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旭川地方裁判所 平成13年(ワ)225号 判決 2002年1月18日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告桑高美智代(以下「原告美智代」という。)に対して一五〇〇万円、同桑高智絵(以下「原告智絵」という。)に対して七五〇万円、同桑高良宜(以下「原告良宜」という。)に対して七五〇万円及びこれらに対する平成一一年一二月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  前提事実

(一)  事故の発生(以下「本件事故」という。争いがない。)

ア 日時 平成一一年九月二五日午前八時二五分ころ

イ 場所 京都府長岡京市一文橋二丁目二四番八号先路上(以下「本件事故現場」という。)

ウ 原告車両 亡桑高信樹(以下「信樹」という。)運転の自家用普通貨物自動車(京都四一あ八五四六、以下「原告車」という。)

エ 相手車両 小山亮(以下「小山」という。)運転の自家用普通貨物自動車(京都四六ま三七五八、以下「小山車」という。)

オ 態様 信樹が、原告車を運転して、京都府長岡京市馬場一丁目交差点方向から、同市一文橋方向に向かい、本件事故現場の左にカーブした道路(府道西京高槻線、以下「本件道路」という。)を走行中、同所を走行していた対向車である小山車に衝突した。

(二)  信樹は本件事故により死亡した。原告美智代は信樹の妻であり、同智絵及び同良宜はその子である(甲七)。

二  原告らの主張

(一)  責任原因

小山車は、訴外株式会社コンスティック(以下「訴外会社」という。)の所有する自動車であり、小山は、訴外会社の従業員であるから、訴外会社は、小山車を自己のために運行の用に供していたものといえ、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故によって生じた損害を賠償する責任があるところ、訴外会社は、住友海上火災保険株式会社との間で、自動車損害賠償責任保険契約(自賠責保険証明書番号RA六六三二六九―一)を締結していたのであるから、平成一三年一〇月一日、吸収合併によりその権利義務を承継した被告は、自動車損害賠償保障法一六条により三〇〇〇万円の限度で損害を賠償すべき責任がある。

(二)  損害

ア 逸失利益 七七〇四万一三三〇円

信樹は、死亡時五一歳の大卒男性で、その年収は不明であるが、屋台でラーメン屋を営んでいたものである(扶養者は原告美智代及び同良宜の二名)。就労可能年数を一七年、生活費控除の割合を三〇パーセントとすると、その逸失利益は七七〇四万一三三〇円となる。

九七六万二二〇〇円(大卒男性労働者平均賃金)×(一-〇・三)×一一・二七四〇(ライプニッツ係数)

イ 慰謝料 三〇〇〇万円

(三)  小山の過失

信樹は、中央線を越えて原告車を走行させたのであるから、同人に重大な過失があることは認める。

しかしながら、道路交通法一八条一項によれば、小山は本件道路左側寄りを走行すべきであるし、本件道路の形状及び構造からすると、原告車が中央線側に膨らんで走行することが予想され、現に原告車が中央線を越えて走行するのを二〇メートル先に認めたのであるから、小山としては減速するとともに、極力、本件道路の左側端を走行し、さらに衝突を回避するためハンドルを左に操作すべきであるのに(本件道路左側には余裕があり、小山車を左側に寄せて走行することは可能である。)、減速もせず、中央線に近接した場所を走行して衝突したのであるから無過失とはいえず、少なくとも二〇パーセントの過失を認めるべきである。

なお、自動車損害賠償責任保険制度が、被害者を手厚く救済するための保険制度であることを考えると、被害者の過失を一〇〇パーセントと認定するのは、より制限すべきである。

よって、原告らは、被告に対し、自賠責保険金額三〇〇〇万円の限度内で、原告美智代に対しては一五〇〇万円、同智絵及び同良宜に対してはそれぞれ七五〇万円並びにこれらに対する平成一一年一二月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

(一)  信樹は、原告車を本件道路の中央線を越えて対向車線に進入させ、同車線を走行中の小山車に衝突させたのであるから、本件事故について小山に過失はないし、過失が認められるとしても、相応の過失相殺がされるべきである。

