最高裁判所大法廷 昭和33年(あ)221号 判決 1959年12月09日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人稲村良平の上告趣意について。
論旨は刑法一九七条が憲法一四条に違反するものであると主張する。
しかし、すべて公務員は全体の奉仕者であって一部の奉仕者でないことは憲法一五条二項の規定するところであり、公務員の職務とせられる公務の執行は、一部の利益のためにではなく全体の利益のためになさるべきものである。従って、公務の威信と公正を保持すべき必要のあることは多言を要せず、いやしくも公務の執行に対し国民の信頼を失うがごときことがあってはならない。それ故、若し公務員の職務に関して、金銭その他の利益による賄賂を伴うようなことがあれば、その職務の威信と公正は害せられ、職務の執行に対する信頼の失われるに至ることは明瞭である。
所論刑法一九七条は、上述のような公務員の職務の性質に鑑み、その職務の威信と公正を害すると認められる収賄の非行を犯罪として処罰することを定めたものであって、同条において、公務員が、その他の者と区別して取扱われているからといって、右はもとより合理的な根拠に基づくものであり、公務員に対し、不当に不利益な取扱をするものということはできない。されば、同条が憲法一四条に違反するとの論旨は理由がない。
よって、刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村又介 裁判官 入江俊郎 裁判官 池田克 裁判官 垂水克己 裁判官 河村大助 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 奥野健一 裁判官 高橋潔 裁判官 高木常七 裁判官 石坂修一)