大判例

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最高裁判所大法廷 昭和22(れ)173 判決

主 文

本件上告を棄却する

理 由

弁護人吉村孫一上告趣意第一点は「原審判決ハ憲法違反ノ違法アルモノトス即チ

原審公判調書「第四四七丁第四四八丁ニ於テ問フ「被告人ハa駅ニ下リテカラC事

DヤEニ会ハナカツタカ」「答へ会ヒマセヌ私シハ警察デハ夫レ等ノ人ニ会フタヤ

ウニ申シマシタガソレハヤキヲ入レラレ無理ニ云ハサレタノデアリマス」原審公判

調書第四五一丁及第四五二丁ニ於テ問フ「被告ハ警察官ノ取調ニ対シテハ右様ナ事

ニナツタノデ材木ヲ取リニ行クト云ツタノハ嘘テ何カ悪イ事ヲヤリニ来タノダト直

感シタト述べテ居ルカ如何」「答其ノ様ニ云ヒマシタソレハ警察デヤキヲ入レラレ

タノデ問ハレル儘ニ嘘ヲ云ツタノデス」原審公判調書第四五四丁ニ問フ「被告人ハ

検事ノ取調ニ対シテハF等が強盗ヲヤルコトガ判ツタノデ致方ナク承諾シGト云フ

所へ仲間ト一諸ニ行ツタ様ニ述ベテ居ルガ何フカ」「答へ其ノ時ハ警察ノ二階デ取

調ヲ受ケタノデ警察ニ言フタ事ガ違フ事ヲ云へバ又ヤキヲ入レラレルト思フタノデ

其ノ様ニ申シタノデス」原審公判調書第四五五丁ニ「問然シ被告人ハ警察ノ取調ニ

対シテモ此ノ様ニ述ベテ居ルガ如何此ノ時裁判長ハ被告人ニ対スル司法警察官ノ聴

取書中第十七十八項読聞ケタリ」「答へ其ノ様ニ申シマシタガソレハヤキヲ入レラ

レタノデ嘘ヲ云ツタノデス」原審公判調書第四五六丁「問フ強制処分ニ依ル予審判

事ノ取調ノ際事実ヲ認メタカ」「答へ事実ハ認メマシタ然シ其ノ時モ違フコトヲ云

フト警察へ戻サレルト思フノデ嘘ヲ申シタ訳デスソレデ公判ノトキ本当ノ事ヲ云フ

ト思テ居リマシタ」「問トコロガ原審(第一審ノコト)公判テハ此ノ様ニ述ベテイ

ルデハナイカ此ノ時裁判長ハ原審(第一審ノコト)公判調書中記録三五一丁裏八行

ヨリ三五三丁表一行迄読聞セタリ」「答私ハ原審(第一審ノコト)公判デハ其ノ様

ニハ云ヒマセン」以上ノ如クニシテ被告人ハ警察ニ於テ司法主任ヨリ拷問ニヨリ強

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制セラレ自白シタルモノデアルカラ憲法第三十六条ニハ公務員ニヨル拷問及残虐行

