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旭川地方裁判所紋別支部 平成17年(モ)21号 決定 2006年12月28日

北海道紋別市<以下省略>

申立人

同訴訟代理人弁護士

大窪和久

札幌市<以下省略>

相手方

株式会社キャネット

同代表者代表取締役

同訴訟代理人支配人

主文

相手方は,本決定確定の日から10日以内に,別紙記載の文書を提出せよ。

事実及び理由

第1本件申立ての概要

1  基本事件である本訴事件は,申立人(本訴原告,反訴被告)が,継続的に金銭消費貸借取引のあった相手方(本訴被告,反訴原告)に対し,平成2年4月1日以降の取引によって生じた過払金と,相手方が平成15年6月2日以前の取引履歴を開示しなかったことによる損害賠償の請求を行っているものである。申立人は,相手方が,申立人が平成15年6月3日以前から取引のあった株式会社山栄(屋号は「サンエイファイナンス」。以下「山栄」という。代表取締役C及びワイド信販ことD(以下「ワイド信販」という。また,山栄とワイド信販を併せて「ワイド信販ら」という。)から債権譲渡を受け,申立人とワイド信販らとの間の取引についての記載のある商業帳簿,契約書等を引き継いで所持しているものと主張し,過払金の存在を立証するため,別紙記載の文書等(以下「本件文書」という。)の文書提出命令を発するよう申し立てている。

2  申立人の主張は以下のとおりである。

申立人は,平成2年4月1日ころ,まず山栄から借り入れ,その後,ワイド信販からも借入れをしていた。その後,ワイド信販ないし山栄から,新しく追加借入れをする場合には相手方から借入れを行うよう電話での指示があり,相手方と取引を行うようになった。したがって,相手方がワイド信販らから債権譲渡に伴う契約上の地位の移転を受けていたことは明らかであり,このような契約上の地位の移転を受けた相手方は,従前,ワイド信販らが負っていた契約上の地位により生じた債務についても重畳的に引き受けたと解すべきである。

そして,相手方は,当然,従前の申立人とワイド信販らとの間の取引についての書類も引き継いで所持しているはずであって,これらの文書は,民事訴訟法220条3号後段の文書に該当する。

なお,相手方は,申立人の依頼を受けてワイド信販らに対して申立人に代わって弁済を行った旨を主張するが,申立人が相手方にそのような依頼をしたことはない。

3  これに対し,相手方は,以下のとおり述べて,本件文書は所持していない旨主張している。

申立人と相手方の取引が開始したのは,平成15年6月3日であり,その取引の内容はすでに申立人に開示している。相手方は,ワイド信販らから,営業譲渡を受けたり,同社らが申立人に対して有する債権を譲り受けた事実はない。

相手方は,平成15年6月3日,申立人から電話で,申立人の山栄に対する26万1205円の立替払い,その他に3万8975円を加えた合計30万円の借入れの申込みを受けた。申立人の山栄に対する債務額は申立人自身の申告によるものだった。相手方従業員は,顧客カード(乙9を指す。)記載の事項について申立人に尋ね,信用調査を行った。同日,相手方は,26万1205円をサンエイファイナンス店頭で申立人に代わって支払い,3万8795円を申立人名義の口座に振り込み,申立人宅に顧客カード,金銭消費貸借契約書,確認書(乙8と同様のもの。)を送付し,その後,申立人から顧客カード,金銭消費貸借契約書の返還を受けた。また,相手方は,申立人から電話で依頼を受けて,平成16年1月6日,ワイド信販に対し,その店頭で16万7252円を申立人に代わって支払った。その結果,申立人のワイド信販らに対する債務はそれぞれ完済となった。

相手方は,山栄からは平成15年12月8日以降に,ワイド信販からは平成16年3月1日以降に,それぞれが有する債権について債権譲渡を受けた(債権譲渡を受けた時期は各顧客ごとに異なる。)が,申立人については,それ以前に債務が完済になっており,ワイド信販らが申立人に対して有する債権は存在しなかった。山栄やワイド信販から債権譲渡の話が持ち込まれたのは,申立人の債務の立替払いを行った後である。したがって,相手方がワイド信販らから申立人に対する債権の譲渡を受けた事実はない。

第2当裁判所の判断

1  申立人は,申立人とワイド信販らとの間の債権を相手方が譲り受けたから,その取引に関する商業帳簿等を所持している旨主張しているので,この点について検討する。

2  一件記録によれば,以下の事実を認定できる。

(1)  申立人は,①相手方から平成15年6月3日に30万円を借用し,受領した旨が記載された書面(乙2の1),②申立人の氏名,生年月日,住所等が記載された同日付けの顧客カード(乙9。ただし,一部申立人本人の筆跡とは異なる部分が存在する。),③平成16年1月6日付けの借入限度額を50万円とする金銭消費貸借包括契約書(乙2の2),④申立人が相手方から借り受ける50万円のうち,相手方が申立人に代わりワイド信販a店に申立人の残債務16万7252円の返済をすることに合意し,その返済がなされたことを確認し,ワイド信販a店の借用証書を受領した旨の同月8日付けの確認書(乙8)を作成している。

