最高裁判所大法廷 昭和26年(し)71号 決定 1953年12月22日
主文
本件特別抗告を棄却する。
理由
申立人の審判請求事件記録及び本件特別抗告事件記録に徴すれば、申立人は昭和二六年三月一三日広島地方裁判所に対し、検事好並健司、検察事務官藤国勲、同玉沖義治、同木村正、同浅木森成男、警察職員桐原松雄、同前田満意、同鈴木敏之の八名は共謀の上職権を濫用して申立人を逮捕監禁したとの事実につき、刑訴二六二条に基く審判請求をなし、次いで、同年四月一三日同裁判所に対し、検察事務官杉浦保男には刑法一九三条の犯罪ありとして同人に関し、同様審判請求をしたところ、同裁判所は同年九月一八日前記好並健司外七名には告訴にかかる犯罪なしとの理由で、杉浦保男については告訴を経ていないから不適法として、刑訴二六六条一号に基き申立人の審判請求を棄却する旨決定し、右決定は同月二一日申立人に送達されたので、申立人は同月二五日右決定に対し本件特別抗告を当裁判所に申し立てた事実を認めることができる。
しかし、最高裁判所に特別抗告をすることが許されるのは、その対象である決定又は命令に対しては刑訴法により不服を申し立てることができない場合に限られるのであって、原決定又は命令に対し、刑訴法上抗告若しくは異議の申立をする途のある場合には、その原決定又は命令に対しては直接最高裁判所に特別抗告を申し立てることは許されず、刑訴法の定めるところに従って、所定の裁判所に抗告若しくは異議の申立をしなければならないものであることは、刑訴四三三条の定めるところである。そして刑訴四二〇条一項によれば、「裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定」に対しては、特に即時抗告を許す旨の規定のある場合のほかは抗告をすることはできないのであるが、刑訴二六六条一号の審判請求を棄却する決定は、同四二〇条一項にいう「裁判所の管轄に関してした決定」とはいえないことは論のないところであるので、右決定が同条項の「訴訟手続に関し判決前にした決定」にあたるか否かを按ずるに、右の「訴訟手続に関し判決前にした決定」とは、判決を目標とする訴訟手続に関しその前提としてなす個々の決定をいうのであって、右条項は、これらの決定については一々独立に不服を許さなくても、終局の判決に対して上訴を許しさえすればこれらの決定の当否に対する救済はできるので、これらの決定に対しては原則として抗告することは許さないものとしたのである。しかるに、審判請求を棄却する決定のように公訴を提起しないことを是認する決定は、判決を目標とするものということはできないから、右の「訴訟手続に関し判決前にした決定」にはあたらない。してみれば右審判請求を棄却する決定は、刑訴四一九条の「裁判所のした決定にあたり、しかも右判決に対しては不服を許さないとする特別な規定は存しないのであるから、右審判請求を棄却する決定に対しては、刑訴四二一条によって何時でも高等裁判所に通常の抗告をすることができるのである。それゆえ本件審判請求を棄却した決定は、刑訴法により、不服を申し立てることができる決定であるから、申立人が右決定に対し通常の抗告をしないで直接当裁判所に申し立てた本件特別抗告は、刑訴法四三三条の要件を具えない不適法のものであって、棄却を免れないものである。
よって刑訴四二六条一項に従い主文のとおり判決する。
この裁判は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎)