旭川地方裁判所 平成16年(行ウ)2号 判決 2006年12月27日
平成16年(行ウ)第2号 固定資産税・都市計画税の減免申請不許可処分取消請求事件(第1事件)
平成18年(行ウ)第2号 固定資産税・都市計画税の減免申請不許可処分取消請求事件(第2事件)
平成18年(行ウ)第3号 固定資産税・都市計画税の減免申請不許可処分取消請求事件(第3事件)
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 第1事件
第1事件被告が平成16年5月17日付けで原告に対してした別紙物件目録記載の土地及び建物に関する固定資産税及び都市計画税の減免申請を不許可とする処分を取り消す。
2 第2事件
旭川市長が平成17年6月1日付けで原告に対してした別紙物件目録記載の土地及び建物に関する固定資産税及び都市計画税の減免申請を不許可とする処分を取り消す。
3 第3事件
旭川市長が平成18年6月14日付けで原告に対してした別紙物件目録記載の土地及び建物に関する固定資産税及び都市計画税の減免申請を不許可とする処分を取り消す。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は,原告が,登記簿上の所有名義を有する不動産について,平成16年度ないし平成18年度の各固定資産税の減免申請を旭川市長(第1事件被告,第2・第3事件処分行政庁。以下「被告市長」という。)にしたところ,被告市長がこれらにつきいずれも不許可とする処分をしたため,被告ら(第1事件につき被告市長,第2・第3事件については旭川市(以下「被告市」という。))に対し,上記各処分が違法であるとして,その取消しを求めた事案である。
2 関係法令等の定め
(1) 地方税法
ア 367条
市町村長は,天災その他特別の事情がある場合において固定資産税の減免を必要とすると認める者,貧困に因り生活のため公私の扶助を受けた者その他特別の事情がある者に限り,当該市町村の条例の定めるところにより,固定資産税を減免することができる。
イ 702条の8
都市計画税の賦課徴収は,固定資産税の賦課徴収の例によるものとし,特別の事情がある場合を除くほか,固定資産税の賦課徴収とあわせて行うものとする。この場合において,第17条の4の規定に基く還付加算金,第365条第2項の規定に基く納期前の納付に対する報奨金又は第368条若しくは第369条の規定に基く延滞金の計算については,都市計画税及び固定資産税の額の合算額によつて当該各条の規定を適用するものとする。
2~6 (略)
7 第1項前段の規定によつて都市計画税を固定資産税とあわせて賦課徴収する場合において,市町村長が第367条,第368条第3項又は第369条第2項の規定によつて固定資産税又は当該固定資産税に係る延滞金額を減免したときは,当該納税者に係る都市計画税又は当該都市計画税に係る延滞金額についても,当該固定資産税又は当該固定資産税に係る延滞金額に対する減免額の割合と同じ割合によつて減免されたものとする。
8 (略)
(2) 旭川市税条例77条
市長は,次の各号の一に該当する固定資産のうち,市長において必要があると認めるものについては,その所有者に対して課する固定資産税を減免する。
(1) 貧困により生活のため公私の扶助を受ける者の所有する固定資産
(2) 公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)
(3) 市の全部又は一部にわたる災害又は天候の不順により,著しく価値を減じた固定資産
2 前項の規定によつて固定資産税の減免を受けようとする者は,納期限までに,次に掲げる事項を記載した申請書にその減免を受けようとする事由を証明する書類を添付して市長に提出しなければならない。
(1) 納税義務者の住所及び氏名又は名称
(2) 土地にあつては,その所在,地番,地目,地積,見取図及び年税額
(3) 家屋にあつては,その所在,家屋番号,種類,構造,床面積,見取図及び年税額
(4) 償却資産にあつては,その所在,種類,数量及び年税額
(5) 減免を受けようとする事由及び第1項第3号の固定資産にあつては,その被害の状況
3 (略)
(3) 旭川市税条例施行規則4条
市長は,条例第45条第1項,第77条第1項,第92条第1項,第149条第1項の規定により市民税,固定資産税,軽自動車税及び事業所税を減免するときは,別表第1から別表第4までに定めるところによるものとする。
別表第2
固定資産税
区分
減免の範囲
減免の割合
摘要
(略)
(略)
(略)
(略)
条例第77条第1項2号に該当する場合
1~4 (略)
5 地縁団体,町内会,防犯協力会その他これに類するものが所有し,又は無料で借り受けて公益的施設として直接その本来の用に供する固定資産
全額
6 (略)
7 前項までに掲げるもののほか,直接公益の用に供するものと認めるもの
全額又は市長が適当と認める割合
3 当事者間に争いのない事実
(1) 当事者
原告は,平成6年7月5日以降,別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)及び同土地上に存する同目録記載2の建物(以下「本件建物」といい,本件土地と併せて「本件不動産」という。)について,登記簿に所有者として登記されている者であり,その固定資産税及び都市計画税の納税義務者である。
(2) 平成15年度までの固定資産税免除
原告は,被告市長に対し,平成7年度から平成15年度まで,本件不動産につき,毎年固定資産税の減免申請をし,被告市長は,いずれについてもその全額を免除した。
