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最高裁判所第一小法廷 平成10年(行ツ)94号 判決 1998年12月17日

大阪市中央区平野町四丁目六番一八号

上告人

株式会社 美々卯

右代表者代表取締役

薩摩和男

右訴訟代理人弁理士

西郷義美

大阪市住之江区北加賀屋三丁目四番七号

被上告人

株式会社 グルメ杵屋

右代表者代表取締役

椋本彦之

右当事者間の東京高等裁判所平成九年(行ケ)第六二号審決取消請求事件について、同裁判所が平成九年一一月二七日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人西郷義美の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

(平成10年(行ツ)第94号 上告人 株式会社美々卯)

上告代理人西郷義美の上告理由

一、原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背があるから、破棄を免れないものである。

1.まず、第一に、

(一)、原判決には、『取引者、需要者に「うどんを主材料とし魚介類、鶏肉、野菜類等の各種の具を合わせて食べる鍋料理」の一般的名称として認識されているものであるから、本件商標の登録査定時には普通名称化しており、その指定商品との関係においては自他商品の識別機能を有しないものというべきである。』と判示する(原判決第16頁第19行~第17頁第4行)。

(二)、しかしながら、

(1)、原判決は、取引者とともに、一般需要者を挙げてはいるが、重要な大多数の部分を占める需要者を欠いている。つまり、この一般需要者には、指定商品であるこの種の料理を製造し提供する者と、その料理を消費する者との、2つのグループに分かれる需要者が存在するものである。そして、原判決は、きわめて多くの需要者部分を占めるこの後者の需要者の認識がどのようであったものかの判断を充分には行っていないものである。

つまり、原判決は取引者に類する供給側の需要者の認識を検討しており、それらの供給側の需要者の認識はそれであり、もう一方のその料理を消費する最終消費者である需要者の認識ではなく、それは最終の需要者が普通名称あるいは慣用商標だと認識しているとは言えないものである。

(2)、そして、原判決には、いわゆる、普通名称化、慣用商標化した、あるいはそのような傾向を持つに到った名称は何故に登録商標であっても権利主張ができないものかの法的根拠の明示がない。しかし、思うに、商標中の普通名称化したとされる構成部分(本件では「うどんすき」の語句)は商標法第26条第2項、第3項により商標権の効力が制限され、そのために、商標法第4条第1項第11号の先願先登録商標として機能せず、後願商標の登録を排除できない、との法律構成によるものと思われる。

しかし、前述したように、原判決は需要者の大多数を占める最終消費者たる需要者の認識の判断に欠けるので、前記商標法第26条第2項、第3項の解釈適用を誤ったといえ、そのため需要者の利益を保護することができず、結局、商標法第1条の目的を達成できず、商標法第1条にも違背するものである。

2.第2に、

(一)、原判決は、『また、原告は、仮に、「うどんすき」の語がサービスの分野において使用された結果、普通名称化しあるいは慣用商標化したとしても、その使用は引用商標1ないし3の登録当時役務商標の制度がなかった法の不備のため原告において商標管理を徹底できなかったことによる悪意の使用であって、悪意をもって使用された結果慣用となっても慣用商標とも普通名称とも認められない旨主張するが、「うどんすき」なる語が普通名称化した経過は前記認定のとおりであり、これが悪意の使用の結果であると認めるに足りる証拠も存しないから、原告の上記主張は理由がない。』と判示する(原判決第16ページ第8行~第17行)。

(二)、ここに判示されたように、当時役務商標の制度がなく、この法の不備のため原告の商標管理が不徹底となった事は確かであり、そのことが原告側に不利益な問題を惹起することとなったのである。

(三)、そして、原判決は、「悪意の使用の結果であると認めるに足りる証拠も存しない」と判示するが、商標法第39条で準用する特許法第103条は、非権利者による商標の使用については、過失を推定している。つまり、悪意が推定されるものであるといえる。そしてなお、類似の商品についての登録商標の使用は商標法第37条第1項第1号に規定するいわゆる禁止権を侵害するものであるが、指定商品の類を越えての侵害判断は微妙であり、積極的な差止め請求などは困難な問題をはらんでいるので、原告の権利行使は実際上は不可能であった。

(四)、そして、このような悪意の一方的な使用の結果にによるものであるにも拘らず、普通名称化、慣用商標化したとし、画一的に権利を消滅させ剥奪されることは到底容認できないものである。法の理念である公平の原理に反するものといいうる。

(1)、これはつまるところ、商標法第26条第2項、第3項の普通名称化、慣用商標化の解釈適用に誤りがあったからといえ、以下のように解釈適用することで誤りを回避できたと考える。

まず、その骨子を述べると権利者が商標管理の徹底などの普通名称化の防止策を法律上為し得たのかという局面と、他方権利者以外の使用者はその商標の使用ないし認識にいたる状態が法上容認しうる状態で生じていたものかの両局面を比較考量して、両者に与えられる利益不利益の配分を決定すべきものである。

(2)、それには具体的に以下のような比較考量、利益考量がなされるべきである。

<1>、まず、権利者側の利益とはどのような点にあるかというと、商標について顕著性のある名称とそうでない名称とは画一的に分類されるべきものではなく、その両極端の間にはそのどちらともいえないグレーンゾーンとでもいいうる時期、言い換えればその顕著性の度合いに軽重の差がある時期が存在するはずである。つまり言うならば、準普通名称、あるいは、準顕著性を有する商標とも言うべき状態にある時期である。この軽重による顕著性の有無の振り分けを前述した権利者のその法的責任を勘案して決定する事で木目の細かな、公平な責めを負わせうるのである。

<2>、つぎに、非権利者は、普通名称化した名称を使用する自由を獲得する場面であるが、この自由も画一的な内容で認められるものではなく、その法的責任の遵守努力の多寡によって決定されるべきものと考える。つまり、悪意使用の場合にはその使用の自由は大きく制限されるべきものと考える。

<3>、このように権利者と非権利者との利益考量を法的責任を勘案して行う事こそ公平というべきものである。

(3)、また特に付記すれば、商標が普通名称化の傾向を持つか持たぬ状態のときに、関係当局が、普通名称化したとの決定をいち早く為すことは慎重にして頂きたい。普通名称化を促進させ決定的なものにしてしまうからであり、それこそ取り返しが極めて困難となるからである。

二、以上のとおり、原判決には商標法第26条第2項、第3項を誤って解釈適用しており、判決に影響を及ぼすこと明かなる法令の違背が有り、そして商標法第1条に違背するものである。さらには私有財産性を保障した憲法第29条に違背しており、原判決は破棄されるべきものである。

以上

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