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最高裁判所第一小法廷 平成10年(オ)1474号 判決 1999年2月25日

上告人

加藤正夫

外三名

右四名訴訟代理人弁護士

加藤謹治

被上告人

長瀬俶尾

外二名

右三名訴訟代理人弁護士

水口敞

中村弘

中村伸子

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人加藤謹治の平成九年五月一二日付け「上告趣意書」と題する書面記載の上告理由第一点、平成一〇年五月二二日付け「上告趣意補充書」と題する書面記載の上告理由五、同年七月一九日受付け「上告趣意書」と題する書面記載の上告理由第一点、第七点(五)、上告人長瀬貞子の上告理由三について

一  所論は、要するに、原判決には、基本となる口頭弁論に関与した裁判官によって判決裁判所を構成しなかった違法がある、というものである。

二  記録によれば、次の事実が認められる。

1  平成八年一二月二五日に開かれた原審の第一回口頭弁論に関与した裁判官は、裁判長裁判官A、裁判官B及び裁判官Cであり、この期日に弁論が終結された。そして、平成九年一月三一日に開かれた第二回口頭弁論の調書には、裁判長裁判官A、裁判官D及び裁判官Cが出席し、裁判長が判決原本に基づいて判決を言い渡した旨の記載があり、現在原裁判所に保存されている判決原本には、口頭弁論の終結時に関与した前記三名の裁判官の署名押印がある。

2  しかし、上告代理人が同日送達を受けた判決正本には、裁判官名の欄に、判決言渡しに関与した裁判長裁判官A、裁判官D及び裁判官Cの記載があって、裁判官Bの記載がない。また、右判決正本二一頁七行目「許されないもの」の次に「であり、また、調停における合意は、私法上の和解契約とは異なり、裁判所が、民法六九六条の要件を備え、かつ、民法九五条の要素の錯誤が存しないことを確認した上で、成立したものであるから、調停における合意について、民法九五条の錯誤無効の主張をすることは許されないもの」との裁判所の判断を示した記載があるが、右判決原本にはその記載がない。

3  上告人らは、上告をした上、原判決には法律に従って判決裁判所を構成しなかった違法があるとの趣旨を記載した上告理由書を提出したところ、原審は、改めて、口頭弁論終結時に関与した三名の裁判官の記名のある判決正本を当事者双方に送達した。

三1  前記のとおり、原裁判所に保存されている判決原本には、原審の口頭弁論終結時に関与した三名の裁判官の署名押印があるから、右判決原本に基づいて判決が言い渡され、裁判所書記官において判決正本を作成する際に、過誤を生じたものと見る余地がないわけでもない。

しかしながら、判決正本は、裁判所書記官が、その権限に基づき、裁判官から交付された判決原本により作成するものであるところ、、前記二2のとおり、当初上告代理人に送達された判決正本には裁判官Dの記載があるばかりでなく、その内容においても裁判所の判断部分に右判決原本にはない記載があることにかんがみると、これに相応する判決原本が存在していたのではないかとの疑いが残り、これを払拭することができない。

そうすると、原判決がその基本となる口頭弁論に関与した裁判官によりされたことが明らかであるとはいえないから、法律に従って判決裁判所を構成したということはできない。

2  したがって、原判決には、旧民訴法三九五条一項一号所定の事由がある。この点についての論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、その余の上告理由について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

よって、本件を原審に差し戻すこととして、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)

上告代理人加藤謹治の上告理由

○ 平成九年五月一二日付け「上告趣意書」と題する書面記載の上告理由

第一点 原審判決裁判官は、その基本となった口頭弁論に終始関与した裁判官でなければならないのに、基本たる口頭弁論調書に記載された裁判官と異なる裁判官が判決に加わった故、民訴第一八七条に反する。即ち具体的に述べるならば、原審で口頭弁論の際立会の上審理された裁判官は、A裁判長、B裁判官、C裁判官にして、和解は、C裁判官であり、D裁判官は、少なくとも審理や和解には立会われず、判決言渡時出廷されたのみなのに、判決書に同裁判官が署名捺印されたこと、民事訴訟法第一八七条第一項に反する。仮に同第一九一条第三項に該当するとしても、他の裁判官が判決にその事由記載されていない。(最高昭和三二、一〇、四 三小判、昭和三二年(オ)第二一二号民集一一巻一〇号一七〇三頁大審昭和一八、五、一一 民一判、昭和一七年(オ)第一〇六三号、昭和四八年五月一七日、東高判昭和四三年(ネ)三七三号大正三、二、二八東控民二判、大正二年(ネ)六四四号各参照。第一法規注解民事訴訟法(3)一八九頁以下参照)