(3) 平成16年度の固定資産税減免申請等
ア 被告市は,原告に対し,本件不動産に対する平成16年度の固定資産税として16万1900円,都市計画税として3万4700円をそれぞれ賦課する処分をした。
イ 原告は,被告市長に対し,平成16年4月16日,上記アの課税処分について固定資産税の減免申請をした(以下「本件第1申請」という。)。
なお,都市計画税は,これと固定資産税を併せて賦課徴収する場合,当該固定資産税に対する減免額と同じ割合によって減免される(地方税法702条の8第7項(前記2の(1)のイ))。
ウ 被告市長は,平成16年5月17日,本件第1申請につき,これを不許可とする決定をした(以下「本件第1処分」という。)。
エ 原告は,被告市長に対し,平成16年7月12日,本件第1処分に対する異議申立てをした。
オ 被告市長は,平成16年9月3日,上記エの異議申立てを棄却する決定をし,同決定は,同月4日,原告に送付された。
カ 原告は,平成16年12月3日,本件第1処分の取消しを求め,第1事件の訴えを提起した。
(4) 平成17年度の固定資産税減免申請等
ア 被告市は,原告に対し,本件不動産に対する平成17年度の固定資産税として15万2400円,都市計画税として3万2600円をそれぞれ賦課する処分をした。
イ 原告は,被告市長に対し,平成17年4月18日,上記アの課税処分について固定資産税の減免申請をした(以下「本件第2申請」という。)。
ウ 被告市長は,平成17年6月1日,本件第2申請につき,これを不許可とする決定をした(以下「本件第2処分」という。)。
エ 原告は,被告市長に対し,平成17年8月1日,本件第2処分に対する異議申立てをした。
オ 被告市長は,平成17年10月24日,上記エの異議申立てを棄却する決定をし,同決定は,同月25日,原告に送付された。
カ 原告は,平成18年4月20日,本件第2処分の取消しを求め,第2事件の訴えを提起した。
(5) 平成18年度の固定資産税減免申請等
ア 被告市は,原告に対し,本件不動産に対する平成18年度の固定資産税として14万4900円,都市計画税として3万1000円をそれぞれ賦課する処分をした。
イ 原告は,被告市長に対し,平成18年5月15日,上記アの課税処分について固定資産税の減免申請(以下「本件第3申請」といい,本件第1申請及び本件第2申請と併せて「本件各申請」という。)をした。
ウ 被告市長は,平成18年6月14日,本件第3申請につき,これを不許可とする決定をした(以下「本件第3処分」といい,本件第1処分及び本件第2処分と併せて「本件各処分」という。)。
なお,本件第3処分については,被告市長に対する異議申立てはされていないが,同処分の理由は,少なくとも本件第2処分の理由と同様のものであって,この点については,被告市長の基本的判断が明確に示されていた。
エ 原告は,平成18年7月11日,本件第3処分の取消しを求め,第3事件の訴えを提起した。
4 本件の争点
本件の争点は,本件各処分の違法性の有無であり,より具体的には,以下のとおりである。
(1) 本件不動産の使用実態がどのようなものであったか
(2) 本件各処分について裁量権の逸脱又は濫用があるか否か
ア 本件各処分の前提として重大な事実誤認があるか否か
イ 本件各処分が根拠法令の目的に違反するか否か
ウ 本件各処分が比例原則に違反するか否か
エ 本件各処分が平等原則に違反するか否か
オ 本件各処分が行政の継続性の原則ないし信義則に違反するか否か
5 争点に関する当事者の主張
(1) 本件不動産の使用実態がどのようなものであったか
(原告の主張)
ア 本件不動産は,在日本朝鮮人総聯合会(以下「朝鮮総聯」という。)の北海道北部地域に関する支部と位置付けられる朝鮮総聯旭川支部が実質的な所有者であるが,朝鮮総聯が法人格を取得することができないため,法人格を有する原告が登記簿上の所有名義人となり,旭川朝鮮会館管理会(以下「管理会」という。)が本件建物につき会館としての管理運営を行っているものである。
イ 本件建物の1階には,応接室を兼ねた管理事務室があり,朝鮮関係の書籍,雑誌,新聞等や,ビデオテープ,ビデオ再生装置等が備え置かれている。また,2階には,会議室,事務室があり,寝具等も備え置かれている。3階には,多数の参加者を収容できる会議室がある。
本件建物においては,在日同胞(原告において在日朝鮮人(韓国籍,日本国籍を有する者も含む。)を指称するものとして使用する概念。以下同じ。)のためのハングル教育,民族文化教育の講習,学習会,朝鮮事情の報告や説明会,商工関係者の会合,他の会合の準備,税務等の業務相談会が随時あるいは月1回程度の割合で定期的に実施されている。また,生活相談,朝鮮民主主義人民共和国への渡航相談やビザ申請への対応等も行われているほか,被告市の要請により,在日外国人高齢者福祉給付金の支給手続の申請支援も取り扱っている。
ウ 本件建物の主たる利用者は,日本に定住して社会生活を営んでいる在日同胞であり,旭川市在住者が200名から300名程度,それ以外の北海道北部地域の在住者が700名程度である。
また,本件建物は,これ以外の地域住民にも開放し,その利用に供している。
エ 本件建物は,無償で,上記のように,北海道北部地域に在住する在日同胞の利用に供されるとともに,地域住民も含む不特定多数の者に,事務所,会議室等として貸与され,あるいは,在日同胞と地域住民等との交流及び親善,在日同胞の利益擁護等の各種の便宜供与のために利用されており,また,ビザ申請等の外交関係事務の窓口としての役割も果たしている。このような意味で,本件建物は,公民館,町内会館,在外公館等と同様の役割も果たしている。
