最高裁判所第一小法廷 平成21年(受)540号 判決 2009年10月01日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人長谷川宅司ほかの上告受理申立て理由について
1 本件は,簡易生命保険契約の被保険者である被上告人が,流産後に子宮内容除去術を受けたことについて,上告人に対し,上記保険契約に基づき3万円の手術保険金の支払を求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,平成6年9月27日,国との間で,被保険者を被上告人とし,保険期間を同日から平成21年9月26日までとする簡易生命保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
(2) 本件保険契約に適用される簡易生命保険特約約款には,被保険者が,同約款の定めにより入院保険金の支払われる入院中に,その入院の原因となった疾病により同約款の別表(以下「本件別表」という。)に掲げる手術を受けたときは,所定の手術保険金(以下,単に「手術保険金」という。)を支払う旨の定めがある。そして,本件別表は,手術保険金の支払対象となる手術のうち子宮に関する手術として,①帝王切開娩出術,②子宮外妊娠手術,③子宮全摘除術,④子宮の手術(開腹を伴う手術に限る。上記①,②又は③に該当する手術を除く。)のほか,「その他の子宮観血手術(人工妊娠中絶術を除く。)」を掲げている。
(3) 被上告人は,平成18年5月1日,流産し,同月18日,子宮内胎盤遺残のために入院して,経膣的操作により子宮内容除去術(以下「本件手術」という。)を受けた。
(4) 子宮内容除去術は,流産及び人工妊娠中絶の際に広く行われている基本的な手術の一つである。子宮内容除去術は,胎盤を胎盤鉗子で把持しけん引するなどして子宮壁から引きはがし,更に鈍匙で遺残胎盤を子宮壁からかきさらうことなどをその内容とするもので,これを行う際には,子宮壁と胎盤とをつなぐ血管を切断したり,子宮壁に損傷が生じたりして,一般に出血を伴う。
(5) 日本郵政公社は,本件保険契約上の国の権利義務を承継し,上告人は,郵政民営化法の施行に伴い,その管理に関する業務を承継した。
(6) 上告人は,本件別表にいう「子宮観血手術」とは,子宮に関する手術のうち,メス等を用い,生体に切開,切除の操作を加えることによって行われる出血を伴う手術を指し,経膣的操作により行われた本件手術はこれに該当しないと主張して争っている。
3 本件別表は,手術保険金の支払対象となる手術として「その他の子宮観血手術(人工妊娠中絶術を除く。)」を掲げるところ,ここにいう「子宮観血手術」は,切開,切除の操作によるものか否かにかかわりなく,子宮に関する手術のうち一般に出血を伴う手術を指すと解するのが相当である。そして,前記事実関係によれば,子宮内容除去術を行う際には,子宮壁と胎盤とをつなぐ血管を切断したり,子宮壁に損傷が生じたりして,一般に出血を伴うというのであるから,子宮内容除去術は,本件別表において手術保険金の支払対象外と明示されている人工妊娠中絶術を除き,本件別表にいう「子宮観血手術」に該当すると解すべきである。
前記事実関係によれば,本件手術は流産後に行われた子宮内容除去術であり,これが人工妊娠中絶術に該当しないことは明らかである。したがって,上告人は被上告人に対して手術保険金の支払義務を負うというべきである。
4 原審の判断は,以上と同旨をいうものとして是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 甲斐中辰夫 裁判官 涌井紀夫 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子)