申立人の山栄に対する残債務26万1205円は平成15年6月3日に,ワイド信販に対する残債務16万7252円は平成16年1月6日に,それぞれ完済になっている(乙6の1・2)。

(2)  ワイド信販は,司法書士に対し,ワイド信販が平成16年3月1日付けで債権の全部を相手方に譲渡した旨の記載のある平成16年4月12日付けの「御通知」と題する書面(甲6)を送付した。

(3)  また,ワイド信販らと取引をしていたEは,①ワイド信販から,Eに対する債権を平成16年3月1日に相手方に譲渡した旨の債権譲渡通知書(甲9)を,②相手方から,山栄がEに対して有する債権を平成15年12月8日に譲り受けた旨の債権譲受通知書(甲11)を受領した。その後,相手方とEは,相手方がワイド信販らのEに対する債権を譲り受けたことを前提に和解書を作成した(甲12)。

(4)  ワイド信販の顧客であった氏名不詳(F氏)は,平成9年8月26日からワイド信販から借入れを行っていたが,平成16年に相手方から連絡があり,以後は相手方と引き続き取引を行うように指示がされ,相手方から送られてきた金銭消費貸借包括契約書に署名を行い,相手方に返送した。その後,相手方は,平成9年8月26日以降の取引履歴をF氏の代理人弁護士に開示し,それを前提とする和解契約を締結した(以上,甲16の1ないし甲24)。

(5)  Gは,平成10年ころから山栄と取引を行っていたが,平成15年5月ころ,山栄の従業員から電話があり,今後は山栄ではなく相手方から借りるように話があった。その数日後に相手方から契約書を送付するよう郵便が届き,相手方に対して,契約書を送付した。そのころ,山栄から債務が完済となったという契約書が返送されてきた。相手方との取引開始は同月21日である(甲26)。

Gは,平成13年3月29日,山栄から20万円を借り入れ,その後取引を行っていたが,平成15年10月ころ,山栄に電話で新たな融資の申し込みをしたところ,3,4日後に相手方に移行するので,相手方と契約を行うことになるとの返答を受けた。その後,相手方から契約書が送付され,11月5日までに返送するように書いてあったが,Gがそれを返送する前の10月31日に相手方から振込があった(甲27,30)。

(6)  ワイド信販は平成16年2月29日に廃業している(甲13)。山栄は平成17年9月30日に廃業している(甲15)。

3  申立人は,山栄あるいはワイド信販から「新しく追加借入れをする場合には,キャネットから借入れを行うようにして下さい。」との電話での連絡を受け,送られる書面に署名して返送するよう指示された,この時に限らず,山栄やワイド信販,相手方からは度々書面を郵送で送るよう要求されていたが,応じなければ新たな借入れができず取り立てされると思ったため,署名して送付していた,相手方に対し,立替払いを依頼したことはない旨主張し,それに沿う陳述書(甲14)を提出する。これに対し,相手方は,まず申立人から電話で融資の申込みがあり,山栄に対する債務26万1205円の立替払いの依頼があった旨主張する。

この点,前記2のとおり,相手方は,ワイド信販らから,同社らが有する顧客に対する貸金債権を譲り受けたことがあったこと,ワイド信販ないし山栄から借入れを行っていた少なくとも3名の者が,相手方ないし山栄から,以後は相手方から借入れを行うように言われて相手方と取引を開始し,その際に,相手方から直接ワイド信販らに対し残債務の返済が行われていることからすれば,申立人においても,相手方ないし山栄から,以後は相手方から借入れを行うように言われ,取引を開始するに至ったものと推認できる。相手方は,申立人が電話で新たな借入れの申込みをしてきた際に,山栄への立替払いを依頼してきた,その際,債務額も自己申告した旨主張するが,申立人には自主的にそのようなことを依頼して借入先を変更する必要性は何ら認められず,また,一般に消費者金融の債務者が自己のその時点での利息等を含めた債務額を正確に把握していることは稀であり,申立人がこれを相手方に申告することは困難であると考えられること,前記E及びGも山栄から今後は相手方から取引を行うことになる旨の連絡を受けていることからすれば,申立人が陳述書において述べるとおり,ワイド信販らからの取引先変更の連絡を受けたために相手方との取引を開始したものと認めるのが相当である。

そして,相手方は,山栄からは平成15年12月8日以降に,ワイド信販からは平成16年3月1日以降に,それぞれが有する債権について債権譲渡を受けた(債権譲渡を受けた時期は各顧客ごとに異なる。)が,申立人については,それ以前に債務が完済になっており,ワイド信販らが申立人に対して有する債権は存在しなかった,山栄やワイド信販から債権譲渡の話が持ち込まれたのは,申立人の債務の立替払いを行った後である旨主張しているが,他方,前記2(2)のとおり,ワイド信販は,司法書士に対し,ワイド信販が平成16年3月1日付けで債権の全部を相手方に譲渡した旨の書面を送付しているのであって,平成16年3月1日以降,順次,債権譲渡を受け,債権譲渡を受けた時期は顧客によって異なるとの相手方の主張とは矛盾している。この点,相手方は,何人もの顧客に係る債権譲渡を受けたのであれば,当然それについての契約書等を作成しているものと考えられ,これを提出するなどして債権譲渡の時期等について立証することも可能であるのに,その点について立証を行っていない。そうすると,相手方の債権譲渡の時期に関する主張は根拠がないものといわざるを得ない。