(被告らの主張)
ア 本件建物は,ここ数年間,原告が主張するような行事にはほとんど使用されておらず,ハングル講座,打合せ,レクリエーション等が年数回行われているとの情報はあるものの,広く不特定多数の者の利用に供している状況はないし,在日同胞の使用も限定的なものである。
すなわち,被告市が,平成15年から平成16年ころにかけて,本件不動産の使用実態の調査を行ったところ,本件建物が原告の主張するような行事に使用されている形跡はないこと,在日同胞のための使用も極めて限定的であること,専ら在日同胞のための便宜に供されており,不特定多数の者の利用は例外的であること,仮に原告が主張するように地域住民に門戸を開いていたとしても,実態として地域住民が本件建物を使用することはなかったことなどが判明した。
また,被告市は,本件第2申請及び本件第3申請がされたことに伴い,本件不動産の使用実態の調査を行ったところ,いずれも従前の調査と同様の結果であった。
なお,本件第2申請及び本件第3申請の際,原告が提出した「固定資産税の減免申請」と題する書面に記載された,「旭川市民との交流の拠点」として本件建物が使用されている形跡はなかった。
イ したがって,本件建物は,地域住民が主体となって運営に直接関わり,コミュニティ活動の拠点としての役割を果たし,地域住民はおろか行政機関にも無料で開放されている町内会館等とは,その使用の目的及び実態が相違しているから,町内会館等と同種のものとはいえない。
ウ 本件不動産の使用実態の調査結果によれば,本件建物が,公民館としての社会教育法20条所定の目的を有している事実や,同法22条所定の事業を行っている事実は存在しておらず,本件建物を公民館類似の施設とみることはできない。また,日本と朝鮮民主主義人民共和国の間には国交が樹立されていないので,本件建物を在外公館に準ずる施設とみることもできない。
エ なお,原告は,被告市の要請により,在日外国人高齢者福祉給付金の支給手続の申請支援も取り扱っている旨主張するが,被告市がこのような要請を行ったことはない。
(2) 本件各処分の前提として重大な事実誤認があるか否か
(原告の主張)
ア 旭川市税条例77条1項2号にいう「公益のために直接専用する固定資産」とは,現に専ら無償で不特定多数の者の利用に供している固定資産をいうと解されるところ,原告が主張する本件不動産の使用実態等にかんがみれば,本件不動産は,この要件に該当することは明らかである。
被告市長が固定資産税の減免を許可するか否かは,上記規定に覊束されるし,仮に被告市長の裁量が認められるとしても,被告市長には,本件各処分の前提として,この点についての重大な事実誤認があったというべきである。
イ 北海道内の他の市町村においては,本件不動産と同様の不動産について,固定資産税の減免処分がなされているところである。
(被告らの主張)
ア 地方税法367条の規定に基づき,どのような固定資産について固定資産税を減免するかは市町村長の裁量に委ねられている。被告市においては旭川市税条例77条1項各号のいずれかに該当する固定資産のうち市長において必要があると認めるものについて,その所有者に対して課する固定資産税を減免すると規定しているところである。
イ また,旭川市税条例77条1項2号にいう「公益のために直接専用する固定資産」とは,現に専ら無償で不特定多数の者の利用に供している固定資産をいうと解されるところ,本件不動産の所有者とされる原告と,本件建物の会館としての管理運営の主体とされる管理会との間で,本件不動産を無償で使用することとされている点を証する書類が提出されていないことや,被告らが主張するような本件不動産の使用実態等にかんがみれば,本件不動産については,このような要件に該当する事実は認められないのであって,被告市長に本件各処分の前提としての重大な事実誤認があったとはいえない。
ウ 仮に本件不動産が公民館類似の施設や在外公館に準ずる施設であったとしても,旭川市税条例及び旭川市税条例施行規則等に照らすと,固定資産税の減免措置を講ずる固定資産には該当しない。
エ 原告は,他の市町村における減免の事例を指摘するが,どのような固定資産について減免措置を講じるかは,各地域の特殊性や実情に応じて,各市町村長の合理的な裁量の範囲内で各市町村の税条例で規定されているのであるから,他の市町村において,同種の不動産について固定資産税の減免措置が講じられているからといって,本件不動産について同様の取扱いがなされなければならないとはいえない。
(3) 本件各処分が根拠法令の目的に違反するか否か
(原告の主張)
本件各処分は,東京都知事が朝鮮総聯に関連する本件不動産と同様の不動産について,固定資産税の減免申請を許可しない方針を採ったことなどに同調し,在日同胞に対する民族や国籍による差別を行う目的でなされたものであるから,根拠法令の目的に違反するものである。
(被告らの主張)
本件各処分は,本件不動産の使用実態等に基づいて行われたものであり,原告の主張するような目的でなされたものではないから,根拠法令の目的に違反するものではない。
減免措置は,非課税措置と同じく公平の原則に対する例外的措置であるところ,非課税措置規定は厳格に解釈すべきであるとする最高裁判所の判決(最高裁昭和50年(行ツ)第37号同53年7月18日第三小法廷判決・訟務月報24巻12号2696頁)の趣旨からすれば,減免措置規定も厳格に解釈すべきである。
