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旭川地方裁判所 平成24年(ワ)177号 判決 2014年12月09日

主文

1  被告町は,原告に対し,134万7991円及びこれに対する平成23年3月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告公社は,原告に対し,315万円及びこれに対する平成25年11月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告の被告町に対するその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は,甲事件及び乙事件を通じ,原告に生じた費用を10分し,その3を被告町の負担とし,その6を被告公社の負担とし,その余を原告の負担とし,被告町に生じた費用を10分し,その1を原告の負担とし,その余を被告町の負担とし,被告公社に生じた費用は被告公社の負担とする。

5  この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  甲事件

被告町は,原告に対し,184万8831円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  乙事件

主文第2項同旨。

第2事案の概要

本件は,原告が,上川郡東神楽町の宅地を対象とする開発分譲事業に関して,被告公社との間で事業計画書の作成を目的とする請負契約を締結したと主張して,被告公社に対し,報酬315万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成25年11月19日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事件(乙事件)と,原告が,同事業に関連する防災調節池設置管理事業のための用地買収に際して,被告町との間で土地購入代金の立替払の合意をし,これに基づき地権者に立替払をしたと主張して,被告町に対し,立替金等合計184万8831円及びこれに対する平成23年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事件(甲事件)とが併合審理されている事案である。

1  前提事実(争いのない事実又は後掲各証拠等若しくは弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者等

ア(ア) 原告は,不動産の売買や土地造成に関するコンサルタント事業等を業とする特例有限会社であったが,平成26年5月29日,商号変更をして通常の株式会社へと移行した。(甲1,乙22,弁論の全趣旨)

(イ) Aは,原告の代表者である。(甲1,乙22)

イ(ア) K株式会社(以下「K社」という。)は,都市開発,地域開発,宅地造成等の事業に関するコンサルティング業務や,不動産の販売及び仲介斡旋,管理業等を業とする株式会社である。(乙21)

(イ) Bは,K社の代表者であるとともに,平成26年4月5日まで原告の取締役であった者である。(甲1,乙21,22,弁論の全趣旨)

ウ 被告町は,普通地方公共団体である。(公知の事実)

エ 被告公社は,昭和63年11月11日に被告町が100パーセント出資して設立した株式会社であったが,平成21年7月3日,民間企業5社(株式会社L,株式会M,株式会社N,K社及び原告。以下,併せて「本件各民間企業」ということがある。)に対し,第三者割当の方法による募集株式を発行し,第三セクターとなった(以下「本件増資」といい,本件増資の前後で被告公社を区別するときは,「本件増資前の被告公社」,「本件増資後の被告公社」という。)。(乙16,19,弁論の全趣旨)

オ Cは,平成20年10月1日から平成22年3月31日までの間,被告町の総務企画課参事の職にあるとともに被告公社の事務局長の職にあり,被告公社においては,後記(2)の事業に関する事業計画書の作成に係る契約締結権限を有し,また,被告町においては,後記(4)の防災調節池の設置管理事業に係る用地買収に関する権限を有していた者である。(争いのない事実)

カ Dは,平成21年4月1日から平成23年3月31日までの間,被告町の建設課参事の職にあり,後記(4)の防災調節池の設置管理事業に係る用地買収の業務を担当していた者である。(弁論の全趣旨)

(2)  a地区宅地開発分譲事業の概要等

ア 本件各民間企業は,上川郡東神楽町a地区(以下「本件地区」という。)における宅地開発及びその分譲事業(以下「本件事業」という。)を計画し,平成19年11月16日頃から,被告町とも交渉を重ねていた。(甲3の1,乙1,弁論の全趣旨)

イ 平成21年6月29日,被告町,本件各民間企業及び本件増資前の被告公社との間で,本件事業に関する基本協定書(以下「本件基本協定書」という。)が取り交わされた。これにより,本件増資前の被告公社に本件各民間企業からの出資を募って設立される第三セクター(本件増資後の被告公社)が事業主体として,被告町及び本件各民間企業がその事業協力者として,本件事業を推進することが確認された。(甲5)

ウ 平成21年7月3日,本件増資が実施された。(乙16,弁論の全趣旨)

(3)  事業計画書の納品

被告公社のCは,平成21年3月以降,原告ないしK社から,本件事業に係る事業計画書の納品を受けた(以下,Cが納品を受けた事業計画書を「本件事業計画書」という。)。(弁論の全趣旨)

(4)  用地買収の経緯等

ア 平成20年8月29日,本件事業に関連する防災調節池の設置管理事業(以下「本件調節池整備事業」という。)について,被告町が事業主体となり,工事を発注することとなった。(争いのない事実)

イ Eは,平成21年当時,本件調節池整備事業に係る防災調節池設置予定区域内に,以下の土地(以下「本件E所有地」という。)を所有していた。(甲35,弁論の全趣旨)

(ア) 所在地 旭川市b町

地 番 c-d

地 目 雑種地

地 積 4.22平方メートル

(イ) 所在地 旭川市b町

地 番 c-e

地 目 雑種地

地 積 625平方メートル

ウ 原告は,平成21年6月22日頃,本件E所有地の売買代金を230万円とし,被告町がEに支払う売買代金との差額分については原告が支払う旨の覚書(以下「本件覚書」という。)を作成した。(甲14)

エ 被告町は,平成21年8月24日,Eとの間で,本件調節池整備事業に係る用地買収(以下「本件用地買収」という。)として,Eが本件E所有地を被告町に代金95万2009円で売却する旨の売買契約書(甲20)を作成した(以下,この売買契約を「本件売買契約」といい,同契約書を「本件売買契約書」という。)。(争いのない事実)

オ 被告町は,平成21年9月18日,Eに対し,本件売買契約に基づき,代金95万2009円を支払った。(争いのない事実)

カ 原告は,平成21年10月7日,Eに対し,134万7991円を支払った。(甲15)

2  本件の争点

(乙事件について)