為ハ絶対ニ禁ジラレ又憲法第三十八条ハ何人モ自己ニ不利益ナ供述ヲ強要セラレザ

ルコトヲ明記シ其ノ第三項ニ於テ何人ト雖モ自己ニ不利益ナル唯一ノ証拠カ本人ノ

自白ナル場合ニ於テハ有罪トセラレ又ハ処罰セラルベキコトナカルベキコトヲ規定

アルヲ以テ自白ヲ強要サレザルハ勿論アルガ任意ノ自白デモ夫レガ唯一ノ証拠ノ場

合ハ之ヲ証拠トシテ断罪ノ資料ト出来ナイ事ニナツテ居ルニ抱ラズ原審判決ハ拷問

ニヨル被告人ノ自白ノミヲ以テ其ノ断罪ノ資料ト為セリ即チ原審公判調書其ノ証拠

ノ摘示ニ判示第一ノ事実ハ 一、被告人及HIDニ対スル司法警察官及検事各聴取

書中同人等ノ判示同旨ノ供述ノ記載トアリテ拷問ニ基ク被告人ノ自白聴取書ヲ唯一

ノ証拠トシ被告人ノ判示同旨ノ供述ノ記載トアルモ原審ニ於テハ犯罪事実ヲ否認シ

テ居ルヲ以テ判示同旨ノ供述ナキモノナレバ其ノ証拠ハ被告人ノ拷問ニヨル自白ノ

ミニヨリ判決ヲ為シタルモノニシテ他二何等ノ人的物的ノ証拠ナシ此ノ如キハ全ク

憲法第三十六条第三十八条ニ違反スル違法アルモノナレバ原審判決ハ之ヲ維持スル

能ハス破毀スベキモノト信ズ」というにある。

しかし記録を精査しても、被告人が警察署で拷問されて自白したといふことは、

被告人が原審公判でそのやうに述べているだけで、その他には被告人の供述を支持

する証跡は一つもなくかえつて、原審が拷問の有無について調査した証人A(事件取

調の巡査)同B(司法主任係の警察官)の各訊問調書によると、拷問のなかつたこ

とを認めうるのであるから、被告人に対する司法警察官の聴取書の内容が拷問によ

る自白であるという事実はこれを認めることが出来ない。しかも、原審は、右聴取

書の外に本件犯行の模様、被害の顛末等を詳記した原判決に挙示する他の証拠をも

綜合して原判示第一事実を認定したのであるから、原判決には所論のやうな違法は

なく論旨は理由がない。

同第二点は「原審判決ハ刑事訴訟法ノ応急的借置ニ関スル法律第十条及刑事訴訟

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法第三百三十六条違反ナリトス、刑事訴訟法ノ応急的措置ニ関スル法律第十条ハ憲