また,相手方が,平成16年1月に申立人に氏名部分を記入させたワイド信販への代位弁済についての確認書(乙8)は,金額欄は後から記入できる書式になっているにもかかわらず,立替払い先である「ワイド信販a店」の部分はあらかじめ印字されており,このような書式を用いていることからすれば,相手方がワイド信販a店に対して頻繁に相手方が主張するところの「立替払い」を行っていた事実が推認される。そうすると,申立人から融資の申込みがあった時点では未だ債権譲渡の話はなく,申立人がワイド信販への立替払いを依頼してきたので,それを行っただけであるという相手方主張とは整合せず,むしろ,相手方がワイド信販から債権譲渡を受けたために,債権譲渡に係る顧客に対し,借入先の切り替えを行うようにさせており,それに使用するために上記確認書の書式を作成していたと考えるのが自然である。そして,申立人の陳述書(甲14)によれば,山栄ないしワイド信販から「新しく追加借入をする場合には,キャネットから借入を行うようにして下さい。」との電話連絡があり,送られる書面に署名をして返送するよう指示され,その指示に従って送られてきた書面に署名を行った,相手方に対して立替払いを依頼したことはないというのであるから,申立人もそのような顧客の一人であったと考えるのが自然である。

そして,相手方は,ワイド信販らから顧客に対する貸金債権の譲渡を受けており,また,その債権譲渡の時期等についての相手方の主張には前記のとおり疑義があることからすれば,ワイド信販らの申立人に対する債権についても相手方が譲渡を受けていたものと認めるのが相当である。

なお,相手方は,申立人に対する債権を譲渡したことはない旨の山栄代表者C名義及びワイド信販ことD名義の回答書(乙11の1・2)を提出し,上記各回答書は,同書面に記載されている山栄及びワイド信販の各所在地に郵送で照会書(乙10の1・2)を送り,回答を得たものであると主張する。しかしながら,申立人代理人作成の報告書(甲32,33)によれば,上記各回答書記載の山栄ないしワイド信販の所在地において,山栄ないしワイド信販が営業している事実はないというのであって,そうすると,上記各回答書についてはその真偽に疑義を抱かざるを得ず,信用することはできない。

4  以上によれば,相手方が,山栄及びワイド信販から,申立人に係る貸金債権について債権譲渡を受けたものと認められる。そうすると,相手方は,前記2(4)の事例と同様に,従前の申立人とワイド信販らとの間の取引についての商業帳簿等の本件文書も引き継いで所持しているものと認められる。そして,本件文書が民事訴訟法220条3号後段に該当し,また,申立人とワイド信販らの取引により過払金が生じていた場合,貸金債権の債権譲渡に伴い不当利得返還義務を相手方が承継した可能性があるから,これを取り調べる必要性もある。

以上により,申立人の相手方に対する本件文書提出命令の申立ては,理由があるから認容することとして,主文のとおり決定する。

(裁判官 池原桃子)

文書目録

1 相手方が所持する,株式会社山栄から承継した,その業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律〔以下「貸金業法」という。〕19条に定める帳簿)又はこれに代わる同法施行規則16条3項,17条に定める書面のうち,申立人と株式会社山栄との取引開始時から平成15年6月2日までの期間内における,申立人と株式会社山栄との金銭消費貸借に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分の全部(電磁的記録を含む。)。

2 相手方が所持する,株式会社山栄から承継した,その業務に関する契約書面(貸金業法17条に定める書面)のうち,申立人と株式会社山栄との取引開始時から平成15年6月2日までの期間内における,申立人と株式会社山栄との金銭消費貸借取引に係る契約書面の原本又は控えの全部

3 相手方が所持する,ワイド信販ことD(以下「ワイド信販」という。)から承継した,その業務に関する商業帳簿(貸金業法19条に定める帳簿)又はこれに代わる同法施行規則16条3項,17条に定める書面のうち,申立人とワイド信販との取引開始時から平成15年6月2日までの期間内における,申立人とワイド信販との金銭消費貸借に関する事項(貸付年月日,貸付金額,返済年月日及び返済金額)が記載された部分の全部(電磁的記録を含む。)。

4 相手方が所持する,ワイド信販から承継した,その業務に関する契約書面(貸金業法17条に定める書面)のうち,申立人とワイド信販との取引開始時から平成15年6月2日までの期間内における,申立人とワイド信販との金銭消費貸借取引に係る契約書面の原本又は控えの全部

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