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最高裁判所大法廷 昭和29年(あ)1303号 判決 1960年12月21日

判決

本店所在地

静岡市両替町二丁目四番地の一

静糧倉庫株式会社

(右代表者取締役社長

増井慶太郎)

右の者に対する取引高税法違反被告事件について、昭和二九年一月二〇日東京高等裁判所の言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原判決および第一審判決を破棄する。

被告会社を免訴する。

理由

弁護人海野普吉、同位田亮次の上告趣意は未尾添附のとおりである。

職権により調査すると、原審の是認した第一審判決は、被告会社に対し、取引高税法四八条一項、四七条本文および第一審相被告人村松堅二の同判決各判示行為について適用したと同一の法条(刑法四七条、一〇条を除く)を適用し、いずれもその所定の罰金額の範囲内で、被告会社を第一審判決主文一項掲記の各罰金刑に処したのである。

ところで、右被告会社に適用された取引高税法四八条一項の規定の趣旨は、法人の代表者または法人もしくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人または人の業務または財産に関して、同法四一条ないし四四条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、事業主たる法人または人に対して、各本条の罰金刑を科する旨を定めたいわゆる両罰規定であつて、事業主たる法人または人に対しては、右四八条一項の規定が根拠となつて前記四一条ないし四四条の規定のうち罰金刑に関する部分が適用されることとなるものであることは、右四八条一項の明文により明らかである。すなわち、事業主たる法人または人は、右四八条一項により行為者の刑事責任とは別個の刑事責任を負うものとされ、その法定刑は罰金刑とされているのである。しからば、これに対する公訴の時効については、刑訴二五〇条五号により時効期間は三年であり、その起算点は同法二五三条一項により、取引高税法四八条一項にいわゆる同法四一条ないし四四条の違反行為が終つた時と解するのが正当であるといわなければならない。そしてこのことは、右両罰規定によつて罰金刑を科せられる事業主たる法人または人の責任が行為者本人の責任に随伴するものであるからといつて、また右両罰規定における行為者の責任と事業主たる法人または人の責任とは、ともに行為者の違反行為という一個の原因に基づく両様の効果であり、しかも右法人または人と行為者とは、事業主とその従業者という一体の関係に立つものであるからといつて、その理を異にすべきものではない。一個の違反行為を原因とする二つの刑事上の責任のうち、行為者に対しては懲役または罰金の刑を科し、事業主たる法人または人に対しては罰金刑を科するものとされている場合にあつては、公訴の時効につき、行為者に科すべき刑により時効期間を定める旨の特別の規定が設けられていれば格別、しかざる以上は、事業主たる法人または人に対する公訴の時効は、これに対する法定刑たる罰金刑につき定められた刑訴二五〇条五号の規定によるほかはない。また、そのように解することが、憲法の採用した罪刑法定主義の要請にも適合する所以である。

しかるに、原審の是認した第一審判決は、挙示の証拠により、被告会社の使用人である第一審相被告人村松堅二の同判示第一の各違反行為が同判決別紙第一表記載のとおり昭和二三年一二月一日頃から同二四年四月三〇日頃までの間に、同第二の違反行為が同二四年六月九日頃に、それぞれ終つている事実を適法に認定しており、また記録によれば同年七月中旬頃静岡税務署長から被告会社あてに右各違反行為につき通告処分がなされたことが認められる。しからば、被告会社に対する公訴の時効は、右村松堅二の判示第一の各違反行為についてはそれぞれ右第一表記載の日時に、同第二の違反行為については同年六月九日頃に進行を開始し、右静岡税務署長の通告処分によつて中断されたのである。そして、被告会社に対する本件公訴の提起は昭和二八年一月二九日であることが記録上明らかであるから、右訴訟は、右通告処分があつた後刑訴二五〇条五号による三年の期間を経過し、既に公訴時効完成後に提起されたものというほかはないのであつて、これと異なる前提の下になされた第一審判決およびこれを是認した原判決は、ともに違法たるを免れず、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

