旭川地方裁判所 昭和47年(ル)73号 決定 1972年4月11日
債権者 旭川地方針葉樹協同組合
債務者 能登正雄
主文
一、本件申立は、これを却下する。
二、申立費用は、債権者の負担とする。
理由
第一申立の趣旨
別紙一記載のとおりである。
第二当裁判所の判断
一、次の事実は、当裁判所にとつて顕著な事実である。
すなわち、債権者は、昭和四七年三月三〇日、債権者、債務者および申立外田口才吉郎間の当裁判所昭和四五年(手ワ)第七〇号約束手形金請求事件の仮執行宣言付手形判決および当裁判所昭和四五年(ワ)第五〇九号、同年(手ワ)第八八号約束手形金請求併合事件の仮執行宣言付判決(右仮執行宣言付手形判決の認可判決を含む。)の執行力ある正本に基づき、別紙二差押、転付債権目録記載の債権につき差押命令および転付命令の申立(当裁判所昭和四七年(ル)第六九号、同年(ヲ)第六七号)をした。一方債務者および申立外田口才吉郎は、右当裁判所昭和四五年(ワ)第五〇九号、同年(手ワ)第八八号約束手形金請求併合事件につき札幌高等裁判所に対し控訴(昭和四七年(ネ)第九七号)するとともに、右判決にもとづく強制執行の停止決定を申し立て(昭和四七年(ウ)第四四号)、同裁判所は、前同日、各自金一〇〇万円の立保証を条件として昭和四七年(ネ)第九七号控訴事件の判決をするまで右判決に基づく強制執行を停止する旨の強制執行停止決定を行なつた。そこで、債務者は、旭川地方法務局に右保証金一〇〇万円を供託(旭川地方法務局昭和四七年度第一〇号)するとともに、同年四月一日、右決定正本および供託証明書を当裁判所に提出して前記当裁判所昭和四七年(ル)第六九号、同年(ヲ)第六七号債権差押、債権転付命令申立事件の執行停止を申し立てたところ、債権者は、同月三日、右債権差押、債権転付命令申立事件を取り下げるかたわら、再度右判決の執行力ある正本に基づき、別紙二差押、転付債権目録記載の債権に対し本件申立に及んだ。
二、ところで、仮執行宣言付判決の執行力ある正本による強制執行を阻止するには、控訴裁判所の強制執行停止決定を得た上で右決定正本を執行機関に提出することを要し(民事訴訟法五一二条、五五〇条)、執行機関においても、右決定正本の提出を受けて初めて具体的な強制執行の停止ができるのであり、一般的に強制執行の開始において、執行機関が強制執行停止決定の存否を職権で調査することは要求されていないのである。したがつて、強制執行停止決定がなされているからといつて、一般的に強制執行の申立が許されないわけではないが、強制執行停止決定の効力を回避するため、先の強制執行申立を取り下げた後、再度同一債務名義で同一債権に対する強制執行を申立てることは、強制執行の濫用にして到底是認できないところである(大判昭和一五年二月三日、民集一九巻二号八三頁以下参照)。
そこで、本件を考えるに、前記事実から明らかなとおり、債権者は、債務者からの強制執行停止決定の正本が当裁判所に提出された後、先の債権差押、債権転付命令の申立を取り下げるとともに、再度同一債務名義により同一債権に対する本件申立に及んでいるのであるから、債権者においては、右強制執行停止決定の存在を確知し、これが効力を回避せんがため、先の申立を取り下げるとともに、再度の申立に及んだものと認められるので、債権者の本件申立は、権利の濫用として不適法な申立といわなければならない。
三、以上のとおり、本件申立は、不適法な申立であるからこれを却下することとし、申立費用について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 井上弘幸)
(別紙一)
債務者が第三債務者に対して有する別紙二差押、転付債権目録記載の債権は、これを差し押える。
右差し押えた債権については、第三債務者は、債務者に対して支払いをしてはならない。また、債務者は、取立てその他いつさいの処分をしてはならない。
右差し押えた債権は、支払いに換え券面額でこれを債権者に転付する。
(別紙二)
差押、転付債権目録
一、金四、〇〇〇、〇〇〇円也
但し、債務者が左記約束手形の不渡りによる取引停止処分を免れるため社団法人旭川銀行協会に提供させるにつき第三債務者に預託した金員の返還請求権。
一、(イ)金額 金二、〇〇〇、〇〇〇円也
(ロ)振出地 旭川市
(ハ)支払地 旭川市
(ニ)支払場所 株式会社北海道拓殖銀行二条支店
(ホ)振出日 昭和四四年一二月一〇日
(ヘ)支払期日 昭和四五年八月二五日
(ト)合同振出人 田口木材株式会社
佐々木菊太郎
田口才吉郎
債務者
(チ)受取人 債権者
二、(イ)金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円也
(ヘ)支払期日 昭和四五年九月二五日
(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ト)、(チ)、の記載内容は、前記一手形と同じ
三、(イ)金額 金一、〇〇〇、〇〇〇円也
(ヘ)支払期日 昭和四五年一〇月二五日
(ロ)、(ハ)、(ニ)、(ホ)、(ト)、(チ)、の記載内容は、前記一手形と同じ
以上