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最高裁判所第一小法廷 平成23年(受)1948号 判決 2013年7月18日

主文

1  原判決中,第1審判決別紙計算書1記載の取引に関

する部分を破棄する。

2  前項の部分及び上告人の民訴法260条2項の裁判

を求める申立てにつき,本件を東京高等裁判所に差し戻す。

3  上告人のその余の上告を却下する。

4  前項の部分に関する上告費用は,上告人の負担とす

る。

理由

第1事案の概要

本件は,①被上告人が,A及び同社を吸収合併した上告人との間で,基本契約に基づいて継続的に金銭の借入れと弁済を繰り返したところ,各弁済金のうち利息制限法(平成18年法律第115号による改正前のもの。以下同じ。)1条1項所定の制限を超えて利息として支払われた部分を元本に充当すると第1審判決別紙計算書1及び2のとおり過払金が発生するとして,上告人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金合計182万7505円及び法定利息の支払を求め,②上告人が,原審において民訴法260条2項の裁判を求める申立て(以下「本件申立て」という。)をして,被上告人に対し,94万1038円及び遅延損害金の支払を求める事案である。

第2上告人の上告受理申立て理由について

1  原審の確定した事実関係の概要等は,次のとおりである。

(1)  被上告人は,平成5年8月,Aとの間で,継続的に金銭の借入れとその弁済が繰り返される金銭消費貸借に係る基本契約を締結し,これに基づき,同月から平成13年1月までの間,第1審判決別紙計算書1の「年月日」欄記載の各年月日に,「借入金額」欄記載の各金員を借り入れ,「弁済額」欄記載の各金員を支払った(以下「本件第1取引」という。)。

(2)  上記(1)の基本契約において定められた利息の利率は,利息制限法1条1項所定の制限利率を超えるものであった。

(3)  被上告人の弁済は,各貸付けごとに個別的な対応関係をもって行われることが予定されているものではなく,基本契約に基づく借入金の全体に対して行われるものであった。

(4)  本件第1取引開始当初の借入金額は20万円であり,その後も,各弁済金のうち利率を年1割8分として計算した金額を超えて利息として支払われた部分を借入金債務の元本に充当して計算すると,各借入れの時点における残元本額は100万円未満の金額で推移していたところ,平成8年8月26日,過払金24万1426円が発生している時点で,新たに100万円の借入れがされた。

(5)  上告人は,平成15年1月1日,Aを吸収合併した。

2  原審は,過払金が発生している時点で新たな借入れをした場合における利息制限法1条1項にいう「元本」の額とは,新たな借入金そのものの額をいうものとし,本件第1取引のうち平成8年8月26日の100万円の借入れ以降の取引に適用される制限利率を年1割5分と判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。

3  しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

継続的な金銭消費貸借取引に関する基本契約に基づいて金銭の借入れと弁済が繰り返され,同契約に基づく債務の弁済がその借入金全体に対して行われる場合において,過払金が発生している時点で新たな借入れをしたときには,利息制限法1条1項にいう「元本」の額は,新たな借入金に上記過払金を充当した後の額をいうものと解するのが相当である。

これを本件についてみると,前記事実関係によれば,過払金24万1426円が発生している時点で新たに100万円の借入れがされたというのであるから,利息制限法1条1項にいう「元本」の額は,上記借入金に上記過払金を充当した後の額である75万8574円となり,以降の取引に適用される制限利率は年1割8分となる。

4  以上と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由がある。

第3職権による検討

1  記録によれば,本件訴訟の経緯は,次のとおりである。

(1)  第1審は,平成23年3月17日,被上告人の請求を全部認容する旨の仮執行宣言付きの判決を言い渡した。

これに対し,上告人は,控訴を提起するとともに,上記仮執行宣言に基づく強制執行により損害を受けたなどとして,本件申立てをした。

(2)  被上告人は,平成23年6月7日,破産手続開始の決定を受け,Bが破産管財人に選任された。

(3)  原審は,平成23年5月30日,口頭弁論を終結し,同年6月27日,上告人の控訴を棄却する旨の判決を言い渡すとともに,同年10月7日,Bに対し,被上告人の訴訟手続の続行を命じ(以下「本件続行命令」という。),同判決をBに送達した。

(4)  被上告人の破産手続は,上告人から本件申立てに係る債権についての届出がされないまま,平成24年4月11日に終結した。

2(1)  民訴法260条2項の裁判を求める申立ての相手方が破産手続開始の決定を受けた場合,上記申立てに係る請求権は,破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって,財団債権に該当しない。したがって,上記申立てに係る請求権は,破産債権であるというべきである。

そうすると,被上告人が破産手続開始の決定を受けたというのであるから,上告人は,被上告人の破産手続において,本件申立てに係る請求権につき破産債権として届出をすべきものであって,その調査において,上記請求権について破産管財人が認めず,又は届出をした破産債権者が異議を述べた場合に,異議者等の全員を相手方として,本件申立てに係る訴訟手続の受継の申立てをすべきことになる。しかるに,原審は,上告人が上記の届出をしていないにもかかわらず,直ちに破産管財人であるBに対して本件続行命令をしたものであって,本件続行命令のうち本件申立てに係る部分は,違法であるというべきである。

(2)  そして,本案請求と民訴法260条2項の裁判を求める申立てに係る請求とが併合審理されている場合,上記申立ては,本案判決が変更されないことを解除条件とするものであり,その性質上,本案請求に係る弁論は分離することができない。したがって,上記申立てについての適法な受継がされないまま,本案請求に係る部分についてのみ,当事者が受継の申立てをし,又は受訴裁判所が続行命令をすることは許されない。

そうすると,本件続行命令は,結局,その全部が違法といわざるを得ない。

3 しかしながら,被上告人の破産手続は既に終結しているのであって,上告人が経るべき破産法所定の手続はもはや存在しない。そして,記録によれば,本件続行命令がされてから上記破産手続の終結までにBが当事者として関与した訴訟手続は,上告人の控訴を棄却する旨の原判決の送達を受けたことなどにとどまる。したがって,上記破産手続の終結により,原審の上記違法の瑕疵は治癒されたものと解するのが相当である。

第4結論

以上の次第であるから,原判決中,本件第1取引に関する部分は破棄を免れない。そして,同部分につき,過払金の額を確定させるため,本件を原審に差し戻すこととする。

また,上告人の本件申立ては,本件第1取引に関する部分とその余の取引に関する部分とを明確に区別してされたものではないため,その全部につき,本件を原審に差し戻すこととする。

その余の上告については,上告人が上告受理の申立ての理由を記載した書面を提出しないから,却下することとする。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 櫻井龍子 裁判官 金築誠志 裁判官 横田尤孝 裁判官白木勇 裁判官 山浦善樹)

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