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旭川地方裁判所 平成12年(行ウ)1号 判決 2004年5月07日

主文

1  被告A1,被告A2,被告A3,被告株式会社A4及び被告A5は,旭川市に対し,連帯して金549万1500円及びこれに対する平成12年3月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告A1,被告A2,被告株式会社A4及び被告A5は,旭川市に対し,連帯して金2300万8658円(うち金1150万4329円については被告A6及び被告A7と連帯)及びこれに対する被告A1及び被告株式会社A4については平成12年2月15日から,被告A2及び被告A5については同年3月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告A6は,旭川市に対し,被告A1,被告A2,被告株式会社A4及び被告A5と連帯して金1150万4329円及びこれに対する平成12年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告A7は,旭川市に対し,被告A1,被告A2,被告株式会社A4及び被告A5と連帯して金1150万4329円及びこれに対する平成12年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  原告らのその余の請求を棄却する。

6  訴訟費用中,原告らと被告A8との間では全部原告らの負担とし,原告らと被告A1,被告A2,被告A3,被告株式会社A4,被告A5,被告A6及び被告A7との間では原告らに生じた費用を3分し,その2を同被告ら,その余を各自の負担とする。

事実及び理由

第1請求

(甲,乙事件)

被告A1,被告A8,被告A6,被告A7及び被告株式会社A4は,旭川市に対し,連帯して2300万8658円及びこれに対する平成12年2月15日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(丙事件)

1  被告A1,被告A2,被告A8,被告A3,被告株式会社A4及び被告A5は,旭川市に対し,連帯して549万1500円及びこれに対する平成12年3月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告A2及び被告A5は,旭川市に対し,連帯して2300万8658円及びこれに対する平成12年3月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告A1及び被告A6は,旭川市に対し,連帯して3339万6339円及びこれに対する平成12年3月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,旭川市の住民である甲事件原告及び参加原告(乙事件)兼丙事件原告ら(以下「参加原告ら」という。)が,エコ・スポーツパーク(仮称)事業(以下「本件事業」という。)に関し,旭川市と公共事業計画策定業者らとの間で締結された業務委託契約等及びこれらに基づく支出等は違法,無効であるとして,地方自治法(平成14年3月法律4号による改正前のもの。以下同じ。)242条の2第1項4号に基づき,旭川市に代位し,旭川市長及び同市職員ら並びに当該契約の相手方らに対し,損害賠償等を請求した住民訴訟事件である。

1  前提事実(証拠を摘示した部分を除き,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告らは,いずれも旭川市の住民である。

イ 被告A1は,平成6年11月から旭川市長の職にある。

ウ 被告A2は,平成8年4月から平成10年12月12日まで旭川市教育委員会事務局(以下「教育委員会」という。)教育次長の,翌13日以降は旭川市助役の職にあった(己32)。

エ 被告A8は,平成10年12月から旭川市常勤特別職収入役(以下「収入役」という。)の職にある。

オ 被告A6は,平成元年4月から教育委員会教育長(平成10年12月13日から教育次長事務取扱)の職にあり,後掲B契約及びD契約締結の補助執行者であった。

カ 被告A7は,平成7年4月から平成9年4月まで教育委員会社会教育部(以下「社会教育部」という。)スポーツ課(以下「スポーツ課」という。)長の,同月から平成11年3月31日の退職時までは社会教育部次長(スポーツ課長事務取扱)の職にあり,後掲B契約の業務完了検査の補助執行者であった。

キ 被告A3(上記被告らを併せて「被告市職員ら」という。)は,当時,旭川市農政部(以下「農政部」という。)長の職にあり,後掲A契約締結の専決者であった。

ク 被告株式会社A4は,公共事業の計画の策定等を業とする株式会社であり,被告A5は,農林水産省(以下「農水省」という。)を辞職後,平成10年11月18日,同社の代表取締役に就任した(被告A5本人)。

(2)  本件事業の概要

本件事業は,恒久的な旭川国際バーサースキー大会のクロスカントリースキーコース(以下「クロカンコース」という。),FIS(国際スキー連盟)公認のクロカンコースを設けるとともに,サイクルスポーツ等,各種スポーツやキャンプ場にも使用できるスポーツパークを造成し,全日本学生スキー選手権大会(以下「インカレ」という。),ユニバーシアード等の各種イベントを誘致し,これにより経済的波及効果をもたらすことをも目的とするものである。

(3)  業務委託契約

ア 土地利用構想策定業務委託契約(以下「A契約」という。)

(ア) 旭川市は,本件事業を実施するためa町b地区の一部について,農業振興地域の整備に関する法律(以下「農振法」という。)に規定する農用地区域からの除外を計画し,平成10年11月2日,被告A4との間で,随意契約の方法により,次のとおり,A契約を締結した。

a 業務名  土地利用構想策定業務

b 期間   平成10年11月2日から平成11年3月10日まで

c 金額   549万1500円

d 業務内容  被告A4において,a町及びc地域における土地利用調整の円滑化を図るための構想(農村活性化土地利用構想,以下「本件土地利用構想」という。)を策定する。

e 成果品  報告書30部(A4版,一部カラー簡易製本)

(イ) 被告A4は,平成11年3月9日,旭川市に対し,A契約に基づき,成果品を納入し,これを受けて,旭川市は,同月10日,業務完了検査を実施した上,同月26日,被告A4に対し,549万1500円を支払った。

イ 基本計画等委託契約(以下「B契約」という。)

(ア) 旭川市は,平成10年12月29日,被告A4との間で,随意契約の方法により,本件事業に関し,次のとおり,B契約を締結した。

a 事業名  エコ・スポーツパーク(仮称)事業基本計画等(委託)

b 期間  平成10年12月29日から平成11年3月31日まで

c 金額  2300万8658円(消費税等109万5650円を含む。)

d 業務内容  基本構想概要版に定める計画の趣旨,概要に基づき,候補地の立地条件等を分析評価し,計画の方針及び納入施設の内容,規模を策定するとともに,本件土地利用構想と連携して,土地利用開発計画,コース計画等,本件事業の基本的な内容を定める。

e 成果品  ①基本計画平面図5000分の1,②基本計画報告書A4版,③基本計画概要版,④雨水排水抑制計画書A4版,⑤地形図コンタ1メートル・2000分の1(以下「本件地形図」という。),⑥その他

(イ) 被告A4は,平成11年3月31日,旭川市に対し,B契約につき成果品(基本計画策定業務に係るもの)を納入し,これに対し,旭川市は,同日,業務完了検査を実施した上,同年5月27日,被告A4に対し,2300万8658円を支払った。

ウ 環境影響評価調査(冬季)業務委託契約(以下「C契約」という。)

(ア) 旭川市は,平成11年1月12日,株式会社B1との間で,随意契約の方法により,本件事業に関し,次のとおり,C契約を締結した。

a 事業名  エコ・スポーツパーク(仮称)事業環境影響評価調査(冬季)業務

b 期間  平成11年1月12日から同年3月31日まで

c 金額  1239万円(消費税等59万円を含む。)

d 業務内容 本件事業計画の予定区域及び周辺区域の自然環境の保全を目的とする環境影響評価調査のための方法書の作成及び現地調査(冬季),打合せを行う。なお,方法書には,環境影響評価の項目及び手法等を記載し,これを北海道との事前手続に使用する。

e 成果品  ①方法書A4版(納入時期 平成11年1月12日から同年2月26日)5部(以下「本件方法書」という。),②報告書A4版(納入時期 平成11年1月12日から同年3月31日)5部

(イ) B1は,平成11年2月26日,旭川市に対し,本件方法書を納入し,これに対し,旭川市は,同日,当該方法書について検査を実施した。

また,B1は,平成11年3月31日,旭川市に対し,その他の成果品を納入し,これに対し,旭川市は,同日,業務完了検査を実施した上,同年5月27日,B1に対し,1239万円を支払った。

エ 環境影響評価調査業務委託契約(以下「D契約」という。)

(ア) 旭川市は,平成11年4月19日,株式会社B2との間で,指名競争入札の方法により,本件事業に関し,次のとおり,D契約を締結した。

a 事業名  エコ・スポーツパーク(仮称)事業環境影響評価調査業務

b 期間  平成11年4月19日から平成12年3月31日まで

c 金額  3622万5000円

d 業務内容 道条例の改正に伴い,冬季以外の環境影響評価調査を行い,調査結果及び予測,評価等を環境影響評価準備書にまとめる。

e 成果品  ①環境影響評価準備書A4版100部,②環境影響評価要約書A4版1000部,③現状調査報告書A4版5部

(イ) 旭川市とB2は,平成12年1月25日,D契約について,その成果品を学術調査報告書及び環境影響評価準備書(素案)のみとし,また,期間終期を同年3月15日と,委託料を3339万6339円とする旨の変更契約を締結した。

(ウ) B2は,平成12年3月15日,旭川市に対し,D契約につき成果品を納入し,さらに,同月24日にされた補正通知に応じて,同月28日,補正後の成果品を納入した。これに対し,旭川市は,平成12年3月31日,業務完了検査を実施した上,同年4月14日,B2に対し,3339万6339円を支払った(己29,30,34)。

(4)  本件に係る経緯

ア 甲事件原告は,平成11年11月8日,旭川市監査委員に対し,B契約は,その締結自体,経過が不明朗で条例に違反している上,本件地形図等も約定のとおり作成されていないとして,旭川市長が,被告A4に対し,委託料の返還又は被った損害を補填するために必要な措置を講じるよう住民監査請求を行った。

これに対し,旭川市監査委員は,平成12年1月5日付けで,甲事件原告に対し,当該監査請求には理由があるとして,旭川市長である被告A1に対し,関係職員に対して厳正な措置を講じ,被告A4に本件地形図の再提出を求めることを勧告する旨の監査結果を通知したが,委託料の返還及び被った損害を補填するために必要な措置については,勧告を行わなかった。そこで,甲事件原告は,平成12年1月31日,当庁に甲事件を提起した。

イ 参加原告らは,平成11年11月26日付けで,旭川市監査委員に対し,AないしD契約の締結及び支出等につき,当該行為の是正並びに旭川市が被った損害額の確定及びその補填のために必要な措置を講じるよう住民監査請求を行った。

