旭川地方裁判所 平成12年(行ウ)6号 判決 2002年1月29日
主文
1 被告は、東川町に対し、金700万5000円及びこれに対する平成12年8月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とし、参加人の参加によって生じた費用は参加人の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、北海道上川郡東川町の住民である原告が、同町の町長である被告に対し、被告の行った社会福祉法人に対する平成11年度の補助金の交付決定が違法である旨主張して、地方自治法242条の2第1項4号前段に基づき、東川町に代位して、上記補助金相当額の損害賠償金等の支払を求めた住民訴訟事件である。
1 前提事実(証拠を摘示した部分を除き、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告は北海道上川郡東川町に住所を有する住民であり、被告は同町の町長である。
イ 北海道上川郡東川町所在の社会福祉法人東川町社会福祉協議会(以下「東川社協」という。)は、東川町における社会福祉事業の能率的運営と組織的活動を展開し、地域福祉の増進を図ることを目的とする社会福祉法人である(〔証拠略〕)。
(2) 本件補助金申請
ア 東川社協は、平成11年5月18日付けで、被告に対し、平成11年度補助金等交付申請(以下「本件補助金申請」という。)を行った。
イ 被告は、本件補助金申請に基づき、東川社協に対し、平成11年度の補助金として654万3000円を交付する旨決定し、平成11年5月20日付けで東川社協にその旨通知した(以下「本件補助金決定」という。)。
(3) 本件変更申請
ア 東川社協は、平成12年1月6日付けで、被告に対し、平成11年度補助金等変更承認申請(以下「本件変更申請」といい、本件補助金申請と併せて「本件各申請」という。)を行った。
イ 被告は、本件変更申請に基づき、東川社協に対し、平成11年度の補助金額を700万5000円に変更する旨決定し、平成12年2月7日付けで東川社協にその旨通知した(以下「本件変更決定」といい、本件補助金決定と併せて「本件各決定」という。)。
(4) 監査請求
原告は、平成12年5月24日、東川町監査委員に対し、本件補助金決定について地方自治法242条1項の規定に基づく住民監査請求を行ったところ(〔証拠略〕)、同監査委員は、同年7月19日付けで、原告に対し、当該監査請求を棄却する旨通知した(〔証拠略〕)。
また、原告は、平成12年7月21日、東川町監査委員に対し、本件変更決定について同じく住民監査請求を行った(〔証拠略〕、なお東川町監査委員は、本件変更決定については平成12年5月24日付けの監査請求に対する審査の中で検討済みであるなどとして、同年8月4日付けで、当該監査請求を却下する旨通知しているが(〔証拠略〕)、その却下の理由に照らすと、当該監査請求自体は適法になされたものといえる。)。
2 当事者の主張
(1) 本件各決定の違法性(争点<1>)
ア 原告の主張
(ア) 本件各決定の手続について
(本件各決定)
a 本件各申請の収受及び決裁の欠缺
本件各申請に係る申請書には、東川町文書管理規則(以下「文書管理規則」という。)5条に規定する収受日付印が押印されておらず、東川町において上記各申請書を収受したとはいえない。
また、決裁は、いわゆる要式行為であるところ、本件各申請に係る決裁については、文書管理規則所定の起案文書が作成されておらず、起案文書の所定欄に決裁印も押印されていないのであって、その決裁は無効というべきである。
被告は、慣行に従い、本件各申請に係る申請書の余白に必要事項を朱書きした上、これに決裁印を押印する簡略な方法で決裁がなされた旨主張するが、上記各申請書の余白には、起案者、起案年月日、起案の趣旨、決裁年月日等の記載もないし、当該申請についての調査に関する事項も記載されていないのであるから、これを決裁文書ということはできない。なお、東川町事務決裁規程(以下「決裁規程」という。)は、町長自ら意思決定し、これを表示すべき重要事項と、事務処理上の便宜のために、助役及び課長等において専決することができる「実質的に軽微と見なされるもの」とを区分しで規定しているのであるから、重要事項である本件各申請について簡易定例的な事案として簡略な処理を認めることはできない。
