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最高裁判所大法廷 昭和33年(あ)1413号 判決 1962年2月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人伊藤仁の上告趣意第一点、弁護人青柳盛雄、同池田輝孝、同青柳孝夫の上告趣意第一点ないし第三点、及び被告人本人の上告趣意中憲法違反をいう点について。

所論はるる論述するが、要するに、遊興飲食税の特別徴収は所論憲法の諸条章に違反するものであり、従ってこれを維持した原判決も違憲であるという趣意に帰する。

思うに、国民の負担する具体的な担税義務は法律によって定まる、このことは憲法三〇条、八四条の明示するところである。そして、これらの規定は担税者の範囲、担税の対象、担税率等を定めるにつき法律によることを必要としただけでなく、税徴収の方法をも法律によることを要するものとした趣旨と解すべきである。税徴収の方法としては、担税義務者に直接納入させるを常則とするが、税によっては第三者をして徴収且つ納入させるを適当とするものもあり、実際においてもその例は少くはなく、本件における遊興飲食税の特別徴収は正にこの部類に属する。けだし、遊興飲食税の如きものを担税者より直接徴収するが如きは徒に費用と手数を要し、もしこれを強行するときは、遊興飲食税を確保することは殆ど期し難いからである。この故に、法律は遊興飲食税の徴収は特別徴収の方法によらなければならない(地方税法一一八条一項)とし、特別徴収の手続として、料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者を当該道府県条例によって、特別徴収義務者と指定の上、これに徴収させることとし(同法一一九条一項)、-特別徴収義務者は現実に税を徴収したると否とにかかわらず、当該税額を納入しなければならない-この特別徴収義務者に当該道府県条例で定める納期限までに徴収すべき遊興飲食税にかかる課税標準額、税額その他同条例で定める事項を記入した納入申告書を道府県知事に提出させて納入金を納入する義務を負わせ(同法一一九条二項)右一一九条二項の規定によって徴収して納入すべき遊興飲食税に係る納入金の全部又は一部を納入しなかったときは三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金刑を併科する(同法一二二条一項)、こととしているのである。そして、本件におけるが如き料理店の実質的経営者が当該道府県条例により一方的に納税義務者と指定され、且つ現実に税を徴収したると否とにかかわらず、当該税額を納入しなければならないとされている点は、いささか重い負担をかける感がないわけではないが、そのような措置を採らなければ、遊興飲食税は徴収の実を挙げることを得ないのであるのみならず、他面、徴税のため煩雑な手続、多くの費用、起り易い紛争を避けることができ、公共の福祉のためになることであるから、真に已むを得ないところと言わなければならない。また前示罰則の如きも憲法にいわゆる残虐の刑と呼ぶべき筋合のものではない。(昭和二二年(れ)第三二三号、同二三年六月二三日大法廷判決、集二巻七号七七七頁参照)。

以上の次第で、本件遊興飲食税の特別徴収は憲法に基そを有する法律上の制度であり、しかも、上叙の如き合理的根拠を有するものであるから、右制度及び原判決を憲法一一条、一二条、一三条、二二条、二九条、三一条、三六条の諸条章に反するものとする所論はすべて理由がなく、採用のかぎりではない。

弁護人青柳盛雄、同池田輝孝、同青柳孝夫の上告趣意第四点について。

所論は、地方税法一二条一項及びこれに基いてなされた原判決は憲法二一条に違反するというのである。

しかし、憲法二一条の保障する言論の自由といえども、絶対無制限のものではなく、公共の福祉に反することを許されないことは、すでに当裁判所大法廷の判例(昭和二八年(あ)一七一三号同三二年三月一三日判決、刑集一一巻三号九九七頁参照)とするところである。そして納税義務者又は特別徴収義務者のなすべき税金の徴収若しくは納付しないこと、又は納入金の納付をしないことなどを煽動することは、地方団体の住民の負担する納税の義務の不履行を慫慂するものであって、公共の福祉を害し、憲法の保障する言論の自由の範囲を逸脱するものであるから、これを処罰する旨を定めた地方税法一二条一項の規定は憲法二一条に反するものではない。それ故、所論は採用できない。

