最高裁判所大法廷 昭和24年(つ)19号 決定 1949年6月22日
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告理由は、末尾添付記載のとおりである。
憲法第三七條第一項に「公平な裁判所の裁判」というのは、組織構成その他において、偏頗や不公平の惧れのない裁判所の裁判を意味するものである(昭和二二年(れ)第一七一號同二三年五月五日大法廷判決)。そして、裁判官忌避の制度は右憲法が国民に對して保障する公平な裁判所の裁判を受ける權利を現実に確保するものとして、重要な意義を有するのである。されば裁判所は忌避事件の審理に當っては、申立人の疏明を促がすとか、或いは舊刑訴法第四八條第四項(現行刑訴法第四三條同規則第三三條)による事実調査の方法を用うる等、適切な手段を講ずるを妥當とする。今、原審審理の跡を觀るに、ただ第一審裁判所昭和二四年一月二一日の公判調書のみに判斷の重點を措いたかの感が深く、したがってその審理に不十分があったことが窺われない譯ではないのである。
しかしながら、特別抗告は刑訴應急措置法第一八條に明らかなように、原審の憲法適否の判斷を對象としなければならないのである。しかるに、原審が抗告を棄却した判斷の基礎は、抗告人主張の事実は認めない趣旨であって、事実認定の問題に歸するのである。されば、これに對する所論非難は、結局刑訴應急措置法第一八條所定の特別抗告適法の條件を缺くものと謂わなければならないから、所論は採用するを得ない。
よって、刑訴施行法第二條並びに舊刑訴法第四六六條第一項に從い、主文のとおり決定する。
この決定は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)