これに対し,旭川市監査委員は,平成12年1月24日付けで,参加原告らに対し,当該監査請求には理由があるとして,被告A1に対し,関係職員に対して厳正な措置を講じること,A契約の成果品の認定申請について最大限の努力をすること,B契約の相手方に本件地形図の再提出を求めること,C契約に係る損害につきB1と協議してその補填を求めること,D契約につき契約変更の是正措置を講じることを勧告する旨の監査結果を通知したが,損害額の確定及びその補填については,勧告を行わなかった。そこで,参加原告らは,平成12年2月21日,甲事件に参加(乙事件)するとともに,丙事件を提起した。

2  原告らの主張

(1)  A契約(丙事件)

ア A契約の違法,無効について

(ア) 公序良俗違反について

A契約は,被告A2と被告A5(両名とも旭川市出身で,被告A5は元農水省の職員である。)とが癒着して,同被告が代表取締役である被告A4に利益を得させる目的で締結されたものであり,公序良俗(民法90条)に反し無効である。

このことは,①本件事業予定地の一部を農用地区域から除外する必要があるところ,上記予定地については,一般管理地域につき市町村整備計画を変更することにより(以下「一般管理による方法」という。),除外可能であり,北海道,上川支庁もこの方法による除外を勧奨していたにもかかわらず,あえてA契約の締結が必要となる,本件土地利用構想を策定して知事の認定を受ける方法(以下「土地利用構想による方法」という。)を採用していること,②旭川市は,農水省から,平成10年9月ころまでに本件土地利用構想の提示がなければ,農振法改正により,土地利用構想による方法を利用することは不可能となる旨の説明を受けながら,同年11月2日にA契約を締結していること,③A契約の成果品である本件土地利用構想の策定は,格別の知識経験を要するものではない上,その内容も旭川市が保有する同市に関する統計資料をまとめたものであるから,本来,旭川市が行うべきものであったこと,④平成9年8月6日に教育委員会が実施した農用地区域除外の方法についての説明会において,被告A4の代表取締役である被告A5が説明を行っていること,⑤A契約に係る業務委託の施行伺の起案及び決裁に先立って,業者選考のための委員会が開催されていること,⑥見積期間は実質的に3日間であること,⑦郵送された見積書は,農政部次長であるB3において開封,保管し,すべての見積書がそろってから担当者に交付されている上,当該見積書には,旭川市内部でのみ使用されていた業務名が記載されていたり,押印の欠落,内訳書の添付がないものもあること,⑧被告A4が提出した積算書は,抽象的な項目ごとの金額が一括して記載されているだけで,その積算の根拠となる資料も存在しないことなどから明らかといえる。

(イ) 随意契約の要件欠缺について

A契約は,地方自治法234条2項,地方自治法施行令(平成12年3月政令55号による改正前のもの。以下同じ。)167条の2第1項2号に規定する「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」には該当しない。

これに該当するか否かは,普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量により決定されるとしても,本件においては,現に,当該契約の締結が情実に左右されるなど,契約締結の公正を妨げる事態が生じており,契約締結の方法に制限を加える法令の趣旨に照らすと,その判断は裁量を逸脱したものというべきであり,違法である。

そして,A契約の効力自体を無効としなければ,随意契約の締結に制限を加えた法令の趣旨を没却する結果となるし,相手方である被告A4においても,随意契約によることが許されないことを知り又は知り得たのであるから,A契約は私法上も無効というべきである。

イ 損害について

旭川市は,違法,無効なA契約に基づき,被告A4に対し,549万1500円を支払い,同額の損害を被った。

ウ 被告らの責任について

(ア) 被告A1

被告A1は,旭川市長であるところ,地方自治法138条の2に基づき,旭川市に対し,善良なる管理者の注意義務をもってその職務を誠実に遂行すべき義務を負っており,その職務を補助職員の専決としている場合であっても,本件事業の重要性にかんがみると,その進行状況について,随時報告を求めるなどして,補助職員を指揮監督すべきであるにもかかわらず,当該事業の事業計画自体の内容,実現方法,実現可能性等について十分に吟味しないまま,補助職員による違法,無効なA契約の締結,業務完了検査及び支出命令を黙認し,あるいは重大な過失によりこれを阻止しなかったのであるから,民法415条に基づき,旭川市の被った損害について賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号前段)。

(イ) 被告A8

被告A8は,当時,収入役であるところ,市長の監督の下とはいえ,旭川市の会計事務の執行につき予算執行機関たる長から独立して職務に当たり(地方自治法170条1項),市長から支出命令を受けた場合でも,支出負担行為に関する審査を行い,当該支出負担行為が法令又は予算に違反している場合には,その支出をすることができず(同法232条の4第2項),その権限に属する財務会計上の行為を補助職員に専決させていた場合であっても,これを指揮監督すべきであるのに,故意又は重大な過失によりこれを怠り,違法,無効なA契約に基づき,被告A4に委託料を支出したのであるから,同法243条の2第1項後段2号に基づき,旭川市の被った損害の賠償責任を負う(同法242条の2第1項4号前段)。

(ウ) 被告A3

被告A3は,当時,農政部長で,旭川市事務専決規程(平成元年旭川市訓令第13号,以下「専決規程」という。)により,A契約締結の専決者であるところ,A契約が,上記アのとおり,違法,無効であるにもかかわらず,当該契約を締結したのであるから,地方自治法243条の2第1項後段1号に基づき,旭川市が被った損害の賠償責任を負う(同法242条の2第1項4号前段)。

(エ) 被告A4

被告A4は,旭川市との間で,上記アのとおり,違法,無効なA契約を締結し,法律上の原因なく,549万1500円の交付を受けているのであるから,旭川市に対し,同額の不当利得返還義務を負う。

また,その代表取締役である被告A5は,A契約が違法,無効であることを認識していたのであるから,被告A4は,旭川市に対し,怠る事実に係る相手方として,民法44条に基づき,同額の損害賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号後段)。

(オ) 被告A5

被告A5は,上記(エ)のとおり,A契約が違法,無効であることを認識しながら,当該契約を締結させ,旭川市に549万1500円の損害を被らせたのであるから,怠る事実に係る相手方として,民法709条に基づき,同額の損害賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号後段)。

(カ) 被告A2

被告A2は,被告A4に利益を得させるため,旭川市に対し,その違法,無効を認識しながらA契約の締結を働きかけ,現にこれを締結させて,旭川市に549万1500円の損害を被らせたのであるから,怠る事実に係る相手方として,民法709条に基づき,同額の損害賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号後段)。

エ よって,参加原告らは,A契約に関し,旭川市に代位して,被告A1,被告A8,被告A3,被告A4,被告A5及び被告A2に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,連帯して549万1500円及びこれに対する平成12年3月9日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  B契約(甲,乙,丙事件)

ア B契約の違法,無効について

(ア) 公序良俗違反について

B契約も,A契約と同様,被告A5と被告A2とが癒着して,被告A4に利益を得させる目的で締結されたものであり,公序良俗に反し無効である。

このことは,①A契約と同様,B契約の成果品である本件事業の基本計画等は,旭川市において作成可能で,外注の必要性のないものであること,②そもそも,被告A4は,本件地形図を作成する能力を有せず,当該地形図が航空写真等(以下「空撮」と総称する。)に基づき作成されるか否かについても,明確ではなかったこと,③成果品のうち,本件地形図は納期後に納入されていること,④業務委託の施行伺の起案及び決裁に先立って業者を選考する委員会が開催されていること,⑤見積期間は実質的に3日間である上,被告A5が見積合わせに参加した他の2者の見積書を持参していること,⑥見積書に内訳書等の添付がなく,また委託料の積算の根拠となる資料も存在しないことなどから明らかである。

(イ) 随意契約の要件欠缺について

B契約は,クロカンコース,サイクルスポーツ施設及びキャンプ場等,一般的施設群の建設構想,基本計画の立案,策定業務を委託するもので,少なくとも指名競争入札によることが可能であって,地方自治法234条2項,地方自治法施行令167条の2第1項2号に規定する「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」には該当しない。

これに該当するか否かは,普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量により決定されるとしても,本件においては,現に,当該契約の締結が情実に左右されるなど,契約締結の公正を妨げる事態が生じており,契約締結の方法に制限を加える法令の趣旨に照らすと,その判断は裁量を逸脱したものというべきで,違法である。

そして,B契約の効力自体を無効としなければ,随意契約の締結に制限を加えた法令の趣旨を没却する結果となるし,相手方である被告A4においても,随意契約の方法によることが許されないことを知り又は知り得たのであるから,B契約は私法上も無効というべきである。

(ウ) 成果品の瑕疵について

被告A4は,B契約に基づき,旭川市に対し,成果品を納入しているが,基本計画の内容は基本構想概要版と多くの部分が同一である上,全体計画,周辺施設についての記述も,特段,専門的な知識,経験を必要とするものではない。資料部分にある将来構想にも独創性はなく,関連事例について類似の既存施設の資料を羅列しているにすぎない。本件地形図も,空撮により作成されたものではなく,林野庁業務基本図(5000分の1)と農政部保管に係る地番図をコピーして作成したものであって,およそ2300万8658円の対価に相当するものではない。

このように不備のある基本計画概要版,本件地形図等を成果品とするB契約は,その締結自体が違法というべきである。

イ 損害について

旭川市は,違法,無効なB契約に基づき,被告A4に対し,2300万8658円を支払い,同額の損害を被った。

ウ 被告らの責任について

(ア) 甲,乙事件被告ら

a 被告A1

被告A1は,当時,旭川市長であり,前記(1)ウ(ア)のとおり,旭川市に対し,善良なる管理者の注意義務をもってその職務を誠実に遂行すべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,本件事業の事業計画の内容,実現方法,実現可能性等について十分に吟味せず,補助執行者をして,違法,無効なB契約を締結させ,業務完了検査を執行させるとともに,委託料の支出を命じたのであるから,A契約と同様,民法415条に基づき,旭川市の被った損害について賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号前段)。

b 被告A8

被告A8は,当時,収入役であるところ,上記(1)ウ(イ)のとおり,市長から支出命令を受けた場合でも,支出負担行為に関する審査を行い,当該支出負担行為が法令又は予算に違反している場合には,その支出をすることができないにもかかわらず,支出命令に添付された資料を審査すれば,B契約が上記アのとおり,違法,無効であることが容易に判断できるのに,故意又は重大な過失により,これを看過し,被告A4に委託料を支出したのであるから,地方自治法243条の2第1項後段2号に基づき,旭川市の被った損害の賠償責任を負う(同法242条の2第1項4号前段)。

c 被告A6

被告A6は,当時,教育委員会教育長(教育次長事務取扱)であり,旭川市長の権限に属する事務の補助執行に関する規則(平成元年旭川市規則第51号,以下「補助執行規則」という。)により,B契約締結の補助執行者であるところ,B契約が,上記アのとおり,違法,無効であるにもかかわらず,当該契約を締結したのであるから,地方自治法243条の2第1項後段1号に基づき,旭川市が被った損害の賠償責任を負う(同法242条の2第1項4号前段)。

d 被告A7

被告A7は,平成9年4月21日から平成11年3月31日まで,社会教育部次長(スポーツ課長事務取扱)であり,補助執行規則により,B契約の業務完了検査の補助執行者であるところ,故意又は重大な過失により,適正な業務完了検査を行う義務を怠り,成果品の瑕疵を看過して,旭川市に損害を被らせたのであるから,地方自治法243条の2第1項後段4号に基づき,旭川市の被った損害の賠償責任を負う(同法242条の2第1項4号前段)。

e 被告A4

被告A4は,旭川市との間で,上記アのとおり,違法,無効なB契約を締結し,法律上の原因なく,2300万8658円の交付を受けたのであるから,旭川市に対し,同額の不当利得返還義務を負う。