(1) 原告と被告公社との間における本件事業計画書の作成を目的とする請負契約の成否

(2) 相当報酬額

(甲事件について)

(3) 原告と被告町との間における買収差額についての立替払の合意の成否等

3  争点に関する各当事者の主張

(1)  争点(1)(原告と被告公社との間における本件事業計画書の作成を目的とする請負契約の成否)について

(原告の主張)

ア 原告は,平成21年2月2日,被告公社事務局長のCとの間で,原告を請負人,被告公社を注文者として,原告が本件事業計画書を作成し,被告公社がこれに対する相当額の報酬を支払う旨の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

そして,原告は,Cに対し,本件請負契約に基づき,平成21年3月2日に第1次事業計画書(甲23)を,同年5月1日に第2次事業計画書(甲24)を,同年6月3日に第3次事業計画書(甲25)を,同月8日に完成品である第4次事業計画書(甲26〔第3次事業計画書の訂正分1頁〕,甲33〔全頁〕)をそれぞれ納品した。

イ 本件事業計画書の完成品は,甲33であり,乙14ではない。被告公社が完成品と主張する乙14は,第2次事業計画書(甲24)と同内容であり,本件事業計画書を作成する途上で納品されたものにすぎない。

ウ 被告公社は,平成20年8月29日付けの見積書(乙3)に記載の「事業資料検討・作成」に基づく成果品として,K社が本件事業計画書を作成したと主張する。確かに,K社が,上記「事業資料検討・作成」の一部として,本件事業に要する経費を検討した書面(乙12の1,乙13の1)を作成したことはあるが,これは,本件事業の造成原価・事業原価を策定したものにすぎず,①現在の周辺の時価状況を踏まえた販売単価の検討,②販売方法及び回収条件を想定してのシミュレーション,③販売に係る費用策定の検証シミュレーション,④造成原価の支払シミュレーション,⑤全体を通しての計画の整合性・実現性の確認シミュレーションの各内容を含む事業計画書とは本質的に異なる。

(被告公社の主張)

ア 被告公社は,平成20年10月1日にCが被告公社事務局長に就任した直後,K社との間で,本件事業計画書の作成を含む業務委託契約(以下「本件業務委託契約」という。)を締結し,これに基づき,本件事業計画書の完成品として乙14を受領したのであり,原告との間で本件請負契約を締結した事実はない。

イ すなわち,被告公社は,K社に対し,平成20年9月9日に1000万円,同月24日に6000万円を支払っているところ,Cは,被告公社事務局長に就任した同年10月1日の直後,この合計7000万円についての作業対価を明確にするため,K社との間で,平成20年8月29日付けの見積書(乙3)を作成した。同見積書には,「事業資料検討・作成」の費用として200万円が計上されているが,同見積書作成時点では,本件事業に要する経費を計算した書面(乙12の1,乙13の1)がK社によって作成されていたのみで,上記200万円に見合う成果物は納品されておらず,同見積書が将来作成される事業計画書の費用を含むものであったことは明らかである。Cは,同見積書(乙3)の作成と併せて,K社との間で,金額を7000万円とする本件業務委託契約の契約書(測量及び設計図作製又は許可申請の請負)を作成し(乙4),それまでK社が行っていた本件事業計画書の作成業務について,正式に被告公社の発注業務として取り扱うこととした。

そして,K社は,本件業務委託契約に基づき,平成21年2月ないし3月頃,本件事業計画書を作成し,被告公社は,同月頃,K社代表者のBから本件事業計画書の完成品を受領した。

ウ 本件事業計画書の完成品は,乙14であり,甲33ではない。

エ 原告は,本件事業計画書の作成過程において,K社の下請け又は履行補助者であったにすぎない。

(2)  争点(2)(相当報酬額)について

(原告の主張)

本件請負契約に基づく相当報酬額は,315万円(消費税を含む。)である。

(被告公社の主張)

否認ないし争う。

(3)  争点(3)(原告と被告町との間における買収差額についての立替払の合意の成否等)について

(原告の主張)

原告は,平成21年6月16日,被告町のCとの間で,当時地権者対応業務を担当していたK社のBの同席の下,本件E所有地の買収業務につき,Eに対する支払額合計をEが希望する230万円とすることを前提に,原告が,Eに対し,被告町が予定した買収基準額95万2009円との差額である134万7991円(以下「本件買収差額」という。)を被告町に代わって立替払することを合意した(以下「本件立替払合意」という。)。

原告は,平成21年10月7日,Eに対し,本件立替払合意に基づき,本件買収差額を支払ったから,被告町は,原告に対し,本件買収差額134万7991円,弁護士費用50万円及び振込手数料840円の合計184万8831円を支払う義務を負う。

(被告町の主張)

Cが,原告との間で,本件立替払合意をした事実はない。Cは,Bから,本件買収差額をK社において負担することも検討している旨の発言を聞いたことがあるが,これを承諾しておらず,むしろ,Bに対し,たとえ民間による負担であっても買収額に差を設けてはいけないと述べていた。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記前提事実,後掲各証拠(なお,複数頁にわたる書証又は調書のうち認定に用いた主な箇所の頁数を〔〕で摘示した。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  本件事業の経緯

ア 株式会社N,原告及びK社は,東神楽町において民間宅地開発事業を行っていたところ,平成19年11月16日,被告町に対し,本件地区においても開発事業を実施するために,農用地区域除外手続や市街化区域編入手続を行うよう要望した。(甲3の1,乙1,弁論の全趣旨)

イ 被告町の当時の町長は,平成19年11月27日,上記要望に対して,本件地区の開発許可は平成21年3月を予定しており,業務が先行することになることを了承するよう求め,原告は,同年12月3日,これを了承した。(甲2,3の1,乙2)

ウ K社は,平成19年12月3日,原告及び株式会社Nに対し,以下の内容の見積書を交付した。(乙6,原告代表者〔29,30〕)