同第五点について。

地方税法一二条一項にいう煽動とは、同条項に掲げた所為のいずれかを実行させる目的で文書若しくは図画または言動によって、他人に対し、その行為を実行する決意を生ぜしめるような、または既に生じている決意を助長させるような勢のある刺激を与えることをいうものと解するを相当とする。してみれば、右条項の煽動という概念は必ずしも所論のようにあいまいであり、漠然としているものとは言い難く、従って、所論違憲の主張はその前提を欠くに帰し、採用できない。

弁護人伊藤仁の上告趣意第二点、弁護人青柳盛雄、同池田輝孝、同青柳孝夫の上告趣意第六点ないし第八点、及び被告人本人の上告趣意中違憲主張を除くその他の点について。

所論はいずれも単なる法令違反、事実誤認の主張を出でないものであって、すべて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお、記録を調べても同法四一一条一号、三号を適用すべきものとは認められない。

よって、刑訴四〇八条により裁判官藤田八郎、同垂水克己、同奥野健一の補足意見、同河村大助の少数意見あるほか裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

裁判官垂水克己の補足意見は次のとおりである。

一 地方税法一一三条所定の遊興飲食は、主食を入手し医療を受ける行為などと異り、人が金銭的余裕に恵まれた場合にするものだから同条が遊興飲食者(以下客ということがある)に遊興飲食税を課することの相当であることには先ず問題はない。

では遊興飲食客から同税を徴収するのに本人の申告により調査して徴税の決定をするような方法を採ってはどうか。もし客が一定期間にした遊興飲食についてその年月日、場所、経営者、遊興飲食の態様、料金等を申告し、経営者がこれを帳簿等によって証明し地方公共団体がこれを調査の上各遊興飲食者に対する課税額を決定するような制度を採るとしたら、遊興飲食客と経営者と地方公共団体(税務課)の三者の手数の煩雑、労力、費用の損失は測り知れず、恐らく実行不可能であろう。けだし、客は住所地外に出てこれをすることも多く、いずれにせよ、遊興飲食の際、経営者に自己の住所、氏名を打ち明けたり、遊興飲食の証拠を保存したりする意欲も利益も持たないことも頗る多いと思われるからである。客が遊興飲食の正しい報告をしない場合に税務課が経営者側の営業調査をしただけでは、多大の日時、労力、費用を用いながら、誰がどんな遊興飲食をしたかを殆んどつかめまい。また各地方公共団体がその住民の他地方での遊興飲食について全国各地方公共団体に照会して真実の報告を得ることの如きは莫大の費用、労力を要するのみならず不成功に終る可能性が高い。とすれば、客が遊興飲食した金銭的余裕ある際に同税を客から徴収する方が成功確実である。そしてこの納税も前段説示のようにやむをえないものである以上、特別徴収の方法は誠実な遊興飲食者にも好都合であることは入場税、通行税の場合と異らない。

とに角、遊興飲食税を経営者が特別徴収する制度が地方公共団体と住民大衆の両者にとって便宜であり公共の福祉に適合する点は多く論ずるまでもない。

二 では、料理店等の場所(その事業所得については別に所得税が納められる)の「経営者その他徴収の便宜を有する者」で条例で指定された者に特別徴収義務を課する規定は、殊にその義務違反に対し地方税法所定の刑を科する法律の規定は、不合理というべきか。

(1) 思うに経営者は業として遊興飲食を誘引しまたは助けこれに原因を与え、よって利得する者であり、彼は客及びその遊興飲食の態様、程度やその料金額を知りこれを受取りもしくはその請求債権を有する者であるから、彼がその料金と同時に担税義務者から遊興飲食税を預かりこれを他日納入することは前述のような他の方法によって税金納入に協力するよりも労力、費用の点で助かる訳である。

(料理店等の場所の経営者の経理全般に亘って関与する使用人も経営者を助け彼に類似する地位に立つものであるから「徴収の便宜を有する者」といえよう。)