原告は、小山が減速もせずに中央線付近を走行したとして、その過失を主張するが、同人は制限速度内の安全な速度で走行していたのであるし、道路交通法一八条一項に違反してもいない。小山に、対向車が中央線を越えて走行することまで予見する義務はないし、同人が、中央線を越えて走行する原告車を認識した時点から本件事故まで〇・七四秒しかなかったことからすると、そもそも衝突の回避可能性もなかったものといえ、同人に過失はない。

(二)  信樹の逸失利益は、同人の現実の収入を基礎に算定すべきである。

第三当裁判所の判断

一  責任原因

(一)  本件事故は、信樹が、原告車を運転して、本件道路(中央線のある片側一車線道路)を走行中、本件事故現場のカーブで中央線を越え、対向車線を走行中の小山車に衝突したというものであるところ、信樹は自己の車線を走行すべきであるのに、これを越えて車体のほぼ全体を対向車線に進入させて走行し、小山車に衝突したのであるから(甲三)、本件事故が、信樹の過失によるものであることは明らかであり、小山において小山車の運行に関し注意を怠ったとはいえない。

(二)  この点、原告らは、本件道路の形状及び構造上、原告車が中央線側に膨らんで走行することが予想され、また、現に原告車が中央線を越えて走行するのを二〇メートル先に認めたのであるから、小山としては減速するとともに、極力、本件道路の左側端を走行し、衝突を回避するためハンドルを左に操作すべきであったのに、これらを怠ったのであり、少なくとも二〇パーセントの過失がある旨主張する。

しかしながら、本件事故当時、小山車(車幅約一・六九メートル)の右前輪は中央線から約一・一メートルの位置に、同車左前輪は、車線左端から約〇・六一メートルの位置にあったことからすると(本件事故現場における小山車進行車線の幅員は約三・四メートル)、小山車進行車線の左側に幅員約一メートル前後の進入禁止地帯が設けられていたことを考慮しても、小山が、自動車にあっては、道路の左側に寄って走行しなければならない旨規定する道路交通法一八条一項に違反して小山車を走行させていたものということはできないし、同人は、本件事故現場付近を制限速度である四〇キロメートルで走行していたのであるから、本件事故現場のカーブに至るまでの道路の形状、他の道路との接続状況、ガードレールの設置状況、中央線の摩耗状況等を考慮しても、同人において、対向車が中央線を越えて進行してくることまで予見すべきであったということはできない(甲三)。

原告らは、さらに、小山において、現に原告車が中央線を越えて走行してくることを認識したのであるから、小山車を減速させ、ハンドルを左に操作して衝突を回避すべきであったし、両車の衝突した部位は、それぞれ右前部右端から約四〇センチメートルの部分であることからすると、少なくとも、同人が直ちにハンドルを操作していれば、衝突を回避することは可能であった旨主張する。

しかしながら、小山は、約二〇メートル前方に中央線を越えて走行する原告車を認めたというのであり、原告車も、小山車と同等の速度で走行していたこと、同人が原告車を認めて急制動をかけたにもかかわらず、両車が現に衝突し、各右前部が著しく損壊していることに照らすと(甲三)、同人において衝突を回避することができたとは思えない。

仮に計算上は回避可能であるとしても、もともと、小山に、原告車が大幅に中央線を越えて走行することまで予見する義務があるとはいえないし、本件のような場合において、同人に対し、瞬時に原告車の進路を正確に予測し、適切な行動をとるように求めることが現実的とも思われないのであって、急制動をかけて衝突を回避しようとした同人について、ハンドル操作のわずかな遅れを理由に過失があるということはできない。

(三)  なお、原告は、自動車損害賠償責任保険制度の趣旨からすると、被害者である信樹の過失を一〇〇パーセントと認定するのは、制限すべきである旨主張する。

しかしながら、自動車損害賠償責任保険制度の趣旨が被害者保護にあるからといって、信樹の過失割合を当然に減じるべきということにはならず、その主張は失当である。

二  よって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求には理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 森冨義明)

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