b 本件各申請に係る申請書の記載及び添付書類の不備
本件各申請に係る申請書には、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金適正化法」という。)5条に規定する補助事業等の目的及び内容、補助事業等に要する経費その他必要な事項が記載されていない上、東川町補助金等交付規則(以下「補助金交付規則」という。)3条2項に規定する町長の定める書類(同規則別記様式第2号の事業計画(実績)書、同第4号の事業予算(精算)書)も添付されておらず、このような違法な申請に基づく本件各決定は違法である。
c 本件各申請の審査及び調査の欠缺
東川町行政手続条例(以下「行政手続条例」という。)7条及び補助金交付規則4条によれば、申請を受けた行政庁は、申請書の記載事項の適否、添付書類の有無、申請の内容についての審査及び調査をしなければならないところ、本件各申請について、これらの審査及び調査はなされていない。
被告は、予算の査定の際、本件各申請の妥当性について審査及び調査されている旨主張するが、予算編成過程における査定と、補助金の交付に係る審査及び調査とでは、その趣旨・目的及び手続の内容を異にするから、前者の審査及び調査をもって、後者のそれに代えることはできない。
d 報告等の欠缺
被告は、助成の目的が有効に達せられることを確保し、予算の執行の適正を期するため、補助事業者等を監督すべきところ、東川社協に対し、社会福祉事業法56条2項に規定する事業又は会計の状況に関する報告を徴することも、補助金交付規則11条に規定する報告を求めることもしておらず、概算払(地方自治法施行令162条)をした補助金の支出について、東川町財務規則75条2項に定める精算の手続もしていないばかりか、補助金交付規則22条の規定にもかかわらず、同規則14条に規定する補助事業等実績報告書及び当該報告書に添付する町長の定める書類の様式さえ定めていない。
なお、東川社協から提出された報告書等は、社会福祉事業法56条2項1号に規定する事業又は会計の状況に関する報告書に該当しないし、上記のとおり、補助金交付規則14条に規定する補助事業等実績報告書等の様式は定められていないのであるから、同規則に規定する報告書等にも該当しない。
(本件変更決定)
e 交付条件の変更
補助金交付規則5条1項は「補助事業等に要する経費の配分の変更」及び「補助事業等の内容の変更」について規定するが、本件変更決定は、そのいずれの場合にも該当しないし、そもそも一度決定された補助金額を変更することはできないというべきである。
(イ) 補助の要件等
(本件各決定)
a 補助の要件の欠缺
本件各決定は、東川社協という団体に対し、総花的な財政的援助を行うものであるが、これは、社会福祉事業を経営する者は、不当に国及び地方公共団体の財政的、管理的援助を仰がないことと規定する社会福祉事業法5条1項3号に反するものであるし、そもそも地方自治法、社会福祉事業法及び東川町社会福祉法人の助成に関する条例(以下「助成条例」という。)の予定する補助金等の交付は、特定の事業に対するものであって、団体の存在及び活動をその対象とするものではないから、いずれにしても違法である。
b 公益上の必要性
地方自治法232条の2は、普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができる旨規定するところ、本件各決定による補助は団体の存在及び活動を対象とするものであるから、その補助に公益上の必要性を認めることはできないし、補助事業の内容等の特定されていない本件各申請に基づき補助金を交付することは、実質的に東川社協に代わって東川町が当該職員の給与等を支払うことに他ならず、東川社協の職員の生計を維持することが、直接町民全体の利益に結びつくことはあり得ない。
また、東川社協に対する平成10年度における補助金額は416万8000円であったが、その同年度の決算において75万3747円が平成11年度に繰越しとなっているのであるから、同年度における補助金は本来減額されるべきところ、本件補助金決定においては、東川社協に対する補助金が654万3000円と、かえって237万5000円の増額となっているのであるし、同年度の決算においては148万6363円が繰越しとなっていることからすると、本件各決定に基づく補助に公益上の必要性がないことは明らかである。
