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旭川地方裁判所 平成12年(ワ)24号 判決 2001年2月15日

原告

株式会社ジャパレン

被告

太田穂

主文

一  被告は、原告に対し、金一〇九万六五一五円及びこれに対する平成一一年一月三〇日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二事案の概要

本件は、加害車両が運転操作を誤り対向車線にはみ出した際、対向車線を走行してきた被害車両がこれに衝突した事故において、被害車両をリース契約に基づきレンタカーとして使用していた原告が、加害車両の運転者である被告に対し、民法七〇九条に基づき、損害金一〇九万六五一五円及びこれに対する本件事故の日である平成一一年一月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

一  前提事実(証拠摘示のないものは、当事者間に争いのない事実である。)

1  本件交通事故

(一) 発生日時 平成一一年一月三〇日午後九時四〇分ころ

(二) 発生場所 北海道深川市音江町一丁目八番一号

(三) 加害車両 被告が運転する普通貨物自動車(旭川四〇さ三〇九八)

(四) 被害車両 普通乗用自動車(札幌三三れ四八四六、所有者三菱オートクレジットリース株式会社、使用者原告、運転者小湊淳也)

(五) 事故態様 加害車両が運転操作を誤り対向車線にはみ出し、折から対向車線を走行してきた被害車両(以下「本件車両」という。)と衝突した。

2  原告は、三菱オートクレジットリース株式会社(以下「三菱オートリース」という。)から、本件車両をリース契約し、レンタカーとして使用していた(甲九)。

3  責任原因

被告は、加害車両を運転し、運転操作を誤り対向車線にはみ出し、本件車両と衝突したものであるから、民法七〇九条に基づき後記損害を賠償する義務がある。

4  本件車両の概要

本件車両は、平成七年一〇月に登録されたパジェロ四ドア(ステーションワゴン)であり、本件事故当時、走行距離は五万七〇〇五キロメートルであった(甲二、四)。

5  本件車両の修理費用

原告は、本件車両の本件事故による破損につき、有限会社札研自動車に対し、修理の見積もりを依頼したところ、見積総額は一〇九万六五一五円であった(甲二)。

二  争点の摘示

本件車両の損害額。すなわち、(一)本件車両のようなレンタカーにおいても、通常の中古車と同じように中古車市場が存在し、適正な客観的な価格が形成されているのか否か、(二)それとも本件車両が法定償却年限の三年を経過していることをもって経済的全損とみるべきものなのか否かである。

三  原告の主張(原告の主張額は、一〇九万六五一五円)

1  本件車両の時価額は、以下のとおり、約一五〇万円であろうことが推測されるから、本件車両の修理費は、時価額を超えていないので経済的全損とはならない。

(一) レンタカーのリース期間や法定償却後の残存価格と車両の時価は何ら関係のないことである。中古車両は、中古車の市場があり、レンタカーにおいても、通常の中古車の市場価格に基づいて取引され、そこで客観的な価格が形成されているのであるから、同市場価格に基づき、車両の時価が決められる。その売却額は、レンタカーであることを理由として法定償却残額で売却されることはない。

(二) 本件車両と類似するパジェロ車(平成六年登録、走行距離七万五〇〇〇キロメートル)は、平成一一年二月一七日に売却されているが、右類似車のイエローブック価格は九五万五〇〇〇円である。そして、右類似車の実際の売却価格はイエローブックの価格より約二割安い価格で売却されている。

そうすると、右類似取引例によると、本件車両が実際に売却された場合にはイエローブックの価格一九二万円より約二割安い約一五〇万円で売却されたであろうことが推測される。

2  したがって、本件事故による本件車両の破損による損害は、その修理費用相当額である。

四  被告の主張(被告の主張額は、三六万四〇〇〇円)