よつて、刑訴四一一条一号により原判決および第一審判決を破棄し、同四一三条、四一四条、四〇四条、三三七条四号により、破告会社に免訴の言渡をなすべきものとし、上告趣意に対する判断を省略し、主文のとおり判決する。

この判決は、裁判官斉藤悠輔、同池田克、同高橋潔、同高木常七、同石坂修一の少数意見あるほか、裁判官全員一致の意見にもよるのである。

裁判官斉藤悠輔、同池田克、同高橋潔の少数意見は、次のとおりである。

刑訴法は、公訴時効の期間につき、(一)刑法により刑を加重しまたは減軽すべき場合には、加重しまたは減軽しない刑を基準とし、(二)共犯については、すべて正犯の刑を基準とすると共に、最終の行為が終つた時からすべての共犯に対し時効の期間を起算するものとし、共犯の一人に対してした公訴提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有するものと定めているのであつて、これらの規定によると、刑訴法は、個々の罪については、行為者の一身的ないし主観的事由により刑の加重または減軽をなすべき場合であつても、それらの事由の存否にかかわりないものとして公訴時効の期間の画一を期し、また、共犯については、事件を単位として事件関与者につき公訴時効の期間の統一を期していることが明らかである。そして、刑訴法の右の趣旨は、本件の適用法令たる取引高税罰則のいわゆる両罰規定の場合にも妥当するものと考える。

すなわち、同罰則によれば、違反行為をした従業者に対しては各本条の懲役または罰金の刑を科し、事業主たる法人または人に対しては各本条の罰金刑を科するものとし、後者は前者の刑事責任とは別個の刑事責任を負うものとされてはいるが、前者の違反行為を原因としこれに随伴するものであり、事件単位としては共犯の場合と同視すべきものであつて、後者の公訴時効につき特に前者に科すべき刑によりその期間を定める旨規定するところがないというだけの理由で共犯の場合と別異にすべき合理的理由はないものといわなければならない。また、事業主たる法人または人に対する罰金刑は、従業者の税法違反行為に対する制裁を補充する性質を有するものと解することができる。すなわち、行為者たる従業者は概して資力に乏しくこれに対し財産刑を科しても効果なき場合多きに反し、事業主たる法人または人は概して資力大なるを常態とするものであるからこれに対し従業者に対する各本条所定の罰金刑を科して税法所定の目的を達成しようとするのである。されば、公訴時効の期間に関する規定を適用するに当つても、違反従業者に対する刑を基準とすべきこと当然であるといわなければならない。

してみると、本件において被告会社に対する公訴時効の期間は、違反行為をした従業者につき定められた法定刑を基準として決定すべきものとする解釈に立つ原判決を正当とすべく、多数意見に賛同することができない。

裁判官石坂修一の少数意見は、次の通りである。

斉藤、池田及び高橋の三裁判官の少数意見中、本件両罰規定制定理由の一を、事業主と従業主と従業者との間における資力の多寡に求めるものの如く推測せられる点は、これを留保し、その余には賛同する。

裁判官高木常七の少数意見は、次のとおりである。

本件の適用法令である取引高税法四八条一項は、事業主たる法人または人自身の犯罪を定めたものではなく、行為者たる使用人らの犯罪を前提として、それとの関連において事業主の刑事責任を定めた特種の処罰類型であると解するのが相当である。

されば事業主の刑事責任は、行為者本人の刑事責任に当然随伴すべきものであり、本件のように行為者の責任が存続する場合においては、事業主もまたその処罰を免れないものといわなければならない。従つて事業主に対する公訴時効の期間についても行為者に対するそれに従うべきものであると考える。

以上の理由により、本件において被告会社に対する公訴時効の期間は、違反行為をした従業者につき定められた法定刑を基準として決定すべきものとする見解に立つ原判決を結局正当とするものであつて、これに反する多数意見には、にわかに左祖することはできない。