業務名称 (仮称)東神楽町a地区開発事業

調査測量・設計・許可申請等業務(29.0ha)

業務場所 上川郡東神楽町字f番g他

見積金額 2億6985万円

なお,上記見積書に添付された内訳明細書には,「協議・事業資料作成」のうち「事業資料検討・作成」の費用として,300万円が計上されている。

エ 本件事業は,元々はK社ら民間事業者が推進していた事業であったが,住宅地開発を進めるにあたり,被告町が所有する公共残土を使用する必要が生じたところ,民間事業者のみでは公共残土を入手できなかったことから,被告町の100パーセント出資会社である本件増資前の被告公社を事業主体とすることとなった。さらに,平成20年8月4日,本件事業について,被告町だけを事業主体とするのではなく,本件増資前の被告公社に民間企業数社からの出資を募って第三セクターを立ち上げ,同セクターを事業主体とする方針が示された。(甲39,乙17,証人F)〔2〕,弁論の全趣旨)

オ K社は,平成20年8月4日,被告公社に対し,以下の内容の見積書を交付した。(乙7,証人B〔26〕)

業務名称 (仮称)東神楽町a地区開発事業

調査測量・設計・許可申請等業務(29.0ha)

業務場所 上川郡東神楽町字f番g他

見積金額 2億6985万円

なお,上記見積書に添付された内訳明細書には,「協議・事業資料作成」のうち「事業資料検討・作成」の費用として,300万円が計上されている。

カ 被告公社とK社との間では,以下の内容の平成20年8月29日付け見積書(乙3)が作成されている。(乙3,弁論の全趣旨)

業務名称 東神楽町a地区

調査測量・基本設計ほか委託業務

業務場所 上川郡東神楽町字h番g他

見積金額 7000万円

なお,上記見積書に添付された内訳明細書には,「協議・事業資料作成1回目」のうち「事業資料検討・作成」の費用として,200万円が計上されている。

キ また,被告公社とK社との間では,上記カの見積書(乙3)の内容を踏まえて,以下の内容の平成20年9月8日付け委託業務契約書(乙4)が作成されている。(乙4,弁論の全趣旨)

業 務 名 東神楽町a地区調査測量,基本設計ほか委託業務

業務内容 上記の測量及び設計図作製又は許可申請の請負

期  限 平成20年9月8日から同月19日まで

請負代金 7000万円

ク K社は,平成20年9月頃までには,本件事業に要する経費を検討した各書面(乙12の1,乙13の1)を作成し,被告公社に納品した。上記各書面には,本件事業を進める上で必要となる費用や,造成した宅地の販売による収益などが区域ごとに記載されている。(甲34,乙12の1,2,乙13の1,2,証人B〔3,4,17,18〕,証人C〔3ないし5〕,原告代表者〔34,35〕)

ケ 被告公社は,K社に対し,平成20年9月9日に1000万円,同月24日に6000万円の合計7000万円を支払った。(甲34,証人B〔18,23,24〕,証人C〔2〕,弁論の全趣旨)

コ 平成20年12月ないし平成21年1月頃,被告町の議会において,議員から,被告町側に対し,本件事業に関する事業計画を明らかにするよう要求があった。(甲36,39,証人F〔3,5,6〕,証人C〔8〕)

サ 平成21年3月頃,被告町の議会において,本件事業に関する事業計画書が議会に提出されていないことなどを理由に,本件調節池整備事業の執行予算を凍結する旨の決議がされた。(甲39,証人F〔6ないし8〕)

シ その後,被告町の議会に本件事業計画書が開示され,平成21年5月頃,議員協議会からの指摘等により,当初の計画では事業最終年度が平成27年度であったものを平成26年度に短縮し,本件調節池整備事業に関する費用が被告公社から被告町に支払われる旨を明示するなどの修正がされた結果,同月28日,被告町の議会において,本件調節池整備事業の執行予算の凍結が解除された。(甲39,証人F〔7,8,42,43〕)

ス 被告町,本件各民間企業及び本件増資前の被告公社は,平成21年6月29日,本件基本協定書(甲5)を取り交わし,以下のとおり,本件増資後の被告公社が事業主体として,被告町及び本件各民間企業がその事業協力者として,本件事業を推進することを確認した。

場  所 上川郡東神楽町a地区(本件地区)

事業主体 本件増資後の被告公社

協 力 者 被告町及び本件各民間企業

事業概要 住宅団地及び商業施設用地

開発事業 開発面積24ha,分譲面積18ha

事業期間 平成21年7月1日から平成27年3月31日まで

本件基本協定書上,原告の役割は,「事業計画の立案調整」及び「完成宅地等の販売」とされており,他方,K社の役割は,「開発行為許認可業務の一切の作業及びその他総括調整」,「開発用地の買収に係る協議,折衝」及び「完成宅地等の販売」とされていた。(甲5)

セ 上記エ及びスのとおり,本件事業については,本件増資前の被告公社と民間企業からの出資による第三セクターを事業主体とするものとされたことを受けて,平成21年7月3日,本件増資が実施され,被告公社は第三セクターとなった。(乙16,19,弁論の全趣旨)

(2)  本件事業計画書の作成・納品等

ア 前記(1)コのとおり,被告町の議会において本件事業に関する事業計画を明らかにするよう要求があったことから,事業計画書が作成されることとなり,C,B,A及びG(被告公社の当時の顧問)は,平成21年2月2日,被告町役場2階の会議室において,打合せを行った。(甲3の1,甲37,原告代表者〔4〕,弁論の全趣旨)

イ 平成21年3月2日,Cに対し,本件事業計画書の第1次成果品(甲23)が納品された。(甲3の1,甲23,37,38,原告代表者〔6〕)

ウ 平成21年5月1日,Cに対し,本件事業計画書の第2次成果品(甲24,乙14)が納品された。この第2次成果品では,分譲地の販売計画期間は平成27年度までとされていた。

