最高裁判所第一小法廷 平成22年(許)14号 決定 2010年12月02日
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
抗告代理人中川紗希の抗告理由について
1 本件は,構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権者である相手方が,譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,担保の目的である養殖魚の滅失により譲渡担保権設定者である抗告人が取得した共済金請求権の差押えの申立てをした事案である。
2 記録によれば,本件の経緯等は次のとおりである。
(1) 抗告人は,魚の養殖業を営んでいたものであり,平成20年12月9日及び平成21年2月25日,相手方との間で,原々決定別紙1ないし8記載の各養殖施設(以下「本件養殖施設」という。)及び本件養殖施設内の養殖魚について,相手方を譲渡担保権者,抗告人を譲渡担保権設定者とし,相手方が抗告人に対して有する貸金債権を被担保債権とする譲渡担保権設定契約を締結した(以下,同契約により設定された譲渡担保権を「本件譲渡担保権」という。)。その設定契約においては,抗告人が本件養殖施設内の養殖魚を通常の営業方法に従って販売できること,その場合,抗告人は,これと同価値以上の養殖魚を補充することなどが定められていた。
(2) 平成21年8月上旬ころ,本件養殖施設内の養殖魚2510匹が赤潮により死滅し,抗告人は,a共済組合との間で締結していた漁業共済契約に基づき,a共済組合に対し,同養殖魚の滅失による損害をてん補するために支払われる共済金に係る漁業共済金請求権(以下「本件共済金請求権」という。)を取得した。
(3) 抗告人は,上記の赤潮被害発生後,相手方から新たな貸付けを受けられなかったため,同年9月4日,養殖業を廃止した。
(4) 相手方は,同年10月23日,本件譲渡担保権の実行として,本件養殖施設及び本件養殖施設内に残存していた養殖魚を売却し,その売却代金を抗告人に対する貸金債権に充当した。
(5) 相手方は,平成22年1月29日,熊本地方裁判所に対し,上記の充当後の貸金残債権を被担保債権とし,本件譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として,本件共済金請求権の差押えの申立てをした。同年2月3日,熊本地方裁判所は,同申立てに基づき債権差押命令を発付した。
抗告人は,本件共済金請求権に本件譲渡担保権の効力は及ばないなどとして,上記命令の取消しを求める執行抗告をした。
3 原審は,抗告人が本件共済金請求権を取得したことは通常の営業の範囲を超えるもので,本件譲渡担保権の効力は本件共済金請求権に及び,相手方は,養殖魚が滅失した時点以降,本件共済金請求権に対して物上代位権を行使することができるとして,抗告人の執行抗告を棄却した。
4 構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保権は,譲渡担保権者において譲渡担保の目的である集合動産を構成するに至った動産(以下「目的動産」という。)の価値を担保として把握するものであるから,その効力は,目的動産が滅失した場合にその損害をてん補するために譲渡担保権設定者に対して支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当である。もっとも,構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保契約は,譲渡担保権設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるから,譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合には,目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても,これに対して直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特段の事情がない限り,譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないというべきである。
上記事実関係によれば,相手方が本件共済金請求権の差押えを申し立てた時点においては,抗告人は目的動産である本件養殖施設及び本件養殖施設内の養殖魚を用いた営業を廃止し,これらに対する譲渡担保権が実行されていたというのであって,抗告人において本件譲渡担保権の目的動産を用いた営業を継続する余地はなかったというべきであるから,相手方が,本件共済金請求権に対して物上代位権を行使することができることは明らかである。
そうすると,抗告人の執行抗告を棄却した原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木勇)