最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)101号 判決 1948年7月14日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人等辯護人淺野昇上告趣意第一點について。
しかし憲法第三七條第一項の規定は、偏頗でない公平な組織構成を有する裁判所の迅速な公開裁判を受ける權利を被告人に與えたに過ぎないもので、裁判所に對し所論のごとき義務を負擔せしめた規定ではない。また憲法はその第三八條第一項において「何人も自己に不利益な供述を強要されない」と規定して、被告人にいわゆる黙秘の權利あることを認めているが、所論のごとく裁判所に對し、訊問の事前にその權利あることを被告人に告知理解せしめ置かねばならぬ手續上の義務を命じていないのである。それ故かような手續を執らないで訊問したからと言って所論のように被告人の供述を強要し又は裁判手續に違憲ありと言い得ない。論旨はその理由がない。
同第三、第四點について。
刑訴應急措置法第一二條は被告人の請求があるときは所定の書類につきその供述者又は作成者訊問の機會を被告人に與えねばならぬことを規定したにとどまり所論のようにその訊問權あることを被告人に告知しこれを促す義務を裁判所に負擔せしめ又はかゝる訊問請求權を放棄したことその他を公判調書に録取しなければならぬことを定めたものではない。それ故原審がかような告知又は録取をしなかったからとて所論の違法ありといえない。論旨はいずれもその理由がない。
同第六點について。
論旨第一點について説明したごとく原判決擧示の被告人等の供述は所論のように「強要に依る供述」とはいえない。また所論刑訴第七三條第七四條は書類作成の形式について所論のとおり規定しているが舊刑訴とは異なりその所定の形式に反した書類の無效であることを規定していない。それ故裁判所は書類の作成が所定の形式に反する場合でも諸般の資料によりその真正に成立したものであることを自由に判斷するを防ぐるものではない。所論被害発見並に追加届には所論のように年月日の記載なくまた追加届と強盗被害届に記載せられている氏名の筆蹟が所論のように他の書類のそれと異なるけれども、この一事を以って、直ちに右書類を無效と解すべき理由なく、却って右書類の提出者の名下にはいずれも「片山」なる同一の印影が押捺されてあるから右書類の成立を認めてこれを證據としたからと言って違法であるとは云えない。それ故右各書類の記載並びに前記各供述を援用して本件犯罪事実を認定した原判決には所論のような違法はない。この論旨もその理由がない。
(その他の判決理由は省略する。)
よって刑訴第四四六條に則り主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 圧野理一 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎)