大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所大法廷 昭和24年(れ)731号 判決 1950年3月15日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。

本件第一審第一回公判調書を調べてみると、裁判長は、証人尾辻陽子に対して、「今度の事件について証人として取調べをするが、龝原がここにいては言い難いか」と問うたところ、尾辻が「はい」と答えたので、裁判長は、被告人に命じて同証人の訊問が終了するまで退廷させた上で、同証人に対し逐一訊問したこと所論の通りである。しかし沢田弁護人はこの証人訊問の間終始立会っていたのみならず、裁判長の訊問終了後、右の証人に対して十分補充訊問をしている。そして右補充訊問が終った後、裁判長は被告人を入廷させ被告人に対し右証言の要旨を告げて意見を訊ねたところ、被告人は、「無理に関係したのではない」旨を答えた。被告人は更らに裁判長から、「証人に聞き度いことがあるか」と問われて、「別にありません、関係後陽子と話したのは…………………。他に陽子に尋ねたいことも又言い度いこともありません」と述べている。

右のように第一審公判においては、裁判所は証人訊問中被告人を退廷させたけれども、訊問終了後被告人に証言の要旨を告げて、証人訊問を促がしたのであり(それにも拘らず、被告人自ら訊問しなかったのである)、且つ弁護人は終始訊問に立会い、自ら補充訊問もしたのであるから、これを以て、憲法三七條第二項に反して、被告人が証人に対して審問する機会を充分に与えなかったものということはできない。

尤も第二審に於ては、被告人及び弁護から、尾辻陽子を証人として申請したのに対し、裁判所はこれを却下しながら、第一審第一回公判調書中の同人の供述記載を証拠として採用している。しかし同人の供述については、既に第一審において、訊問する機会を被告人に与えられていること前記の通りであるから、第二審において重ねてその機会を与えることをしないでこれを証拠にとっても、刑訴應急措置法一二條一項又は憲法三七條二項に違反するものではない。

論旨は、憲法三七條二項について独自の解釈を下し、証人の供述は、それが供述される際に被告人の反対訊問にさらされたものでなければ、これを証拠に採ることができないという見解を前提として、証人尾辻陽子の供述には被告人の反対訊問の機会が与えられていないから、これを証拠に採用した原判決は、憲法の右規定に違背すると主張している。しかし憲法の右條項は、所論のような要請を含むものではなく、所論の証言については、第一審第一回公判に於て、反対訊問の機会を被告人に与えられているものと認むべきこと前記の通りである。それ故論旨は採用することができない。

同第二点について。

当裁判所の判例(昭和二三年(れ)第八三三号同二四年五月一八日大法廷判決)によれば、憲法三七條二項は、被告人に反対訊問の機会を与えない証人その他の者の供述を録取した書類は、これを証拠とすることを絶対に許されないという意味を含むものではなく、従って刑訴應急措置法一二條一項が、証人その他の者の供述を録取した書類又はこれに代わるべき書類は、被告人の請求があるとき、その供述者又は作成者を公判期日において訊問する機会を被告人に与えれば、これを証拠とすることができる旨を規定していることも、憲法の右條項に違反するものではない。所論広方政一に対する検事聴取書及び奥源之助作成の診断書については、被告人側からその供述者又は作成者の訊問を請求しなかったのであるから、原判決がこれを証拠として採用したことには、所論のような憲法違背はない。論旨は理由がない。

同第三点について。

しかし強姦行為には必然的に処女膜の裂傷を伴うものではないから、処女を強姦しよって処女膜の裂傷を生ぜしめたときに、これを強姦致傷罪とすることは正当である。従って、原判決が本件に刑法一八一條を適用したことには、所論のような擬律錯誤の違法はなく、論旨は理由がない。

同第四点について。

しかし原審第二回公判調書を調べてみると、被告人に最終陳述の機会が与えられていることが明白である。それ故論旨は採用することができない。

以上の理由により旧刑訴四四六條に従い主文の通り判決する。

この判決は、裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例