また,平成18年4月1日付け総務事務次官通知において,減免措置の適用に当たっては「減免対象資産の使用実態を的確に把握した上で,公益性の有無等条例で定める要件に該当するかを厳正に判断する」よう通知しているが,これは減免措置が公平の原則の例外的措置であることからして当然のことを通知したものであり,被告の主張と同旨のものである。
(4) 本件各処分が比例原則に違反するか否か
(原告の主張)
本件各処分は,その必要性と原告の不利益の均衡が取れておらず,原告に必要な限度を超えた過重な負担を課すものであるから,比例原則に違反する。
すなわち,会館としての本件建物は,管理会が会費と寄付金により実質的な管理運営を行っているところ,本件各処分の結果,本件不動産に課税がなされることは,管理会に過重な負担を課すこととなり,本件建物の維持に重大な支障を生じさせるものである。
(被告らの主張)
被告市長は,本件不動産について減免措置を講ずるほどの公益性はないと判断して本件各処分を行ったのであって,目的の達成のために必要最小限度を超えた不利益を課したものではないから,比例原則には違反しない。
(5) 本件各処分が平等原則に違反するか否か
(原告の主張)
本件各処分は,同様の申請について許可決定を受けている他の公益的施設と異なる取扱いをするものであり,平等原則に違反する。
すなわち,被告市長は,本件建物と同様の設備を有し,同様の使用実態にある在日本大韓民国民団旭川支部の会館について,固定資産税等を免除しており,本件不動産についてこれと異なる取扱いをする合理的理由はない。
また,被告市長は,本件建物と同様の機能を有する公民館や町内会館等についても固定資産税等の課税を免除しており,本件不動産についてこれと異なる取扱いをする合理的理由はない。
(被告らの主張)
固定資産税の減免に関する平等原則の内容は,減免申請があった各固定資産について減免措置を講ずべき要件を具備しているか否かを平等の判断基準を適用して判断しなければならないとするものであるところ,在日本大韓民国民団旭川支部の会館については,その使用状況から「現に専ら不特定多数の者の利用に供されている施設」であると判断し,減免措置を講じたのであって,判断基準の適用については平等に行われており,平等原則には違反しない。
また,本件不動産は,公民館や町内会館等と類似のものとはいえない。
(6) 本件各処分が行政の継続性の原則ないし信義則に違反するか否か
(原告の主張)
ア 被告市長は,原告に対し,平成7年度から平成15年度までの長期にわたり,本件不動産の固定資産税を免除してきたところ,本件不動産の使用実態等には何ら変更がないにもかかわらず,合理的理由もなく,かつ,適正な手続を経ることもないまま,本件第1処分を行ってこれまでの取扱いを変更したものであり,本件第1処分は,原告に対する不意打ちであって,行政の継続性の原則に反し,信義則に反する。
また,本件第2処分及び第3処分も同様である。
イ 被告市長は,本件不動産の使用実態が平成16年度とそれ以前との間で何ら変更されていないにもかかわらず,本件第1処分の理由として,「一般開放の実績などがないこと」を挙げるにとどまり,公益的施設の該当性の判断に資するその他多くの事項について十分に考慮していない。
ウ また,被告市の職員の行った実態調査も,本件建物を短時間視察し,管理人に簡単な事情聴取をしたにとどまり,本件建物の会館としての管理運営の責任者に対する本件建物の使用実態,目的,果たしている機能及び役割等についての事情聴取をしていない。
エ さらに,被告市長は,本件各処分を行うに当たり,原告に対する告知・聴聞の機会や,本件建物を利用する在日同胞や関係団体等の関係者の意見を聴取する機会を付与すべきであったのに,これもしていない。
(被告らの主張)
ア 固定資産税の減免措置は,毎年度行われる賦課処分に対して行うものであり,継続的性質を有するものではないから,固定資産税の減免について従前と異なる処分をしたからといって,信義則違反の問題は生じない。
イ 被告市長は,本件不動産について,平成16年度ないし平成18年度に実施した実態調査の結果を踏まえて本件各処分を行ったものであり,当該処分の要件該当性の判断において考慮すべき事項については十分に考慮している。
ウ 被告市は,本件不動産について,平成7年に現に不特定多数の者の利用に供されているものとして減免措置を講じた後,使用実態に変化がないものと推認していたが,平成15年に,本件建物と同様の施設について,東京都,新潟市,水戸市等の地方公共団体において減免措置の見直しを行っていることなどから,本件不動産について実態調査を行う必要性を認め,同年9月から本件不動産についての実態調査を実施することとした。
そこで,被告市の担当職員において,平成15年9月16日に原告に対し電話をしたところ,朝鮮総聯の関係者から,検査は認めるものの,使用状況に関する書類の提出義務はない旨の回答があり,同年10月3日に本件不動産の使用状況等について再度説明を求めたところ,関係者から「他の都市は何も言ってきていない。旭川市は何を詮索しているのか,使用状況の報告義務はないと考えているので応じられない。」との回答があった。
平成15年10月7日には,本件不動産の管理人の立会いの下,実地調査を行い,併せて本件不動産の隣家の住人にここ数年間の使用状況を確認したところ,ほとんど使用されていないとのことであった。
さらに,平成16年4月26日に本件不動産の管理人の立会いの下,本件不動産の使用状況の調査を行ったところ,ハングル講座,打合せ,レクリエーション等が年数回行われているとの説明はあったが,広く市民に開放されているという説明はなかった。また,併せて本件不動産の隣家の住人にも使用実態を確認したところ,ここ数年間は原告主張の行事には使用されておらず,在日同胞の使用も例外的なものであるとのことであった。
