大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

最高裁判所第一小法廷 平成2年(オ)742号 判決 1992年3月19日

上告人

谷村緑郎

右訴訟代理人弁護士

岩垣雄司

被上告人

栗栖昭一

松尾康夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人岩垣雄司の上告理由第一点について

一  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1(一)  細工一三は、昭和三一年五月一一日、間寿太郎に対し五万円を弁済期同月三一日、利息月五分の約で貸し付け、右貸金債権(以下「本件貸金債権」という。)を担保するため、同月一二日、間との間で第一審判決添付物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき細工を予約完結権者とする売買予約(以下「本件売買予約」という。)をし、同年六月一一日山口地方法務局岩国支局受付第四二三一号をもってその旨の所有権移転請求権保全仮登記(以下「本件仮登記」という。)を経由した、(二)その後、本件貸金債権及び本件売買予約に基づく予約完結権(以下「本件予約完結権」という。)は細工から田淵ユキヨ、井本清へと譲渡された後、昭和五九年一〇月一日、上告人が更に井本の相続人から譲渡を受け、同月一六日、その旨の本件仮登記の移転登記を経由した、(三) 上告人は、同月二〇日、間に対し、本件売買予約を完結する旨の意思表示をした。

2  本件仮登記が経由された後、本件土地は、間から山根正男、古川渡、更に昭和三六年四月一三日に栗栖肇及び松尾新三(持分各二分の一)へと譲渡され、同人らの死亡に伴い被上告人らが相続によりそれぞれ本件土地の所有権を取得し、被上告人松尾は平成元年三月三日に、被上告人栗栖は同年五月二五日にその旨の所有権移転登記を経由した。

3  被上告人ちは、本件売買予約に基づく本件予約完結権は本件貸金債権の弁済期である昭和三一年五月三一日から一〇年の経過により時効によって消滅したとして、本訴抗弁及び反訴請求原因において、本件予約完結権の消滅時効を援用する旨の主張をした。

二  ところで、民法一四五条にいう当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されるところ、売買予約に基づく所有権移転請求権保全仮登記の経由された不動産につき所有権を取得してその旨の所有権移転登記を経由した者は、予約完結権が行使されると、いわゆる仮登記の順位保全効により、仮登記に基づく所有権移転の本登記手続につき承諾義務を負い、結局は所有権移転登記を抹消される関係にあり(不動産登記法一〇五条、一四六条一項)、その反面、予約完結権が消滅すれば所有権を全うすることができる地位にあるから、予約完結権の消滅によって直接利益を受ける者に当たり、その消滅時効を援用することができるものと解するのが相当である。これと見解を異にする大審院の判例(大審院昭和八年(オ)第一七二三号同九年五月二日判決・民集一三巻六七〇頁)は変更すべきものである。したがって、被上告人らは本件予約完結権の消滅時効を援用し得る当事者であるとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

同第二、第三点について

本件売買予約は本件貸金債権担保のためにされたとの被上告人らの主張は自白の撤回には当たらず、また、被上告人らの原審における反訴の提起は上告人の同意がなくても適法であるとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官橋元四郎平 裁判官大内恒夫 裁判官大堀誠一 裁判官味村治 裁判官小野幹雄)

上告代理人岩垣雄司の上告理由

第一点 原判決には法解釈の誤り並びに判例違反及び理由不備の違法があり、破棄を免れない。

1 原判決は、売買の一方の予約に基づく予約完結権は、消滅時効がその援用権者によって援用されたときは時効によって消滅する、とした上、土地の転得者である被上告人らが時効の援用権者に該るかどうかを検討し、「不動産に関する売買の一方の予約がなされ、右予約上の権利(予約完結権)を保全するため仮登記がなされた場合、その後に当該予約完結権の目的物が第三者に譲渡されても、予約権利者がする完結の意思表示は予約義務者に対してなされるべきであり、目的物を取得した第三者に対してなされるべきではなく、この者は右売買の予約につき何らの義務を負担するものではないから、当該第三者は時効により直接の利益を受ける者に該らないと解し得ないではない(大審院昭和九年五月二日判決民集一三巻九号六七〇頁参照)」と言いつつ、「しかしながら、売買の一方の予約に基づく予約権利者の権利は特定の者(予約義務者)に対する権利ではあるが、これを登記(仮登記)することによって第三者に対しても主張することができることとなるところ、売買の一方の予約がなされこれを保全するため仮登記がなされた後にその目的物を取得した第三者は、予約権利者により予約完結権が行使され、これにより予約権利者が目的物の所有権を取得するときは、右仮登記の効力により当然に所有権を失う地位にあるから、当該第三者は右予約上の権利(予約完結権)の時効消滅により直接に利益を受ける者として当該予約完結権の時効消滅を援用しうる者に該当するものと解するのが相当である」とする。

2 そして、結局、右第三取得者たる一審被告が第一審第二三回口頭弁論期日において消滅時効を援用したから、予約完結権は時効により消滅したことになると判示する。

3 原判決の前記1の判示は、その挙示する判例に違反し、且つ、予約完結権の消滅時効の援用権者に関し、法律に違反する。

消滅時効は権利を行使すべき対象となる者において援用するのであり、前記大審院判例について原審自身言及するように、予約完結権の行使は第三取得者に対してなされるのではないのであるから、第三取得者を援用権者とすることはできない。手続法たる不動産登記法において、予約完結権を行使して仮登記に基づく本登記をしようとするときに、第三取得者に対して承諾を請求しうるものとされるからといって、右予約完結権の性質が格別変ってくる訳のものではない。

4 しかも、本件の場合、予約完結権は上告人より予約義務者たる訴外間に対して行使され、同義務者は何らの異議なくこれを承認しているのであり(原判決もこれらを認めている)、予約完結権行使についての権利者・義務者間において不動産売買の完結をみた後に何故義務者でもない第三取得者が消滅時効の援用をなしうるかについては、原判決は全く理由を示さない。この点理由不備という外ない。

第二点、第三点<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例