1  本件車両は、レンタカーであり、平成七年一〇月に初年度登録されている。したがって、本件事故時においては、レンタカーの法定償却年限である三年を経過しているから、本件車両は経済的全損というべきものであり、そうすると、本件の損害額は、新車価格の一〇パーセントである三六万四〇〇〇円にすぎない。

2  レンタカー会社は、走行距離が伸びた車両や型式が古くなったものはユーザーに嫌われることを考慮し、自動車ディーラー系のリース会社から二年間のリース期間をもって車両を調達して営業しており、リース期間として三年の契約は例外的である。そして、右二年のリース契約期間が満了すると、残存価格をもとに再リース契約を締結することになるが、その後の再リースを結ぶことはないのが実態である。また、レンタカーを含む営業用自動車が三年の償却年限によることは公知の事実であり、レンタカーを含む営業用自動車が三年の償却年限によることからして、レンタカーの残存価格は営業用自動車と同様に処遇されるべきである。したがって、原告と三菱オートリースとの間における本件車両のリース期間満了時の残存価格は三〇万円である。

3  レンタカーの中古車市場への供給自体が例外的であるため、レンタ車固有の市場価格は形成されるに至っていない。レンタカーが例外的に中古車市場に登場することもあるが、その場合、オークションでも必ずレンタ使用車であることが公表され、一般車と異なる取扱をするのが実務である。不特定多数が使用し、又自己車でないため使用方法が雑になるレンタカーは、一般車に比し低額の評価しか与えられていない。中古車の市場価格は、同一車種でも年式、型式、グレードにより大きな価格差が生じ、さらに車両そのものの走行距離数、整備状況、外観などによりその差はさらに開くことは明らかである。

原告の主張する類似車両がイエローデーターの二割減で処分できたとしても、本件を含む他の車両が同様であるとの推測は成立しない。

第三当裁判所の判断

一  本件車両の概要について検討するに、当事者間に争いのない事実及び証拠(甲二、四、七の一、七の二、九の一、一五)によれば、本件車両は、平成七年一〇月の登録車で、新車価格は三六〇万四〇〇〇円であったが(甲四、七の一、二)、平成一〇年一〇月二一日が自動車検査証の有効期間が満了する日とされていたこと、原告は、三菱オートリースとの間で、本件車両を平成七年一〇月二〇日から三年間リースした後、平成一〇年一〇月二〇日に、再び一年間のリース契約をしたが(甲一五、九の一)、右再リースにおける自動車リース契約書(甲九の一)には、リース期間満了時の残存価額が三〇万円である旨の記載があり、本件事故当時、走行距離は五万七〇〇五キロメートルであったこと(甲二)、本件車両の修理費用は一〇九万六五一五円であることなどの事実を認めることができる。

二  本件車両の時価額について

1  交通事故により中古車両を破損された場合において、当該車両の修理費相当額が破損前の当該車両と同種同等の車両を取得するのに必要な代金額の基準となる客観的交換価値、すなわち、時価を超えるときは、いわゆる経済的全損として、被害者は、交換価値を超える修理費用額をもって損害であるとして、その賠償を請求することは許されないと解されるから、本件車両の本件事故当時の時価額が問題となるので、この点について検討するに、証拠(甲一六、証人川中輝明の証言)によれば、次の事実を認めることができる。すなわち、

(一) 原告は、リース会社からレンタカーを借り受けたうえ、通常四年から五年ほど使用したうえで、右リース契約の終了に伴って買い受け、右買い受けた車両を売却しているが、札幌支店においては一年間に約八〇台ほど売却していること、原告における右レンタカーの売却方法としては、競り売りによるオークションにかける方法と中古車業者に売却する方法の二通りがあり、右売却方法は、走行距離が一〇万キロメートルに達しているか否かにより分けられ、一〇万キロメートル以下の車両においてはオークションにかけられること、