エ その後も被告市の職員は,外観から使用実態の調査を実施したが,在日同胞の限定的な使用は認められるものの,それ以外の使用の事実はなかった。
被告市長は,これらの調査を基に,本件不動産は専ら在日同胞のための便宜に供するものであり,しかも在日同胞の使用自体も限定的であって,不特定多数の者の利用に供されている実態は例外的なものと判断し,本件各処分を行ったものである。
オ さらに,市税の賦課等については,旭川市税条例3条の2第1項により旭川市行政手続条例10条の適用が排除されており,原告に対する告知・聴聞の機会の付与や関係者に対する意見聴取の機会の付与は必要とされていない。
なお,被告市の職員は,関係者の依頼に応じて,平成16年6月1日,同年7月12日,同年8月18日及び同年11月16日に面談し,関係者から本件不動産の使用状況等について説明を受け,本件第1処分の理由について説明している。
カ その後も,被告市の職員は,本件不動産について上記と同様の実態調査を行っているが,本件不動産の使用実態に変化はなかった。
第3争点に対する判断
1 本件不動産の使用実態について
当事者間に争いのない事実のほか,証拠(各項表題に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実を認めることができ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1) 原告が本件不動産の所有名義人となった経緯等(甲5,6,13,14,証人A)
ア 本件建物は,昭和44年ころ,本件土地上に建築されたが,本件土地及び本件建物は,いずれも管理会の代表者3名の共有として所有権保存登記手続がなされた。これは,朝鮮総聯,その旭川支部ないしは管理会に法人格がないため,これらの主体が登記簿上の所有名義人になれないことによるものであった。
イ 朝鮮総聯は,綱領として「愛族愛国の旗じるしのもとに,すべての在日同胞を朝鮮民主主義人民共和国のまわりに総結集させ,同胞の権益擁護とチュチェ偉業の継承,完成のために献身する」ことなどを定めている団体である。
ウ 管理会は,朝鮮総聯旭川支部に関連する団体であり,本件建物の会館としての管理運営を行っている。
エ 管理会は,その規約において,在日朝鮮人の権益を擁護するため,以下の事業を行うこととされている。
① 朝鮮会館を始めとする基本財産を所有し,その維持管理をすること
② 朝鮮総聯旭川支部を始めとして,各界各層の事務所,会議室として無償貸与すること
③ 同支部が行う座談会,朝日友好の場として無償貸与すること
④ 災害などを受けた朝鮮同胞に対する一時的宿泊施設の無償貸与をすること
⑤ ①ないし④に準ずる各種の便宜供与
⑥ 管理会の目的及び事業を行うための便宜供与
オ 管理会は,平成5年10月1日ころ,原告との間で,本件不動産について,原告名義に所有権移転登記手続を行うことを合意し,原告は,平成6年7月5日,本件不動産について,登記簿上の所有名義人となった。
(2) 本件不動産の現況(甲11の1から11の12まで,13,乙11,証人B,証人A)
ア 本件建物の構造は,別紙物件目録記載2のとおりである。
イ 本件建物の玄関横には,「在日本朝鮮人総聯合會旭川支部」,「朝鮮新報社旭川分局」,「在日本朝鮮民主女性同盟旭川支部」,「在日本朝鮮青年同盟旭川支部」及び「在日本朝鮮人旭川商工会」の各表札が掲げられている。
ウ 本件建物の1階には,事務室があり,数個の事務机,ロッカー,応接セット等が配置されているほか,朝鮮関係の書籍,雑誌,新聞等や,ビデオテープ,ビデオ再生装置等が備え置かれている。
エ 本件建物の2階には,十数名程度で利用することが可能な会議室や,資料を保管する倉庫として用いられている研究室,寝具を備え置いている和室がある。
オ 本件建物の3階には,数十人の参加者を収容できる会議室がある。
カ 本件土地上に駐車場はない。
(3) 本件建物を使用しての活動内容(甲13,乙8,11,12,14,16,証人C,証人B,証人A)
ア 本件建物は,朝鮮総聯旭川支部や,その関連団体である在日本朝鮮民主女性同盟旭川支部,在日本朝鮮青年同盟旭川支部及び在日本朝鮮人旭川商工会の活動の場として利用されることがある。具体的には,これら各組織の会合や,商工会においては,税務申告の時期に税務に関する相談会や申告手続の申請援助が,女性同盟においては,懇親会等がそれぞれ実施されることがあるほか,卓球等の遊技やレクリエーションのため使用されることもある。しかしながら,本件建物には駐車場がなく,老朽化が進んでいることもあり,会合等に利用される頻度は,近時減少している。
イ 本件建物においては,生活相談,朝鮮民主主義人民共和国への渡航相談のほか,ビザ申請及び旅券発行に関する事務も行われているほか,在日朝鮮人についての相続等身分に関する事項の証明を行うための事務も行われているが,平成15年においてビザ申請を取り次いだ実績は1件である。
原告は,本件建物において,在日外国人高齢者福祉給付金の支給手続の申請支援も取り扱っているが,これは被告市の要請によるものではない。
ウ 本件建物においては,札幌市内にある北海道朝鮮初中高級学校の生徒2名ないし3名が,夏休みを利用して,旭川地域在住の原告のいう在日同胞の子弟にハングルを指導している。
エ 毎年旭川市民文化会館においてアジア映画祭が開催されているところ,朝鮮総聯旭川支部もこれに協力し,その打合せや準備のために本件建物を利用している。
