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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)224号 判決 1948年11月24日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人別府祐六の上告趣意について。

被告人が控訴をした事件及び被告人のために控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑を言渡すことを得ない(いわゆる不利益變更禁止の原則、刑訴第四〇三條)。しかるに、檢事が獨立控訴又は附帶控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑をも言渡すことを得る。それ故、所論のように被告人にとって檢事の控訴は、恐いものであり少なからず畏怖の念を抱かしめるものであり、殊に檢事の附帶控訴があった場合には、被告人は、不安定な状態に置かれ、結局自己の控訴をそのまま維持して刑の輕重の運命を控訴判決の結果に委ねるか、又は自己の控訴を取下ぐることによって檢事の附帶控訴を滅却せしめ原審判決の結果に甘んずるかの岐路に立つに至ることは、想像に難くないところである。しかし、これは各具體的事件において、被告人が十分に自己の利害を比較考慮して自由に決定すべき問題である。ただこれは刑事訴訟法が被告人の控訴に不利益變更禁止の原則を認めたことに由來するに過ぎないのである(立法例によってはかかる原則を認めていない)。さればこれをもって直ちに所論のように檢事の附帶控訴自體を違憲であると論結することはできない。又檢事は国家機關として公益を代表して適正な法の運用と正義の実現のために控訴をなすものであるから、檢事のみの獨立控訴がある場合でも、被告人に常に原判決の刑より重い刑を言渡すのではなく、無罪その他の輕い刑を言渡すこともできるのである。それ故、特に被告人に附帶控訴を認める必要は全然存しないのである。純理から言えば、被告人控訴の場合に不利益變更禁止の原則が認められている以上、これと對比して檢事控訴の場合に利益變更禁止の原則が認められることが公平の觀念に適合すると論ぜられないこともない。若し、かように檢事控訴の場合に利益變更禁止の原則が認められている場合においては、檢事の附帶控訴との均衡上被告人の附帶控訴を認めることが必要となって來るのであるが、かかる原則は刑事訴訟法上認められていないから、前述のごとく被告人に附帶控訴を認める必要はない。されば、檢事の附帶控訴を認め、被告人の附帶控訴を認めないのを公平の觀念に反すると言うことはできない。論旨は檢事の附帶控訴について種々の不都合と不合理を擧げているが、そのすべては刑事訴訟法が被告人の控訴に不利益變更禁止の原則を認めたことに原因するのであって、この原則さえ認めなければ、論旨のごとき非難は全く起り得ない。それ故、問題の焦點は單に刑事訴訟法の内容の當不當の點にあるのであって、所論のごとく憲法適否の點にあるのではない。すなわち、檢事の附帶控訴に關する刑訴法第三九九條の規定は、憲法違反と言うことはできない。されば、かかる憲法違反を根據とする論旨は、すべて理由なきものである。(その他の判決理由は省略する。)

以上の理由により、刑訴法第四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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