なお,甲24は,一部手書きで加筆された部分があるのを除いては,乙14と同内容である。(甲3の1,甲24,37,38,乙14,原告代表者〔6,7〕)

エ Cは,平成21年5月末頃,原告の事務所を訪問し,Aから,本件事業計画書の成果品の写し20部を受け取った。(甲38,証人C〔13,14〕)

オ Aは,平成21年6月3日,Cに対し,「事業計画訂正の件」との件名のメールにより,「諸費用計画」,「販売計画概要」及び「販売計画表」と題する各データ(本件事業計画書の第3次成果品。甲25)を納品した。この第3次成果品では,分譲地の販売計画期間が,それまでの平成27年度までから平成26年度までに修正されていた。

なお,第3次成果品(甲25)は,それまでの成果品のうち修正を要する部分のみをまとめたものであり,その1枚目と2枚目は,それぞれ乙11の1,乙10の1と同内容である。(甲3の1,甲25,27,37,38,乙10の1ないし乙11の3)

カ 原告の従業員であるHは,平成21年6月8日,Cに対し,「事業概要の件」との件名のメールにより,「事業概要」と題するデータ(本件事業計画書の第4次成果品。甲26)を納品した。この第4次成果品においても,分譲地の販売計画期間は平成26年度までとされていた。

なお,第4次成果品(甲26)は,修正部分のみのデータであり,それまでに納品されていた成果品と併せたものが甲33である。(甲3の1,甲26,28,33,38,原告代表者〔6〕,弁論の全趣旨)

キ Cは,第1次成果品が納品された以降,主に原告代表者であるAとの間で,当該成果品に対する修正の打合せや指示を行った。Cは,この当時,上記修正を実際に行っているのは原告ないしAであると認識していた。また,Aは,本件事業計画書の作成ないし修正に当たり,Bを通じて,Cの指示を受けたこともあった。(甲3の1,甲37,38,証人B〔2,20〕,証人C〔41ないし43〕,原告代表者〔37ないし39,48,49,52〕)

(3)  本件用地買収の経緯等

ア 本件事業においては,雨水の河川への流入量を調節するため防災調節池を設置する必要があり,平成20年8月29日,本件調節池整備事業は,被告町が事業主体となって計画し,工事を発注することとなった。(甲39,乙17,弁論の全趣旨)

イ 本件調節池整備事業においては,被告町が対象地区の土地を買収することとなっていたが,K社は,Cの指示を受け,平成20年12月頃から,同土地の地権者との間で,買収金額等についての交渉を行い,その進捗状況をCに報告していた。K社のBは,上記交渉のため,説明会を開催したり,Eを含む地権者の自宅を訪問して個別に説明するなどした。(甲19,37,39,乙17,証人B〔7〕,弁論の全趣旨)

ウ Bは,平成21年2月2日,Cに対し,Eが,平成16年に取得した本件E所有地を,その取得価格を下回る価格で被告町に売却することはできないと主張していること,Eの売却希望価格と被告町の買取可能価格とに大幅な開きがあることを報告した。(甲37,38,証人B〔7,8〕,証人C〔17〕)

エ Cは,平成21年4月28日,原告に対し,本件用地買収に係る売買契約書等のデータをメールで送信した。(甲29ないし32の4,甲37,38,原告代表者〔43〕)

オ 上記ウの後も,本件E所有地に関する用地買収に関して,Eの売却希望価格と被告町の買収可能価格との開きが依然として解消されなかったことから,平成21年6月16日,被告公社の事務所において,C,A及びBが集まり,打合せが行われた。(甲37,38,原告代表者〔14ないし17〕,弁論の全趣旨)

カ 被告町の建設課参事であったDは,平成21年6月頃,本件用地買収の業務をCから引き継いだ。(乙18,証人D〔1〕)

キ 原告は,平成21年6月22日より前に,Bを通じて,被告町から,Eとの間で取り交わす予定の本件売買契約書の写しの交付を受けた。(甲20,原告代表者〔18,19〕)

ク 原告は,Bを介して,平成21年6月22日,Eに対し,本件E所有地の売買代金を230万円とし,本件買収差額については原告が支払う旨の本件覚書を差し入れた。(甲14,19,38,証人B〔22〕,原告代表者〔2,16〕)

ケ 被告町は,Eとの間の売買契約の締結が遅れることとなったことから,同契約の締結に先立ち,平成21年6月22日,Eとの間で,本件E所有地に関する使用貸借契約を締結した。(甲35,38,弁論の全趣旨)

コ DとBは,平成21年8月24日,Eの自宅を訪問し,Eとの間で,本件売買契約を締結した。(甲19,20,37,38,乙18,証人D〔3ないし5〕,弁論の全趣旨)

サ Dは,本件売買契約の締結後,K社の従業員であるIに対し,Eから受領した本件売買契約の代金の請求書の写しを交付した。同請求書には,上記代金の入金先として,O信用金庫P支店の口座番号が記載されていた。(甲21,証人D〔6,9,10〕)

シ 被告町は,平成21年9月18日,Eに対し,本件売買契約に基づき,代金95万2009円を支払い,本件E所有地を買収した。(甲19,弁論の全趣旨)

ス 原告は,平成21年10月7日,上記サの口座に振込入金する方法により,Eに対し,本件買収差額134万7991円を支払った。(甲15,21)

セ 本件用地買収の対象区域内の一部の土地については,同土地の所有者が被告町の提示した買収額に応じなかったことから,計画が変更され,同土地を用地買収せずに本件調節池整備事業が進められたが,本件E所有地については,このような計画変更は何ら検討されなかった。(乙17,証人B〔26〕,証人D〔12,13〕,証人C〔16,49ないし52〕)

(4)  百条委員会におけるCの証言内容

平成22年12月8日に開催された被告町の百条委員会において,Cの証人尋問が行われ,委員長ないし委員とCとの間で,以下の質疑応答がされた。(乙5〔77ないし79,84〕,証人C〔20,21,36ないし38〕)