また,その代表取締役である被告A5は,B契約が違法,無効であることを認識していたのであるから,被告A4は,旭川市に対し,怠る事実に係る相手方として,民法44条に基づき,同額の損害賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号後段)。

(イ) 丙事件被告ら

a 被告A2

被告A2は,平成10年12月中旬以降,助役の地位にあり,地方自治法167条に基づき,市長がその事務を処理するに当たり,これを専ら内部的に補佐し,その補助機関たる職員の担当する事務を監督すべき義務を負っているところ,被告A4に利益を得させるため,その違法,無効を認識しながらB契約を締結させ,旭川市に2300万8658円の損害を被らせたのであるから,怠る事実に係る相手方として,民法709条に基づき,同額の損害賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号後段)。

b 被告A5

被告A5は,上記(ア)eのとおり,B契約が違法,無効であることを認識しながら,当該契約を締結させ,旭川市に2300万8658円の損害を被らせたのであるから,怠る事実に係る相手方として民法709条に基づき,同額の損害賠償責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号後段)。

エ よって,原告らは,B契約に関し,旭川市に代位して,被告A1,被告A8,被告A6,被告A7及び被告A4に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,連帯して2300万8658円及びこれに対する平成12年2月15日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を(甲,乙事件),参加原告らは,B契約に関し,旭川市に代位して,被告A2及び被告A5に対し,同法242条の2第1項4号に基づき,連帯して2300万8658円及びこれに対する同年3月9日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を(丙事件),それぞれ求める。

(3)  D契約(丙事件)

ア D契約の違法,無効について

(ア) A及びB契約との関係について

D契約は,A及びB契約と当事者が異なるとはいえ,業務内容はこれらの契約に関連するもので,わずかな見積期間を経て執行された入札により契約が締結されており,また,見積書に内訳書も添付されていないのであるから,A及びB契約の違法,無効は,D契約にも承継される。

(イ) 実現可能性について

D契約は,C契約の成果品である本件方法書を前提とするものであるところ,同方法書の作成には最低6か月から1年を要するとされていたのであるから,もともと実現可能性がないものであり,その契約の締結自体が違法である。

(ウ) 成果品の瑕疵について

D契約の成果品である学術調査報告書は,そもそも前提となる本件方法書に不備があるのであるから,いずれにしても,再度学術調査をやり直すしかない性質のものである。

このように不備のある学術調査報告書を成果品とするD契約は,その締結自体が違法というべきである。

イ 損害について

旭川市は,違法,無効なD契約に基づき,B2に対し,3339万6339円の支払義務を負っており,同額の損害を被った。

ウ 被告らの責任について

(ア) 被告A1

被告A1は,当時,旭川市長であり,上記(1)ウ(ア)のとおり,旭川市に対し,善良なる管理者の注意義務をもってその職務を誠実に遂行すべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,本件事業の事業計画の内容,実現方法,実現可能性等について十分に吟味を行わないまま,補助職員の専決により処理させていたD契約の締結に際し,その指揮監督義務を怠り,上記アのとおり,違法,無効なD契約を締結させたのであるから,A契約と同様,民法415条に基づき,旭川市の被った損害を賠償する責任を負う(地方自治法242条の2第1項4号前段)。

(イ) 被告A6

被告A6は,当時,教育委員会教育長(教育次長事務取扱)であり,補助執行規則により,D契約締結の補助執行者として違法,無効な支出負担行為及び支出行為を回避すべき義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,上記アのとおり,違法,無効なD契約を締結し,旭川市に損害を被らせたのであるから,地方自治法243条の2第1項後段1号に基づき,旭川市が被った損害を賠償する責任を負う(同法242条の2第1項4号前段)。

エ よって,参加原告らは,D契約に関し,旭川市に代位して,被告A1及び被告A6に対し,連帯して3339万6339円及びこれに対する平成12年3月9日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

1  被告市職員らの主張

(1)  A,B及びD契約について

本件事業は,旭川市において,平成7年ころから検討を開始し,平成8年度に教育委員会において方針を定め,平成9年2月には旭川市の政策としてその推進を決定していたものであって,その過程に被告A5が関与した事実はない。

旭川市は,本件事業予定地に農用地区域が含まれていたため,これを除外するため,一般管理及び土地利用構想による方法について,比較検討し,許認可権を有する北海道及び農水省とも協議をした結果,土地利用構想による方法によれば,全体事業費はかさむものの,短期間で除外が可能であり,当該除外区域について地域振興を図ることもできることなどから,当該方法を採用したものである。被告A5からは,本件土地利用構想等について説明を受けているが,同被告が,被告A2との個人的関係を通じて,当該構想を旭川市に持ち込んだわけではないし,これを契機として,A,B及びD契約が締結されたわけでもない。

(2)  A契約

ア A契約の違法,無効について

(ア) 公序良俗違反について

上記(1)のとおり,農用地区域からの除外には,一般管理及び土地利用構想による方法等があるが,農水省職員の助言により,一般管理による方法は手続が煩雑で長期間を要するのに対し,土地利用構想による方法であれば迅速な処理が可能であるとして,当該方法を採用したのであり,これに伴い締結されたA契約は無意味ではない。

旭川市は,農水省から,平成10年6月ころ,同年9月ころまでに本件土地利用構想を同省に提示し修正を受けた上で,北海道に当該構想を申請する旨の指導を受けたが,その際,農振法の改正について説明を受けた事実はなく(旭川市が,これを知ったのは,平成11年1月下旬ころ,上川支庁の担当者から説明を受けた時である。),A契約締結時点で,本件土地利用構想の制度が廃止になることは知らなかったし,知り得なかった。

旭川市は,本件土地利用構想の策定及びその認可手続の経験がなく,そのノウハウを有しなかった上,平成13年1月開催のインカレに間に合わせるという時間的制約もあったため,A契約の業務内容を旭川市において実施することは困難と判断して,専門的な知識と経験を有する業者に業務を委託することとした。

なお,①本件土地利用構想について説明した被告A5が代表取締役である被告A4を,見積合わせ参加業者に加えたこと,②施行伺にA契約を随意契約とする旨の具体的な記載がなかったこと,③見積期間が実質的に3日間しか確保されていなかったこと,④郵送されてきた5者の見積書を,担当者ではないB3農政部次長において保管し,5者の見積書がそろった時点で担当者に渡したこと,⑤見積書の郵送時期が判明しないこと,⑥見積依頼通知書の業務名と4者の見積書の業務名に齟齬があること,⑦代表者印が欠落したもの及び見積書に別紙内訳書との記載があるにもかかわらず,当該内訳書が欠落したものがあることなどは,旭川市内部の諸手続規程に違反するが,当該手続規程は,訓令的な性質のものであり,このことが直ちにA契約の効力に影響を及ぼすものではない。

(イ) 随意契約の要件欠缺について

a 地方自治法施行令167条の2第1項2号に規定する「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当するか否かは,普通地方公共団体の契約担当者が,契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加える法令の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,その合理的な裁量に基づいて判断すべきものである。本件においては,A契約の業務内容である本件土地利用構想の策定は,農業地域の計画的な保全・整備に関する事項について定めた農業振興地域整備計画の特例措置として,農業振興地域制度の一層の円滑かつ的確な運用を行うためのもので,農振法等の関係法令に関する豊富な知識及び農水省関係の各種コンサルタント業務の実績等が求められることから,契約担当者が,「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断し,随意契約の方法によることとしたのであり,その判断は合理的な裁量の範囲内といえ,違法はない。

b 旭川市は,随意契約の場合でも,その公平性,競争性を高めるため,旭川市契約事務取扱規則17条に基づき,農政関係の専門知識及び実績等を有する3者に,旭川市の登録業者である2者を加えた合計5者による見積合わせを行い,最低見積価格を提示した被告A4との間でA契約を締結したのであるし,仮に,A契約が地方自治法施行令167条の2第1項2号に反するとしても,A契約締結時点では,本件土地利用構想の制度が廃止になることを知らなかったのであるから,本件においては,当該契約を無効としなければ,随意契約の締結に制限を加える法令の規定の趣旨を没却する結果となるような特段の事情は存在せず,A契約は私法上有効というべきである。

イ 損害について

被告A4は,旭川市に対し,A契約の成果品を納入しているのであるから,旭川市に何ら損害は生じていない。結果的に成果品が不要となり,これにより行政上の責任が生じたとしても,住民訴訟の対象である財務会計上の問題は発生しない。

ウ 被告らの責任について

(ア) 被告A1

A契約締結の専決者は被告A3(農政部長)であり(専決規程),支出命令の審査についてのそれは会計課長である(旭川市収入役事務の専決・代決規程,昭和39年旭川市収入役訓令第1号,以下「収入役専決規程」という。)。旭川市長である被告A1は,これらについて何ら関与していない。

被告A1は,旭川市長として,各専決者が専決する際,個別具体的な指揮監督責任を負うものの,上記アのとおり,A契約の締結等に違法はないし,仮に違法であるとしても,被告A1は,当該契約の締結に現実に関与していなかったのであるから,この点について具体的な指揮監督義務の違反はない。

(イ) 被告A8

A契約の支出命令の審査の専決者は会計課長である(収入役専決規程)。収入役である被告A8は,支出命令の審査に関与していない。

なお,被告A8は,収入役として,会計課長を指揮監督する義務を負うが,上記アのとおり,A契約の締結に違法はなく,したがって支出命令の審査についても不備は存在しないから,指揮監督義務の違反もない。

