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明石簡易裁判所 平成17年(ハ)392号 判決 2005年11月28日

兵庫県明石市●●●

原告

●●●

同訴訟代理人弁護士

宮坂光行

神戸市兵庫区●●●

被告

●●●

同代表者取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

主文

1  被告は,原告に対し,25万円及びこれに対する平成17年5月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文と同旨

第2事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,被告から建物を賃借した際差し入れた敷金35万円のうち返還のあった10万円を差し引いた25万円の返還を求めたのに対し,被告は敷引を主張して原告の請求を争っている事案である。

1  争いのない事実

(1)  原告は,平成16年9月30日,被告との間で,下記のとおりの賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し,賃借物件の引き渡しを受けた。

なお,本件建物には原告の二女●●●が入居することになっていたが,当時,同女が未成年(18歳)であったことから,原告が契約当事者となった。

ア 賃貸期間 平成16年10月1日から平成17年9月30日まで

イ 賃借物件 別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)

ウ 賃料 1か月7万3000円

エ 共益費 1か月7000円

(2)ア  原告と被告とは,本件賃貸借契約締結に際して,敷金を35万円(以下「本件敷金」という。)とする旨合意し,敷金の返還期日は本件賃貸借契約が終了し原告が被告に本件建物を明け渡した後30日以内と定められた。

原告は,上記契約締結のころ,被告に対し,本件敷金を交付した。

イ  本件賃貸借契約書には,敷金35万円,解約引25万円(以下「本件敷引条項」という。)と記載されている。

(3)  本件賃貸借契約は平成17年3月31日に終了し,同日,原告は,被告に対し,本件建物を明け渡した。

(4)  被告は,原告に対し,同年4月30日までに,本件敷金のうち10万円を返還した。

2  争点

本件の争点は,本件敷金について敷引が認められるか否であり,この点に関し,原告は,本件敷引条項は消費者契約法10条により無効である旨主張するのに対し,被告は,本件敷引条項については本件賃貸借契約に際して原告に説明をし原告もこれを了解したものであり,消費者契約法10条による無効であるとの原告の主張は認められないとして,これを争っている。

第3判断

1  本件敷引条項の効力について判断する。

(1)  本件敷引条項は賃借人である原告に対し賃料以外の金銭的負担を負わせるものであること,

(2)  第2の1(2)ア,イによれば,本件敷引金は本件敷金の約71.4パーセントに及ぶものであること,

(3)  本件敷引条項は入居者の入居期間の長短(第2の1(1),(3)のとおり,本件賃貸借契約において,契約期間は1年とされていたところ,原告の入居期間は6か月であった。)にかかわらず一律に敷金35万円から敷引として25万円を差し引くものであること(乙1),

(4)  被告は,敷引は建物賃貸借の付随的合意として,関西地方において永年行われ,慣行化して定着していたものであり,消費者契約法以前には,判例上も①賃貸借契約成立の謝礼,②賃貸目的物の自然損耗の修繕費用,③賃貸借契約更新時の更新料免除の対価,④賃貸借終了後の空室補償,⑥賃料を低額にすることの代償など,多様な意義のものがあるとしてその合理性を認め,敷引合意は有効なものとして扱われてきたと主張するところ,file_2.jpg自然損耗は居住用建物の賃貸借においてその本質上当然に予定されているものであって,賃貸人はその対価として賃借人から家賃等の金銭的給付を受けるのであるから,賃借人において本来これを負担すべき性質のものであるとはいえず,本件敷引条項は,自然損耗に対する補修費用について賃借人に二重の負担を強いる面があること,file_3.jpg賃貸借契約が賃貸目的物の使用収益と賃料の支払とが対価関係にあることを本質的な内容とするものであって,民法上,賃借人に対して賃料以外の金銭的負担を負わせる規定は存しないことに照らせば,①,③ないし⑥についても合理性を認め難いこと,

(5)  被告は,本件敷引条項については,取引主任者が契約の申し込みに来た原告の二女である●●●に説明をし,理解が得られたことを確認した等主張するが,●●●は当時18歳で(甲13),建物を賃借したのは本件が初めてであり,担当の者から18歳で1人で契約できないとのことでその勧めにより母である原告に契約をしてもらったのであるから(甲16),原告あるいは●●●において,本件敷引条項が上記(4)掲記のとおりの被告主張にかかる性質のものであることを了解して,本件賃貸借契約を締結し,被告に本件敷金を交付したとはにわかに首肯できないこと,

以上,(1)ないし(5)をあわせ考えれば,本件敷引条項は,消費者契約法10条所定の民法の公の秩序に関しない規定の適用の場合に比し,消費者である賃借人の義務を加重する条項に該当し,かつ,民法1条2項の基本原則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものとして,無効と解するのが相当である。

そうすると,被告は,原告に対し,本件敷金から既払金を差し引いた25万円を返還すべき義務がある。

2  よって,被告に対し,上記25万円及び及びこれに対する平成17年5月1日(本件賃貸借契約が終了し原告が被告に本件建物を明け渡した後30日を経過した日)から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の請求は理由がある。

(裁判官 神吉正則)

<以下省略>

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