委員長:証人に伺います。防災調整池造成工事の事業用地の買収に関し,買収差額をセクター参入業者に費用負担させたという事実はありませんか。

C :一部の部分について,買い取り価格と,その人が求めた価格が合わない部分で,それは,そちらの業者からの申し出があって,そのようなふうにやった事実があろうとは思います。

委員長:証人は,それを正当な行為と思いますか。

C :あの時点においては,皆さん一律の価格で提示してございましたので,ただどうあっても,その価格では応じていただけないというふうに聞いてございました。その部分について,買収にあたっていただいた業者のほうから,そのような処理をしたいという申し出がありましたので,それについては聞いてございます。

(中略)

委員長:委員会の調査によれば,ある地権者の土地の買収において,町の出資した土地代のほかに,セクターの関係者から別枠の金銭を支払った履歴があります。証人に伺います。その別枠支払金については,その額に相当するセクターの造成宅地の一部を引き渡すことによって充当するというものです。証人はこの一連の事実を承知していますね。

C :はい。聞いてございます。

(中略)

委 員:今の1番目の質問なんですが,その後どのように処理されてるんでしょうか。お聞きします。

C :その後の処理については,私は関知してございませんので,どのようになってるかは承知してございません。

(中略)

委 員:公社への申し送りというんでしょうか。そういうことはしてないということですか。

C :公社のJ部長には,その旨,話をしていたというふうに記憶してございます。

(中略)

委 員:そもそも問題は,町の最終的には事業に対して,他社から,他社っていうんでしょうか,一般業者からお金を立て替えるっていう,その部分がもうそもそも問題なんですよね。それについて引き継ぎもしていないっていうのも,またこれ問題だと思うんですけど,これは,それではあれですか。C参事と,そのセクター参入業者との,だけの話ということで収まってしまうんですか。

C :この事実は,当時おりましたG相談役も承知してた案件でございます。

(中略)

委 員:それと,調整池の買収の時には業者にもたせて,こういうところでは,そういう見込めない部分については設計費に入れるんでしょうか。言ってることおかしくありませんか。

C :はい。調整池の部分については,買収そのものが,町で買収して,工事も町でやってございます。その段階においては,やはり皆さんと同じ価格で買収をせざるを得ないというのは,やっぱりどうあっても建て前で,仕方のないことだというふうに考えてございます。ただ,今問題となってる方については,買い取った価格そのものが,こちらが提示してる価格より,どうしてもあっても高いんだと。それはもう領収書やなんかもあるんだから,それは事実だということだったものですから,そのように処理をさせていただいたということでございます。

(5)  本件訴え提起前における原告の請求

原告は,平成22年4月28日,被告公社の役員会において,本件事業計画書の報酬として約300万円を原告に支払うことを議題として取り上げるよう要求した。その後も,原告は,被告町ないし被告公社に対し,本件事業計画書の報酬を支払うよう求めるなどした。また,本件買収差額についても,原告は,平成22年11月22日,被告公社に対し,未解決の状態であることを指摘する趣旨の文書を送付した。

そして,原告は,平成23年3月24日,被告町に対し,本件事業計画書の報酬315万円及び本件買収差額134万8831円を支払うよう請求した。しかしながら,被告町は,同年4月1日,原告に対し,被告町には支払義務がないとしてこれを拒絶する書面を送付し,結局原告は,被告町からも被告公社からも,本件事業計画書の報酬及び本件買収差額の支払を受けることができなかった。(甲7ないし9,10の1,2,甲11の1,2,甲12,弁論の全趣旨)

2  争点(原告と被告公社との間における事業計画書の作成を目的とする請負契約の成否)について

(1)  はじめに

原告は,平成21年2月2日,被告公社事務局長のCとの間で,原告を請負人,被告公社を注文者として,原告が本件事業計画書を作成し,被告公社がこれに対する相当額の報酬を支払う旨の本件請負契約を締結したと主張し,原告代表者のA(甲38,原告代表者〔3,4,49〕)及びK社の代表者であるB(甲37,証人B〔1〕)もこれに沿う内容を証言ないし供述する(以下,この証言ないし供述を併せて「A・B供述」ということがある。)。これに対し,被告公社は,原告との間で本件請負契約を締結したことはなく,K社との間で締結された平成20年9月8日付け本件業務委託契約に基づき,K社から本件事業計画書の納品を受けたものであると主張し,C(証人C〔7ないし9,46,48,49〕)もこれに沿う証言をする(以下,この証言を「C証言」ということがある。)。

本件では,被告公社と原告との間で本件請負契約を締結したことを直接に証する契約書等は作成されていないから,以下,A・B供述とC証言のいずれを採用すべきか検討することとする。

(2)  A・B供述について

ア(ア) Aは,大要,以下のとおり供述している。

① 平成21年2月2日,B,A,C及びGの4名が被告町役場2階の会議室に集まり,その場で,Aが,Cから本件事業計画書の作成を依頼された。Cが本件事業計画書の作成を依頼したのは,原告であり,K社ではない。

② 原告は,平成21年3月2日に第1次成果品(甲23)を,同年5月1日に第2次成果品(甲24)を納品した。その後,原告は,Cの指示を受けて,分譲地の販売計画期間を平成27年度から平成26年度に修正し,同年6月3日に第3次成果品(甲25)を,同月8日に第4次成果品(甲26)を納品し,本件事業計画書は甲33として完成した。乙14は,中途段階で納品したものであり,完成品ではない。

③ 本件事業計画書の作成に関し,Cと主にやり取りをしていたのは,Aであり,Bではない。

(イ) また,Bは,大要,以下のとおり供述ないし証言している。

① Bは,Cから,本件事業を進めるために事業計画書が必要だと相談されたため,かつて会計事務所に所属していたAが代表者を務める原告に作成してもらうのが適切であると提案した。そこで,平成21年2月2日,B,A,C及びGの4名が被告町役場2階の会議室に集まり,その場で,Cが,Aに対し,本件事業計画書の作成を依頼した。Cが本件事業計画書の作成を依頼したのは,原告であり,K社ではない。