(ウ) 被告A3

被告A3は,当時,農政部長であり,A契約締結の専決者(専決規程)で,その責任要件としては,故意又は重過失を要するところ,被告A4に不正に利益を供与する目的を有していたわけではないし,上記ア(ア)のとおり,契約締結の過程において諸手続規定の違反はあったものの,善良な管理者の注意義務に著しく反しているとまではいえないのであって,故意及び重過失は存在しない。

(エ) 被告A2

被告A2は,A契約について専決等の権限はなく,当該契約の締結に一切関与していない。また,被告A2は,被告A5と友人関係にあるが,被告A4に利益を得させるため,旭川市に対し,A契約の締結を働きかけた事実はない。

なお,地方自治法242条の2第1項4号前段が,被告を財務会計行為に係る当該職員及び相手方に限定しているにもかかわらず,同号後段によれば,それ以外の者に対しても,損害賠償請求等ができるというのであれば,法が住民訴訟の対象を一定の財務会計行為に限定した趣旨を没却することになる。したがって,被告A2は,そもそも被告適格を有しないというべきである。

(3)  B契約

ア B契約の違法,無効について

(ア) 公序良俗違反について

B契約の成果品である基本計画及び本件地形図等の作成は,A契約と同様,時間的及び人的制約等から,その実績を有し,専門知識を有する業者に委託する必要があった。

旭川市は,空撮による本件地形図の作成を前提に予定価格を決定し,しかも,その直接人件費,直接経費,技術経費及び諸経費等は,北海道の平成10年度公園緑地設計業務等委託積算基準及び同単価表等に基づく積算の結果,専門知識を有する者等からの聞き取り調査の結果を参考に決定したのであり,結局,3者による見積合わせの結果,予定価格を下回る最低の見積書を提出した被告A4と契約を締結するに至ったのであるから,B契約が公序良俗に反し無効ということはない。

なお,B契約の見積合わせの際,被告A4が他の2者の見積書を持参したこと等は,旭川市の契約事務の諸手続規程に違反するが,その違反は契約の効力に影響を及ぼすものではない。

(イ) 随意契約の要件の欠缺について

a B契約の業務内容も,法知識や施行実績等の専門性が要求されるものであり,上記(2)ア(イ)aのとおり,契約担当者が,「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断して,随意契約の方法によったことは,その合理的な裁量の範囲内といえ,違法はない。

b 旭川市は,先行するA契約との整合性を考えれば,被告A41者との随意契約も考えられるにもかかわらず,3者による見積合わせを実施した上,被告A4とB契約を締結したのであるし,B契約が地方自治法施行令167条の2第1項2号に反するとしても,本件においては,当該契約を無効としなければ,随意契約の締結に制限を加える法令の規定の趣旨を没却する結果となるような特段の事情は存在せず,B契約は私法上有効というべきである。

(ウ) 成果品の瑕疵について

旭川市は,空撮による本件地形図の作成を前提としていたもので,被告A4に対し,コース概略測量の実施を理由に,空撮によらない本件地形図の作成を承認した事実はない。

イ 損害について

本件地形図以外のB契約の成果品については納入済みであり,旭川市に損害はない。

また,本件地形図について,旭川市は,平成12年1月5日及び同月24日付け住民監査請求監査結果における措置勧告に基づき,被告A4との間で,当初予定の本件地形図あるいは同程度の精度の地形図の提出について協議中である。

ウ 被告らの責任について

(ア) 被告A1

B契約締結の補助執行者は,被告A6(教育委員会教育次長事務取扱)であり,業務完了検査についてのそれは被告A7(スポーツ課長事務取扱)である(補助執行規則)。被告A1は何ら関与していない。また,被告A1は,旭川市長として,各専決者が専決する際,個別具体的な指揮監督責任を負うものの,上記アのとおり,B契約の締結に違法はないし,そもそも,被告A1は,当該契約の締結に現実に何ら関与していないのであるから,指揮監督義務の違反もない。

なお,支出命令の審査については,収入役である被告A8の権限であり,被告A1は権限を有しない。

(イ) 被告A8

被告A8は,当時,収入役であり,B契約に係る支出命令の審査の権限を有していたが,上記アのとおり,B契約の締結には何ら違法な点は存在しないから,B契約の支出命令の審査は違法でない。

また,被告A8が収入役として行う支出命令の審査は,市長から支出命令を受けた際,当該支出に係る支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと及び当該支出命令行為に係る債務が確定していることにつき,関係書類を事後的に確認するという形式的審査に尽きるところ,被告A8は,この審査を適正に履行しており,いずれにしても,同被告に故意又は重過失は存在しない。

(ウ) 被告A6

被告A6は,当時,教育委員会教育次長事務取扱であり,補助執行規則により,B契約の締結の補助執行者であったが,上記アのとおり,B契約の締結に不備はないし,随意契約によるか否かについては,契約担当者の合理的な裁量に委ねられ,契約事務に係る諸手続規程に違反した点があるとしても,少なくとも被告A6に重過失はない。

(エ) 被告A7

B契約の成果品は,平成11年3月31日までに納入されていないところ,被告A7は,同日付けで退職しているから,検査について損害賠償責任はない。

(オ) 被告A2

上記(2)ウ(エ)と同様,被告A2は損害賠償責任を負わない。

(4)  D契約

ア 損害について

監査委員の勧告に基づき,契約内容を道条例及び技術指針に準じた調査及び準備書の作成に変更し,委託料を3339万6339円とする旨の変更契約を締結し,当該変更契約に基づき成果品が納入されている。

上記変更契約の成果品である学術調査報告書は既存資料として,準備書(素案)は,環境影響評価の手続を踏んだ段階で,それぞれ活用できるものであり,旭川市に損害はない。

イ 被告らの責任について

(ア) 被告A1

D契約締結の補助執行者は,被告A6(教育委員会教育次長事務取扱)であり(補助執行規則),旭川市長である被告A1は,当該契約の締結に何ら関与していない。被告A1は,旭川市長として,補助執行者を指揮監督する義務を負うところ,D契約の締結に違法はないし,仮に違法であるとしても,被告A1は,契約の締結に現実に関与していなかったのであるから,この点について具体的な指揮監督義務の違反はない。

(イ) 被告A6

被告A6は,D契約締結当時,教育委員会教育次長事務取扱であり,D契約締結の補助執行者であるが,その責任要件として,故意又は重過失を要するところ,D契約の締結時にC契約の成果品(本件方法書)が北海道知事に送付されていなかったため,D契約の業務に支障を来すことを認識していながら,北海道の指導を受け,早期に本件方法書を修正することができると判断したこと自体は不適切とはいえ,重過失があるとまではいえない。

4  被告A4及び被告A5の主張

(1)  A契約

ア A契約の違法,無効について

(ア) 公序良俗違反について

教育委員会教育次長の被告A2と被告A5は,高校の同級生にすぎない。A契約が旭川市幹部と被告A4との癒着により締結された事実はない。

本件事業及び本件土地利用構想は,旭川市の発案によるもので,被告A5が,被告A2に働きかけた事実もない。被告A5は,教育委員会教育次長である被告A2から,本件事業のような大規模事業につき,識見,経験を有する者として,その手続及び法令等について講義を依頼され,平成9年8月6日開催の説明会において,農水省策定に係る土地利用基本構想,農振法,森林法その他これらに付随する省令等について説明を行ったが,その時点では,本件事業の内容について,ほとんど知らされていなかったし,説明会の開催により,被告A4が旭川市から何らかの契約を受注することは,全く意図していなかった。

また,旭川市は,農水省から,農用地区域からの除外は,土地利用構想による方法が適当であるとの助言,指導を受けて,この方法を採用したのであり,その選択についても,被告A5が関与した事実はない。

見積期間が実質的に3日間程度となることは,ままあることであるし,委託料も,見積書に添付された積算内訳書に基づくもので不当ではない。

(イ) 随意契約の要件欠缺について

A契約は,本件事業予定地に農用地区域が含まれていることから,本件土地利用構想を策定し,これによって農用地区域からの除外,農地転用を図るというものであり,その遂行に当たっては,受託者の信用,ノウハウ,経験,技術が必要とされるものであるから,契約担当者において,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,その合理的な裁量判断により,随意契約の方法によったことに違法はない。

また,A契約は,起案文書上は随意契約とされているものの,旭川市の要求により被告A4を含む5者が見積書を提出し,そのうち被告A4が最低見積価格を提示した結果,同被告との間で契約が締結されたのであり,実質的には指名競争入札によるものということができる。

したがって,A契約が随意契約の方法により締結されたことについて,何らの違法はない。

イ 損害について

被告A4は,A契約について,旭川市と適法に契約を締結し,契約の趣旨に沿って,成果品を納入し,同市の検査を受けており,何ら違法不当な点はなく,旭川市に損害はない。

ウ 被告らの責任について

(ア) 被告A4

上記アのとおり,A契約は,公序良俗に反するものでも,実質的に随意契約の方法により締結されたものでもないし,仮に随意契約の方法により締結されたとしても,その要件を欠くものでないから,被告A4に責任はない。

(イ) 被告A5

上記アのとおり,A契約は何ら違法なものではないし,A契約の締結等につき,被告A5に不法行為は存在しないから,同被告に責任はない。

(2)  B契約

ア B契約の違法,無効について

(ア) 公序良俗違反について

上記(1)ア(ア)のとおり,被告A2と被告A5は高校の同級生にすぎず,B契約が旭川市幹部と被告A4との癒着により締結された事実はない。

被告A4の提出した積算内訳書からも明らかなように,本件地形図は,空撮に基づいて作成するとはされていなかった。B契約の履行期間は冬季で,積雪のため空撮は不可能である。また,本件地形図の納入が遅れることについては,旭川市の了承を得ている。

見積期間が実質的に3日間程度であることは,ままあることであるし,被告A5が他の2者の見積書を持参したのは,同2者から依頼を受けたためで,見積書はいずれも密封の上,封緘された封筒に入れられていた。B契約は,3者の見積合わせの結果,最低価格を提示した被告A4との間で締結されたものであり,委託料は,見積書に添付された積算内訳書に基づき算出されている。

(イ) 随意契約の要件欠缺について

B契約は,A契約と同様,その遂行に当たっては,受託者の信用,ノウハウ,経験,技術が必要とされるものであるから,契約担当者において,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,その合理的な裁量判断により,随意契約の方法によったことに違法はない。

なお,B契約は,A契約と同様,複数の業者が見積書を提出し,そのうち被告A4が最低見積価格を提示した結果,同被告との間で契約が締結されたものであり,実質的には指名競争入札によるものということができる。