(2) また、地方公共団体の税務課員が連日料理店等の場所に赴き遊興飲食料金支払の都度その場で客から同税の支払を受ける制度(莫大の人員・費用・時間を要する)の如きは客から喜ばれない結果商売繁昌に差障わるのでこれを実施されないことの方が経営者にも利益であろう。

(3) 経営者は同税を徴収納付するため、多少余分の労力、設備、費用を要するに違いないが、経営者はこれらの経費を営業経費に織込みこれを遊興飲食料金に含めて実質上客に転嫁することができる地位にいる。

(4) 特別徴収義務者たる経営者は客から徴収しえた同税金額を地方公共団体に翌月納付するまでの間(昭和二五年九月一日施行広島県条例四二条参照)手許に預かり(消費寄託)これを利用できる地位にいる。この利益は無視できない。同税不払客に対しては元来その支払請求権を持っており、同法所定の求償権も持っているのである。

してみれば、条例によって指定された経営者が他の方法によるよりも特別徴収の方法によって徴収する義務を課せられることは経営者にとって必ずしも不便不合理というに足りない。(固より労役もしくは私有財産の無償徴発ではない。)

三 われわれ日本人は日本国をつくりわれわれの総意によって憲法、法律を定めて国や地方公共団体が国民の精神的・物質的生活の進歩向上に貢献する不断の活動をするように仕向ける。けれども国や地方公共団体は性質上、金銭的支出をすることなしには国会も開けず、最低限度の生活の保障もできず、一日として活動できない存在である。この活動のエネルギー源が歳入である。最近わが国の歳入の八二・五パーセントは税収入で、地方税は国の歳入の三五パーセントを占め、地方公共団体の平均歳入の四〇パーセントは地方税であるといわれる。これらが国の歳入となって教育費(歳出の二八・二パーセント)を筆頭とする歳出に充てられる。このことはとに角納税の必要性の高いことを物語るものではなかろうか。

裁判官奥野健一の補足意見は次のとおりである。

弁護人伊藤仁の上告趣意第一点、弁護人青柳盛雄外二名の上告趣意第一点ないし第三点及び被告人本人の上告趣意中憲法違反をいう点について。

憲法三〇条は「国民は法律の定めるところにより納税の義務を負ふ」と規定し、また同八四条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定している。従って、租税の創設、変更、納税義務者、課税標準、徴税手続等すべて法律に委せられていると解し得るとしても、その法律の内容は憲法の各条章に適合する合理的なものでなければならないものと考える。

地方税法(昭和二五年法律二二六号)は遊興飲食税の特殊性にかんがみ、直接納税の制度を採らず所謂特別徴収の方法によるべきことを定めている(同法一一八条)。従って、右特別徴収の制度は法律に基くものであることは疑いないところではあるが、果して憲法各条章に反しない合理的なものであるか否かを検討する要がある。思うに、遊興飲食税の徴収のため徴収職員を各料理店に派遣してその場に居合せ税の納付を受けしめることは事実上不可能であり、他面納税者たる客に直接に納税せしめることは煩雑な手続と費用を強いることになる等徴税確保の便宜を考慮するときは、所謂特別徴収義務者を指定して、その者に地方団体に代わって遊興飲食税を徴収せしめ、その税を地方団体に納入する方法によることは止むを得ない制度であるというべく、また、特別徴収義務者として料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者を指定すること(同法一一九条)も、必しも不合理であるということはできない。けだし、料理店の経営者又はこれに準ずる徴収の便宜を有する者(例えば形式上の名目は他人名義であるが実質上の料理店の経営者であるというような者)は客より遊興飲食税を徴収するにつき最も便宜な地位にあるものであり、他面客に代わって右税金を地方団体に納入し客の負担を軽減することは結局自己の利益を増進する所以でもあるからである。尤も、徴収義務者は税金の代納のため多少の費用の負担は免れないところであり、また、客より徴収を怠った未徴収部分の税金についても納入義務があり、その結果不納入罪の制裁を課せられるなど不利益な面もあるのであるが、特別徴収義務者に支払わなかった税金については特別徴収義務者は当該納税者に対して求償権が認められ、かつその求償権に基く訴については徴税吏員は証拠の提出その他必要な援助を特別徴収義務者に与えなければならない(同一一九条三項)ことになっているのみならず、これら特別徴収義務者は予め地方税法上かかる特別徴収義務を課せらるべきことを承知の上で、料理店の経営者又は実質上これと同様の地位に就いた者であるから不測の不利益を強いられるものということはできない。これを要するに、遊興飲食税の特殊性からくる税徴収確保という公共の福祉の必要性と料理店の経営者又はこれに準ずる者のその間に占める特別な地位とを勘案考慮するときは、この地方税法の遊興飲食税の特別徴収の制度は、必しも不合理なものとは言い難く、所論憲法の諸条文に反するものではない。

