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最高裁判所第一小法廷 平成12年(行ヒ)80号 判決 2002年7月18日

平成一二年(行ヒ)第七六号上告人

神鋼電機株式会社

同代表者代表取締役

A

同訴訟代理人弁護士

入澤洋一

池田健司

平成一二年(行ヒ)第七七号上告人

株式会社日立製作所

同代表者代表取締役

B

同訴訟代理人弁護士

田淵智久

file_4.jpg村誠

清水真

緒方延泰

平成一二年(行ヒ)第七九号上告人

株式会社安川電機

同代表者代表取締役

C

同訴訟代理人弁護士

朝比奈新

同訴訟復代理人弁護士

長堀靖

平成一二年(行ヒ)第八〇号上告人

三菱電機株式会社

同代表者代表取締役

D

同訴訟代理人弁護士

海老原元彦

廣田寿徳

島田邦雄

谷健太郎

田子真也

本村健

平成一二年(行ヒ)第八一号上告人

株式会社明電舎

同代表者代表取締役

E

同訴訟代理人弁護士

田中圭助

水谷彌生

喜多村勝徳

奥村裕二

本藤光隆

吉村正貴

奥原喜三郎

河合信義

吉井直昭

平成一二年(行ヒ)第八二号上告人

株式会社高岳製作所

同代表者代表取締役

F

同訴訟代理人弁護士

山近道宣

矢作健太郎

熊谷光喜

内田智

和田一雄

中尾正浩

平成一二年(行ヒ)第八三号上告人

富士電機株式会社

同代表者代表取締役

G

同訴訟代理人弁護士

狐塚鉄世

成田茂

成毛由和

戸谷博史

大串淳子

平成一二年(行ヒ)第八四号上告人

日新電機株式会社

同代表者代表取締役

H

同訴訟代理人弁護士

田村公一

小原健

榎本哲也

水上洋

平成一二年(行ヒ)第八五号上告人

株式会社東芝

同代表者代表取締役

I

同訴訟代理人弁護士

西迪雄

向井千杉

富田美栄子

平成一二年(行ヒ)第七六号、第七七号、第七九号ないし第八五号被上告人

古宮杜司男

外五名

右六名訴訟代理人弁護士

高橋利明

竹中喜一

土橋実

堀敏明

谷合周三

清水勉

羽倉佐知子

塚原英治

尾林芳匡

中野直樹

主文

本件各上告を棄却する。

上告費用は各上告人の負担とする。

理由

平成一二年(行ヒ)第七六号上告代理人入澤洋一、同池田健司、平成一二年(行ヒ)第七七号上告代理人古曳正夫、同田淵智久、同file_5.jpg村誠、同清水真、同緒方延泰、平成一二年(行ヒ)第七九号上告代理人朝比奈新、同復代理人長堀靖、平成一二年(行ヒ)第八〇号上告代理人海老原元彦、同廣田寿徳、同島田邦雄、同谷健太郎、同田子真也、同本村健、平成一二年(行ヒ)第八一号上告代理人田中圭助、同水谷彌生、同喜多村勝徳、同奥村裕二、同本藤光隆、同吉村正貴、同奥原喜三郎、同河合信義、同吉井直昭、平成一二年(行ヒ)第八二号上告代理人山近道宣、同矢作健太郎、同熊谷光喜、同内田智、同和田一雄、同中尾正浩、平成一二年(行ヒ)第八三号上告代理人狐塚鉄世、同成田茂、同成毛由和、同戸谷博史、平成一二年(行ヒ)第八四号上告代理人田村公一、同小原健、同榎本哲也、同水上洋、平成一二年(行ヒ)第八五号上告代理人西迪雄、同向井千杉、同富田美栄子の各上告受理申立て理由について

1  本件は、東京都町田市(以下「市」という。)の住民である被上告人らが、市が日本下水道事業団(以下「事業団」という。)に委託した各下水道施設建設工事(以下「本件各委託工事」という。)について、事業団が平成五年一月二九日から同六年二月一八日までの間に上告人株式会社明電舎(以下「明電舎」という。)又は同三菱電機株式会社(以下「三菱電機」という。)との間で請負契約を締結して発注した各電気設備工事(以下「本件各発注工事」という。)に係る工事請負代金が、談合によって不当につり上げられ、市がこれを負担することにより損害を被ったとし、市は、談合をした上告人ら及びこれに加功した事業団に対し、不法行為による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず、その行使を違法に怠っているとして、地方自治法(以下「法」という。)二四二条の二第一項四号に基づき、市に代位して、怠る事実に係る相手方である上告人らに対し、損害賠償を求めている事案である。