② その後も,Cからの修正指示は,工事費等に関するものを除いては,Bではなく,Aに対して行われた。

③ K社は,平成20年9月8日,被告公社との間で契約書(乙4)を取り交わして本件業務委託契約を締結し,同月29日付け見積書(乙3)に記載の「事業資料検討・作成」200万円に相当する業務の一環として乙12の1や乙13の1を作成していたが,その費用は既に精算済みである。

イ A・B供述は,本件事業計画書の作成が求められるに至った経緯や,完成に至る経緯について,前記認定事実や関係書証と整合する内容となっており,そこに特段不自然・不合理な点はみられない。

ウ(ア) とりわけ,A・B供述が,以下のとおり,本件事業計画書の作成業務を実際に行ったのが原告であるとの客観的事実とも整合していることは,その信用性を支える重要な事情の一つというべきである。

すなわち,前記1(2)ア,オ及びカのとおり,Aは本件事業計画書を作成するために開かれた平成21年2月2日の打合せに出席し,その後,Aないし原告従業員のHがCに対し修正データ(甲25,26)を提出している。Cも,平成21年5月末頃に原告事務所を訪問し,その時点での成果品をAから受領している。これらの事実に照らすと,本件事業計画書の作成作業を実際に担当していたのは,K社ではなく原告であることがうかがわれる。

これに対し,K社が本件事業計画書の作成ないし修正の作業を担っていたことをうかがわせる証拠はなく,かえって,C自身も,原告との間で本件事業計画書の修正をめぐるやり取りをしたことや,実際の修正作業を行っていたのが原告であったことを認める趣旨の証言をしている(証人C〔41ないし43〕)。

そうすると,実際に本件事業計画書を作成ないし修正する作業を担当したのは原告であると認めるのが相当である。

(イ) この点,被告公社は,本件事業計画書の内容の一部である販売計画(乙10の1),諸費用計画(乙11の1),造成事業費検討書等(乙12の1),事業費検討書等(乙13の1)の各書面を作成したのはK社であると主張する。

確かに,第3次成果品(甲25)の一部である乙10の1や乙11の1は,その電子ファイルのプロパティ上,作成名義人がK社となっていることが認められる(乙10の2,乙11の2)。しかしながら,原告が本件事業計画書を作成するに当たっては,K社から提供を受けた電子データを元に作成した部分もあったというのである(原告代表者〔8ないし11,35〕)。そうだとすると,電子ファイルを新規作成した後,同ファイルに別の者が修正を加えた場合であっても,当該ファイルの作成名義が変わらないことは経験則上明らかであるから,上記プロパティの名義のみを理由に,乙10の1や乙11の1がK社の作成によるものと認めることはできないというべきである。かえって,原告代表者のAは,乙10の1や乙11の1を作成したのは原告であると供述しており(原告代表者〔8,9,35〕),前記1(2)オのとおり,実際にこれらの文書をCに送信したのは原告である。そうすると,乙10の1や乙11の1を作成したのは,K社ではなく原告であると認めるのが相当である。

また,確かに,前記1(1)クのとおり,乙12の1及び乙13の1を作成したのはK社である。しかしながら,その記載内容と,被告公社が完成品と主張する乙14や原告が完成品と主張する甲33の記載内容とを比較しても,乙14や甲33は,乙12の1や乙13の1の内容を取り込みつつも,販売計画をも含んだ本件事業の全体について総合的に検討したものとなっているのであって,乙12の1や乙13の1がそのまま乙14や甲33に利用されているものではない。したがって,乙12の1や乙13の1を作成したのがK社であるからといって,本件事業計画書を作成したのもK社であるとみることはできないというべきである。

そうすると,K社が本件事業計画書の作成・修正業務を実質的に担っていたということはできない。

エ 以上によれば,原告が被告公社との間で本件請負契約を締結し本件事業計画書を納品したとするA・B供述は,基本的にその信用性を肯定することができるというべきである。

(3)  C証言について

ア これに対し,Cは,大要,次のとおり証言する。

① Cが被告公社の事務局長に就任した平成20年10月1日の時点では,K社によって乙12の1や乙13の1が作成されていたものの,同年9月にK社に支払われた7000万円に沿う見積書や契約書は作成されていなかった。そこで,Cは,これに沿うように見積書(乙3)や契約書(乙4)を日付を遡らせて作成した。

② そして,議会から事業計画書の作成が求められたことなどを受けて,Cは,平成21年2月頃,K社に対し,乙12の1や乙13の1よりも詳細な事業計画書を作成するよう依頼し,同年3月に成果品として乙14を受領した。本件事業計画書における事業最終年度は,当初は平成26年度とされていたが,景気の低迷を考慮して,最終的には平成27年度とされた。

③ その後,平成21年5月ないし6月,本件事業計画書につき,字句や数字の訂正のためにK社との間でやり取りをした。

④ 上記見積書(乙3)に記載された「事業資料作成費」200万円の中には,本件事業計画書の作成業務が含まれている。

イ しかしながら,被告公社が何らの見積書や契約書もないまま7000万円もの大金をK社に支払うとはにわかに信じ難いし,被告公社の事務局長や被告町の総務企画課参事という重職にあったCが,趣旨が不明確なまま支払われた7000万円について,平成20年10月1日以降,あえて日付を遡らせて見積書(乙3)及び契約書(乙4)を作成したというのも,不自然・不合理といわざるを得ない。加えて,C証言は,なぜK社が被告公社と何らの契約も締結しないまま乙12の1や乙13の1を納品したのか,乙12の1や乙13の1と7000万円の支払との関係についてK社との間でどのような話合いがされたのか,本件事業計画書の作成・修正について,K社との間で,いつ,どのようなやり取りがされたのかはっきりしないなど,曖昧な点が多い。