c 政教分離原則違反
本件各決定により東川社協に支給された補助金は、東川社協を介して東川町遺族会の靖国神社及び護国神社への参拝等の宗教活動に支出されているから、本件各決定は政教分離原則(憲法20条、89条)に反する。
(本件変更決定)
d 会計年度独立の原則
本件変更決定は、平成12年度の事業経費に対する補助金を、平成11年度の予算から支出するものであり、会計年度独立の原則に反する(なお、被告は、平成11年10月以降、東川社協と日本ビジネスコンピューター株式会社(以下「JBCC」という。)との間でリース契約が締結されているとするが、これに係る契約書は存在せず、6か月分のリース料相当額51万7406円は架空の金額である。)。
イ 被告の主張
(ア) 本件各決定の手続について、
(本件各決定)
a 本件各申請の収受及び決裁
本件各申請に係る申請書に収受日付印が押印されていないが、これは上記各申請書が、東川町総務課ではなく主務課である同保健福祉課に直接届けられたためであり、客観的には当該申請書は収受されている。
また、本件各申請について、文書管理規則所定の起案文書が作成されていないが、これは簡易定例的な案件については、当該申請書の余白に必要事項を朱書きし、これに決裁印を押す取扱いとされていることによるものであり、本件各申請についても、この慣行に従い、本件各申請に係る申請書の余白に必要事項が記載され、被告をはじめとする各所管の決裁印が押されているのであるから決裁に不備はない。
仮に瑕疵といえるとしても、軽微な手続的な瑕疵にすぎず、決裁が無効、不存在となるものでもない。
b 本件各申請に係る申請書の記載及び添付書類
補助金適正化法は、同法2条に規定するとおり、国が国以外の者に対して補助金を交付する場合に適用されるもので、地方公共団体による補助金の交付には適用されない。
そして、補助金交付規則2条2項は「補助事業等とは補助金交付の対象となる事務又は事業をいう」と規定するのであるから、本件各申請に係る申請書の記載に特に問題はないし、本件各申請に係る補助事業の内容等については、当該申請書に添付の事業計画書及び平成11年度社会福祉協議会一般会計予算書により明らかである。
また、補助金交付規則3条所定の書類についても、「平成11度社協事業計画」及び「平成11年度社会福祉協議会一般会計予算書」等が添付されていたのであるから、実質的には所定の書類の添付があったとみることができるし、仮に添付書類等に不備があったとしても、本件各申請は、事前に必要書類の提出を求め、面談等により当該申請内容を十分検討した上でされたものであるから、直ちに本件各決定が違法となるものではない。
c 本件各申請の審査及び調査
補助金を交付する場合、事前に予算措置を講じる必要があることなどから、平成10年12月15日以降、東川社協から平成11年度予算要求見積書の提出を受け、これを東川町保健福祉課において審査し、また同総務課においてヒアリング及び査定を行っているのであって、本件各申請の妥当性については、これらの査定等により十分な審査及び調査が行われている。
d 報告等
被告は、補助金交付規則14条所定の実績報告書等の提出を受けている。そもそも、社会福祉事業法56条2項1号は、報告を求める権限を規定するにすぎないし、補助金交付規則11条も、必要があると認めるときに報告を求めることができる旨の規定であって、被告に報告を求める義務を課すものではないから、東川社協に対し報告を求めていないからといって、本件各決定が違法となるものではない。
(本件変更決定)
e 交付条件の変更
本件変更申請は、既に補助金を受けている東川社協が、申請当時にはなかった新規事業についてあらためて補助を申請したもので、実質的には新規の申請である。変更申請としたのは、東川社協が既に補助金の交付を受けていたことによる便宜上のものであるから、同申請に基づく本件変更決定の手続は適法である。
(イ) 補助の要件等
(本件各決定)
a 公益上の必要性
本件各決定は、社会福祉法人である東川社協の団体の存在及び活動に対する助成であるとともに、その事業に対する助成であるところ、社会福祉法人という団体の存在、活動及びその事業内容に社会的価値ないし公益性があることは、社会福祉事業法56条が地方公共団体が社会福祉法人に対して補助金を交付することができる旨規定していることからも明らかであり、被告は、公益上の必要があるものと認めて、その裁量により本件各決定を行ったものである。