(二) 本件車両は、その走行距離が五万七〇〇〇キロメートルであるから、オークションにかけられる物件となるところ、右オークションによる買受人は主として中古車業者であることから、右オークションの目安となる価格は中古車業者が市場価格の目安として使用しているイエローブックに表示されている卸売価格が基準となること(川中証言一二ないし一五頁、二二、二三頁)、右卸売価格として、イエローブックには、本件と同一車両(パジェロ4WDミッドルーフスーパーエクシードXR―Ⅱ)が記載されているが、右同一車両の卸売価格は一五九万円とされていること(甲一二)、そして、レンタカーをオークションにかけた場合、売却価額はレンタカーでない一般車と比較したとき約二割ほど安い値段で売却されるのが通例であって、売却価格は、結局、卸売価格の二割減となること、

(三) 原告においては、全国の各営業所のレンタカーの毎月の売却状況を集計したうえ車輌売却報告書(甲一一)を作成しているが、右報告書によれば、本件車両と類似するパジェロ車(平成六年登録、走行距離七万五〇〇〇キロメートル、リース契約終了後に売却)のイエローブックの卸売価格は九五万五〇〇〇円であったが、原告は、平成一一年二月一七日、右車両を七五万九〇〇〇円で売却しており(甲一一下線部分)、その売却額は、前記オークションによる取引例と同様にイエローブックの卸売価格より約二割ほど安い価格で取引されていること、

以上のような事実を認めることができる。

2  右認定の事実によれば、本件車両のようなレンタカーにおいても、通常の中古車と比較したとき、売却価額こそ約二割ほど安くなるものの、通常の中古車市場と同様にレンタカーとしての市場が存在し、適正な客観的な価格が形成されているものと認められ、本件車両を事故当時に売却できたであろう価格は、前記報告書による類似取引例及びレンタカーをオークションにかけた場合においてはイエローブックの卸売価格の一五九万円より約二割ほど安い価格となるという取引減価の実体に照らすとき、一五九万円の二割減の一二七万円となるものと推認される。

そうすると、本件車両の修理費用一〇九万六五一五円は右時価額を超えていないことは明らかであるから、本件においては、経済的全損とはならないものと判断できる。

三1  もっとも、被告は、本件車両は、レンタカーとして法定償却年限の三年を経過しているから経済的全損であり、本件の損害額は新車価格の一〇パーセントである三六万四〇〇〇円にすぎないものと主張するので、この点について検討するに、前記認定のとおり、法定償却年限を経過したレンタカーにおいても、中古車市場において、適正な価額で売却されている以上、法定償却年限を経過していることをもって経済的全損とする被告の主張は理由がない。

2  次に、被告は、原告と三菱オートリースとの間におけるリース期間満了時の残存価額である三〇万円が、当該車両の客観的価格を反映しているのではないかとの疑問を提起しているので、この点について検討するに、証拠(甲九の二、甲一六、川中証言)によれば、リース期間満了時の残存価格は、原告がリース契約終了後にレンタカーを買い取る際の精算の基準となる価額であり、原告によるレンタカーの売却価格がリース残価を下回った場合は、その差額をリース会社に支払うが、他方、売却価格がリース残価を上回った場合にはその剰余価格が原告の売却益となること(甲九の二、二三条<5>)、そのため、原告においては、残存価格をリース会社との間において車両価格や車種に応じて任意に設定していることから、リース期間満了時の残存価格は必ずしも車両の時価とは一致するものではないこと(川中証言六頁)などの各事実が認められる。

右認定の事実によれば、リース期間満了時の残存価額が当該車両の客観的価格を反映するところの時価と一致するものとは認められない。したがって、被告の主張を採用することはできない。

3  以上によれば、本件車両は、修理が可能であり、その修理費も事故前の本件車両の時価額を上回るものではなかったことが認められる。したがって、本件事故に基づく本件車両破損による損害として、その修理費相当額の車両損害が発生したものと認めることができる。

四  結論

よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり、判決する。

(裁判官 片岡武)

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