検察官村上朝一同高橋一郎公判出席

昭和三五年一二月二一日

最高裁判所大法廷

裁判長 裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 島     保

裁判官 斉 藤 悠 輔

裁判官 藤 田 八 郎

裁判官 河 村 又 介

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 池 田   克

裁判官 河 村 大 助

裁判官 下飯坂 潤 夫

裁判官 奥 野 健 一

裁判官 高 橋   潔

裁判官 高 木 常 七

裁判官 石 坂 修 一

裁判官垂水克己は病気につき署名押印することができない。

裁判長 裁判官 小 谷 勝 重

〔上告趣意〕

昭和二九年(あ)第一三〇三号

被告人 静糧倉庫株式会社

右代理取締役

増井慶太郎

弁護人海野普吉、同位田亮次の上告趣意

右被告会社に対する取引高税法違反被告事件について、弁護人の上告趣意を別記の如く陳述する。

第一点 被告会社に対し有罪の判決を言渡した第一審判決を支持し、弁護人の控訴を棄却した原判決は、大審院判例(昭和一〇年(れ)第一二八六号同年一一月二五日判決、大審院刑事判例集一四巻一二一七頁以下)と相反する判断をなし、かつ法令の解釈適用について重大な誤りがあるものと信ずる。

第一審判決は被告会社に対し、取引高税法第四八条第一項第四七条本文及び第一審被告人村松堅二の各判示所為について適用した同一の法条(判示第一の(1)乃至(186)の各所為につき、昭和二四年一二月二七日法律第二八号附則第三項第一〇項、同年四月三〇日法律第四三号附則第一〇項第二一項により適用せられる右廃止及び改正前の取引高税法第一三条第一項、第四一条第一号第四二条第一項、判示第二の所為について右昭和二四年法律第二八五号附則第三項第一〇項により適用せられる昭和二四年法律第四三号取引高税法第一三条第一項第四一条第一項第一号等)を適用していることは第一審判文上明かである。

而して、弁護人は第一審最終弁論並びに控訴趣意書第一点の二において、被告会社は取引高税法第四八条第一項の適用を受けるところ、同条項には

「法人(第四条に規定する社団を含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務又は財産に関して第四一条、第四二条、第四三条又は第四四条の違反行為をなしたときは、その行為者を罰する外、その法人又は人に対し、各本条の罰金刑を科する。」と規定されて居り、罰金刑のみが同条項の法定刑である。従つて本件公訴提起の日である昭和二八年一月二九日においては、本件犯罪行為の最終日たる昭和二四年六月九日頃より既に三年以上を経ていることは明らかであつて、刑事訴訟法第二五〇条第五号に規定する三年の公訴時効期間が完成しているから、同法第三三七条第四号により被告会社に対して免訴の言渡をなすべきである旨を主張した。

これに対し原判決は、

「所論はなお被告会社に対して言渡された罰金額を根拠として、被告会社には旧税法第四二条の適用はなく、又他面会社たる性質上懲役刑を科し得ざる本件に於て時効は三年を経過するにより完成するものと主張しているが、前段説明のとおり公訴時効は法定刑の最も重い刑を基準として定まるものであり、処断刑や宣告刑の如きは公訴時効の算定に何の関渉もないこと明かである。それ故論旨はいずれも理由がない。」

と極めて簡単に判示して弁護人の主張を斥けている。然らば原判決が、被告会社に対する法定刑を如何なる法条に求めたかについては、別の点で、

「……そこで法はこの欠陥を認め、これを是正せんがため同法(取引高税法)第四一条に引続いて同法第四二条を設け、前条の罪を犯した者に対しその情状によつては、前条の刑よりも重く処断し得る途を開いたもので宣告刑に情状を反映させんとの正当な要請に基くものである以上、旧税法第四一条該当行為の法定刑としてはこの両者を統一して観察すべきであり、所論のようにこの間原則と例外の区別を認めたり、一方が他方の刑を加重したものとは考えられないのである。そうとすればこの犯罪の公訴時効を論ずるには所定刑中の最も重い刑に従うべきであるから、本件に於て原判示第一事実の公訴時効については刑事訴訟法第二五〇条第四号に従つて五年を経過するによつて時効が完成するものというべきである。」