なお、対象となる補助事業は、予算編成過程において、事務局人件費、東川町社会福祉大会、くらしの相談開設、心身障害者福祉対策等と明確化されているから、総花的であるとの原告の主張は当たらない。東川社協には会費、寄附金等もあり、補助金は歳入の一部にすぎないし(平成11年度の東川社協の歳入の内、補助金の割合は20パーセント程度である。)、年度当初の予算に対して、一定割合の補助金を支出するのであるから、決算時に繰越金が生じることも当然あり得るのであって、繰越金が生じていることをもって、直ちに補助の必要性がなかったということはできない。
b 政教分離原則
東川町遺族会の事業内容は慰霊追悼式典、慰霊祭、北海道護国神社奉賛、靖国神社参拝等であり、戦没者遺族会としての性質上、遺族らの精神的慰籍を図ることを目的としているのであって、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を本来の目的とする組織ないし団体ではない。
したがって、本件各決定は、憲法20条、89条に反するものではない。
(本件変更決定)
c 会計年度独立の原則
本件変更申請は、東川社協において、平成12年度施行の介護保険制度の実施に備え、平成11年度中に支払うべき同年11月から平成12年3月までの5か月分のハード・ソフトのリース料の支払に充てるためのものであるから、会計年度独立の原則には反しない。
(2) 損害について(争点<2>)
ア 原告の主張
東川町は、被告の過失により、東川社協に対し、支出すべきでない補助金700万5000円を支出したこととなり、同額の損害を被った。
イ 被告の主張
仮に、本件各決定に手続上の瑕疵が存在したとしても、東川町としては、結局は支出する予定の補助金を交付したにすぎないのであるから、本件各決定により損害は生じていない。
第3 争点に対する判断
1 本件各決定の違法性の有無について(争点<1>)
(1) 本件各決定の経緯
〔証拠略〕によれば、本件各決定の経緯として、次の事実を認めることができる。
ア 東川社協は、平成11年5月18日付けで、被告に対し、事業名欄に「東川町社会福祉協議会」と、事業の目的及びその概要欄に「社会福祉事業の能率的運営と組織的活動を促進し、地域社会福祉の増進を図ること」と、補助金交付申請額欄に654万3000円と記載した平成11年度補助金等交付申請書(補助金交付規則別記様式第1号によるもの、以下「本件補助金申請書」という。〔証拠略〕)に、平成11年度における東川社協の事業内容やその予算が記載された「平成11年度社協事業計画」(〔証拠略〕)、「平成11年度社会福祉協議会事業」(〔証拠略〕)及び「平成11年度社会福祉協議会一般会計予算書」(〔証拠略〕)と題する各書類を添えて、これを提出し、本件補助金申請を行った。
イ 本件補助金申請に対し、被告は、東川社協が平成10年12月15日に提出した社会福祉協議会補助金要求書等に基づき、予算の査定を行っていたことから(なお、平成11年度東川町一般会計予算書は、平成11年3月9日に東川町議会に提出され、同月16日に同議会において可決されている。)、改めて審査を行うこともなく、また、文書管理規則9条に規定する起案文書を作成することなく、本件補助金申請書の余白に「本申請を適当と認め申請額どおり交付決定することを伺います。予算措置3款1項1目 6543千円」と記入した上、当該余白の押印欄に町長、助役、課長等が、それぞれ押印して決裁とし、平成10年5月20日付けで東川社協に対し654万3000円の補助金を交付する旨の本件補助金決定(東川町第37号指令)を行って、同額を交付した。
ウ その後、東川社協は、平成12年度からの介護保険制度の実施に伴い、介護報酬請求、ケアプランの作成等の事務処理のため、コンピュータシステムを導入することとなったことから、平成12年1月6日付けで、被告に対し、事業名欄に「東川町社会福祉協議会」と、補助金等交付決定額欄に654万3000円と、変更後の補助金等申請額欄に700万5000円と、変更理由欄に「平成12年度施行の介護保険の実施に伴い、ケアプランシステム・介援隊システム等のハード・ソフトの導入を行う必要があり、それに係る経費につき経常経費ではまかなえないため」と記載した平成11年度補助金等変更承認申請書(補助金交付規則別記様式第14号によるもの、以下「本件変更申請書」という。〔証拠略〕)を提出して、本件変更申請を行った。