法第三十八条ト同一ノ規定デ自白ノ強要ヲ禁止シ又本人ノ任意ノ自白デモ本人ニ不

利益ノ唯一ノ証拠デアル場合ハ之ヲ証拠ト為スコトガ出来ナイノデアルニ原審判決

ハ此ノ拷問ニヨル強制自白並ニ被告人ノ不利益ナル唯一ノ証拠デアル自白ノミヲ証

拠トシタカラデアル此ノコトハ第一点ノ説明ト同様デアル刑事訴訟法第三百三十六

条ニ事実ノ認定ハ証拠ニヨルト規定シタルニ抱ラズ原審判決ノ判示ニハ第一点ニ述

ベタル証拠ト為ス可カラサル拷問ニヨリ強制サレテ自白シタル司法警察官ノ聴取書

並ニ錯誤ニヨル検事予審判事ノ聴取書等ヲ証拠トシ他ニ何等ノ証拠ナキニ判決ヲ為

シタルモノデアルカラ結局事実ノ認定ヲ証拠ニ依ラザルモノデアルコトニナルカラ

刑事訴訟法第三百三十六条ノ違反デアルカラ法規違反トシテ原審判決ヲ破毀スベキ

モノトス」というにある。

しかし、原判決に挙示する証拠が拷問による自白でもなく、又被告人の自白が唯

一の証拠でもないことは第一点において説明したとおりであるから、原審がこれら

の証拠によつて原判示第一事実を認定したところで、原判決には所論のような違法

はなく、論旨は理由がない。

同第三点は「原審判決ハ刑事訴訟法第四百十条第十九号ニ違反シテ居ルモノデア

ル刑事訴訟法第四百十条第一項ニハ左ノ場合ニハ常ニ上告ノ理由アルモノトス其ノ

第十九号ニ判決ニ理由ヲ附セス又ハ理由ニ齟齬アルトキト規定シテアルカラ原審判

決ハ其ノ判決ノ理由ニ齟齬ノ違法アルカラデアル。原審判決第一ノ理由ニ於テ「右

Jノ言動ニ依リテ同人等が右G方ニ財物強取ノ為メ押入ル意図デアルコトヲ察知シ

ナガラ之レト共謀ノ上同日午後十一時五十分頃被告人及D、H、E某、Hハ直ニ同家

表入口カラ侵入シ其ノ屋内デE某ハ右Gニ対シ所携ノピストルヲ突付ケテ 「騒グ

トウツゾ」「隠匿物資ハ何処ニアルカ」等ヲ申向ケテ脅迫シ被告人及DハG及其ノ家

人三人ヲ所携ノ麻縄デシバリ」云々トアルモ被告人ハ原審ニ於テ事実ヲ否認スルノ

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ミナラズDハ原審ノ公判調書第四五九丁ニ於テ「問其ノ翌七日被告人ハ又b町へ行

ツタカ」「答行キマセン」「問フ七日ノ晩ニF等ト共ニ秩父ヨリc村へ行キ本件ノ被

害者デアルG方ニ押入リ強盗ヲ働イタノデハナイカ」「答ソノ様ナ事ハ致シマセン

其ノ七日ノ晩私、東京ノ自分ノ家ニ居タノデアル」ト陳述セルヲ以テ原審判決ノ第

一理由ノ如ク被告人ハDト共謀ノ事実ナシ此ノ事実ヲ排斥スルナラ其ノ理由ヲ附セ

ザル可カラズ然ルニ原審ニ於テ其ノ理由ヲ附セザルハ勿論原審判決ハ其ノ理由ニ齟

齬ヲ来シタ結果ナリ此ノ点ニ於テモ原審判決ハ違法アリ破毀スベキモノデアル」と

いうにある。

しかし、有罪判決の証拠説明としては、判示事実を認めた証拠を挙示すれば、こ

れと矛盾する他の証拠を排斥したことはおのずから明かなので、その取捨排斥の理

由まで明示する必要はない、又原判決に挙示する証拠によれば、原判示第一事実を

認定し得られるのであるから、原判決には所論のような理由齟齬の違法もなく、論

旨は理由がない。

同第四点は「原審判決ハ刑事訴訟法第四百十条第二十号ニ違反スル違法アルモノ

トス原審公判調書第四五一丁「答其ノ様ニ申シマシタガソレハ警察デヤキヲ入レラ

レタノデ問ハレル儘ニ嘘ヲ云ツタノデス」原審公判調書第四五三丁「答私ハ酒ニ酔

ツテイタノデ自動車ノ中デ眠ツテ仕舞ヒFニ起サレタノデスガ其ノ時自動車ハ止ツ

テ居リ外ノ者ハ何処へ行ツタノカ居リマセンデシタソレデ私ハFニ云ハレ田甫ノ土

デ自動車ノボデーノ横ニ書イテアツタKトイフ字ヲ消シマシタ」原審公判調書第五

二四丁証人Lノ訊問ノ際尾崎弁護人ヨリ裁判長ニ告ゲ証人ニ対シ「問Fニ命令サレ

自動車ノボデーノ横ノ字ヲ田甫ノ土デ消セト云ハレ其ノ為現場ニ行ク事ヲ止メタ男

ノアツタコトハ判ラヌカ。「答ソノコトハ知リマセヌ尤モ私ガ帰宅シテカラ自動車

ヲ調べタトコロボデーノ字ヲ土デ消シテアルコトガ判リマシタ、「問Fノ命令ニ服

サズ口論シテイル者ハナカツタカ。「答Fカ一回運転台カラ下リテ誰カト朝鮮人話

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ヲシテ居ル者ガアリマシタガ其ノ相手ガ残ツタカ否カ判リマセヌ。「問現場へ行ツ