と、又更に原判示第二点(一)において

「被告会社に対する刑として旧税法第四二条第一項所定の懲役刑を選択する余地のないことは明白であり且つ、又被告会社に対する罰金額として原審が逋脱税額の二〇倍に相当する罰金を科していることからみて、原判決は旧税法第四二条の罰金を課したものではなく同法第四一条に則つて罰金刑を定めたものといい得るのである。してみれば原判決が同法条第四二条をも被告会社に適用したのは違法との所論も一理ないわけではないが、論旨第一点に説明のとおり、もともと右第四一条も第四二条も同一犯罪に対する罰則を定めたものであるから、これを統一的にみて初めてその法定刑の全貌を看取し得るところなのである」

と各判示しているところから明らかであるように、原判決は被告会社の公訴時効を判断するに当たつて、全然取引高税法第四八条を無視し、専ら同法第四一条、第四二条を“統一的に”みて、各両法案に定める法定刑を基準として判断したのである。

従つて自然人にも法人にも全く同様に右両条の適用があることを前提としているわけである。

しかしながら右原判決は、法人の犯罪能力並びに刑罰法規における構成要件と法定刑について驚くべき無理解を示しているといわざるをえない。

何となれば、被告会社を処罰する根拠となるべき刑罰法規は取引高税法第四一条、第四二条、改正後四一条ではなくて、同第四八条なのである。法人としては一般に犯罪能力がないから、仮令、私法上その行為として認めらるべきものがあつたとしても、刑責上、斯かる事実が直接第四一条、第四二条、改正後第四一条の構成要件に該当するわけはない。念のため改正前同法第四一条、第四二条、改正後の第四一条を掲記するならば、

改正前の第四一条

「右の各号の一に該当する者は、その免れ、又は免れようとした取引高税の二十倍に相当する罰金に処する。一、第十三条第一項の規定に違反した者」

改正前の第四二条

「前条の罪を犯した者には、情状に因り五年以下の懲役若しくは取引高税の二十倍を超え四十倍以下に相当する罰金に処し、又は懲役及び罰金を併科することができる。」

改正後第四一条

「左の各号の一に該当する者は、これを五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。」

と規定してある趣旨より明らかな通り、右各法条は自然人のみを対象としていることは明白である。

法人は同法第四八条を俟つて初めて処罰の対象となるのであり、法人に対する法定刑を論ずるに当たつて、第四一条第四二条改正後第四一条の法定刑を以つてするが如きは、全く法を無視するものである。

以上は又大審院の数多くの判決のとるところであつて、就中、昭和一〇年(れ)第一二八六号同年一一月二五日判決の大審院判例は次の如く判示している。

「法人ニ犯罪行為能力アリヤ否ニ付テハ所論ノ如ク見解ノ一致セサルトコロナリト雖モ我現行法ノ解釈トシテハ之ヲ否定スヘク若シ法人ノ機関タル自然人カ法人ノ名義ニ於テ犯罪行為ヲ為ス場合ニ於テハ其ノ自然人ヲ処罰スルヲ以テ正当ト為スヘキコト夙ニ本院判例ノ宣明スル所ナリ…而シテ貯蓄銀行法第十八条ノ規定ハ明治三十三年法律第七十三号貯蓄銀行条例第九条ノ規定ニ対応スルモノニシテ法人ヲ処罰セサルコトヲ明カニセサル点ニ於テ後者ト異ル所アリト雖モ其ノ法文自体ニ依リテ毫モ法人ノ犯罪行為能力ヲ認ムル趣旨ヲ明カニセサルノミナラス其ノ他ノ規定ニ於テモ此ノ趣旨ヲ啓示スルモノト認ムルニ足ルヘキ所ナキカ故ニ同条ノ規定ハ刑法第八条本文ニ依リ刑法総則ノ精神ニ従テ之ヲ解釈スルヲ当然ナリトス乃チ同条ノ規定ハ自己ノ為ニスルト他人ノ為ニスルトヲ問ハス免許ヲ受ケスシテ貯蓄銀行業ヲ営ム事実行為者ヲ処罰スルモノニシテ法人ノ犯罪能力ヲ認メ之ヲ処罰スルノ趣旨ヲ含蓄スルモノニ非ス」