原審の適法に確定したところによれば、被上告人らは、平成七年一一月二七日、市の監査委員に対して、本件各発注工事につき、上告人らが事業団から工事の件名と発注予定金額の呈示を受けて談合を行ったのであり、業者間に公正な競争が確保されていたなら、契約金額は少なくとも二〇%は低くなったはずであり、事業団及び上告人らは、共同不法行為により契約金額を不当につり上げて、工事委託者として最終的に契約金額を負担した市にその差額相当の損害を与えたのであるから、市長は、損害賠償請求権を行使して、市の被った損害をてん補する措置を講ずべきであるのにこれを怠っているとして、その措置を講ずべきことを勧告することを求める本件監査請求をしたというのである。

論旨は、いずれも、本件監査請求については、監査請求期間の制限を定めた法二四二条二項本文の規定(以下「本件規定」という。)の適用があるというべきであり、本件規定の適用がないとした原審の判断には、法令解釈の誤り、判例違反がある旨をいう。

2  本件規定は、監査請求の対象事項のうち財務会計上の行為については、当該行為があった日又は終わった日から一年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが、上記の対象事項のうち怠る事実については、このような期間制限は規定されておらず、怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。もっとも、特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合には、当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生したと認められるのであるから、これについて上記の期間制限が及ばないとすれば、本件規定の趣旨を没却することとなる。したがって、このような場合には、当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである(最高裁昭和五七年(行ツ)第一六四号同六二年二月二〇日第二小法廷判決・民集四一巻一号一二二頁参照)。しかし、怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることにかんがみれば、監査委員が怠る事実の監査をするに当たり、当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には、当該怠る事実を対象としてされた監査請求に上記の期間制限が及ばないものとすべきであり、そのように解しても、本件規定の趣旨を没却することにはならない(最高裁平成一〇年(行ヒ)第五一号同一四年七月二日第三小法廷判決・裁判所時報一三一八号一頁参照)。

3  本件監査請求の対象事項は、市が事業団及び上告人らに対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実であるところ、当該損害賠償請求権の発生原因は、上告人らが事業団から工事の発注予定金額等の呈示を受けて談合をした結果に基づいて、上告人明電舎及び同三菱電機が事業団と不当に高額の工事請負代金で請負契約を締結し、本件各委託工事の委託者として最終的に上記工事請負代金相当額を負担することになる市に対し、公正な競争により形成されたであろう請負工事代金額と談合によりつり上げられた請負工事代金額との差額相当の損害を与える不法行為を行ったというものである。これによれば、本件監査請求について監査を遂げるためには、監査委員は、上記談合行為等があったか否か、これにより上記差額が生じたか否かを検討するとともに、市が本件各委託工事を委託するために事業団との間で締結した委託協定の内容、委託費用の支払経過等を明らかにして、市が本件各発注工事の工事請負代金を最終的に負担させられ損害を被ったか否かを検討しなければならないこととなる。しかしながら、市と事業団との間における委託協定の締結や委託費用の支払等の財務会計上の行為が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて市の事業団及び上告人らに対する損害賠償請求権が発生したと認められるものではなく、監査委員は、上記のような談合行為等とこれに基づく事業団と上告人明電舎及び同三菱電機との請負契約の締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること、これにより市に損害が発生したことなどを確定すれば足りるのであるから、本件監査請求は市の財務会計上の行為を対象とする監査請求を含むと解さなければならないものではない。したがって、本件監査請求を本件規定の適用がない怠る事実に係るものと認めても、本件規定の趣旨が没却されるものではなく、本件監査請求については本件規定による監査請求期間の制限が及ばないものと解するのが相当である。前掲第二小法廷判決の示した法理は本件に及ぶものではない。

4  以上によれば、本件監査請求に本件規定の適用がないとした原審の判断は、結論において是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・藤井正雄、裁判官・井嶋一友、裁判官・町田顯、裁判官・深澤武久、裁判官・横尾和子)

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