第二点 <以下省略>

○ 平成九年五月二九日付け「上告趣意書訂正書」と題する書面記載の上告理由<省略>

○ 平成一〇年五月二二日付け「上告趣意補充書」と題する書面記載の上告理由

一~四 <省略>

五 最高裁平二(オ)第一八六九号、平三、四、二、三小法廷判決に見られるように判決原本と、当初上告人が送達を受けた判決とは、関与裁判官氏名が前者はB裁判官、後者は、D裁判官と、異るし、判決内容も前者の二一頁終から五行目「許されないもの」の次に、「というべきである。」となっているが、後者は二一頁終から五行目「許されないもの」の次に「でありまた……」と終の行「ものというべきである」の前に「許されない」が入って居り、争点の重要な点で同一性を欠くから、既に后から送達された判決正本なるものは、上告人貞子が去る五月十九日原審に返還済である。

六 <省略>

○ 平成一〇年七月一九日受付け「上告趣意書」と題する書面記載の上告理由

第一点 原審判決裁判官は、その基本となった口頭弁論に終始関与した裁判官でなければならないのに、基本たる口頭弁論調書に記載された裁判官と異なる裁判官が判決に加わった事は民訴法第一八七条に反する。即ち具体的に述べるならば、原審で口頭弁論の際立会の上審理された裁判官は、A裁判長、B裁判官、C裁判官にして、和解は、C裁判官が担当、D裁判官は、少なくとも審理や和解には立会われず、判決言渡時出廷されたのみなのに、判決書に同裁判所が署名捺印されていることは、民事訴訟法第一八七条第一項に反する。仮に同第一九一条第三項に該当するとすれば、他の裁判官が判決にその事由記載されていない。(最高裁昭和三二、一〇、四 三小判、昭和三二年(オ)第二一二号民集一一巻一〇号一七〇三頁大審昭和一八、五、一一 民一判、昭和一七年(オ)第一〇六三号、昭和四八年五月一七日、東高判昭和四三年(ネ)三七三号大正三、二、二八東控民二判、大正二年(ネ)六四四号各参照。第一法規注解民事訴訟法(3)一八九頁以下参照)

第二点~第七点(四)まで<省略>

(五) 最高裁平二(オ)第一八六九号、平三、四、二、三小法廷判決に見られるように判決原本と、当初上告人が送達を受けた判決とは、関与裁判官氏名が前者はB裁判官、後者は、D裁判官と異るし、判決内容も前者の二一頁終から五行目「許されないもの」の次に「というべきである。」となっているが、後者は二一頁終から五行目「許されないもの」の次に「でありまた……」と終の行「ものというべきである」の前に「許されない」が入って居り、争点の重要な点で同一性を欠くから既に后から送達された判決正本なるものは、上告人貞子が去る五月十九日原審に返還済である。

(六) <省略>

(附属物件目録・図面省略)

上告人長瀬貞子の上告理由

一・二 <省略>

三 次に原判決の唯一回丈の裁判で立会われたのは、裁判長A裁判官と右陪席B裁判官、左陪席で主任のC裁判官で、D裁判官は、立会されていないのに、判決文に登載されていることは、正に民事訴訟法に定める裁判所の構成によらずして判決したものか、或いは口頭弁論開始前にに判決が起草されていたものか知らないが、原審に於いて裁判長は、「本件は仮に結審判決しても又二、三、年すればむし返され、係争が完全に片付いたことにならないから和解を奬めると云われ、上告人としては、必死に和解手續の準備をなし息子が会社の事務迄割いて和解案を提出したが、被上告人らが一審でも認めていない「物件目録(二)、(三)の物件は、本上告人の被相續人からかと思われるが、生前中に贈与を受けたものであるから明渡の必要はない」と云った由にて、一回で和解勸告は打切りになった。

四 <省略>

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