(ウ) 成果品について

被告A4は,B契約の趣旨に基づき,成果品(本件地形図も,FISからクロカンコースの認定を受けるための説明資料として,その目的に沿ったものである。)を納入し,旭川市の検査を受けているのであり,成果品に不備はない。なお,被告A4は,平成13年1月開催予定のインカレが平成14年以降に延期され,クロカンコース認定のためのFISの視察を平成11年4月に行う必要がなくなったことから,本件地形図の納期の猶予を申し入れ,旭川市の了承を得ている。

イ 損害について

被告A4は,旭川市と適法にB契約を締結し,その趣旨に基づき成果品を納入し,旭川市の完了検査を受けているのであって,旭川市に何ら損害は発生していない。

ウ 被告らの責任について

(ア) 被告A4

上記アのとおり,B契約は,公序良俗に反するものでも,実質的に随意契約の方法により締結されたものでもないし,仮に随意契約の方法により締結されたとしても,その要件を欠くものでないから,被告A4に責任はない。

(イ) 被告A5の責任

上記アのとおり,B契約は何ら違法なものではないし,B契約の締結等につき,被告A5に不法行為は存在しないから,同被告に責任はない。

第3当裁判所の判断

1  上記第2,1の前提事実に,証拠(以下の括弧内に引用したもの)及び弁論の全趣旨を併せると,本件事業に係る経緯として,以下の事実が認められる。

(1)  農用地区域除外の方法を決定するまでの経緯(甲2,6,丙9,16ないし19,27ないし31,34,37,丁1,3,4,6,戊4,己1ないし5,7,8,10,31,35,67,68,72,78,証人B4,取下前被告B5,被告A2,被告A3本人)

ア 被告A1と全日本スキー連盟の役員は,平成8年3月に開催された旭川国際バーサースキー大会において,常設のクロカンコースの設置及びインカレの誘致等について意見交換をし,これが端緒となって,クロカンコース(夏季はサイクルスポーツ等のコース)を中核とする通年利用可能な総合スポーツ施設造成の構想が浮上するに至り,社会教育部を中心に推進していくこととなった(なお,当時,平成13年1月にインカレの開催が予定されていたことから,この開催に向けてクロカンコースを造成することが当面の目標とされていたが,結局,インカレは,平成15年1月にa町d地区のクロカンコースで開催されている。)。

イ 本件事業の構想は,平成8年11月20日実施の平成9年度事業計画調査ヒヤリングを経て,平成9年2月7日,被告A1自ら行った記者会見を通じて市民に公表され,同年8月ころには,本件事業の基本構想の概要版(平成9年8月版)が作成され,平成11年3月策定の第6次旭川市総合計画の中期(平成11年4月から平成15年3月まで)実施計画にも組み込まれた。

ウ ところで,本件事業の実施については,本件事業予定地であるb地区の一部を農用地区域から除外することが重要な課題となっていた。

被告A2は,調査費の計上にもかかわらず,本件事業が遅々として進行しないことから,平成9年8月6日,高校の同級生で,農水省出身の被告A5を招き,農政部農政課(以下「農政課」という。)及び同企画課の職員等を対象に,農用地区域除外の方法について説明会(以下「本件説明会」という。)を開催し,本件説明会において,被告A5から,「農村活性化土地利用構想」及び「農業振興地域制度のあらまし」と題する各資料に基づき,農用地区域除外の方法について説明を受けた。

エ 農用地区域除外の方法については,教育委員会企画調整部,社会教育部,農政課,上川支庁及び北海道等との間でも,繰り返し,協議打合せが行われた。

当初,旭川市内部にも,作業日程からすると土地利用構想による方法は困難との意見があり,上川支庁等からも,本件事業予定地に土地基盤整備事業の受益地がないのであれば,土地利用構想による方法を採用する必要はないとして,一般管理による方法を勧奨されていたこともあって,土地利用構想による方法以外の手法も検討されていたが,B3農政部次長及び農政課長補佐B6において,平成10年6月18日及び翌19日,農水省を訪問し,その際,農水省構造改善局農政課長補佐B7(以下「B7課長補佐」という。)から,土地利用構想による方法の場合,その審査には時間を要するものの,今後の事業展開を考慮すると,土地利用構想による方法の採用が妥当との助言を受けるとともに,同年8月中に本件事業計画の骨子を定め,これを同年9月に農水省に提示し,約6か月間の内部処理の後,北海道に申請する旨の作業日程が示されたことから,その後は,一転して,土地利用構想による方法の採用を前提に協議が進められ,同年8月26日及び同年9月7日開催の協議においても,農政部及び社会教育部は,B3農政部次長及び被告A2等を中心として,土地利用構想による方法の採用にも,b地区を事業予定地とすることにも,慎重な姿勢を示していたB8助役やB9助役に対し,b地区を事業予定地にして問題はない,本件事業をクロカンコースの造成に限定すると,土地利用構想による方法が採用できなくなる上,FIS公認のクロカンコースの造成に最適なb地区ではなく,既に農用地区域除外済みのea地区を事業用地とすることになる,土地利用構想による方法は最も短期間で農用地区域除外をすることができ,クロカンコースの造成も平成13年1月のインカレ開催に間に合うなどとして,土地利用構想による方法の採用を強く推し進めた。

オ 以上の経緯により,農用地区域除外の方法として,土地利用構想による方法が採用されることとなり,平成10年9月21日,b地区を中心とした本件土地利用構想の策定についての施行伺が農政課によって起案され,同月24日,これが専決者である被告A3(農政部長)により決裁された。

(2)  A契約について(甲2,6,丙23,丁14,己10,12,31,46ないし51,53,被告A5本人)

ア 旭川市は,土地利用構想による方法の採用を受けて,随意契約の方法により,同構想の策定を業者に委託することとし,旭川市契約事務取扱規則17条に基づく見積合わせを行うため,平成10年10月20日,業務委託被指名者等選考委員会を開催し,当該見積合わせに参加する業者として,農水省や北海道農政部から得た情報等を参考に,被告A4,株式会社B10(同社は,電子計算機システムによる情報処理等を目的とする会社である。),株式会社B11,株式会社B12及びB13連合会(以下「B13」という。)の5者を選定するとともに,本件土地利用構想策定業務委託に係る施行伺について,同月21日,専決者である被告A3の決裁を受け,同月27日,上記5者に見積依頼通知書を送付した。

そして,平成10年11月2日に執行された見積合わせの結果,見積額の最も低い被告A4に業務を委託することとなり(計上された調査費等を基に,被告A3において決定した予定価格は523万5000円(消費税等を除く。特に摘示しない限り,以下同じ。)で,上記5者の見積金額は,それぞれ被告A4が523万円,B10が580万円,B11が540万円,B12が565万円,B13が557万円である。),専決者である被告A3の決裁を受けて,同日付けで,被告A4との間で,A契約が締結された。

イ 被告A4は,平成11年3月9日,旭川市に対し,A契約の業務完了届を提出するとともに,その成果品である「農村活性化土地利用構想」(己16)を納入したため,同月10日,検査員(農政課長補佐)による業務完了検査が実施され,これが専決者(農政課長)に代わり農政課長補佐により決裁された。

ウ A契約に係る委託料549万1500円(消費税等を含む。)は,平成11年3月16日の請求を受けて,支出命令の審査の専決者である会計課長が支出命令を審査し,同月26日,被告A4に支払われた。

(3)  B契約について(甲2ないし6,丙2,9ないし14,37,丁2,5,8,9,14,己2,11ないし13,17ないし26,32,35ないし37,41ないし44,70ないし72,75,77,79,証人B14,同B15,同B16,取下前被告B5,被告A5,被告A7本人)

ア 旭川市は,本件事業の基本構想について,平成9年8月版,平成10年2月版等,3種類の概要版を自ら作成していたが,環境影響評価調査を実施するためには,更に詳細な基本計画の策定が必要であるとして,当該業務を,平成11年度のFIS公認視察官来訪の際,コース設定等に必要となる地形図等の作成と併せて,随意契約の方法により,業者に委託することとした。

そこで,A契約と同様,平成10年12月18日,業務委託被指名者等選考委員会を開催し,見積合わせ参加業者として,A契約における参加業者5者の中から,農水省や被告A4との連絡調整の便宜を考慮して,東京の業者である同被告,B10,B11の3者を選定するとともに,同月21日,本件事業基本計画等の委託に係る施行伺について,補助執行者である被告A6(教育委員会教育次長事務取扱教育長)の決裁を受け,同日,上記3者に見積依頼通知書を送付した。

そして,平成10年12月28日に執行された見積合わせの結果,見積額の最も低い被告A4に業務を委託することとなり(被告A6の決定した予定価格は,基本計画策定業務につき1013万0838円,本件地形図等の各種図面作成業務につき1189万7781円(合計2202万8619円)で,上記3者の見積額は,それぞれ被告A4が2191万3008円,B10が2669万9400円,B11が2340万円である。),補助執行者である被告A6の決裁を受けて,同月29日付けで,被告A4との間で,B契約が締結された。

なお,B契約の締結に際し,旭川市は,被告A4に対し,本件地形図の作成方法について,空撮の要否等の具体的な指示はしていないものの,被告A5は,本件地形図が,FIS公認視察官来訪の際,コース設定等に必要となるものである旨の説明を受けるとともに,平成11年1月13日の社会教育部及び農政部との打合せの際,同席したB7課長補佐から,農地転用申請の際の航空写真の添付についての助言も受けていた。

イ 被告A4は,平成11年1月13日,旭川市に本件地形図の作成に係る再委託の承認願を提出し,同月18日,その承認を得た上で,測量業の登録業者である株式会社B17(東京支店)に,これを代金200万円で再委託するなどして,本件地形図を完成させ,同年3月31日,旭川市に対し,B契約の業務完了報告書を提出するとともに,基本計画策定業務に係る成果品として「エコ・スポーツパーク(仮称)事業基本計画等委託業務報告書」(己17),「エコ・スポーツパーク(仮称)事業基本計画等委託業務報告書概要版」(己18)等を納入し,検査員兼業務完了検査の補助執行者である被告A7(スポーツ課長事務取扱社会教育部次長)の決裁を受けたが(もっとも,被告A7は同日付けで退職したため,実際には,同被告による業務完了検査は実施されておらず,同被告の決裁印も,他の職員が預かり保管していた印章により押捺されたものである。),本件地形図等の各種図面作成業務に係る成果品については,上記期日までに納入されず,上記決裁後の納入となった。