オ 本件建物1階に備え置かれている朝鮮関係の書籍,雑誌,新聞等は,利用者の閲覧に供されている。
同室に備え置かれている朝鮮関係のビデオテープ,ビデオ再生装置等は,朝鮮総聯の部内者によって利用されることがほとんどである。
カ かつては,結婚式や葬儀が本件建物で行われることがあったが,近時はない。ただし,本件建物において,結婚式や葬儀の事前打合せが行われることがある。
キ 寝具を備え置いている本件建物2階の和室は,かつては宿泊に利用されていたが,近年は,宿泊には利用されていない。
(4) 本件建物の管理(甲13,証人A)
ア 本件建物の維持運営は,管理会の構成員の会費と寄付金により賄われている。
イ 本件建物には,管理人が1名おり,原則として,日曜日及び祭日以外の毎日本件建物に出勤して執務をしている。ただし,管理人の都合により,本件建物の開閉時間に変動が生じることがある。
ウ 本件建物の利用については,事前に電話で予約を受けているが,利用頻度が少ないこともあり,利用管理簿のようなものは備え置かれていない。
(5) 本件建物の利用者(甲13,証人A)
ア 本件建物の主たる利用者は,朝鮮総聯関係者や原告のいう在日同胞である。
イ 本件建物の利用者に特に制限は設けられていないが,広く一般に利用を呼び掛けているわけではなく,朝鮮問題に関心をもった旭川市内の高校生グループによる訪問,同市内の高校の学園祭で使うためのチマ・チョゴリの貸出し依頼,朝鮮語で綴られた手紙の翻訳依頼等があった以外には,朝鮮総聯関係者でない者のみでの利用実績はほとんどない。
(6) 平成15年以降の状況の変化について
前記(2)ないし(5)の状況については,平成15年から現在までの間,特段の変化はみられない。
2 本件各処分について裁量権の逸脱又は濫用があるか否かについて
(1) 判断の枠組み
地方税法367条(前記第2の2(1)ア)の規定を受けた旭川市税条例77条1項2号(前記第2の2(2))の規定に基づく固定資産税の減免は,「公益のために直接専用する固定資産(有料で使用するものを除く。)」のうち,「市長において必要があると認めるもの」について行うこととされているところ,上記の規定の仕方等に照らせば,市長が,ある固定資産について,公益のために無償で直接専用されているか否か,仮にそれが肯定される場合に減免の必要性があるか否かを認定することについては,当該固定資産税の減免という手段によって達成しようとする行政目的の下において行使される市長の合理的な裁量に委ねられているものと解される。したがって,旭川市税条例77条2項による固定資産税減免申請の許否に係る市長の処分が違法とされるのは,その裁量権の行使に逸脱又は濫用があったと認められる場合に限られるというべきである。
以下においては,本件不動産の使用実態に関し前記1において認定した各事実を踏まえ,本件各処分につき被告市長の裁量権行使に逸脱又は濫用があったと認められるかを検討する。
(2) 本件各処分の前提として重大な事実誤認があるか否かについて
原告は,本件不動産が,旭川市税条例77条1項2号にいう「公益のために直接専用する固定資産」に該当することは明らかであり,被告市長は,この規定に覊束されるし,仮にこの点の事実認定に裁量が認められるとしても重大な事実誤認がある旨主張する。
しかしながら,「公益のために直接専用する固定資産」に該当すれば市長が固定資産税を減免しなければならないと解することができないのは,前記(1)で述べたとおりである。
次に,被告市長に重大な事実誤認があるか否かについては,前記1において認定した事実にかんがみれば,被告市長において,本件不動産が「公益のために直接専用する固定資産」に該当しないと認定したことに重大な事実誤認があるとはいえない。
すなわち,旭川市税条例77条1項2号にいう「公益」とは,広く社会一般の利益を指し,原告において本件不動産が「公益のために直接専用する固定資産」に該当する根拠として主張する公民館,町内会館,在外公館等との類似性も,このような意味での公益性が存在することを前提とするものであると解されるところ,会館としての本件建物は,ほぼ専ら朝鮮総聯並びにその関連団体及び関係者のために使用されているものであり,それ以外の者の使用実績はほどんどないのであって,このような点にかんがみれば,本件建物が,原告のいう在日同胞の教養の向上や社会福祉の増進に寄与していることは否定できないものの,本件建物を利用しての活動が,上記のような意味での公益性を備えたものであるとまでは認められないとした本件各処分における被告市長の判断が是認できないものとはいえない。
なお,原告は,北海道内の他の市町村においては,本件不動産と同様の不動産について,固定資産税の減免処分がなされている旨主張するが,仮にそのような事実があったとしても,そのことによって直ちに被告市長の判断が重大な事実誤認に当たるということはできない。
したがって,被告市長に,本件各処分の前提としての重大な事実誤認があるとはいえない。
(3) 本件各処分が根拠法令の目的に違反するか否かについて
ア これまでに認定した事実のほか,証拠(文中に掲記のもの。)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。