地方税法一二二条の罰則規定は特別徴収義務者が単に納入金を所定納入期日までに納入しないということのみで処罰されるものではなく、一般の犯罪の場合と同様犯意を必要とし、従って特別徴収義務者が故意に徴収すべき地方税の徴収を怠り納入しなかったこと又は既に徴収した税金を納入しなかったことを処罰するものであると解するから、実質的には背任罪的又は横領罪的色彩をもつものであり、またその法定刑も他の犯罪のそれと比較して著しく苛酷なものとも言い難く固より残虐な刑にもあたらない。従って、右地方税法一二二条の罰則が憲法三一条、三六条に反するとの所論も採り難く、また、地方税法一二条一項に対する所論違憲の主張については多数意見が弁護人青柳盛雄外二名の上告趣意第四点について判示したところと同じ理由により、憲法三一条、三六条にも違反するものではないと考える。

裁判官藤田八郎は、右奥野裁判官の補足意見に同調する。

裁判官河村大助の少数意見は次のとおりである。

本件における第二犯罪は、遊興飲食税の特別徴収義務者として指定された被告人が、納税者から徴収して納入すべき遊興飲食税を所定の期日に納入しなかった行為であって(原判決参照)、すなわち、徴収しないで納入しなかった不作為(以下立替不納入と略称する)による犯罪である。わたくしは、原判決中この立替不納入罪に関する限り多数意見と所見を異にするので、以下卑見を陳述する。

凡そ国家が行政上又は政策上の目的を実現するため、個人に対しある行為を命令し又は禁止する場合において、これに違反したる者に対して、行政罰を科することは各種の行政法規において一般的に認められるところであるが、その違反の事実が単純な公法上の義務を怠ったものであって、反倫理性をもたないか若しくはその程度の極めて微弱なものであるときは、行政秩序違反として所謂秩序罰程度の行政罰を科するを相当とし、反倫理性を要素とする刑事犯罪と同様の刑罰を科すべきでないことは異論のないところであろう。そしてある行為に秩序罰を科すべきか、刑事罰を科すべきかは単なる立法政策の問題として看過すべきでないと考えられる。

けだし人権保障を強く標榜し、人権の制限、剥奪には合理的根拠を必要とする憲法の精神に照らし、憲法三一条の「法律に定める手続」とは「法律の正当な手続」の保障、すなわち、法律の内容が適正であることを要する適正条項の要請をも含むものと解するを相当とするからである。そして何が適正条項かは、窮極するところ正義と合理性の判断を基準として定むるの外はないと思料する。従って行政法規違反のある行為につき秩序罰程度の行政罰を科するを相当とする場合に、重い刑事罰を科する規定を設くることは、立法の過誤であって、憲法三一条違反の非難を免れないものといわなければならない。