ウ B契約に係る委託料2300万8658円(消費税等を含む。)は,平成11年5月17日の請求を受けて,収入役である被告A8が支出命令を審査し,同月27日,被告A4に支払われた。

エ その後,本件地形図に基づき実施された概略測量において,当該地形図の精度が問題となった。この問題は,平成11年9月ころには,旭川市議会や特別委員会でも取り上げられるに至り,同年10月19日及び翌20日,スポーツ課職員において調査したところ,被告A4は,本件地形図を,5000分の1の地形図を拡大し,林野庁事業基本図,土地改良地番図等を参考にするなどして作成したことが判明した。

そこで,旭川市は,被告A4に対し,所定の精度を有する地形図の作成を要請することとしたが,本訴提起後,特に修正作業等は進められていない。

(4)  C及びD契約について(甲2,6,丙21,31,32,戊1ないし3,7,10,11,己12,14,15,27ないし30,33,34,54ないし66,70,72,73,75ないし77,証人B14,同B16,取下前被告B5,被告A6,被告A7本人)

ア C契約

(ア) 旭川市は,北海道環境影響評価条例(平成10年10月26日北海道条例第42号による改正後のもの,以下「新条例」という。)が,平成11年6月12日に施行されることから,これに対応するため,四季を通じた環境影響評価調査が必要と考え,新条例に基づく技術指針(環境影響評価に関する技術的方法等の一般指針)の告示前(平成11年1月25日告示)ではあるものの,積雪期は調査項目が限定され,大幅な変更はないと判断して,平成10年度に,冬季の環境影響評価調査のみ実施することとした。

(イ) そこで,旭川市は,環境影響評価方法書(環境影響評価実施前に,事業計画の内容等を公表し,北海道民や北海道知事,関係市町村長の意見を聴いて,環境影響評価の項目や実施方法等を選定するための文書)の作成と同時に,冬季の環境影響評価調査も随意契約の方法により業者に委託することとし,平成10年12月28日,当該業務委託の施行伺について,補助執行者である社会教育部長B5の決裁を受け,平成11年1月5日,B1,B18株式会社,B19株式会社,財団法人B20(北海道支所)及び株式会社B21の5者に見積依頼をした。

そして,平成11年1月11日に執行された見積合わせの結果,見積額の最も低いB1に業務を委託することとなり(B5の決定した予定価格は1305万8868円で,上記5者の見積額は,それぞれB1が1180万円,B18が1280万円,B19が1200万円,B20が1250万円,B21が1250万円である。),補助執行者であるB5の決裁を受けて,同月12日付けで,B1との間で,C契約が締結された。

(ウ) その後,B1は,平成11年2月26日,旭川市に対し,C契約の成果品として「エコ・スポーツパーク(仮称)事業に係る環境影響評価方法書」(己27,本件方法書)を納入し,同日,検査員兼業務完了検査の補助執行者である被告A7(スポーツ課長事務取扱社会教育部次長)において,業務完了検査を実施し検査調書を作成するとともに,その決裁を了したが,B1は,同年3月19日,北海道との協議の際に本件方法書の不備を指摘された旭川市から,本件方法書の修正を要請され,何度かこれを試みたものの,未だ旭川市において,受領するに至っていない。

また,B1は,平成11年3月31日,旭川市に対し,C契約の成果品として「エコ・スポーツパーク(仮称)事業環境影響評価調査(冬季)報告書」(己28)を納入し,検査員兼業務完了検査の補助執行者である被告A7の決裁を受けた(もっとも,被告A7は同日付けで退職しているため,B契約に係る成果品同様,実際には,同被告による業務完了検査は実施されておらず,同被告の決裁印も,他の職員が預かり保管していた印章により押捺されたものである。)。

(エ) そして,C契約に係る委託料1239万円(消費税等を含む。)は,平成11年5月17日の請求を受けて,収入役である被告A8が支出命令を審査し,同月27日,B1に支払われた。

イ D契約

(ア) 旭川市は,平成11年度の予算計上を受け,C契約に引き続き,冬季以外の環境影響評価調査についても,これを業者に委託することとした。

その際,この業務委託については,指名競争入札の方法によることとし,当該業務委託の施行伺について,平成11年4月9日,補助執行者である被告A6(教育委員会教育次長事務取扱教育長)の決裁を受けた上,同日,B2,B1,社団法人B22,B19及びB20の5者に指名通知をし,同月15日の入札執行の結果,入札額の最も低いB2に業務を委託することとなり(被告A6の決定した予定価格は5618万5915円であり,上記5者の入札額は,それぞれB2が3450万円,B1が4450万円,B22が1億4300万円,B19が5750万円,B20が6200万円である。),補助執行者である被告A6の決裁を受けて,同月19日付けで,B2との間で,D契約が締結された。

(イ) その後,旭川市は,B2から,平成11年7月23日及び同年8月20日に,C契約の成果品である本件方法書が必要である旨,そして,確立した方法書の提示がない場合,再調査の必要が生ずるおそれがある旨の申入れがあり,また,住民監査請求がなされたことを契機に契約内容の見直しを行った結果,本件方法書が未完成であるにもかかわらず,環境影響評価準備書をD契約の成果品とするのは相当ではないと判断し,旭川市とB2は,平成12年1月25日,D契約の内容を一部変更する契約を締結し,これに伴い委託料も3180万6038円に減額された。

(ウ) B2は,平成12年3月15日,D契約の成果品を納入した後,旭川市の求めに応じて,所定の補正を行い,同月28日,改めて「エコ・スポーツパーク(仮称)事業環境影響評価調査業務委託学術調査報告書」(己29)及び「エコ・スポーツパーク(仮称)事業環境影響評価調査業務委託環境影響評価準備書(素案)」(己30)を納入し,同月31日,当時検査員兼業務完了検査の補助執行者であるB14(スポーツ課長事務取扱社会教育部次長)が業務完了検査を実施し,これを決裁した。

(エ) D契約に係る委託料3339万6339円(消費税等を含む。)は,平成12年3月31日の請求を受けて,収入役である被告A8が支出命令を審査し,同年4月14日,B2に支払われた。

2  A契約について

(1)  随意契約の方法によることの適否等

ア 原告らは,A契約は,地方自治法234条2項,地方自治法施行令167条の2第1項2号に規定する「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」には該当しない旨主張するので,まずこの点について検討する。

イ 地方自治法234条1項は「売買,貸借,請負その他の契約は,一般競争入札,指名競争入札,随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする」と,また同条2項は「前項の指名競争入札,随意契約又はせり売りは,政令で定める場合に該当するときに限り,これによることができる」と規定し,これを受けた地方自治法施行令167条の2第1項は,随意契約によることができる場合を列挙している。

これは,普通地方公共団体の締結する契約については,機会均等の理念に最も適合して公正であり,かつ,価格の有利性も確保し得る一般競争入札の方法によることを原則とするとともに,手続が簡略で経費の負担も少なく,相応の資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定できる反面,契約の締結が情実に左右されるなど,その公正を妨げる事態が生じるおそれのある随意契約の方法によることを例外としたものといえる。そして,このような法令の趣旨にかんがみると,地方自治法施行令167条の2第1項2号に規定する「その性質又は目的が競争入札に適しないものをするとき」を,競争入札の方法によること自体が不可能又は著しく困難な場合に限定することは必ずしも相当ではなく,そのような場合に該当せず,また,当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても,競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが適当とはいえず,普通地方公共団体において当該契約の目的,内容に照らしそれに相応する資力,信用,技術,経験等を有する相手方を選定し,その者との間で契約の締結をするという方法をとるのが,当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり,ひいては当該地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合も,これに該当すると解するのが相当である。

そして,上記の場合に該当するか否かは,契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として,普通地方公共団体の契約の締結の方法に制限を加える法令の趣旨を勘案し,個々具体的な契約ごとに,当該契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解される(最高裁判所昭和62年3月20日第二小法廷判決・民集41巻2号189頁)。

ウ この点,被告らは,A契約の業務内容は,農振法等の関係法令に関する豊富な知識及び農水省関係の各種コンサルタント業務の実績等が求められることから,契約担当者において「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断し,随意契約の方法によることとしたのであって,その判断は合理的な裁量の範囲内である旨主張する。

確かに,A契約の業務内容は,本件事業の用地確保(農用地区域からの除外)のために必要となる本件土地利用構想を策定するというもので,その業務内容は,本来,相応の専門的知識,経験,技術を要するものである上,インカレの開催予定等との関係で,その業務の遂行には一定の時間的制約もあったことからすると,当該業務が「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」に該当すると判断した契約担当者の判断を,一概に不合理ということはできない。