(ア) 被告市長は,平成7年度から平成15年度まで,本件不動産につき,毎年固定資産税全額を免除していたが,その間,減免申請の審査は,原告から提出された書面のみで行い,本件不動産について実態調査を行ったことはなかった。原告が提出した減免申請書には,いずれも,申請理由として,本件不動産は,「在日朝鮮同胞の民族的権益を擁護し,同胞達の社会的および文化的向上と地位向上のため,映画上映会・各種発表会・学術研究会などの会場として無料貸与されており,冠婚葬祭などにも使用されております。また,朝鮮と日本をはじめとする世界の人々との友好親善を深める会場としても使用されております。」と記載されていた。(乙6の2,証人C)
(イ) 平成15年6月ころ,東京都知事が朝鮮総聯関連施設の固定資産税の減免をしない方針を示したほか,各地の地方公共団体において朝鮮総聯関連施設の固定資産税の減免措置を見直す検討を行っているという動きがあり,これらのことは新聞でも報道された。被告市の市民部資産税課では,そのような情勢の中で同年9月ころ,本件不動産について原告作成の減免申請書記載のとおりの実態であるかを確認するため,本件不動産について実態調査を行うこととした。(乙7の1から3まで,乙12,証人C)
(ウ) 被告市の職員は,平成15年9月中旬ころから,原告の関係者に電話をするなどして調査への協力を依頼し,同年10月7日には本件建物の管理人の立会いを得て,約20分間本件建物内部の現地調査を実施した。さらには,本件建物の使用状況について,近隣の住民からの聴取も行った。(甲13,乙9,11,証人B,証人A)
(エ) 本件第1申請に係る原告の減免申請書には,平成15年度までの減免申請書と同じ申請理由(前記(ア))が記載された。
(オ) 被告市の職員は,本件第1申請を受けて,事前に原告関係者に連絡の上,平成16年4月26日,本件建物の管理人の立会いを得て,約15分間本件建物内部の現地調査を実施した。また,被告市の職員は,同月下旬から同年5月上旬にかけての3日間,各1時間ないし2時間程度,本件不動産には立ち入ることなく,本件建物の使用状況や使用者数を現地で確認する調査を行った。上記調査及び前記(ウ)の調査の結果として判明した本件建物の使用実態は,前記1で認定した内容のものであった。(乙9,11,12,証人C,証人B)
(カ) 原告あて通知文書に記載された本件第1処分の理由は,減免申請書に記載された学術研究や冠婚葬祭などに使用されている事実が認められないこと,一時的に同胞の集会に使用されているものの,本件建物が広く市民への一般開放の実績がないことなどから,旭川市税条例77条1項2号の「公益のため直接専用する固定資産」に該当しないというものであった。(甲2)
(キ) 本件第2申請に係る原告の減免申請書には,申請の理由として,本件建物は,「在日朝鮮同胞の民族的権利を擁護し,日本社会において同胞の社会的および文化的コミュニティーとネットワーク形成に努めつつ,広範な日本の各界各層の人々と旭川市民との交流の拠点として会場が無料貸与され,同胞間の親睦と共に友好親善活動に使用されています。」と記載されていた。(乙13の2)
(ク) 被告市の職員は,本件第2申請を受け,平成17年5月11日から同月27日まで12回にわたり,本件不動産には立ち入ることなく,本件建物の使用状況や使用者数を現地で確認する調査を行った。同月30日には,本件建物の管理人の立会いを得て,約30分間本件建物内部の現地調査を実施した。上記調査の結果として判明した本件建物の使用実態については,従前の調査によるものと比較して,特段の変化はみられなかった。(乙14)
(ケ) 本件第2処分の理由は,在日同胞による不定期の利用自体認めるに至らなかったことや,不特定多数の者の利用実績も認められなかったことから,減免申請書記載の申請理由が認められないことに加え,旭川市税条例77条2項において減免申請に当たって添付が求められている,本件不動産の使用者が所有者から無償で借り受けていることを証明する資料が添付されていなかったことなどから,旭川市税条例77条1項2号の「公益のために直接専用する固定資産」の規定は適用できないとするものであった。(乙14)
(コ) 被告市の職員は,本件第3申請を受け,平成18年6月2日,本件建物の管理人の立会いを得て,約1時間本件建物内部の現地調査を実施した。また,同年5月29日から同年6月9日まで,9回にわたり,本件不動産には立ち入ることなく,本件建物の使用状況や使用者数を現地で確認する調査を行った。上記調査の結果として判明した本件建物の使用実態については,従前の調査によるものと比較して,特段の変化はみられなかった。(乙16)
(サ) 原告あて通知文書に記載された本件第3処分の理由は,本件第2処分の理由(前記(ケ))と同様のものであった。(甲18)
イ 以上の認定事実によると,被告市長が,本件不動産につき,従前は特段の調査を行わずに固定資産税を免除していたにもかかわらず,平成15年に至って,結果的に本件第1処分に係る事実認定の基礎となった実態調査を行うこととしたのは,全国各地で朝鮮総聯関連施設についての固定資産税減免措置を見直す動きが出ていたことが契機となったものであると認められるところ,このような契機から上記のような実態調査を行うことについては一応の合理性が認められ,このこと自体が直ちに本件各処分が差別目的でなされたことを推測させるものとはいえない。
また,上記認定の事実にかんがみれば,被告市長が,本件不動産の使用実態について全く調査を行わなかったり,極めて形式的な調査を行ったのみで,その使用実態を的確に把握することなく,減免申請を不許可としたりしたような事情はうかがわれないし,他に本件各処分が差別目的でなされたことをうかがわせる事情も認められない。
ウ したがって,本件各処分が根拠法令の目的に違反するとはいえない。
(4) 本件各処分が比例原則に違反するか否かについて
