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最高裁判所第一小法廷 平成14年(受)848号 判決 2004年10月18日

上告人 旧商号株式会社日本エネルギー商事

株式会社天神

同代表者清算人 杉田順一

同訴訟代理人弁護士 野中信敬

原口健・久保田理子

土井智雄・丹羽厚太郎

被上告人 株式会社スポット破産管財人

宮田眞

主文

1  原判決を破棄する。

2  被上告人の主位的請求に関する部分につき被上告人の控訴を棄却する。

3  被上告人の予備的請求に関する部分につき第一審判決を取り消す。

4  被上告人が上告人に対し第一審判決別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

5  訴訟の総費用は、これを二分し、その一を上告人の、その余を被上告人の負担とする。

理由

上告代理人野中信敬ほかの上告受理申立て理由第2の一の8について

1  原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。

(1) 株式会社スポット (以下「スポット」という。)は、昭和六三年一二月ころ、岩瀬観光開発株式会社(以下「岩瀬観光開発」という。)に対し資格保証金四八〇〇万円を預託し(以下、この資格保証金を「本件預託金」という。)、同社との間で、同社が経営していたゴルフ場(以下「本件ゴルフ場」という。)に設けられている預託金会員制ゴルフクラブに法人正会員として入会する契約(以下「本件ゴルフ会員契約」という。)を締結し、第一審判決別紙会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を取得した。

(2) 上告人は、平成八年三月一二日、岩瀬観光開発から本件ゴルフ場の営業の譲渡を受け、本件ゴルフ会員契約上の地位を同社から承継し、その権利義務関係を包括的かつ重畳的に引き受けた。

(3) スポットは、平成一〇年二月二七日に破産宣告を受け、被上告人が破産管財人に選任された。

(4) 被上告人は、平成一〇年三月、岩瀬観光開発に対し、破産法五九条一項により本件ゴルフ会員契約を解除する旨の意思表示をし、その後、同社を被告として本件預託金のうち四七八七万四〇〇〇円の返還を求める訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。別件訴訟については、同年九月二四日、岩瀬観光開発に対し四七八一万二二〇〇円及びこれに対する同年三月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員の支払を命ずる判決(以下「別件判決」という。)が言い渡され、確定した。

2  本件は、被上告人が、上告人に対し、主位的に、被上告人の岩瀬観光開発に対する預託金返還請求を認容する別件判決の効力が上告人にも及ぶと主張して、本件預託金のうち四七八一万二二〇〇円の返還及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、予備的に、被上告人が本件ゴルフ会員権を有することの確認を求める事案である。

原審は、上告人は岩瀬観光開発から預託金返還債務を含む本件ゴルフ会員契約上の権利義務関係を包括的かつ重畳的に引き受けたものであり、被上告人は、別件判決に基づいて本件預託金の返還を請求することができるとして、被上告人の主位的請求を認容した。

3  しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

確定判決は、民訴法一一五条一項各号に掲げる者に対してその効力を有するものであるから、被上告人と岩瀬観光開発とを当事者とする別件訴訟についての別件判決の効力が当事者以外の者である上告人に及ぶというためには、上告人が同項一号以外の各号に掲げる者のいずれかに該当しなければならない。

前記の事実関係によれば、岩瀬観光開発から上告人への前記営業譲渡は、被上告人が別件訴訟を提起する前に行われたものであるから、上告人が同項三号所定の当事者の口頭弁論終結後の承継人に該当しないことは明らかである。また、上告人が同項二号及び四号に掲げる者に該当しないことも、前記の事実関係に照らし、明らかである。したがって、別件判決の効力が上告人に及ぶと解すべき根拠はない。

そうすると、被上告人が上告人に対し別件判決に基づき本件預託金の返還を求めることができるとした原審の判断には、判決の効力に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。

4  以上によれば、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は、上記の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、上記説示したところによれば、被上告人の主位的請求は理由がないのでこれを棄却することとし、前記の事実関係によれば、被上告人の予備的請求は、その理由があることは明らかであるから、これを認容することとする。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島田仁郎 裁判官 横尾和子 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 泉徳治 裁判官 才口千晴)

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