エ 本件変更申請書には、特に関係書類が添付されていなかったが、被告は、東川社協から平成11年10月から平成12年3月まで(6か月分)のコンピュータシステムのリース料(合計51万7406円)相当額に係る補助の要望があり、平成11年9月17日にその予算の査定を行っていたことから(当該申請に係る補助金補正予算(51万8000円)を含む平成11年度東川町一般会計補正予算書(〔証拠略〕)は、同月28日に東川町議会に提出され、同日、可決されている。)、本件補助金申請と同様、改めて審査を行うことなく、本件変更申請書の余白に「本変更申請を適当と認め申請額どおり変更承認することを認めます。予算措置3.1.1.19 7060千円」と記入した上、当該余白の押印欄に町長、助役、課長等が、それぞれ押印して決裁とし、平成12年2月7日付けで、東川町第37号指令に係る補助金654万3000円を、700万5000円に変更する旨の本件変更決定(東川町第37―1号指令)を行い、46万2000円を交付した。
なお、東川社協は、コンピュータシステムの導入に当たり、当初、JBCCをいわゆるサプライヤーとすることを予定しており、同社の平成11年9月13日付け見積書に基づき6か月分のリース料を合計51万7860円(月額8万6300円)と算定していたが、その後、サポート技術者確保の問題から、サプライヤーを日本情報通信株式会社(以下「日本情報通信」という。)に変更することとなり、併せてコンピュータ機器等及びリース期間を変更することになった。このため、平成11年10月22日付けの日本情報通信、東芝クレジット株式会社及び東川社協間のリース契約書においては、リース期間が同年11月1日から平成12年3月31日まで(5か月)と、リース料は合計46万2000円(月額9万2400円)とされている。
オ 東川社協は、年数回、冊子(「ひがしかわ社協だより」、以下「社協だより」という。)を発行しているところ、平成10年6月1日付けの社協だより(〔証拠略〕)には、東川社協の平成10年度の事業計画及び予算、平成9年度の事業報告及び決算報告(平成10年3月31日現在の財産目録を含む。)が、平成11年6月1日付けのもの(〔証拠略〕)には、平成11年度の事業計画及び予算、平成10年度の事業報告及び決算報告(財産目録を含む。)が、平成12年6月1日付けのもの(〔証拠略〕)には、平成12年度の事業計画及び予算、平成11年度の事業報告及び決算報告(財産目録を含む。)が、それぞれ記載されている。
(2) 本件補助金決定について
ア 本件補助金申請の収受及び決裁
原告は、本件補助金決定について、本件補助金申請書は収受されていないし、所定の決裁もなされていない旨主張する。
確かに、文書管理規則5条1項(2)は、役場に到着した文書は総務課において収受し、当該文書の右下部余白に収受日付印を押印する旨規定するところ、本件補助金申請書は、収受日付印が押印されていないし、また、決裁規程2条(1)に規定する被告の決裁についても、文書管理規則9条に規定する起案文書(同規則別記第6号様式)の作成がなく、本件補助金申請書の余白に「本申請を適当と認め申請額どおり交付決定することを伺います」と記載されているのみで、上記様式の記載事項である起案者、起案年月日も起案の趣旨、決裁年月日、当該申請についての調査に関する事項等は記載されていないのであるから、本件補助金申請の収受及び決裁の手続は、いずれも文書管理規則に反するものといわざるを得ない。
ただ、そうであるとはいえ、文書管理規則5条が、文書に収受日付印を押印するとした趣旨は、文書収受の有無及びその日時を明らかにすることにより、文書事務の適正かつ円滑な実施を図ることにあるのであるから(同規則1条)、現に本件補助金申請書が収受されていることが明らかである以上、単に収受日付印が押印されていないというだけで、直ちに本件補助金申請及び当該申請を前提とする本件補助金決定が無効ないし違法ということはできない。
また、文書管理規則9条が、決裁において起案文書の作成を必要とする趣旨も、決裁の重要性にかんがみ、その意思決定の有無や決裁の経過、職員の関与の有無等を明らかにし、もって、文書事務の適正かつ円滑な実施を図ることにあると解され、本件補助金申請について、当該申請書に決裁権者である被告及び関係職員が押印し、本件補助金決定に係る指令書にも、被告の押印がなされている以上、町長である被告の意思決定の存在や関係職員の関与は明らかといえるのであって、やはりこの点のみから、本件補助金決定を違法とするのは困難である。
