大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所大法廷 昭和30年(あ)2311号 判決 1955年12月21日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人戸倉嘉市の上告趣意について。

覚せい剤取締法一四条の「所持」は、人が物を保管する実力支配関係を内容とする行為をいうのであって、その実力支配関係の持続する限り所持は存続するものというべく、かかる関係の存否は、各場合における諸般の事情に従い社会通念によって決定されるものであることは、当裁判所が昭和二三年(れ)第九五六号事件において不法所持罪につき判示したところに徴して明らかである(昭和二四年五月一八日大法廷判決、集三巻六号七九六頁参照)。それ故、所論所持の概念が不明確であることを前提とする憲法三一条違反の主張は理由がない。そして第一審判決が挙示した証拠によれば、被告人は肩掛鞄の中に本件覚せい剤を入れて判示九道橋下金花出方に到り同人の部屋に右覚せい剤を置いて雑談中警察官らしい人を認めたので、右覚せい剤を遺留したまま帰宅したことが窺われるのであるから、かかる場合に被告人が本件覚せい剤を前記金花出方において所持したものと判断した原判示は、もとより正当である。また、覚せい剤の不法所持は、覚せい剤の輸入、製造、譲渡、譲受及び使用等よりも犯情において常に軽いとは限らないので、覚せい剤取締法四一条一項がその一号から五号までの所為に対し、同一法定刑を定めたからといって、憲法一三条に違反するものではない。

弁護人堂野達也の上告趣意について。

所論は、押収の覚せい剤を没収しなかった第一審判決の違法を職権により匡正しないでこれを看過した原判決は違法であるというのであるが、かかる主張は刑訴四〇五条の上告理由に当らないばかりでなく、被告人に不利益な主張であるから採用することができない。

よって、刑訴四〇八条、一八一条に従い、裁判官全員の一致した意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田 克 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例