ウ(ア) また,C証言は完成品が乙14であるとするが,以下のとおり,これは客観的事実と整合しないというべきである。

すなわち,乙14は原告が修正途上の第2次成果品であるとする甲24(事業最終年度平成27年度)と同一内容であること(前記1(2)ウ),原告は平成21年6月3日には甲25(事業最終年度平成26年度)を,同月8日には甲26(事業最終年度平成26年度)をCにメールで送信していること(前記1(2)オ,カ),同月29日に取り交わされた本件基本協定書(甲5)においても事業期間は平成27年3月31日まで,すなわち平成26年度までとされていること(前記1(1)ス)からすると,事業最終年度を平成27年度とする乙14が完成品であると認めることはできず,原告が主張するように,事業最終年度を平成26年度とする甲26の納品をもって完成した事業計画書,すなわち甲33が完成品であると認めるのが相当である。

(イ) これに対し,被告公社は,本件事業計画書の修正は,事業最終年度を平成26年度から平成27年度に変更する内容であったのであるから,最終事業年度が平成27年度である乙14が完成品であると主張し,Cもこれに沿う証言をする(証人C〔6,7〕)。

しかしながら,平成21年5月頃,被告町の議会において,本件事業の事業最終年度を平成27年度から平成26年度に短縮することとされたこと(前記1(1)シ),平成21年6月29日に取り交わされた本件基本協定書上も事業期間は平成26年度までとされていること(前記1(1)ス)などに照らすと,本件事業における事業最終年度が平成26年度から平成27年度に変更されたと認めることはできず,原告の主張するように平成27年度から平成26年度に変更されたと認めるのが相当である。

したがって,事業最終年度が平成27年度であることを前提に乙14が完成品であるとする被告公社の上記主張は,採用することができない。

エ そればかりか,C証言中の上記ア①の事実は,Cの証人尋問に至るまで,被告公社から全く主張されておらず,証人尋問前に作成されたCの陳述書(乙17)にもその旨の記載はなかった。かえって被告公社は,Cの証人尋問前においては,見積書(乙3)及び契約書(乙4)に記載のとおり平成20年9月8日に本件業務委託契約が締結され,これに基づいて同月中に合計7000万円が支払われた旨主張していたのである(被告らの平成26年1月10日付け準備書面5,同年3月5日付け準備書面6,同年4月22日付け準備書面8等参照。なお,弁論準備手続終結後の同年5月28日に開かれた第2回口頭弁論期日において確認された「争点メモ」にも,被告公社の主張として同旨の記載がある。)。Cは,本件訴訟において,被告ら代理人から事情聴取を受け,その上で作成・提出された準備書面等も確認しているというのに(証人C〔52,53〕),このように被告公社の従前の主張と異なる供述をするに至ったことについて,何ら合理的な理由を述べていないし(証人C〔53〕),被告公社からもその理由は示されていない。

オ 以上を要するに,C証言は,その内容自体不自然・不合理な点がある上,曖昧な点を多く含んでおり,本件事業計画書が作成された経緯についても客観的事実と整合せず,被告公社の従前の主張とも食い違っているのであるから,その信用性は乏しいといわなければならない。

(4)  被告公社の主張について

被告公社は,①被告公社が,乙3の見積書及び乙4の委託業務契約書に基づき,K社に対し,本件事業計画書の作成を発注したものであり,本件事業計画書の作成業務は乙3の「事業資料検討・作成」に含まれる,②原告はK社の下請けないし履行補助者として本件事業計画書の作成に関与したにすぎないなどと主張し,Cもこれに沿う証言をする。

しかしながら,①については,乙3及び乙4の作成経緯に関するC証言が採用できないことは上記(3)のとおりであるし,「事業資料検討・作成」という文言が本件事業計画書の作成業務を含むとも直ちにいえない。

また,②については,Cは,本件事業計画書の作成に関しては,ほとんどBとの間でやり取りをしていたと証言するが(証人C〔10,55〕),前記1(2)キのとおり,Cが修正の指示等を行った相手はAであると認められ,Cの上記証言を裏付けるに足りる証拠はない。そして,ほかに,Cが原告ではなくK社に本件事業計画書の作成を発注したことをうかがわせる証拠が何ら存しない以上は,本件事業計画書の作成・納品に主体的に関与した原告を,K社の下請けないし履行補助者とみるべき理由はないというべきである。

したがって,被告公社の上記主張を採用することはできない。

(5)  小括

以上のとおり,被告公社との間で本件請負契約を締結したのは原告であるとのA・B供述は信用することができ,これに反するC証言を採用することはできない。そして,ほかにA・B供述を覆すに足りる証拠はないから,被告公社は,平成21年2月2日,原告との間で,本件請負契約を締結したと認めるのが相当である。

3  争点(2)(相当報酬額)について

証拠(甲33,37,38,原告代表者〔5,6,54,55〕)及び弁論の全趣旨によれば,本件請負契約締結後に行われた原告とCとの打合せにおいては,本件事業計画書の報酬の支払方法として,本件事業における宅地造成後の分譲地により支払う方法も選択肢の一つとして挙がっていたこと,本件事業における分譲地の価格は,おおむね最低でも一筆300万円以上とされていたこと,原告は,平成21年2月2日から同年6月8日までの約4か月間にわたり,相応の労力を用いて本件事業計画書を作成したことが認められる。

こうした事情を総合考慮すれば,本件事業計画書の対価は300万円を下らないというべきであって,本件請負契約における相当報酬額は315万円(消費税5パーセント相当分を含む。)と認めるのが相当である。

4  争点(3)原告と被告町との間における買収差額についての立替払の合意の成否等)について

(1)  原告は,平成21年6月16日,被告町のCとの間で,本件立替払合意をしたと主張し,原告代表者(甲38,原告代表者〔13,15,16,48,50,51,53〕)及びB(甲37,証人B〔7ないし9,22,23〕)もこれに沿う証言ないし供述をする。これに対し,被告町は,本件立替払合意の成立を否定し,C(証人C〔17ないし19〕)及びD(証人D〔5〕)もこれに沿う証言をする。