イ 本件補助金申請の審査等
(ア) 原告は、本件補助金申請書には、補助金適正化法5条に規定する補助事業等の目的及び内容、補助事業等に要する経費その他必要な事項の記載がない上、補助金交付規則3条2項に規定する町長の定める書類(同規則別記様式第2号の事業計画(実績)書、同第4号の事業予算(精算)書)が添付されていない旨主張する。
確かに、本件補助金申請書には、事業名、事業の目的及びその概要、補助金交付申請額が記載されているのみで、所定の事業計画(実績)書や事業予算(精算)書の添付もないのであるが、そもそも、補助金適正化法は、国が国以外の者に対して交付する補助金(同法2条1項1号)に係るもので、同法5条の規定が、直ちに地方公共団体が交付する補助金について適用されるものではないし、補助金交付規則別記様式第1号による本件補助金申請書には、同様式第2号、第4号に従ったものでないとはいえ、一応、事業計画やその予算の記載された「平成11年度社協事業計画」(〔証拠略〕)、「平成11年度社会福祉協議会事業」(〔証拠略〕)及び「平成11年度社会福祉協議会一般会計予算書」(〔証拠略〕)と題する関係書類が添付されていたのであるから、この点のみをもって本件補助金申請自体を違法ということはできない。
(イ) ところで、行政手続条例7条は、行政庁は、申請がその事務所に到達したときは遅滞なく、申請書の記載事項に不備がないこと、申請書に必要な書類が添付されていることなどの審査を開始しなければならない旨を、また、補助金交付規則4条1項も、町長は、補助金等の交付の申請があったときは、当該申請に係る書類等の審査及び必要に応じて行う現地調査等により、当該申請の内容を調査し、補助金等を交付すべきものと認めたときは、速やかに補助金等の交付決定をする旨規定する。
にもかかわらず、被告は、従前から補助の申請がなされた場合には、予算査定の際に実質的な審査を行い、東川町議会において可決された額をそのまま補助申請させて、交付決定をする取扱いをしていたもので、本件補助金申請についても、改めて審査及び調査はしていないというのである。
確かに、本件補助金申請に関し、東川社協は、平成10年12月15日、東川町保健福祉課に対し、事業内容やその費用見積額、東川社協の歳入歳出等が記載された平成11年度予算要求見積書を提出し、これが関係部局で検討され、平成11年1月28日には、町長である被告の査定が行われているのであるが(〔証拠略〕)、予算の査定と補助金交付申請に対する審査及び調査はその性質を異にするものであるし、現に補助金交付規則4条1項等は、町長の補助金等の交付申請に対する審査及び調査義務を明記することにより、予算の手続とは別個に町長による実質的な審査及び調査を求めているのであるから、予算の査定の際に実質的な審査をしたからといって、本件補助金交付申請の内容を改めて審査及び調査する必要がないということはできない。
特に、本件のような団体補助金の交付額の決定に当たっては、補助対象団体の財政力が重要な考慮要素となるのであり、そのため社会福祉法人に対する助成について定めた助成条例3条は、社会福祉法人は、助成を受けようとするときは、申請書に<1>理由書、<2>助成を受けようとする事業計画書及びこれに伴う収支予算書に加え、<3>財産目録及び貸借対照表、<4>その他町長が必要と認める書類を添えて町長に提出しなければならない旨規定するのであるが、本件補助金申請書に、東川社協の財産目録及び貸借対照表等、東川社協の資産に係る書類は添付されておらず、予算査定の際にも、上記東川社協の歳入歳出に係る書類以外、当該書類は提出されていないにもかかわらず、この点について申請の補正等を求めることもなく、本件補助金決定を行っているのであるから、当該決定に至る手続は、行政手続条例、補助金交付規則に反するものといえる。
そして、補助金の交付に係る審査及び調査の重要性にかんがみると、これを軽微な手続上の瑕疵ということはできない。