しかしながら,本件において,A契約の成果品(己16)は,旭川市において作成していた基本構想概要版を基に作成されており(被告A5本人),そもそも,高額の委託料を支出して,当該業務を業者に委託することの必要性自体に疑問がある上,①上川支庁等から,土地基盤整備事業の受益地がなければ,必ずしも土地利用構想による方法を採用する必要はない旨の助言を受け,旭川市内部にも,今後の作業日程からすると土地利用構想による方法は困難との意見があり,また,A契約締結当時,既に農水省の提示した作業日程に基づき,農用地区域からの除外を進めることは困難であったにもかかわらず,土地利用構想による方法を採用した場合の問題点や他の方法を採用する余地等について,十分な調査検討もせずに,B3農政部次長及び被告A2等を中心とする農政部及び社会教育部において,土地利用構想による方法の採用に慎重な姿勢を示し,また,その権利関係の複雑さからb地区を本件事業予定地とすることにも懐疑的なB8助役等を説き伏せ,土地利用構想による方法を正式に採用したその経緯は,単に事務手続の拙速というにとどまらず,不自然不合理というべきであること,②被告A2,被告A3,被告A5は,高校の同期生で(特に被告A2と被告A5は,同級生でもある。),被告A2が旭川市に採用され,被告A5が農水省に入省した後も交流を続けていたこと(丙31,己78,被告A2,被告A5本人),③被告A2は,その個人的な友誼を通じて,農水省出身の被告A5を本件説明会に招き,結局,同被告が代表取締役を務める被告A4においてA契約を受注していること,④A契約の見積合わせには,北海道の業者も参加しているにもかかわらず,A契約の予定価格は,研究員が東京・旭川間を移動することを前提に積算されていること(己46),⑤A契約の見積合わせに参加した業者が,いずれも相応の資力,信用,技術,経験等を有するのであれば,指名競争入札の方法によることも可能であるのに(当時,旭川市の指名登録業者は2者であり,旭川市契約事務取扱規則上も,指名競争入札の方法によることは不可能ではない。己38),あえて随意契約の方法を採用していること,⑥業務委託被指名者等選考委員会において,被告A5以外に本件土地利用構想策定業務に係る専門的知識等を有する技術職員の在籍しない被告A4(丙11)や当該業務とおよそ関連性のないB10が,見積合わせ参加業者として選考されていること,⑦A契約に係る見積依頼から見積合わせまでの期間は,休日等を除くと実質的に3日間であり,その予定価格に照らし,適正な見積期間とはいえないこと,⑧郵送された5者の見積書は,B3農政部次長においてまとめ,これを開封し,業者の立会いもないまま,見積合わせを執行し,当日,直ちにA契約の契約書を作成して,被告A4に郵送していること(甲6,証人B23),⑨被告A4を含む4者の見積書には,見積依頼通知書に記載された業務名(農村活性化土地利用構想策定業務)ではなく,旭川市内部で使用されていた業務名(旭川市土地利用活性化構想策定業務)が記載されていたこと(甲6,己47ないし51),⑩被告A4の見積額と旭川市の予定価格の差異はわずか5000円であること,⑪旭川市契約事務取扱要領(己39,平成10年4月付け)は,随意契約の相手方の選定について,「数人の相手方から提出された見積書については,それが適正なものかどうか手持ちの積算書,資料及び予定価格と比較検討し,契約の相手方を選定しなければならない」,「随意契約の場合見積書は,単なる比較又は予定価格との対照のためであるから,競争入札の場合のように必ずしも最低価格の者を選定しなければならないというものではない」と定めているにもかかわらず,積算内訳書も,見積合わせ参加業者の資力,信用,技術,経験等も検討することなく,単に価格の有利性だけで被告A4をA契約の相手方として選定していること(証人B23,被告A3本人)などに照らすと,本件においては,当初から,A契約を被告A4が受注することを前提に,土地利用構想による方法が採用され,随意契約の方法が採用されたものとしか考えられない。

エ 以上によれば,被告A4との間で,A契約を,随意契約の方法により締結したことは,当該契約担当者が,その裁量権を濫用してなされたものといわざるを得ず,地方自治法234条2項,地方自治法施行令167条の2に反し,違法というべきである。

もっとも,地方自治法234条2項,地方自治法施行令167条の2は,随意契約による方法を制限することで,普通地方公共団体の締結する契約の適正を図ろうとするものではあるものの,契約の相手方において,当該契約が法令の規定のいずれの事由に該当するとして締結されるのか把握することはもとより困難であるし,上記事由も必ずしも客観的一義的に規定されているわけではないのであって,当該契約が違法とされた場合,その私法上の効力も当然に無効とすると,契約の相手方において不測の損害を被ることにもなる。このことからすると,当該法令に反して契約が締結された場合に,直ちにその契約の効力も全面的に否定されるとまで解することはできず,私法上も無効となるのは,当該契約が地方自治法施行令167条の2第1項に掲げる事由のいずれにも当たらないことが何人の目にも明らかである場合や契約の相手方において随意契約の方法によることが許されないことを知り又は知り得べかりし場合など,当該契約を無効としなければ随意契約の締結を制限する法令の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められる場合に限られるというべきである(最高裁判所昭和62年5月19日第三小法廷判決・民集41巻4号687頁)。

本件において,これをみると,A契約は,契約担当者の裁量権を濫用して締結されたものであり,これが何人の目にも明らかとはいい難いものの,上記ウの各事実に照らすと,被告A4ないし被告A5は,随意契約の方法によることが許されないことを当然に認識していたか,少なくとも容易に認識し得たものということができる。

したがって,A契約は,その締結が公序良俗に反するか否か等を判断するまでもなく,私法上も無効というべきである(地方自治法2条15項,16項)。

(2)  被告らの責任

ア 被告A1

被告A1は,旭川市の委任を受け,善良なる管理者の注意義務をもって,普通地方公共団体の長(市長)としての職務を遂行すべきであり,同被告が,その権限に属する財務会計上の行為を補助職員に専決させていた場合であっても,同補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務を免れるものではなく,これに反した場合には,普通地方公共団体に対し,当該補助職員がなした財務会計上の違法行為により,当該地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うことになる(最高裁判所平成3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1455頁)。

本件についてこれをみると,被告A1としては,A契約の締結に際し,専決者である被告A3の債務負担行為の適否につき,指揮監督し,これが違法である場合には,当該契約の実現を阻止すべきであるところ,上記(1)のとおり,A契約の締結は違法,無効であり,しかも,本件事業は,総事業費約25億円に上る大規模事業で(丙9,10),被告A1自身,自ら記者会見を通じてその構想を市民に公表するなど,当該事業の推進に深く関与していたにもかかわらず,A契約が締結され,業務完了検査の際も,支出命令の際も,これらの阻止を試みた様子は何らうかがわれないのであって,被告A1において,その義務を尽くしたことの反証のない本件においては,同被告には,少なくとも過失があったといわざるを得ない。

したがって,被告A1は,旭川市に対し,民法415条に基づき,A契約により同市に生じた損害を賠償する責任を負うことになる。

イ 被告A8

被告A8は,当時収入役で,普通地方公共団体の会計事務をつかさどる者として(地方自治法170条1項),A契約に係る委託料の支出手続に際し,支出負担行為に関する確認を行い(同条2項),市長の命令を受けた場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと等を確認する義務を有し(同法232条の4第2項),同被告が,その権限に属する財務会計上の行為を補助職員に専決させていた場合であっても,同補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務を免れるものではなく,これに反した場合には,普通地方公共団体に対し,当該補助職員がなした財務会計上の違法行為により当該地方公共団体が被った損害につき賠償責任を負うことになるところ,同被告は,上記(1)のとおり,違法,無効なA契約の委託料の支出命令の審査を会計課長に専決させ,支出をしている。

しかしながら,上記会計課長はもとより,被告A8においても,A契約が違法,無効であることを認識していたと認めるに足りる証拠はないし,当該契約の種類,内容,性質,目的等からすると,その業務を「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」と判断した契約担当者の判断を一概に不合理ということはできないことは,上記(1)ウのとおりであって,支出命令に添付された資料から,A契約締結に至る経緯の不自然不合理に気付かなかったからといって,少なくとも被告A8に重大な過失(地方自治法243条の2第1項後段1号)があるとまでいうことはできない。

したがって,被告A8は,旭川市に対し,損害賠償責任を負うものではない。

ウ 被告A2

被告A2は,A契約締結当時,教育次長であり,当該契約の締結について具体的な権限を有していたわけではないが,農用地区域からの除外は,本来,農政部において処理すべき課題で,これについて特に専門的な知識,経験を有しているわけでもないのに,個人的な友誼から高校の同級生である被告A5を招いて本件説明会を開催しただけでなく,農用地区域除外の方法に関する協議において,B3農政部次長等とともに,被告A4がA契約を受注することを前提に,到底正確とはいい難い情報に基づき,実現性の乏しい土地利用構想による方法の採用を強硬に主張し,B8助役等を説き伏せるなど,違法,無効なA契約の締結につき,主体的な役割を果たしているのであって,同被告は,不法行為責任(民法709条)を負うというべきである。

なお,被告らは,被告A2について,そもそも被告適格を有しない旨の主張もするが,地方自治法242条の2第1項4号後段に規定する怠る事実に係る相手方について,同法は格別限定しておらず,被告らの主張は失当である。

エ 被告A3

被告A3は,当時農政部長であり,A契約締結の専決者であるが,上記(1)ウのとおり,計画の実現性等に種々の問題があるにもかかわらず,被告A2等とともに,土地利用構想による方法を推進した上,A契約に係る見積合わせの際にも,旭川市契約事務取扱要領に反し,積算内訳書等の検討もせずに,業務委託に係る施行伺及び契約締結伺を決裁しているのであって,被告A3も,A契約の違法,無効を認識していたと解するのが自然である。少なくとも,被告A3は,旭川市内部における協議等から,A契約の違法,無効を,極めて容易に判断することができたものといえ,同被告には重過失があるというべきである。

したがって,被告A3は,旭川市に対し,地方自治法243条の2第1項後段1号に基づき,A契約により同市に生じた損害を賠償する責任を負う。

オ 被告A4及び被告A5

上記(1)ウによれば,原告らのその余の主張について判断するまでもなく,被告A5は,旭川市に対し,民法709条に基づき,A契約により同市に生じた損害を賠償する責任を負うことになり,同被告が代表取締役である被告A4も,民法44条に基づき,被告A5と同様に,損害賠償責任を負うことになる。

(3)  損害額

旭川市は,A契約が違法,無効であるにもかかわらず,上記1(2)ウのとおり,その委託料として549万1500円を支払っているところ,納入された成果品は,平成12年4月1日の農振法の改正に伴い,本件事業について土地利用構想による方法を利用することはできなくなり,無意味なものとなったのであるから(甲6,弁論の全趣旨。被告らは,農振法の改正に間に合わなかったのは,本件事業が,途中,事実上凍結されたためである旨主張するが,もともと,本件事業の作業日程自体に無理があったことは,上記(1)ウのとおりであるし,当該事業が凍結されたのは,平成11年9月ころ,旭川市議会や特別委員会でその種々の問題点が取り上げられ,月刊誌,週刊誌にも,疑惑を指摘する記事が広く掲載されたことによるものであるから(丙4,31,36,弁論の全趣旨),被告らの主張には理由がない。),A契約の委託料として支払われた549万1500円全額が損害というべきである。

したがって,被告A1,被告A2,被告A3,被告A4及び被告A5は,旭川市に対し,549万1500円全額につき連帯(不真正連帯)して損害賠償義務を負う。

3  B契約について

(1)  随意契約の方法によることの適否等

ア 被告らは,B契約についても,その契約の種類,内容,性質,目的等諸般の事情を考慮して,契約担当者の合理的な裁量により,随意契約の方法により当該契約を締結したとして,違法はない旨主張する。

確かに,B契約の業務内容は,本件事業の基本計画を策定するとともに,本件地形図等を作成するというもので,本来,相応の専門的知識,経験,技術を要するものである上,本件事業の基本計画の策定は,A契約により策定された本件土地利用構想を受けてなされ,これとの整合性を図る必要があることに照らすと,A契約同様,B契約を随意契約の方法により締結した契約担当者の判断を,一概に不合理ということはできない。

