最高裁判所大法廷 昭和23(れ)417 判決
主 文
本件再上告を棄却する。
理 由
弁護人安岡静四郎上告趣意第一点について。
しかし、一件記録を精査しても所論の如く司法警察官及び検事が被告人に自白を
強制したと認むべき形跡はどこにも発見することができない。されば、検事に対す
る自白を証拠として断罪の資料としたからといつて、第二審判決は憲法第三十八条
第二項に違背したものだということはできない。だから、原上告判決がこの点に
おいて第二審判決には違法がないと判示したのは正当であつて論旨は理由がない。
同第二点について。
しかし、一件記録によると、被告人が司法警察官に自白をしたのは被告人が警察
署に留置された日から十一、二日目であつて、その自白をした日から六、七日目に
検事に対して自白していることが肯認される。そして本件は統制品の闇売買に関す
る詐欺事件であつて、被害者は二名で他に仲介者二名が介在しており、犯行は広島
市内で行はれたが、被害者や仲介者一名は神戸市に居住する者で、共犯者のA某は
逃亡中で被告人は竊盗詐欺及び竊盗の前科あるものであること一件記録で明かなと
ころである。さればかゝる事情から推断すれば、被告人に対する拘束は不当に長いも
のとは認めることができない。それ故第二審判決は検事に対する被告人の自白を断
罪の資料としたからといつて憲法第三十八条第二項に違背したものだとはいえない。
だから原上告審が、この点においても第二審判決には違法がないと判示したのは正
当であつて論旨は理由がない。
同第三点について。
しかし、第二審判決の確定した事実は「被告人はB某と共謀の上昭和二一年一二
月初旬頃CDを介しE事F、G事Hに対し生ゴム三十個を代金十五万円で売渡す旨
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申詐り広島市a町I喫茶店で手附金名義でFより現金二万円をHより現金五万円を騙
取した」というにあつて、この事実を認定した資料として同判決の挙示せる第一審
の第二回公判論書中証人Dの供述記載が、自分はKから生ゴムの仕入をたのまれ広
島に来てJにゴムが手に入る様なら知らしてくれとたのんで帰つたところ二、三日し
て同人から電報が来たのでKから二万円受取つて来広し、J方に行つたところ同人
は証人にLを紹介しLは売手であるAというものを紹介してくれた、証人はAから
Mゴム株式会社販売部長Nと印刷してあつた名刺を貰らつてI喫茶店でLに二万円
を渡し手附金としてAに渡してくれとたのんだところLは金額もたしかめずAに渡
しAも亦その金額をたしかめず鞄に収めたので変に思つた、事件の起きた翌朝JL
が自分達の泊つている宿に来た際警察から来るから待てと申したところLは何故だ
か分らぬが逃げ出したという趣旨であり同しく証人Eの供述記載が自分はDがゴム
を買つた経験があるので同人にゴムの仕入をたのんだ、自分が売主というAと会つ
たのはI喫茶店で会つたが初めてで、その時Gが手附金五万円を出した、Aは人夫
や自動車を世話してやるといつたきり居なくなつたという趣旨であることは同判決
で明らかなところであるから、これ等の証人の供述記載が判示同趣旨の被告人の自
白を裏附けるに足る証拠力がないものという所論は理由なき独断である。されは第
二審裁判所がこの証人等の供述記載と共に被告人の自白を断罪の資料に供した以上
憲法第三十八条第三項にいわゆる自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場
合には当らない。だから原上告判決がこの点においても第二審判決には違法がない
と判示したのは正当であつて論旨は理由がない。
裁判官齋藤悠輔同沢田竹治郎の本件再上告事件に対する意見は次のとおりである。
憲法第八一条並びにこれに基く裁判所法第一〇条及び刑訴応急措置法第一七条に
いわゆる「処分」は行政処分就中法律、命令又は規則に準ずべき一般処分(例へば
各種の告示、物価の指定)を意味し、裁判就中司法機関の為す個々の訴訟行為を指
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すものではない。かかる個々の訴訟行為はつまり、訴訟手続上の行為であつてその
違法はいはゆる訴訟法違反たるに過ぎないものである。それ故かかる行為の違法は
判決に影響を及ぼさないときは仮りに憲法に違反することあつても、原則として上
告理由とはならないものであるし、(刑訴四一一条参照)判決に影響を及ぼす場合
でも大法廷事件として取り扱うべきものではない。今本件再上告に係る原上告判決
を見るに、その判断は単に第二審判決の一採証行為の適否に関するものたるに止り、
憲法において特筆大書する法律、命令、規則又は処分に関する判断ではない。され
ば本件再上告は、原上告判決の判断が法定事項の合憲性に関しない点で再上告適法
の要件を欠き不適法たるを免れない。
よつて刑事訴訟第四四六条に則り主文のとおり判決する。
この判決は理由に関する右の少数意見を除き他の裁判官全員の一致した意見であ
る。
検察官 安平政吉関与
昭和二十三年十月六日
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 塚 崎 直 義
裁判官 長 谷 川 太 一 郎
裁判官 沢 田 竹 治 郎
裁判官 霜 山 精 一
裁判官 井 上 登
裁判官 栗 山 茂
裁判官 真 野 毅
裁判官 島 保
裁判官 齋 藤 悠 輔
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裁判官 藤 田 八 郎
裁判官 岩 松 三 郎
裁判官 河 村 又 介
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