んでいたわけでもない同級生Bの家にも放火した(第2の事実)。さらにはこれらの一連の放火行為が少年によるものと発覚したことで、友人や母親によそよそしくされていると感じて、不安な気持ちになって自宅にも放火し、全焼させたものである(第3の事実)。A宅への放火行為は確定的故意に基づく執拗なもので、居住する家族には多大な恐怖感を与えているほか、連続的な放火により近隣住民にも多大な不安を与えたであろうことは容易に推察できる。また、自宅への放火により、少年の祖父が死亡しており、B宅への放火についても、居宅に隣接する物置小屋は全焼しており、発見が遅れればさらに重大な結果になった可能性も高い。このように、少年による一連の行為は悪質で、結果も誠に重大である。

(2)  少年の生育歴及び家庭の状況をみると、少年の父は少年が2歳の時に病死し、以後、少年は父方の祖父母、母及び兄と生活し、主に祖父母に養育された。母親は、父親の死後、祖父母の勧めに従い仕事に就いて夜遅く帰宅するという仕事中心の生活をおくるようになり、少年との接触は少なく、母親というよりはむしろ父親的な役割を果たしてきたと言える。家族は母親が仕事で帰宅が遅いことなどを不満に思っても、口に出すことができない状況で、少年も、幼少のころから母親に早く帰ってきて欲しいと思っても、直接母親に言うことはなかった。

また、学校では努力家で真面目であるとの評価を得ており、一応学校生活には適応していたものの、鑑別結果通知書によれば、少年は、軽度の精神遅滞と診断されており、基礎学力は小学校低学年程度、社会生活年齢は8歳10ヶ月程度と能力的制約がある。そのため視野の狭さ、現実検討能力の未熟さや感情統制力の弱さなどが指摘されている。このような少年の傾向は、円滑な人間関係を築きにくく、不適応感を抱きがちであり、この不適応感を解消するため周囲に期待し、周囲から具体的対応を得られないと、孤立感を抱き、不満をためる結果となっている。まさに、少年は、中学校入学後、Aとクラスでも部活動でも一緒になって人間関係に悩み、この悩みが少年の学校生活における重大な問題事項となったもので、これを解消する有効な手段が見付からず、Aへの殺意を持つようにまでなってもひたすら我慢し、耐えているという辛い状況にあったと推察される。このような状況におかれ、以前からの母親との接触不足に対する不満が強まっており、審判廷においても、母親に対する反発的な言動が目立った。

(3)  少年は、その能力的制約のためか、祖父が死亡したことを含め、本件の重大性の認識が十分とは言い難い。また、母親も、現段階で少年を引き取る自信がなく、本件により祖父が死亡して残された祖母との生活をどうするかなど、未解決の問題を抱えており、少年を引き取る体制を整えるにも時間を要する。

3  このように、行為及び結果の重大性、家庭内の葛藤を原因とする少年と母親との関係、少年の能力的制約に照らすと、少年に対しては、比較的長い時間をかけて、能力に応じた矯正教育を受けさせるとともに、母親との適切な関係を築かせる必要がある。

4  よって、少年法24条1項3号により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 永田誠一 裁判官 惣脇美奈子 關紅亜礼)

〔参考1〕 処遇勧告書 平成15年(少)第250号

処遇勧告書

少年      H・K 平成元年5月9日生

決定年月日   平成15年6月17日

決定少年院種別file_2.jpg初等 □中等 □特別 □医療

勧告事項 □一般短期処遇 □特修短期処遇

□医療措置終了後は(□初等□中等□特別)少年院に移送担当

file_3.jpgその他 比較的長期処遇(本件事案の重大性、少年の資質、家庭等の受け入れ態勢の調整の必要性等に鑑み、中学校卒業を目途とした矯正教育が施せるよう比較的長期の処遇を必要と考える。)

平成15年6月17日

新潟家庭裁判所長岡支部

裁判長裁判官 永田誠一

裁判官 惣脇美奈子

裁判官 關紅亜礼

〔参考2〕 環境調整命令書

平成15年6月17日

新潟保護観察所長 殿

新潟家庭裁判所長岡支部

裁判長裁判官 永田誠一

裁判官 惣脇美奈子

裁判官 關紅亜礼

少年の環境調整に関する措置について

少年 H・K

年齢 14歳(平成元年5月9日生)

職業 中学生(第2学年)

本籍 新潟県○○郡○○町大字△△□××番地

住所 新潟県○○郡○○町大字△△□××番地× ○○×××号

当裁判所は、平成15年6月17日、上記少年を初等少年院(比較的長期処遇勧告付き)に送致する決定をしました。少年については、その環境調整に関する措置が特に必要であると考えますので、少年法24条2項、少年審判規則39条により、下記のとおり要請します。

なお、詳細については、新潟少年鑑別所長作成の平成15年6月12日付け鑑別結果通知書及び当庁家庭裁判所調査官○○、同○○作成の平成15年6月16日付け少年調査票の各写しを参照してください。

1 精神的に混乱している母及び祖母との相談相手となり、今後の家族のあり方及び少年への対応に関して助言を与えること。

2 少年は中学卒業前に仮退院する可能性があるため、仮退院後に住む場所、復学する中学校を保護者及び○○中学校と調整し、少年の進学先又は就職先、その他社会生活の体制整備を、処遇の状況を見ながら整えられるよう指導・援助すること。(家庭裁判所としては、少年の性格、地域特性等から○○町以外で少年及び家族の再出発を図るのが望ましいと考えている。)

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