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最高裁判所大法廷 昭和28年(オ)449号 判決 1959年7月20日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人らの上告理由第一点について。

論旨は、被上告人西尾村の代表者西尾村長は、地方自治法九六条一項一〇号によつて訴訟行為をなすに必要とされている村議会の議決による授権を欠いているから民訴三九五条一項四号に該当し、また村議会の議長の議決証明書の提出がないから民訴五二条に違背していると主張する。

なるほど、地方自治法九六条一項一〇号は、普通地方公共団体が当事者である訴訟に関することについて議会が議決すべき旨を定めている。しかし普通地方公共団体が被告となつて本件のような応訴をする場合には、地方自治法第二四三条の二第四項の規定による請求に関する規則(昭和二三年最高裁判所規則二八号)二項、行政事件訴訟特例法一条、民訴五八条、五〇条一項の規定により、議会の議決を必要としないものと解するのが相当であり、従つて所論の村議会議長の議決証明書も必要でない。論旨はすべて理由がない。

同第三点について。

論旨は、原判決が地方自治法二四三条の二の遡及適用がないとしたのは、憲法九二条、九四条、九八条に違反すると主張する。しかし憲法九二条は、地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める、と規定しているだけで、「地方自治の本旨」が何であるかを具体的に明示してはいない。そして地方自治法二四三条の二のような訴訟の制度を設けるか否かは立法政策の問題であつて、これを設けないからとて、地方自治の本旨に反するとはいえない。従つてかかる制度を設けていなかつた、昭和二三年七月の改正以前の地方自治法を憲法九二条に違反するものということはできないし、また右の改正によつて始めてかかる制度を設けた規定の遡及適用を否定した原判決を同法条に違反するものということもできない。原判決が憲法九四条、九八条に違反しないことはいうまでもない。

次に憲法適否の問題を離れて、地方自治法二四三条の二の遡及適用があるかどうかを考えてみるに、同条によつて住民が監査の請求をしさらに訴訟を提起することができるのは、手続法上の権利ではなく実体法上の権利であり、昭和二三年七月法律一七九号によつてはじめて住民に与えられた権利である。従つて、右の権利の認められる以前の事実に関して右の権利を行使することは、法律の経過規定に特別の規定がない以上ゆるされないものと解するのが相当である。

論旨はまた、原判決が地方自治法二条八項(現在では一一項)に反する旨を主張するのであるが、同法二四三条の二の訴が、前述のように地方公共団体の住民の当然の権利として認められるものでない以上、右二条八項によつても、二四三条の二の遡及適用を認めなければならないものではない。論旨はすべて理由がない。

なお論旨は、本件売買等の無効である所以をるる説明するのであるが、上告人の本訴のような請求がゆるされない以上、右売買等の効力について審理すべき限りではない。

その余の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、また同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一)

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