ところで地方税法一二二条一項は「第一一九条二項の規定によって徴収して納入すべき遊興飲食税に係る納入金の全部又は一部を納入しなかった特別徴収義務者は、三年以下の懲役若しくは百万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する」と規定している。右規定は特別徴収義務者が納税者から徴収しないで納入を怠った場合(立替不納入)と徴収したのに納入を怠った場合の両者を包含するものと解すべきことは正に原判決判示のとおりである。しかして、特別徴収義務者は料理店の経営者その他徴収の便宜を有する者につき一方的に指定されるものであること(同法一一九条、府県条例)及びその特別徴収手続が止むを得ない制度であることは奥野裁判官の補足意見のとおりであるが、多数意見もその理由とする「遊興飲食税の如きものを担税者より直接徴収するが如きは徒に費用と手数を要」するとのことは、特別徴収義務者にそのまま転嫁されるものであって義務者の負担する労費の容易ならざるものであることは顕著な事実である。然るに被指定者は一方的に指定されて、これを拒むこともできず、徴収の労務を負担しながらこれに対し何等報酬、費用等支弁の定めのない制度が果して合理的の制度といえるであろうか。それはともかくとして、かくの如く被指定者の意思にかかわりなく、一方的に指定され、しかも無償で徴収事務を執行すべき特別徴収義務者に対し、納税者から徴収することを怠り納入しない場合において、納入しないという不作為それ自体につき、直ちに同法一二二条一項の如き重い刑罰を科することは著しく苛酷であるといわなければならない。かかる重い刑罰を科さなければならないことを正当化する社会的事実については、立法当時の記録からもこれを見出すことはできない。のみならず、取引界の実際においても多くは飲食代後払の慣習存在し、往々にして、その税金も徴収できない場合のあり得ることは明らかな事実であって、かかる場合においても特別徴収義務者が、立替不納入罪の責任を負わなければならないとすることは如何にも苛酷な制裁ではあるまいか。とくに留意すべきは、かかる立替不納入の徴収義務者に対しても延滞加算金が課せられ(同法一三八条)、国税徴収法による滞納処分の執行が行われ(同法一三四条六項)、滞納処分を免れる不正行為に対しては重い刑罰の制裁を科する(同法一三五条)という、厳しい制裁が定められている。その上更に立替不納入の特別徴収義務者に対して制裁を科する必要があるかどうかは疑問であるが、税収入確保という重要な行政目的のためには何らかの制裁を科することが是認されるべきであるとしても、事は単純な公法上の義務違反であり、民事的には金銭債務の不履行であって、倫理的無色の行為に外ならない立替不納入に対しては、精々秩序罰程度の制裁を相当とするものと解する。されば徴収した税金を納入しない行為や詐偽その他の不正行為による脱税犯(同条二項)と同一の法定刑によることにした同条一項の刑罰規定は彼此著しく均衡を失し、苛酷不当な刑罰と評せざるを得ないのである。

一例を挙げて均衡を見る。家庭裁判所が、その調停や審判で定まった家事債務につき、履行の勧告や履行命令を発する履行確保制度(家事審判法一五条二、一五条三)は、家事債務が概ね扶養料的性格を有し、これが確保は債権者の生存権の保障的機能を持つものであるから、家庭に対し後見的役割を果すべき国家が特に債務の実現に協力することにしたものと解せられる。従って金銭的給付を目的とする債務とはいえ、その重要性においては、決して本件の飲食税立替納入義務と逕庭があるものではない。然るにこの家事債務の履行命令に対し、義務者が正当の事由なくして、その命令に従わないときは、五千円以下の過料に処せられる(同法二八条一項)のである。けだし命令不遵守に対する制裁としては適当な行政罰といえよう。この行政罰と本件立替不納入罪の刑罰を比較して見ると、後者が如何に苛酷不当であるか多言を要せずして明らかである。

以上の理由により、わたくしは、立替不納入の行為に地方税法一二二条一項を適用する限りにおいて、同条は違憲無効であると解する。弁護人青柳盛雄外二名の上告趣意第三点は叙上の違憲論を含むものと認められるから、論旨は結局理由あるに帰し、原判決は破棄すべきものと思料する。

(裁判長裁判官 横田喜三郎 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一 裁判官 山田作之助 裁判官 五鬼上堅磐)

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