右判例の趣旨は、刑法が、自然人のみを刑罰を科せられるべき行為の主体と認め、法人はこれを処罰しえないのが原則であるとしていることを確認し、その上この原則は特別法令に於いて刑罰を定めている場合にも一般に認めらるべく、ただ法人の処罰を明定している場合に限り例外的に法人の刑事責任を肯定しているに過ぎないのである。

従つて本件の場合、法人たる被告会社は取引高税法第四八条の規定を俟つて始めて処罰の対象となるのであつて、第四一条第四二条改正後の第四一条の如きは何ら法人処罰の規準となるものではない。その公訴時効の基準となる法定刑は第四八条のみによつて判断すべく、第四二条改正後第四一条の法定刑によつて判断すべきでないのは当然であろう。

然るに原判決は前述の如く、第四一条のうちに当然第四二条が含まれるという独自の見解をとつたのみならず、法人に対して当然第四二条改正後第四一条が「適用」され、しかも法人に対してはその性質上選択刑として罰金刑が課せられるにとどまり、法定刑としては懲役刑が適用されるかの如き口吻をもらしているのは、法人の犯罪能力と適用法規に対する考察を全く欠如しているものであつて、前記大審院判例に反し法令の解釈適用に重大なる誤りを犯しているといわざるをえない。

のみならず原判決の右見解は、他面において刑罰法規(取引高税法第四八条)の構成要件と法定刑との関係について之を考慮した形跡全くなく遡つてはその無理解さを端なくも露呈したものと断ぜざるを得ないのである。即ち、取引高税法第四八条は、前記の如くその法文中同法第四一条第四二条改正後第四一条を引いているのであるが、これは構成要件として引用しているに過ぎないのであつて、決して第四一条第四二条改正後第四一条を「適用」乃至「準用」しているのではない。

即ち第四八条は立法技術上、重覆を避けるために同条犯罪構成要件の一部分を明示してある右各法条を引用しているのであつて、之等を準用乃至直接適用しているのでないことは明らかである。しかもこれは第四八条の構成要件としての引用であつて、その刑罰規定である法定刑については、右両法条の罰金刑のみを引用し、懲役刑は排除しているのである。

通常判文において第四八条を適用するに当たつて第四一条第四二条第一三条等をも記載するのは、第四八条がその構成要件中に右各法条を引用している関係上、第四八条の内容を明確にするために記載しているに過ぎないのであつて、条文掲記の体裁としては準用の場合と同じであるが、本質は全く異なるのである。これは例えば、強盗傷人に対して刑法第二四〇条前段を適用するに際し、第二三六条前段又は後段或いは第二三八条を記載して強盗の種類を明確ならしめるのと本質的に何等変りない。

然るに原判決は、取引高税法第四八条の趣旨を「準用」の場合と混同し、第四二条の法定刑まで第四八条により適用があると解したのである。構成要件として引用しているに過ぎぬものを、法定刑についてまでそのまま引用があると解するのが全く見当違いであることは明白であろう。

取引高税法第四八条の何処に懲役刑の規定があろうか。同条は構成要件中に第四一条第四二条改正後第四一条を、又法定刑としては右各条の罰金刑のみを引用していることはこれ以上紆説するの要はないであろう。

