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旭川地方裁判所 平成10年(わ)44号 1998年6月29日

被告人

氏名

神田寿行

年齢

昭和二二年四月二日生

本籍

北海道旭川市上常盤町一丁目一九七〇番地

住居

同市東四条四丁目二番三号

職業

会社役員

検察官

渡口鶇

弁護人(国選)

林孝幸

主文

被告人を懲役一年六か月及び罰金三二〇〇万円に処する。

罰金を完納することができないときは、一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(犯罪事実)

被告人は、旭川市東四条四丁目二番三号に居住し、「旭」の名称で中古自動車売買業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと考えて、

第一  平成五年分の実際総所得金額が五九五二万一四七九円(別紙1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、所得税の確定申告期限の経過後である平成六年九月一四日、同市八条通一四丁目の所轄旭川東税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が五五六万六〇〇〇円であり、これに対する所得税額が四三万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成五年分における正規の所得税額二五二六万〇五〇〇円と右申告税額との差額二四八二万七三〇〇円(別紙2のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第二  平成六年分の実際総所得金額が一億一九八四万八九三六円(別紙3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、所得税の確定申告期限の経過後である平成七年三月三一日、前記旭川東税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が九〇〇万円であり、これに対する所得税額が九七万六八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、平成六年分における正規の所得税額五三三三万四〇〇〇円と右申告税額との差額五二三五万七二〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書参照)を免れた。

第三  平成七年分の実際総所得金額が一億一七三二万八一八七円(別紙5の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成八年三月一三日、前記旭川東税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が九六〇万円であり、これに対する所得税額が一一〇万円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、平成七年分における正規の所得税額五一八六万四〇〇〇円と右申告税額との差額五〇七六万四〇〇〇円(別紙6のほ脱税額計算書参照)を免れた。

(証拠)(括弧内の番号は、証拠等関係カードの検察官及び弁護人請求番号を示す。)

一  被告人の

1 公判供述

2 検察官調書七通(乙1ないし7)

一  神田陽子の検察官調書(甲5)

一  柴田和彦の検察官調書(甲6)

一  合意書面(甲4、丙1)

一  捜査報告書(甲3)

一  脱税額計算書(甲2)

一  告発書(甲1)

(法令の適用)

被告人の判示各行為はいずれも平成一〇年法律第二四号(法人税法等の一部を改正する法律)附則二〇条により同法による改正前の所得税法二三八条一項に該当するので、いずれも所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用することとし、以上は平成七年法律第九一号附則二条二項、三項により、刑法四五条前段の併合罪として、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六か月及び罰金三二〇〇万円に処し、同法一八条により、罰金を完納することができないときは一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間懲役刑の執行を猶予することとし、訴訟費用については、刑訴法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

(量刑の理由)

一  本件は、中古自動車売買業を営む被告人が、三か年分にわたり合計一億二七〇〇万円余りの所得税を免れた事案である。単に納税額ができる限り少なくしたいとの理由から本件各犯行に及んだもので、犯行動機に酌量の余地はなく、その態様をみても、会計帳簿類はもちろん、領収証等の原始証憑類も持参せずに税務署を訪れ、まず極めて少額の納税額を自ら決めた上で所得金額を算出し、これを税務署職員に強引に押し通して申告するという大胆なものである。その結果、免れた所得税額は高額であり、ほ脱率も通算約九八パーセントに上っており悪質といわざるを得ない。加えて、判示第一の犯行の際に被告人の申告方法等に疑問を持った税務署職員からその旨指摘を受けながら、その後も会計帳簿等を作成しようとせずに、前記同様の大胆な手口で判示第二及び第三の各犯行を繰り返していることなどからすれば、被告人の納税意識の稀薄さは甚だ顕著であり、強い非難が妥当する。

以上のとおり、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

二  一方、被告人は、本件各犯行を反省し、いずれも修正申告を行った上、既に本税の納付を終え、重加算税や延滞税等についても今後確実に納付する旨を誓い、これを実行しつつあること、顧問税理士を迎え入れ、その指導の下に経理体制を確立し再犯の防止に努めていること、これまで三つの罰金前科があるものの公判請求は初めてであることなど被告人のために斟酌すべき事情も認められる。

三  以上の諸事情を総合考慮すると、被告人を主文掲記の懲役刑及び罰金刑に処した上、懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断した。

(求刑 懲役一年六か月及び罰金四〇〇〇万円)

(裁判長裁判官 林正彦 裁判官 岡部豪 裁判官 浅香竜太)

別紙1

修正損益計算書

自 平成5年1月1日

至 平成5年12月31日

神田寿行

<省略>

別紙2

ほ脱税額計算書

平成5年分

神田寿行

<省略>

別紙3

修正損益計算書

自 平成6年1月1日

至 平成6年12月31日

神田寿行

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

平成6年分

神田寿行

<省略>

別紙5

修正損益計算書

自 平成7年1月1日

至 平成7年12月31日

神田寿行

<省略>

別紙6

ほ脱税額計算書

平成7年分

神田寿行

<省略>

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