最高裁判所大法廷 昭和23年(つ)12号 決定 1950年4月21日
主文
本件特別抗告を棄却する。
理由
弁護人芝権四郎特別抗告申立の理由第一点について。
抗告人が原審において「本犯たる北崎庄吉の物価統制令三条違反の行為は、営利を目的とせず且つ自己の業務に属しないから、無罪であり、従って、その従犯たる抗告人の周旋行為も罪とならない」旨の主張をしたのに対し、原決定は、結局本犯の行為が営利の目的でなく且つ、その業務に属しない点について何等新に発見せられた明確な証拠が存在しないとしてこれを排斥したものであることは記録上明らかなところである。しかるに、本論旨は、単に本犯の行為が営利目的なく且つ、業務にも属しないから再審を求めるというのであり毫も憲法適否の判断を求めるものではない。従って、刑訴応急措置法一八条に基く抗告適法の理由となし難い。
同第二点の(一)について。
所論は、要するに、原決定が旧刑訴四八五条六号後段にいわゆる「原判決に於いて認めたる罪より軽き罪を認むべきとき」というのは「原判決が認めた犯罪よりその法定刑の軽い他の犯罪を認むべき場合」を意味するものであると判断したのは、憲法三一条の外同一一条乃至一三条、九七条、九八条に違反するものであって、宜ろしく「同一犯罪において原判決が科した刑よりも軽き刑を以て処分すべき情状ある場合」でも右旧刑訴四八五条六号後段の再審請求を為し得べき場合に該当するものと解すべきものであるというのである。
しかし、確定判決の尊重せらるべきことは、憲法三九条の規定からもこれを窺い知ることができるのみならず旧刑訴三六三条によれば、有罪たると無罪たると免訴たるとを問わず確定判決があったときは判決を以て免訴の言渡をなすべきものと規定されている。されば確定判決を攻撃すべき再審の事由は、これを明瞭厳格に解釈しなければならない。それ故、旧刑訴四八五条六号後段にいわゆる「原判決に於いて認めたる罪より軽き罪を認むべきとき」というのは原決定の判断したように「原確定判決が認めた犯罪よりもその法定刑の軽い他の犯罪」を認むべきときをいうものと解すべきであって、所論のように個々の具体的場合によって量刑に異動を来すがごとき犯罪の情状を標準とすべきものではない。されば、原決定の判断は正当であって、何等所論憲法の規定に反するところはないから、同所論は採ることができない。
同第二点の(二)について。
しかし、旧刑訴四八五条六号後段の「原判決に於て認めたる罪より軽き罪を認むべきとき」とは、所論のように原判決が科した刑より軽き刑を以て処分すべき情状がある場合を指すものでないことは前論点で説明したところである。しかのみならず、所論本犯たる北崎庄吉が起訴猶予になったとの事実を以てその従犯である抗告人に科した刑が法律上当然軽くなる情状であるということもできない。されば、本論旨は既にその前提において採ることができない。
よって、旧刑訴四六六条第一項に従い主文のとおり決定する。
以上は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)