イ しかしながら,B契約の成果品である基本計画等委託業務報告書(己17)は,旭川市において作成済みの基本構想概要版を基に作成され(被告A5本人),本件地形図も,空撮の方法によることなく,既存の5000分の1の地形図を基に,これを拡大するなどして作成されている上,そもそも,旭川市側としては,基本構想概要版さえあれば,環境影響評価調査を実施することは可能と認識していたというのであるから(証人B16,被告A7本人),これらの業務を業者に委託する必要があったのか疑問というほかないし,①業務委託被指名者等選考委員会において,予定価格決定の際に参考価格を聴取した地元の測量専門業者は選考されず,逆に測量に係る専門的知識も,技術等も有しない被告A4(同被告が,平成10年2月17日付けで提出した建設工事等入札参加資格審査申請書(丙11)によれば,同被告には測量等に係る技術職員は在籍していない。現に,同被告は,上記1(3)イのとおり,B17に対し,本件地形図作成に係る主要な作業をわずか200万円で再委託している。)や,到底,相当とは認められない業者が選考されていること,②B契約に係る見積依頼から見積合わせまでの期間は,休日等を除くと実質的に3日間であり,その予定価格に照らし,適正な見積期間とはいえないこと,③見積書の郵送さえ,原則として認められていないのに,被告A7は,被告A5が持参した他の2者の見積書を,そのまま受領し,翌日,被告A4とB契約を締結するに至っていること,④旭川市においては,空撮を前提に本件地形図等の各種図面作成業務につき1189万7781円として,全体の予定価格を2202万8619円と決定したというのに,これと,空撮を前提としていない被告A4の見積額との差異はわずか11万5611円であること(己46,71,証人B15,被告A7本人,もっとも,B契約の業務対象地は,その大半が空撮により地形図を作成することが困難な山林である上,積雪のため,そもそも当該業務委託期間に,空撮により地形図を作成することは不可能であること,また,本件地形図は,FIS公認視察官来訪の際,クロカンコース設定のため使用されるもので,相応の精度が要求され,このことを被告A5も認識していたことからすると,本件地形図の作成は空撮を前提としている旨の供述も(己46,71,証人B15,被告A7本人),本件地形図の作成に空撮は必要なく,既存の地形図を探す程度でよいと思った旨の供述も(被告A5本人),了解は困難である。このように双方の認識が著しく乖離しているにもかかわらず,互いに何らの確認も照会もないまま,業務を委託し,本件地形図を検収し,委託料の支払を了していること自体,B契約締結の杜撰さを顕著に示すものといえる。),⑤旭川市契約事務取扱要領の定めにもかかわらず,見積書の内容も,見積合わせ参加業者の資力,信用,技術,経験等も検討することなく,単に価格の有利性だけで被告A4を契約の相手方として選定していること,⑥B契約締結時点において,平成10年度中の本件事業用地の買収,平成11年度中の工事着工は実施不可能であったこと,そして,⑦被告A2,被告A3及び被告A5の関係を考えると,B契約についても,A契約と同様,当初から,これを被告A4において受注することが前提とされていたと考えるほかなく,当該契約担当者の判断は,その裁量権を濫用してなされたものといわざるを得ない。

ウ 以上によれば,B契約の締結は,地方自治法243条2項,地方自治法施行令167条の2に反し,違法ということになる。

そして,上記イの事実によれば,B契約が,担当者の裁量権を濫用して締結されたものであることを,被告A4ないし被告A5において,当然に認識し,少なくとも容易に認識し得たものといえ,B契約は,その締結が公序良俗に反するか否か等を判断するまでもなく,私法上も無効というべきである(地方自治法2条15項,16項)。

(2)  被告らの責任

ア 被告A1

被告A1は,当時旭川市の市長であり,上記2(2)アのとおり,同市の委任を受け,善良なる管理者の注意義務をもって,その職務を遂行すべきであり,同被告が,地方自治法180条の2に基づき,その権限に属する財務会計上の行為を特定の職員に補助執行させていた場合であっても,当該補助執行者が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務は免れない。

本件において,上記(1)のとおり,B契約の締結は違法,無効であり,被告A1としては,B契約の締結に際し,補助執行者である被告A6による契約締結の適否につき,指揮監督し,これが違法である場合には,その契約の実現を阻止すべきであるにもかかわらず,これを怠り,B契約を締結させたのであるから,被告A1には,A契約同様,少なくとも,過失があったといわざるを得ない。

したがって,被告A1は,旭川市に対し,民法415条に基づき,B契約により同市に生じた損害を賠償する責任を負うことになる。

イ 被告A8

被告A8は,当時収入役で,普通地方公共団体の会計事務をつかさどる者として(地方自治法170条1項),B契約に係る委託料の支出手続に際し,支出負担行為に関する確認を行い(同条2項),市長の命令を受けた場合においても,当該支出負担行為が法令又は予算に違反していないこと等を確認する義務を有するにもかかわらず(同法232条の4第2項),違法,無効なB契約の委託料を支出するに至っているが,被告A8において,B契約が違法,無効であることを認識していたと認めるに足りる証拠はないし,上記(1)アのとおり,B契約の種類,内容,性質,目的等からすると,その業務を「その性質又は目的が競争入札に適しないもの」と判断した契約担当者の判断を一概に不合理ということはできないのであって,支出命令に添付された資料から,B契約締結に至る経緯の不自然不合理に気付かなかったからといって,被告A8に重大な過失(同法243条の2第1項後段1号)があるとまでいうことはできない。

したがって,被告A8は,旭川市に対し,損害賠償責任を負わない。

ウ 被告A6

被告A6は,当時教育委員会教育長(教育次長事務取扱)で,B契約締結の補助執行者であるが,上記(1)イのとおり,B契約の締結については,不自然な点が多数存在しているのであって,随意契約の方法によりなされたB契約が違法であることまで認識していなかったとしても,その職分からすれば,少なくともこれを認識していなかったことには,重大な過失があるといわざるを得ない。

したがって,被告A6は,旭川市に対し,地方自治法243条の2第1項後段1号に基づき,B契約により同市に生じた損害を賠償する責任を負うことになる。

エ 被告A7

被告A7は,当時社会教育部次長(スポーツ課長事務取扱)で,B契約の成果品の検査員兼業務完了検査の補助執行者であるところ,適正に業務完了検査を行っていれば,納入された基本計画等委託業務報告書が旭川市において作成済みの基本構想概要版を基にして作成されたもので,本件地形図の作成と併せても,到底2300万8658円もの委託料に相応するものではないことを容易に知り得たにもかかわらず,また,そもそも本件地形図等の各種図面が未納入であるにもかかわらず,退職時期の関係で,自らの印章を他の職員に預けて決裁させるなどして,これらについて何らの指摘もしなかったのであるから,少なくとも,その検査につき,重大な過失があるといえる(地方自治法234条の2第1項)。

したがって,被告A7は,旭川市に対し,地方自治法243条の2第1項後段4号に基づき,旭川市の被った損害の賠償責任を負うことになる。

オ 被告A2

被告A2は,B契約締結当時,助役であり,旭川市から委任を受けた者として,善良なる管理者の注意義務をもって,その職務(委任事務)を遂行しなければならず,市長がその事務を処理するに当たり,これを専ら内部的に補佐し,その補助機関たる職員の担任する事務を監督しなければならないにもかかわらず(地方自治法167条),上記2(2)ウのとおり,B契約に先立つA契約の締結につき,自ら主体的な役割を果たし,結局,被告A4との間で,違法,無効なB契約を締結することにも関係しているのであるから,被告A2は,不法行為責任(民法709条)を負うというべきである。

なお,被告A2の被告適格に係る主張が失当であることは,上記2(2)ウのとおりである。

カ 被告A4及び被告A5

上記(1)によれば,原告らのその余の主張について判断するまでもなく,被告A5は,旭川市に対し,民法709条に基づき,B契約により同市に生じた損害を賠償する責任を負うことになり,同被告が代表取締役である被告A4も,民法44条に基づき,被告A5と同様に,損害賠償責任を負うことになる。

(3)  損害額

旭川市は,B契約が違法,無効であるにもかかわらず,上記1(3)ウのとおり,B契約の委託料として2300万8658円を支払っており,納入された成果品も,本件地形図について相応の精度を有するものではなかったほか,基本計画の策定自体,本件事業が事実上凍結されたことにより,無意味なものとなっていることからすると,B契約の委託料として支払った2300万8658円全額が損害というべきである。

なお,被告A6及び被告A7の賠償額については,それぞれの職分,その行為が損害の発生の原因となった程度を考慮して,それぞれ,旭川市が被った損害の2分の1(1150万4329円)について賠償の責めを負うとするのが相当である(地方自治法243条の2第1項,第2項)。

4  D契約について

(1)  原告らは,A及びB契約の違法,無効がD契約に承継される旨主張するが,D契約は,A及びB契約と密接な関連性を有するとはいえ,あくまで別個の契約であり,契約の相手方も,契約締結の方法(指名競争入札の方法)も異なるのであるから,A及びB契約の不備がD契約に当然に承継されると解することはできない。

(2)  また,原告らは,D契約は,もともと実現可能性がないものであるし,その成果品も,再度の学術調査を要するものであるとして,この点からしても,D契約の締結は違法である旨主張する。

確かに,旭川市は,D契約の業務内容は本件方法書が確定していることを前提とするものであるのに,新条例の内容を十分把握することもなく,旭川市を退職した被告A7が専務取締役に就任していたB2との間で,D契約を締結している上,D契約の業務委託被指名者等選考委員会を開催し,環境影響評価調査業務に係る告示も登録も実施せずに,非営利法人についても指名を行って,指名競争入札を執行していること,入札執行日までに十分な期間が設けられていないこと(休日等を除くと実質的には3日間である。),そして,各業者の積算内容について十分な検討がなされていないことなど,D契約締結に係る事務処理は,およそ適切さを欠くものといわざるを得ないのであるが,指名競争入札の方法で行われたD契約について,特にB2に利益を得させるために当該契約が締結されたとまで認めるに足りる証拠はないのであって,契約締結過程に上記のとおり不適切な点があり,また,その成果品について再度の調査を要することになったとしても,それだけで,直ちに,D契約の締結が違法であり,私法上も無効ということはできない。

(3)  したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの主張は理由がない。

5  結論

よって,原告らの本訴請求は,上記認定の限度で理由があるから認容し,その余については理由がないからこれらをいずれも棄却することとし,仮執行宣言については,相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森冨義明 裁判官 桃崎剛 裁判官 島田英一郎)

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