原判決に曰く

「公訴時効は法定刑の最も重い刑を基準として定まるものである」

と。洵に当然である。然らば取引高税法第四十八条の最重なるものは如何。法人の本質から考え、又法文の趣旨からみて、罰金刑たること極めて明らかである。

以上の理由により、弁護人は、本件起訴に係る各事実は孰れも当然免訴さるべきことを確信するものである。

原判決は前記大審院判決に相反する判断をなした上、法令の解釈適用に重大なる誤りを犯し、被告会社に有罪の言渡をしたもので、著しく正義に反すること極めて明らかであり、到底破棄を免れないものと考える。

第二点 第一審判決は審判の請求をうけない事項について判断したものであり、これをそのまま支持した原判決も判決に影響を及ぼすべき法令の違反があつて著しく正義に反するものである。

本件起訴状は罰条として公訴事実中(一)の事実につき、「昭和二十四年四月三十日法律第四十三号改正前の取引高税法第四十一条第一項第一号第十三条第一項」を引用していることは記録上明らかである。

然るに第一審判決は、相被告人村松堅二及び被告会社に対し、判示第一の(1)乃至(186)の各事実について、改正前の取引高税法第四二条第一項をも適用し、相被告人を懲役刑に、被告会社を判示罰金刑に処したことは判文上明白である。

然して論旨第一点に掲記した如く、改正前第四一条は法定刑として取引高税の二〇倍の罰金を定めたのに対し、同第四二条は五年以下の懲役若しくは取引高税の二〇倍を超え四〇倍以下に相当する罰金を定めている。

しかるに第一審記録を徴するも、何等訴因の変更罰条の追加の手続をしておらず、検察官が第四一条として起訴したものを第一審判決において突如第四二条を適用し、しかも相被告人村松に対しては、その所定刑中懲役刑を選択し、併合罪として判示第一の(24)の罪について法定加重して懲役四月に処し、被告会社についても第四二条を適用したのである。

然して右の点について原裁判所は論旨第一点に引用した通り、第四一条第四二条を“統一的”にみて、同一法条と同じに解そうとしている。“統一的にみる”ことが刑罰法規のように厳格な構成要件と刑罰効果を定めている規定においていかなることを意味するやは理解できないところであるが、仮に原判決所論のように右両条を同一視するならば、第四一条の規定は全く存在価値を失うことになり、殊に両条における罰金額の相違はどうなるのか理解することができない。

立法者が殊更に両条を区別したのは、情状によつて両条の「適用」に差異を認めようという趣旨であつて、情状と雖も別個の法条に規定され、かつ法定刑に重大な相違がある以上、その構成要件も刑罰効果も別個に観察しなければならず、その適用も異にするものである。従つて行為者が同時に両条の適用をうけることはあり得ない。あくまで適用法規は第四一条か第四二条か何れかなのである。情状重しとして第四二条を適用する場合は、第四一条は第四二条中に単に引用されるにとどまるものであることは第一点に述べたところである。

しかるに第一審判決並びに原判決は第四一条が、「適用」されれば、当然に第四二条も「適用」されるとの見解にたつものであつて驚くべき謬見といわざるをえない。

殊に検察官が特に第四一条に該当するとして起訴したものを裁判所が何ら罰条訴因の変更手続をとることなく、恣に第四一条と第四二条は“同一の法条”であるかの如く解し、公訴時効を判断するに当つて第四一条に規定しない懲役刑をもつて基準とするが如きは、被告人の利益を害するの甚しきはいうに及ばず、右のような解釈が行なわれるに至つては被告の基本的人権も危険に瀕するといわざるをえない。

従つて被告会社に関する公訴事実中(一)の事実につき改正前第四二条の適用ありとなし、公訴時効の判断に右法条を規準とした原判決は法律の解釈を誤り、引いては請求をうけない事項について判断したものであつて著しく正義に反すること明らかであり。この点においても破棄を免れないと信ずる。

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