最高裁判所大法廷 昭和47(す)89 決定
主 文
本件忌避の申立を却下する。
理 由
本件忌避申立の理由は、別紙のとおりである。
申立の理由中、岡原裁判官について。
所論は、要するに、岡原裁判官は、すでに当裁判所に係属中の被告人A外一名に
対する国家公務員法違反被告事件(昭和四三年(あ)第一一〇一号)について、前
に福岡高等検察庁検事長として上告趣意書を提出した関係上同被告事件については、
回避しているところ、右上告趣意書を提出したことにより、これと憲法および法律
の解釈・適用上、同種・同質の論点をもつ本件被告事件についても、一体の原則の
もとにある検察官としては職務上関与したものと解すべく、刑訴法二〇条六号にい
う「事件について検察官の職務を行つたとき」に該当するから、職務の執行から除
斥されるべきであり、また、本件と同種の論点を含む前記事件につき自ら上告趣意
書を提出してその主張、見解を明らかにしている同裁判官が本件に関与することは
「不公平な裁判をする虞があるとき」に該当するから、同裁判官を忌避するという
のである。
しかしながら、刑訴法二〇条六号にいう「裁判官が事件について検察官の職務を
行つたとき」とは、裁判官がその任官前に、当該事件について、検察官として、あ
る具体的な職務行為をした場合をいうものと解すべきである。被告人A外一名に対
する国家公務員法違反被告事件と本件とは、その罪名を同一にしているとはいえ、
両者は、全く別個の刑事被告事件であるから、たとえ、所論指摘の事実があり、両
事件が憲法および法律の解釈上同種の論点を含み、検察官一体の原則があるからと
いつて、同裁判官が本件につき検察官の職務を行なつたものということはできない。
また、同裁判官が前に福岡高等検察庁検事長として前記被告人A外一名に対する被
- 1 -
告事件の上告趣意書において本件と同種の論点に関する法律上の見解を明らかにし
たからといつて、本件につき不公平な裁判をする虞れがあると疑うべき事由がある
とすることもできない。
申立の理由中、天野裁判官について。
所論は、要するに、天野裁判官は、昭和四五年三月から同年一〇月まで最高検察
庁次長検事として在職し、刑事上告事件につき検察庁法所定の職務権限を有したの
みならず、在職中にいわゆる札幌交通局事件、和教組事件および横浜中郵事件の上
告審判決がなされたのであるから、これらの事件の判旨と密接に関連する論点を含
む本件についても、次長検事として職責上当然なんらかの検察官の職務を行なつた
ものとして、刑訴法二〇条六号により、職務の執行から除斥されるべきであり、ま
た、同裁判官が本件に関与することは、不公平な裁判をする虞れがあるときにあた
る、というのである。
しかしながら、天野裁判官が所論の期間最高検察庁次長検事として在職し、その
間に所論各事件の裁判のあつたことは所論のとおりであるが、次長検事が所論の職
責を有し、また、本件が所論各事件の判旨と密接に関連する論点を含むとしても、
同裁判官が検察官として具体的な職務行為をした事実が認められないかぎり、前叙
刑訴法二〇条六号の趣旨に鑑み、本件について検察官の職務を行なつたときに該当
するということはできない。そして、本件について、弁護人らの上告趣意書が提出
されたのは、同裁判官が次長検事に就任する以前の昭和四四年八月三〇日と同月三
一日のことであり、それ以来本件に関して検察官から答弁書その他の書面の提出も
なく、今日に及んでいるのであつて、当裁判所の調査の結果によれば、同裁判官が
次長検事在職中本件につき具体的な職務行為をした事実のないことが明らかである。
また、同裁判官が前記の期間次長検事の職にあり検察庁法等に定める職務権限を
有していたからといつて、本件につき検察官として具体的な職務行為をした事実は
- 2 -
ないのであるから、同裁判官が本件の審理に関与することが、不公平な裁判をする
虞れがあるときに該当するものであるとは解されない。
よつて、申立人らの右申立は理由がないので、刑訴法二三条により、裁判官全員
一致の意見で、主文のとおり決定する。
昭和四七年七月一日
最高裁判所大法廷
裁判長裁判官 石 田 和 外
裁判官 田 中 二 郎
裁判官 岩 田 誠
裁判官 下 村 三 郎
裁判官 色 川 幸 太 郎
裁判官 大 隅 健 一 郎
裁判官 村 上 朝 一
裁判官 関 根 小 郷
裁判官 藤 林 益 三
裁判官 小 川 信 雄
裁判官 下 田 武 三
裁判官 岸 盛 一
裁判官 坂 本 吉 勝
- 3 -