最高裁判所第一小法廷 平成11年(受)663号 判決 2003年3月27日
上告人 甲野太郎
上告人 甲野建設株式会社
同代表者代表取締役 甲野太郎
上記両名訴訟代理人弁護士 笠井浩二・角田雅彦
被上告人 乙山大助
同訴訟代理人弁護士 遠藤涼一
五十嵐幸弘
主文
1 原判決を次のとおり変更する。
第一審判決主文第二項を次のとおり変更する。
ア 上告人甲野太郎は、被上告人に対し、一四四七万九三七六円を支払え。
イ 被上告人のその余の予備的請求を棄却する。
第一審判決主文第三項及び第四項を次のとおり変更する。
ア 被上告人は、上告人甲野建設株式会社に対し、上告人甲野太郎から一四四七万九三七六円の支払を受けるのと引換えに、第一審判決別紙物件目録記載四の建物を明け渡せ。
イ 上告人甲野建設株式会社のその余の反訴請求を棄却する。
2 訴訟の総費用は、これを一〇分し、その一を上告人甲野太郎の、その二を上告人甲野建設株式会社の、その余を被上告人の負担とする。
理由
上告代理人笠井浩二、同角田雅彦の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1) 上告人甲野太郎(以下「上告人甲野」という。)は、平成四年七月二〇日、被上告人に対し、五〇九七万円を、利息を年六・八五%、損害金を年一五%の割合とし、同年八月以降毎月末日の前日限り五三万一五九六円ずつ元利均等払により返済し、上記支払を二か月分以上怠ったときは期限の利益を喪失するとの約定で貸し渡した。被上告人は、同日、上告人甲野に対し、上記貸付金を被担保債権として、その所有する第一審判決別紙物件目録記載一ないし三の土地と同記載四の建物(以下、「本件建物」といい、上記各土地と一括して「本件不動産」という。)を譲渡担保に供し、売買を原因とする所有権移転登記を経由した。
(2) 被上告人は、平成四年一二月二九日を最後に上記貸付金の返済を怠ったため期限の利益を喪失し、上告人甲野は、同五年四月一四日、上告人甲野建設株式会社(以下「上告人甲野建設」という。)に対し、本件不動産を売り渡し、その旨の所有権移転登記を経由した。
(3) 被上告人は、上記(2)のとおり上告人甲野が本件不動産を処分したことにより、これらの所有権を確定的に失うとともに、同上告人に対し、清算金の支払請求権を取得した。その金額は、一四四七万九三七六円である。
(4) 被上告人は本件建物を占有している。
2 第一審において、被上告人は、主位的請求として、上告人各自に対し、本件不動産につき各自が経由した所有権移転登記の抹消登記手続を求め、予備的請求として、上告人甲野に対し、本件不動産の清算金及びこれに対する上記1(2)の譲渡担保権実行の日の翌日である平成五年四月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。一方、上告人甲野建設は、被上告人に対する反訴請求として、本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求め、被上告人は、この請求に対する抗弁として、上告人甲野に対する清算金及びこれに対する遅延損害金の支払請求権を被担保債権とする留置権を主張した。第一審が被上告人の主位的請求を棄却し、予備的請求及び上告人甲野建設の反訴請求を一部認容したところ、上告人らが敗訴部分を不服として控訴した。なお、被上告人は、第一審及び原審において、本件建物の明渡債務につき履行の提供をした旨の主張立証をしていない。
3 原審は、上告人甲野は、被上告人が清算金請求権を取得した日の翌日から本件清算金支払債務につき履行遅滞の責任を負うものとして、同上告人に対し、清算金一四四七万九三七六円(以下「本件清算金」という。)に加えてこれに対する平成五年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を命ずる限度で被上告人の請求を認容した。また、上告人甲野建設の建物明渡等請求については、被上告人に対し、上告人甲野から本件清算金及び上記遅延損害金の支払を受けるのと引換えに、本件建物を上告人甲野建設に明け渡すよう命ずる限度で認容した。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
譲渡担保権の実行に伴って譲渡担保権設定者が取得する清算金請求権と譲渡担保権者の譲渡担保契約に基づく当該譲渡担保の目的不動産についての引渡しないし明渡しの請求権とは同時履行の関係に立ち、譲渡担保権者は、譲渡担保権設定者から上記引渡しないし明渡しの債務の履行の提供を受けるまでは、自己の清算金支払債務の全額について履行遅滞による責任を負わないと解するのが相当である(最高裁昭和四二年(オ)第一二七九号同四六年三月二五日第一小法廷判決・民集二五巻二号二〇八頁、最高裁昭和三二年(オ)第三七二号同三七年一月一六日第三小法廷判決・裁判集民事五八号二三頁参照)。したがって、被上告人が本件建物の明渡債務につき履行の提供をしたことの主張立証がない本件においては、上告人甲野が本件清算金の支払債務につき履行遅滞の責任を負って本件清算金に対する遅延損害金が発生することはない。そうすると、原審の上記判断のうち、被上告人の本件清算金に対する遅延損害金の請求を認容した部分及び上告人甲野建設の本件建物明渡等請求を本件清算金だけでなくこれに対する遅延損害金との引換給付とする限度で認容した部分は、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は、これと同旨をいうものとして理由がある。
5 以上によれば、被上告人の上告人甲野に対する請求は、本件清算金の支払を求める限度で理由があり、これに対する遅延損害金の請求は棄却すべきものである。また、上告人甲野建設の被上告人に対する建物明渡等請求については、被上告人が上告人甲野から本件清算金のみの支払を受けることとの引換給付とする限度で認容すべきものである。原判決中、上告人らの敗訴部分はこれと異なる限度において破棄を免れず、これを主文第一項のとおり変更することとする。なお、上告人らのその余の請求に関する上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除された。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 深澤武久 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉徳治 裁判官 島田仁郎)