そこで,本件立替払合意の有無について検討する。

(2)ア  この点,原告と被告町との間では,本件立替払合意を証する契約書等の書面は作成されていないが,地方公共団体である被告町が何らの書面も作成せずに債務を負担する旨の合意をすることは,通常は考え難い。また,地方公共団体の行う用地買収において地権者間で差を設けることは通常許されないことからすれば,被告町が地権者間で買収代金に事実上の差を認める本件立替払合意をしたというのは,不自然であるとも考えられる。

イ  しかしながら,本件事業においては防災調節池を設置する必要があったこと(前記1(3)ア),本件事業の事業主体である被告公社には被告町も出資していること(前記前提事実(1)エ),本件E所有地も最終的には本件用地買収によって被告町が取得していること(前記1(3)シ)からすると,被告町が本件E所有地を買収する必要性は高かったと認められる。これに対し,被告町は,本件調節池整備事業においては,本件E所有地を買収できなくとも,工事実施範囲を調整することで対応が可能であったのであり,本件買収差額を支払ってまで本件E所有地を買収する必要はなかったと主26張するが,本件E所有地がなくても本件調節池整備事業を遂げることが可能であったと認めるに足りる的確な証拠はなく,本件E所有地については,計画変更の検討すらされなかったこと(前記1(3)セ)からすれば,被告町の上記主張は採用することができない。

また,前記1(3)ク及びスのとおり,原告は,Eとの間で,本件買収差額を原告が支払う旨の本件覚書を差し入れた上,Eに対し,本件買収差額を現実に支払っている。原告が被告町に無断で,自ら本件買収差額を負担してまで,本件E所有地の買収を行う理由は見当たらないから,原告の上記行動は,本件立替払合意の存在を前提にしたものと評価できる。

さらに,前記1(3)サによれば,Dは,本件売買契約締結後,本件売買契約の代金の請求書の写しをK社の従業員に交付しているところ,K社が同写しを必要とした理由は,本件立替払合意に基づく立替金額を確認するためであると考えられ,こうした事実は,同写しを交付したDが本件立替払合意の存在を知っていたことをうかがわせる。

そして,本件E所有地の買収を実現するため,Cが,他の地権者との間の買収差額が顕在化しないよう,本件買収差額を原告に立て替えるよう指示した旨のA及びBの供述ないし証言に,特段不自然,不合理な点はみられない。

しかも,Cは,前記1(4)のとおり,百条委員会において,原告が本件買収差額を負担したことについて自らの責任を問われても,これを明確には否定せず,かえって,業者から差額の負担の申し出があったことを聞いていたことを認め,さらに,どの地権者も同じ価格で買収するというのは建て前であって,Eについては双方の希望価格に開きがあったことから原告に差額を負担させる処理を採ったことを認めるなど,本件立替払合意の存在を認める趣旨の証言をしているのである(この点,被告町は,Cの上記証言は,Cが,原告により本件買収差額が負担された事実を平成22年10月頃に知ったことを述べる趣旨にすぎないなどと主張するが,Cの前記証言の内容に照らし,採用することができない。)。

ウ  以上によれば,本件立替払合意があったとするA及びBの供述ないし証言は信用することができ,これに反するC及びDの各証言は採用することができない。

(3)  これに対し,被告町は,Cが,Bに対し,たとえ民間による負担であっても買収額に差を設けてはいけないと述べていたと主張し,Cもこれに沿う供述ないし証言をする(乙17,証人C〔18〕)。

確かに,証拠(証人B〔8〕)及び弁論の全趣旨によれば,Cは,Bから,Eとの間で価格の希望に差がある旨の報告を受けて,買収額は地権者間で平等でなければならない旨述べていたことが認められる。

しかしながら,それ以上に,Cが,たとえ民間による負担であっても買収額に差を設けてはいけないと述べていたと認めるに足りる証拠はない。かえって,本件調節池整備事業を進める必要のあったCとしては,本件立替払合意に基づき原告に本件買収差額を負担させることとすれば,表向きは地権者間の平等を保ちつつ,裏でEの希望も満足させることができ,本件E所有地を買収することが可能となるのであるから,Cが買収額の平等にこだわる発言をしていたからといって,本件立替払合意が成立したとの認定を妨げるものではない。

(4)  以上によれば,原告と被告町との間で,平成21年6月16日,本件立替払合意が成立したと認めるのが相当である。

5  まとめ

(1)  乙事件について

前記2及び3のとおり,原告は,被告公社との間の本件請負契約に基づき,本件事業計画書を作成し,これを被告公社に納品しており,その報酬は315万円と認められる。また,原告が,被告公社に対し,平成25年11月18日送達の訴状をもって,本件請負契約に基づく報酬の支払を請求したことは当裁判所に顕著である。したがって,原告は,被告公社に対し,本件請負契約に基づく報酬315万円及びこれに対する同月19日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有することになる。

(2)  甲事件について

前記1(3)ス及び4によれば,原告は,被告町との間の本件立替払合意に基づき,本件買収差額134万7991円をEに支払ったものと認められる。したがって,原告は,被告町に対し,本件立替払合意に基づく立替金134万7991円及びこれに対する催告日の翌日である平成23年3月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払請求権を有することになる。

なお,原告は,被告町に対し,上記立替金のほかに,弁護士費用50万円及び立替払時に生じた振込手数料840円も請求するが,本件立替払合意に,これらの費用を被告町の負担とする旨の合意も含まれているとの主張立証はなく,弁護士費用及び振込手数料についての原告の請求には理由がない。

第4結論

以上のとおり,原告の請求は主文の限度で理由があるから,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武藤貴明 裁判官 山﨑隆介 裁判官 檀上信介)

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