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最高裁判所大法廷 昭和26年(あ)193号 判決 1953年11月25日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大類武雄の上告趣意第一点について。

国税犯則取締法(以下単に取締法と略称する。)一四条の通告処分は、国税局長又は税務署長が間接国税に関する犯則の心証を得た場合、原則として犯則者に対し、罰金又は科料に相当する金額その他の財産上の負担を通告し、犯則者がこれを任意に履行したときは、当該犯則について訴を受けることなからしめることとする手続であって、かような手続が認められた所以のものは、間接国税の犯則のごとき財政犯の犯則者に対しては、先ず財産的負担を通告し、これを任意に履行したならば敢えて刑罰をもってこれに臨まないこととすることが、間接国税の納税義務を履行させその徴収を確保するという財務行政上の目的を達成する上から見て、適当であるという理由に基いているのである。しかし、通告処分は、これを行うことが財務行政上、刑事政策上その他の理由によって適当でないと認められる場合には、これによらないこともあるのであって、取締法一三条、一四条は、まさにその場合に関する規定に外ならない。そして、本件においては、告発の事由が「通告の履行見込なきに依る」もので、取締法一四条二項前段の「通告ノ旨ヲ履行スル資力ナシト認ムルトキ」に準拠してなされたものであることは所論のとおりであるが(記録三二丁)、既に述べたとおり、通告処分は犯則者に対し財産上の負担を通告し、これが履行を期待するものであるから、犯則者がその通告の内容たる財産上の負担を履行しうる能力を持っていることが前提であって、(所論のような現に財産のない者でも借金をしてでも通告の旨を履行しうると認められる者であれば、それは借金をなし得る信用という能力があるのであるから、右規定の適用については、履行するの資力ある者に該当すると解しうる。)これを欠いていると認められる場合にも、なお、これに対し通告処分を行うことは、無意味であり、右取締法一四条二項前段の規定は、そのような無意味なことは、これを行わないとする趣旨の下に定められた規定と解すべく、所論のように財産の有無又は貧富の程度によって、国民を差別して取扱う趣旨の規定と解すべきではない。それ故、取締法一四条は憲法一四条に違反するものであるということはできない。

同第二点について。

論旨は単なる採証法則違反、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官栗山茂の右第一点に対する少数意見を除くほか裁判官全員一致の意見である。

裁判官栗山茂の少数意見は次のとおりである。

弁護人の上告趣意第一点の違憲の主張は原審で主張されず、従って原判決の判断を経ていないもので、刑訴四〇五条一号にあたらないから本件上告は不適法として棄却すべきものであること、昭和二六年(あ)第四六二九号同二八年三月一八日言渡大法廷判決において述べたとおりであるから、ここに引用する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)

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