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最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)1798号 判決 1953年6月03日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人美斎津清外四名の弁護人小沢茂、同青柳盛雄、同森長英三郎、同牧野芳男、同藤井英男、同林百郎、同岡林辰雄の上告趣意第一点について。

昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかかわりなく憲法外において法的効力を有するものであることは、昭和二四年(れ)第六八五号同二八年四月八日言渡当裁判所大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第二点に対する判断の示すところであって論旨は理由がない。

同第二点及び第四点について。

所論マックアーサーの書簡は連合国最高司令官の要求を表示したものであり、いわゆる国鉄従業員が右書簡にいう公務員に包含せられ従って右政令第二〇一号の公務員にあたることは、前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第三点に対する判断の示すところである。又マックアーサー書簡は公務員の争議権を制限調整する法的措置が時を移さず着手さるべきことを要求していたのであるから、政府が本件政令を制定したのは、右要求を実施するため特に必要あったものと解するのを相当とする。論旨は理由がない。

同第三点について。

本件政令第二〇一号が憲法二五条及び同二八条に違反しないことは、前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第四点に対する判断の示すところであるから論旨は理由がない。

同第五点について。

本件政令第二〇一号が公務員のいわゆる職場離脱を処罰するからといって同政令が国民に憲法一八条にいわゆる奴隷的拘束を加え又は、その意に反して苦役を科するものであるということはできないこと前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第五点に対する判断の示すところであって論旨は理由がない。

同第六点について。

被告人等が処罰されるのは被告人等が所論のような見解を抱いていたという理由によるのではなく、被告人等は、職場離脱をしてでもその主張を貫徹しようと共謀し、これに基き被告人美斎津、同清水、同古越において職場を離脱して、国の業務運営を阻害する争議手段をとったがためであるから、原判決が憲法一九条及び二一条に違反するという論旨は理由がない(前記大法廷判決中弁護人小沢茂の上告趣意第七点に対する判断参照)。

同第七点について。

前記政令第二〇一号が失効する前に同令二条一項に違反した行為については、右政令失効後なお処罰を免れないもので、所論のように刑の廃止があったものとはいえないことは前記大法廷判決中弁護人小沢茂の上告趣意第四点に対する判断に徴し明らかであるから論旨は理由がない。

被告人美斎津清外四名の弁護人布施辰治の上告趣意について。

昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかかわりなく、憲法外において法的効力を有することは、前記本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第一点において判示したとおりであり、右勅令の要件を充して制定された昭和二三年政令第二〇一号も亦同様法的効力を有すること当然である。そして右政令第二〇一号が右勅令の要件を充していることも亦右弁護人小沢茂外六名の上告趣意第二点及び第四点について判示したとおりであるから、論旨はいずれも理由がない。

被告人美斎津清の上告趣意第一点について。

わが国はポツダム宣言を受諾し、降伏文書に調印し連合国に対して無条件降伏をした結果、わが国は、ポツダム宣言を実施するため連合国最高司令官が要求することあるべき一切の指令を発し、且つ一切の措置をとることを約した(降伏文書六項)、(前記大法廷判決中、弁護人森長英三郎の上告趣意第二点に対する判示参照)。そして所論昭和二三年政令第二〇一号は、右降伏文書上の義務に従い右ポツダム宣言を実施するため連合国最高司令官のなした要求に基き、昭和二〇年勅令第五四二号により制定されたものである。従ってわが国としては右政令が、ポツダム宣言に違反するものということはできないのであって、右政令は同宣言に違反するとの所論は採用できない。又所論極東委員会一六原則なるものは、連合国の日本管理に関する基本方針を決定する極東委員会が日本の労働運動に対する政策として決定し一九四六年一二月六日附で連合国最高司令官に指令したものでわが国に対し与えられたものではないから、右政令の関知するところではない。論旨は理由がない。

同第二点について。

昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかかわりなく法的効力を有すること、前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第二点に対する判断の示すところである。そして右勅令が日本国憲法施行後も憲法外において法的効力を有する以上これに基いて発せられた右政令第二〇一号も、同様法的効力を有し、昭和二二年法律第七二号第一条によりその効力に消長を来たすことはない。又所謂マックアーサーの書簡が要求であり、右政令第二〇一号は右要求に従って制定されたもので有効であること、及び右政令が憲法二八条に違反するものでないことは前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第三点及び第四点についての判断の示すとおりであるから所論はいずれも理由がない。

同第三点及び第四点について。

原判決の確定した事実によれば、被告人等の所為は国の業務運営能率を阻害する危険性ある争議行為であって、右事実は原判決挙示の証拠で認められる。そして右政令第二〇一号違反の罪が成立するためには、必ずしも業務運営の能率を阻害するという具体的結果の発生することを要せずただ右能率を阻害する危険性があれば足りること、前記大法廷判決中弁護人福田力之助の上告趣意第四点に対する判断の示すところである。論旨は理由がない。