なお、被告は、東川社協は単式簿記を採用していたため貸借対照表自体存在しなかった旨主張するが、そうであったとしてもこれに代わる関係書類の提出を求めるべきであるし、また、被告は、東川社協発行の社協だよりにより、その資産状況を知ることができるというのであるが、本件補助金申請書に社協だよりが添付されていたわけではないし、そもそも単なる広報誌である社協だよりと、申請内容の審査及び調査のため添付が必要とされている関係書類とを同様に扱うことはできず、この点に関する被告の主張には理由がない。
(3) 本件変更決定について
ア 原告は、本件変更決定についても、本件変更申請書の収受はないし、所定の決裁もなされていない旨主張する。
しかしながら、本件変更申請書の収受及び決裁の取扱いは文書管理規則に反するものの、本件変更決定を違法とするまでのものではないことは上記(2)アのとおりである。
イ また、原告は、一度決定された補助金の額を変更することはできない旨主張する。
確かに被告が本件変更申請の根拠とする補助金交付規則5条1項は、町長は、補助金等の交付の決定をする場合において、必要があるときは、補助事業等に要する経費の配分の変更をする場合、補助事業等の内容の変更をする場合において、町長の承認を受けるべきことを条件として附するとするもので、他に補助金の額の変更について直接定めた規定はないのであるが、本件変更申請書の事業名欄に「東川町社会福祉協議会」と、変更理由欄に「平成12年度施行の介護保険の実施に伴い、ケアプランシステム・介援隊システム等のハード・ソフトの導入を行う必要があり、それに係る経費につき経常経費ではまかなえないため」との記載がある上、補助金等申請額も、補助金等交付決定額欄(654万3000円)と、変更後の補助金等申請額欄(700万5000円)の記載から明らかであるから、当該変更申請を新規の補助金交付申請と解することができ、したがって、この点に関する原告の主張には理由がない。
ウ しかしながら、上記(1)エのとおり、本件変更申請には関係書類が一切添付されていなかったのであり、被告は、この点について何ら審査及び調査をすることもなく、当該変更申請の補正等を求めることもしないで、本件変更決定を行ったのであるから、本件補助金決定と同様、本件変更決定は違法といわざるを得ない。
なお、被告は、本件変更申請についても、予算査定の際に審査及び調査をしている旨主張する。
確かに、本件変更申請は、主務課である東川町保健福祉課の指示、指導のもとに行われたものであり、同保健福祉課等においては、当該申請に至る事情を十分に把握していたものと考えられる上(〔証拠略〕)、被告は、JBCC作成の平成11年9月13日付け見積書を基礎に算定されたコンピュータシステムのリース料(6か月分合計51万7860円、月額8万6300円)について予算の査定も行っているのであるが、予算の査定等の際に審査及び調査したからといって、本件変更申請の内容について改めて審査及び調査することが不要となるものではないことは、上記(2)イ(イ)のとおりであるし、本件変更申請の際にも東川社協の資産状況に関する書類の提出はなく、加えて補正予算が東川町議会で可決された後に、東川社協において導入するコンピュータシステムの機器やリース期間の変更があったにもかかわらず、本件変更申請書にはこれに係る書類さえ添付されていなかったのであるから、この瑕疵を手続上の軽微なものということはできず、本件変更決定は違法というべきである。
2 損害について(争点<2>)
東川町長である被告は、その権限に基づいて違法な本件各決定を行ったのであり、本件各決定の経過等にかんがみると、少なくとも過失があったということができるから、地方自治法242条の2第1項4号前段に基づいて、東川町に対し、本件各決定によって東川町が被った損害合計金700万5000円及びこれに対する本訴状送達の翌日である平成12年8月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を賠償する責任を負うことになる。
被告は、東川町としては、その手続に違法があったとしても、東川社協に対する補助には公益上の必要があるのであるから、本件各決定により損害は生じていない旨主張するのであるが、公益上の必要があったといえるかどうかはともかく、違法な決定に基づく交付である以上、これは東川町の損害というべきであって、被告の主張には理由がない。
3 結論
以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森冨義明 裁判官 桃崎剛 斉藤充洋)