この点に関する原告の主張は,原告ないし管理会の担税力の薄弱さを理由として,本件各処分が比例原則に反するとするものであると解されるところ,本件においては,そもそも本件建物の会館としての管理運営主体である管理会の担税力が薄弱であることを示す客観的な証拠は提出されていない。
また,仮に原告が主張するように,管理会の担税力が薄弱であるとしても,本件で問題となっている旭川市税条例77条1項2号に基づく固定資産税の減免措置は,無償で「公益のために直接専用する固定資産」について,市長が必要と認める範囲でなされるものであって,このような資産に該当しなければ,上記減免措置が適用される余地はないところ,前記(2)のとおり,本件各処分において,本件不動産が「公益のために直接専用する固定資産」に該当しないと認定したことに重大な事実誤認はないというべきであるから,原告が主張するような比例原則との関係が問題になるとはいえない。
したがって,本件各処分が比例原則に違反するとはいえない。
(5) 本件各処分が平等原則に違反するか否かについて
まず,原告が指摘する在日本大韓民国民団旭川支部の会館の取扱いについては,証拠(証人C,証人A)及び弁論の全趣旨によれば,被告市長が当該会館の固定資産税を減免していること,旭川市と韓国の水原市とは姉妹都市としての提携関係があり,市職員間,経済界その他各分野での交流が活発であって,当該会館はそのような交流の場として使用されていること,当該会館では在日韓国人以外の人も参加して韓国語講座や囲碁も行われていることをそれぞれ認めることができる。そして,このように団体の直接の関係者以外の市民による使用が相当程度あるとうかがわれる状況にかんがみれば,当該会館が本件不動産と同様の施設であると直ちにはいうことができない。
次に,公民館,町内会館等については,これらの施設が旭川市税条例77条1項2号にいう「公益のために直接専用する固定資産」に該当することには異論がないのに対し,本件不動産については,前記(2)のとおり,本件各処分において「公益のために直接専用する固定資産」に該当しないと認定したことに重大な事実誤認はないというべきであるから,本件不動産が公民館,町内会館等と同様の施設とはいえない。
したがって,本件各処分が平等原則に違反するとはいえない。
(6) 本件各処分が行政の継続性の原則ないし信義則に違反するか否かについて
旭川市税条例77条1項2号に基づく固定資産税の減免措置は,年度ごとにいったん発生した納税義務を前提として行うものであるから,減免申請の許否は,各年度ごとに実情に応じて判断すべきものであって,数年度にわたり継続して減免申請が許可されていたとしても,そのことから直ちにその後の年度において同様に減免申請を許可すべきことになるものとはいえない。
また,租税法律主義ないし地方税条例主義の原則が支配する租税法の領域においては,信義則の法理の適用には慎重でなければならないのであって,信義則の法理の適用が検討されるのは,納税者間の平等,公平という要請を犠牲にしてもなお課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に限られるというべきである(最高裁昭和60年(行ツ)第125号同62年10月30日第3小法廷判決・裁判集民事152号93頁参照)。
このような観点からすると,租税行政庁が従前の解釈や運用を変更し,適法な解釈や運用の下,その後の年度における課税に関する処分をすることは,もとより許容されるものであって,納税者において,従前から同様の処分が長期間継続してなされてきたことのみをもって,当該年度において同様の処分がなされることを期待したとしても,そのような期待までが租税法律主義ないし地方税条例主義の例外として保護されるべきものとはいえない。
また,本件において,被告市長が行った平成7年度から平成15年度までの本件不動産の各固定資産税免除処分は,いずれも実態調査を実施せずに,減免申請書の書面審査のみに基づいてなされたものであるのに対し,平成16年度以降の処分に関しては,平成15年以降なされた実態調査の結果,被告市長が本件不動産は「公益のために直接専用する固定資産」に該当しないと認定したものであって,この点に重大な事実誤認はない(前記(2))のであるから,本件不動産の固定資産税の減免に関する従前の取扱いと異なる取扱いをするに至ったとしても,従前の取扱いを維持されることへの原告の期待を保護しなければ正義に反するような事情が存するとはいえない。
さらに,前記(3)アにおいて認定した各事実によれば,本件各処分に先立って行われた各実態調査の過程においては,原告側から,本件不動産の使用実態を明らかにし,又は意見を述べる機会は十分にあったといえるのであって,本件各処分が,原告にとって不意打ちであったとも考えられない。
したがって,本件各処分が行政の継続性の原則ないし信義則に違反するとはいえない。
(7) まとめ
そうすると,原告が指摘するいずれの観点からも,本件各処分について裁量権の逸脱又は濫用があるとはいえない。
3 結論
以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 笠井之彦 裁判官 中尾彰 裁判官 川崎直也)
別紙物件目録
1
所在
旭川市a条b丁目
地番
c番d
地目
宅地
地積
136.85平方メートル
2
所在
旭川市a条b丁目c番地d
家屋番号
c番d
種類
事務所
構造
鉄骨コンクリートブロック造陸屋根3階建
床面積
1階 87.75平方メートル
2階 94.28平方メートル
3階 93.81平方メートル
以上