被告人清水三四次の上告趣意第一点乃至第三点について。

昭和二〇年勅令第五四二号が日本国憲法にかかわりなく法的効力を有すること、前記政令第二〇一号が憲法二一条、二八条に違反しないことは前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第二点、第四点、弁護人小沢茂の上告趣意第七点についての判断の示すところである。

又所論マックアーサーの書簡がいわゆる連合国最高司令官の要求であること、右政令第二〇一号がとりあえず団体交渉権禁止の点だけを規定し、労働条件改善については別途の措置を講ずるものとしたとしても同政令がマックアーサー書簡の要求を充さないものとはいえないことは、前記大法廷判決中弁護人森長英三郎の上告趣意第三点に対する判断の示すところである。更に、右政令第二〇一号は所論極東委員会の労働一六原則と何等関知するものでないことは、被告人美斎津清の上告趣意第一点につき説明したとおりである。

論旨はいずれも理由がない。

同第四点及び第五点について。

所論の理由ないことは被告人美斎津清の上告趣意第三点及び第四点に対し説明したとおりである。

被告人柳沢捨吉の上告趣意第一点の(一)及び第二点の(一)について。

論旨いずれも理由のないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意の各論点、同弁護人布施辰治の上告趣意の各論点及び被告人美斎津清の上告趣意第一点に対する各判断において説明したとおりである。

同第一点の(二)について。

所論検事の聴取書の被告人の供述が拷問その他の強制によるものであることを窺わしめるような証跡はないから論旨は理由がない。

同第二点の(二)(三)について。

被告人等の所為が右政令第二〇一号にいう争議行為であることは、被告人美斎津清の上告趣意第三点及び第四点について説明したとおりであり、その余の所論は、要するに原判決の事実認定を非難するに止まり上告適法の理由とならない。

被告人古越利男の上告趣意第一点について。

右政令第二〇一号がポツダム宣言、極東委員会の日本労働組合一六原則に反するとの論旨の理由ないこと、マックアーサー書簡が連合国最高司令官の要求であること、昭和二〇年勅令第五四二号が憲法外において法的効力を有し、従って右政令第二〇一号も同様法的効力を有すること、右政令第二〇一号が憲法二八条に違反しないことは、いずれも被告人美斎津清の上告趣意第一点及び第二点に説明したとおりであって論旨はすべて理由がない。

同第二点及び第三点について。

被告人等の所為が争議行為でないとの所論、又国の業務運営能率を阻害したことはないとの所論の理由ないことは、被告人美斎津清の上告趣意第三点、第四点について判示したとおりであり、被告人等を右政令第二〇一号違反として処罰することが思想を処罰するものでないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第六点において判示したとおりである。論旨はいずれも理由がない。

被告人熊谷金三郎の上告趣意第一点について。

論旨の理由ないことは被告人美斎津清の上告趣意第一点及び第二点に判示したとおりである。

同第二点乃至第四点について。

マックアーサー元帥の書簡が連合国最高司令官の要求であることは本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第二点及び第四点につき判示したとおりである。又右政令第二〇一号が憲法二八条に違反しないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第三点に対する判断の示すとおりであるから、右政令が憲法九七条、九八条に違反することもなく、原判決が憲法七六条に反することもない。論旨は理由がない。

同第五点について。

鉄道職員はマックアーサー書簡にいわゆる公務員のうちには包含されないとの所論、被告人等の所為は争議行為ではないとの所論、国鉄職員の福祉施設をしないで、争議権を制限したのは違法であるとの所論、被告人等の行為は、国の業務運営の能率を阻害しないとの所論いずれも理由ないことは、本件弁護人小沢茂外六名の上告趣意第二点及び第四点に対する判断、被告人美斎津清の上告趣意第三点及び第四点に対する判断、被告人清水三四次の上告趣意第一点乃至第三点に対する判断に示したとおりであり、その余の所論は、原判決の事実認定を非難するか又は何等理由なき独自の見解を主張するに止まり上告適法の理由とならない。

よって、旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官栗山茂の、弁護人小沢茂外六名の上告趣意第一点及び第三点(これらと同旨の他の各上告趣意についても同じ)に対する意見及び裁判官真野毅の反対意見を除き、裁判官全員一致の意見である。

裁判官栗山茂の意見及び裁判官真野毅の反対意見は前記大法廷判決記載のとおりである。

裁判長裁判官塚崎直義、裁判官長谷川太一郎、同沢田竹治郎、同穂積重遠は合議に干与しない。

(裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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