旭川簡易裁判所 平成23年(ハ)115号 判決 2011年6月21日
主文
一 被告は、原告に対し、金九万九一四〇円及びこれに対する平成二三年二月一日から、支払済みの日が奇数月に属するときはその月の前々月の末日までの、偶数月に属するときはその月の前月の末日までの、二か月あたり二パーセントの割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
主文一項と同じ
第二当事者の主張
一 請求の原因事実
(1) 原告は、放送法に基づいて設置された法人である。
(2) 原告は、被告と平成一五年三月一九日、放送受信料一か月一三九五円のカラー放送受信契約を口座振替毎期払で締結した。
(3) 平成一九年四月一日の○○協会放送受信規約(以下、「受信規約」と略す。)の改正により、カラー放送受信契約は、平成一九年一〇月一日から地上契約に変更された。なお、放送受信料は同額である。
(4) 平成二〇年四月一日の受信規約の改正により、平成二〇年一〇月一日以降の地上契約の放送受信料は一か月一三四五円となり、訪問集金も廃止となった。
(5) 被告は、平成一七年一月三一日までに支払うべき平成一六年一二月一日から平成一七年一月三一日まで(平成一六年度第五期分)の放送受信料を払わず、その後も一切の支払をしなかった。
(6) 被告は、現在も平成一六年一二月一日から平成二〇年九月三〇日までの月額一三九五円の放送受信料の四六か月分の合計六万四一七〇円を、平成二〇年一〇月一日から平成二二年一一月三〇日までの月額一三四五円の放送受信料の二六か月分の合計三万四九七〇円を支払っていない。
(7) よって、原告は、被告に対し、平成一五年三月一九日に締結された放送受信契約に基づいて(6)記載の未払放送受信料の支払のほか、受信規約の定めにより支払督促正本送達日(平成二三年一月二五日)が属する月の翌月の初日である平成二三年二月一日から、支払済みの日が奇数月に属するときはその月の前々月の末日までの、偶数月に属するときはその月の前月の末日までの未払受信料金に対する二か月あたり二パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求の原因(2)及び(5)、(6)は認める。
三 抗弁
(1) 受信規約の無効
ア 受信規約九条は、受信機を廃止すること以外に受信契約解除の方法を認めていない。
イ 受信規約九条の定めは消費者の利益を一方的に害しており、消費者契約法一〇条に違反している。被告は、解除の意思表示を何らかの方法で行えば足りる。
ウ 被告は、平成一六年二月ころから平成二二年二月ころまでの間、原告の集金員に対し、「NHKは、見ていないから、受信料は払わない。」と告知して、受信契約解除の意思表示を行った。
(2) 不視聴
受信契約時のテレビジョン受信機は、平成一六年一一月末に故障したので廃棄した。翌年年明けに新たなテンビジョン受信機を購入したが、その購入以降は原告の放送を見ていない。
(3) 消滅時効
ア 放送受信料債権は、民法一七四条二号の自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の対価に係る債権であるから、時効期間は一年である。
イ 民法一七四条二号の債権に該当しないとしても、原告を生産者、放送サービスを商品と評価できるから民法一七三条一項により、あるいは、原告が、その技能を用いて放送というサービスを提供していると評価できるから、同条二号に該当し、受信料金の時効期間は二年である。
ウ 原告が、本件受信料の支払いを命じる支払督促の申立てをしたのは、平成二三年一月二二日である。
エ 被告は、原告に対し、平成二三年三月二九日の本件口頭弁論において、平成二二年一月二二日以前あるいは平成二一年一月二二日以前に支払期日が到来した未払受信料金について消滅時効を援用するとの意思表示をした。
四 抗弁に対する認否及び主張
(1) 抗弁(1)について
ア アは認める。
イ イは争う。受信規約九条は、テレビジョン受信機を廃止することにより、受信契約を要しないこととなったときは、その旨を届け出なければならない。受信契約解約の日は、届け出があった日とすると規定し、解約できるのは、受信機を廃止したときだけである。
ウ ウの解約申入れは、上記イの廃止の届出の要件を満たしていない。
(2) 抗弁(2)について
被告は、原告に対し、テレビジョン受信機廃止の届出をしていないから、本件受信料を払わなくてよい理由とはならない。
(3) 抗弁(3)について
放送受信料は、民法一七四条二号の債権あるいは民法一七三条一項の債権には該当しない。民法一六七条一項が規定する消滅時効の期間が一〇年の債権である。
第三当裁判所の判断
一 請求の原因(1)の事実は公知の事実である。被告と原告とが、平成一五年三月一九日カラー放送受信契約を締結したことに争いはない。甲四号証(平成一三年二月一日施行の受信規約)の第五条によれば、そのときの受信料が月額一三九五円であったことが認められる。原告の弁論及び甲二号証(平成二二年一二月一日施行の受信規約)の第五条によれば、地上契約の受信料が、平成二〇年一〇月一日から一三四五円となったことが認められる。被告は、原告に対し、平成一六年一二月一日以降の放送受信料を支払っていないことを認めている。
二 以下、被告の支払義務がないとの主張(抗弁)について検討する。
○○協会受信規約(甲四号証)九条一号では、解約は、受信機を廃止することにより、放送受信契約を要しないこととなったときは、その旨を直ちに届け出なければならないことが、同二号では、解約の日は、届け出があった日とすることが規定されている。これによれば、解約ができるのは、受信機の廃止となったときで、解約届出のあった日からしか受信料の支払を免れることができないことになる。ここで、放送法三二条一項をみると、その本文は、「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定する。これによると、テンビジョンの受信設備を取り付けた者は、当然に原告と原告の放送についての受信契約を締結する義務を負っていることになる。放送法における原告についての規定をみると、七条は、「協会は、公共の福祉のために、あまねく日本全国において受信できるように豊かで、かつ、良い放送番組による国内放送を行い又は当該放送番組を委託して放送させるとともに、放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い、あわせて国際放送及び委託協会国際放送業務を行うことを目的とする。」と規定し、原告が、公共の福祉のために、豊かで、良い放送番組を放送する組織であるとされている。原告の経営については、三七条一項、二項で、毎事業年度の収支予算、事業計画を作成して総務大臣に提出し、国会の承認をえなければならないと規定し、三二条三項で、受信契約の条項につき、あらかじめ総務大臣の認可を受けなければならない、これを変更しようとするときも同様とするとして、原告の収支や予算につき、国会や担当大臣の承認を得なければならず、原告の意思のみで決められないようにしている。そして九条四項で、営利を目的としないこと、四六条一項で、他人の営業に関する広告の放送を禁止して、業務の公共性を確保しようとしている。これらの規定に鑑みれば、原告は、事業資金として広告による収入を得ることが禁止され、予算や業務に対する決定権も制限されると同時にテレビの受信機を設置した者から受信料金を徴収することにより経営資金を得る権限を付与された特殊な法人である。公共性の高い放送を確保するために、原告の放送を見る可能性のある受信機を設置した視聴者となり得る者からの受信料による経営を義務づけられた組織である。原告の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に契約締結義務を負わせるという規定の仕方からは、原告との受信契約に民法や商法の適用は予定されていないと考えられる。したがって、双方の合意による契約を前提にした消費者契約法は、原告との受信契約には適用されない。そして、放送法三二条一項本文の規定によれば、受信設備を設置した者は、設置したことのみで受信契約を締結する義務を負うから、放送を見ていないことを理由として受信料の支払を拒否することはできないことになる。また、放送受信契約が、私法上の契約であることを前提にした被告の短期消滅時効の主張にも理由はない。
よって、主文のとおり判決する。