タ者ガ一辺引キ返シテ来タカ」「答左様デスソシテ残ツタ三人ノ中ノ一人ガ案内シ

テ行キマシタ原審公判調書第四五四丁及四五五丁、四五六丁等ニ於テ事実ヲ否認シ

警察デヤキヲ入レラレテ(拷問ノコト)嘘ヲ云ツタト被告人ハ主張セリ原審判決ハ

此ノ否認ノ事実及Lノ自動車ノボデーノ横ノ字ヲ土デ消シテアツタトイフ被告人ノ

主張ト同一ノ事実如何ナル理由デ採用セザルカ殊ニ自動車ノ横ノ字ヲ消シタトノ事

実ハ被告人ニ有利ノ証言ナリ之等ノ事実ヲ排斥スルニ何ラカノ理由ヲ附シ判断ヲセ

サル可カラズ之ニ対シテ何ノ判断ヲセザルハ判決ニ示スベキ判断ヲ遺脱シタルモノ

ニ該当シ違法ナレバ破毀ヲ免レザルモノトス被告人ハ田甫ノ土ヲ持ツテ来テ字ヲ消

シタリ強盗ニ侵入シタリ僅カノ時間デ一人ノ身体デ二人ノ働キヲ出来ルモノデナイ

カラデアル」というにある。

しかし判決に判断を示さなければならないのは、刑事訴訟法第三百六十条のよ

うに、法律で特にその必要を定めた場合に限られるのであるから、所論のような事

実については判決に判断を示す必要はない。従つて論旨は理由がない。

同第五点は「被告人ハ自分ガ強盗ヲ為シタルモノデアルナラ七年デモ十年デモ不

服ハ云ハン服罪スル然レ共絶対ニヤラナイノデアルカラ無実ノ罪ヲキルノガクヤシ

自分ガ強盗ヲセナイコトハ天地神明ニ誓ツテモ強盗ハセナイト云フテ居レリ被告人

ノ云フ通リ実際強盗ヲヤラナイモノトセバ実ニ由々シク考へ重大問題デ個人ノ問題

デハナイ日本裁判権ノ信用ノ問題デアルカラ上告趣意書ハ期日ガナイ為メ詳細ニ表

ハスコト出来ザルヲ遺憾トスルモ上告趣意書ト本件記録ヲ精査シテ頂キ原審判決が

果シテ適確デアルヤ否ヤ真実発見ノ為メ原審判決ヲ破毀シ無罪ノ判決ヲシテ頂キタ

イノデス本件ハ原審ニ於テ被告人ニ有利ナルLナル証人ノ証言ヲ採用セズニ不利益

ナル事実ナキニ検事ノ附帯控訴アリタル故ヲ以テ第一審ノ判決ヨリ重ク六年ヲ七年

トスル判決ハ夫自体ニ於テモ妥当ヲ欠クモノナルガ故ニ公平ナル見地カラ観察シテ

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破毀セラレ度此段上告趣意書ヲ以テ開陳スル次第ナリ」というにある。

しかし、所論は結局、原判決に於ける事実の誤認及び量刑の不当を主張するので

あるから、刑訴応急措置法第十三条により上告適法の理由とはならないので、論旨

は理由がない。

よつて、裁判所法第十条第一号刑事訴訟法第四百四十六条により主文のとおり判

決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

検察官小幡勇三郎関与

昭和二十三年四月七日

最高裁判所大法廷

裁判長裁判官 三 淵 忠 彦

裁判官 長 谷 川 太 一 郎

裁判官 沢 田 竹 治 郎

裁判官 霜 山 精 一

裁判官 井 上 登

裁判官 栗 山 茂

裁判官 真 野 毅

裁判官 庄 野 理 一

裁判官 小 谷 勝 重

裁判官 島 保

裁判官 斎 藤 悠 輔

裁判官 藤 田 八 郎

裁判官 岩 松 三 郎

裁判官塚崎直義は出張につき署名捺印することができない

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裁判長裁判官 三 淵 忠 彦

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