最高裁判所第一小法廷 平成4年(オ)996号 判決
上告人
矢崎邦子
右訴訟代理人弁護士
浦功
下村忠利
谷野哲夫
黒田建一
信岡登紫子
被上告人
国
右代表者法務大臣
前田勲男
右指定代理人
喜多剛久
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
一 上告代理人浦功、同下村忠利、同谷野哲夫、同黒田建一、同信岡登紫子の上告理由第一点ないし第三点並びに第六点の一及び三について
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯することができる。右事実関係によれば、上告人は、期限付任用に係る非常勤の国家公務員である日々雇用職員、すなわち、任期を一日と定め、任用予定期間内は任命権者が別段の措置をしない限り任用を日々更新し、任用予定期間が経過したときは任期満了により当然に退職する職員として任用されたものであるところ、その任用当時、上告人が配属された大阪大学付属図書館閲覧課第一閲覧掛の事務量は、正規任用に係る常勤職員のみによって処理することができる範囲を超えていたが、直ちに常勤職員の定員を増加することは実際上困難であり、同掛の業務のうち図書の貸出し、返却図書の受領等のいわゆるカウンター業務は、特別の習熟、知識、技術又は経験を必要としない代替的事務であって、日々雇用職員によっても適正に処理することができるものであったとみることができる。このような事情の下においては、日々雇用職員として任用することを明示した上で、上告人をカウンター業務に従事させることを予定して任用したことが、職員の任用を原則として無期限とした国家公務員法の趣旨に反するものとまでは解し難い。したがって、大阪大学学長が上告人を日々雇用職員として任用したことを違法ということはできないとした原審の判断は、正当として是認することができ、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。原判決に所論の違法はない。論旨は、以上と異なる見解に立って、若しくは原判決を正解しないでこれを論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものであって、採用することができない。
二 同第五点について
原審の適法に確定した事実関係の下においては、上告人は、昭和五九年三月三〇日に任用予定期間が満了したことによって当然に退職したものとした原審の判断は、正当として是認することができ、右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を論難するものであって、採用することができない。
三 同第四点及び第六点の二について
上告人が、日々雇用職員として任用され、昭和五九年三月三〇日に任用予定期間が満了したことによって退職したことは前示のとおりであるところ、上告人が、任用予定期間の満了後に再び任用される権利若しくは任用を要求する権利又は再び任用されることを期待する法的利益を有するものと認めることはできないから、大阪大学学長が上告人を再び任用しなかったとしても、その権利ないし法的利益が侵害されたものと解する余地はない。もっとも、任命権者が、日々雇用職員に対して、任用予定期間満了後も任用を続けることを確約ないし保障するなど、右期間満了後も任用が継続されると期待することが無理からぬものとみられる行為をしたというような特別の事情がある場合には、職員がそのような誤った期待を抱いたことによる損害につき、国家賠償法に基づく賠償を認める余地があり得るとしても、原審の適法に確定した事実関係の下においては、右のような特別の事情があるということはできない。したがって、上告人の請求を排斥した原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原判決の右判断における法令の解釈適用の誤りをいうものであって、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大白勝 裁判官大堀誠一 裁判官小野幹雄 裁判官三好達 裁判官高橋久子)
上告代理人浦功、同下村忠利、同谷野哲夫、同黒田建一、同信岡登紫子の上告理由
《目次》
はじめに
第一点 判決文それ自体における理由不備・理由齟齬<省略>
第二点 常勤的「非常勤職員」の任用の法的根拠に関する理由不備・理由齟齬、憲法・法令解釈の誤りならびに最高裁判例違反
一 原判決の判示
二 国公法の非常勤職員ならびに期限付任用
1 国公法の原則
2 非常勤職員および期限付任用に関する規定
三 常勤的「非常勤職員」が発生するに至った歴史的経過
1 非常勤職員の発生
2 常勤的「非常勤職員」の発生
3 昭和三六年および昭和三七年の閣議決定
4 総定員法の制定と「非常勤職員」の定着
四 国立大学における常勤的「非常勤職員」の実情
1 昭和三六年文人任第五四号・昭和三七年文人任第四六号・昭和四二年文人任第五一号
2 各閣議決定とこれらに基く各通達の空洞化
3 常勤的「非常勤職員」の給与の「頭打ち解消」と文人給一〇九号
4 その後の非常勤職員の状況
五 判例と期限付任用が許される場合
1 判例の考え方
2 期限付任用が許される場合
六 原判決の違法性
1 常勤的「非常勤職員」(「日々雇用職員」)の法的根拠に関する法令解釈・適用の誤り
2 期限付任用の可否に関する理由不備・理由齟齬ならびに最高裁判例違反
3 任期の定めのない「日々雇用職員」であること
七 小括―憲法二七条一項、国公法一条、同附則一三条違反
第三点 日々雇用職員の任用期限に関する法令違反・最高裁判例違背
一 原判決の判示
二 任期の定めのない「日々雇用職員」の存在
三 上告人の採用における能力の実証
四 原判決の法令解釈の誤り
五 最高裁判例違背
六 小括
第四点 平等原則違反
一 上告人に対する解雇(雇止め)の理由
―いわゆる「三年期限の申し合わせ」と原判決の判示
二 大阪大学付属図書館における常勤的「非常勤職員」の実情
1 常勤的「非常勤職員」の職務の不可欠性、恒常性
2 大阪大学附属図書館における常勤的「非常勤職員」の取扱い
三 いわゆる「三年期限」の法的根拠の欠如と差別性
四 原判決の憲法一四条一項、国公法二七条違反
第五点 期限の定めのない任用への転化論ないしは解雇法理の類推適用に関する最高裁判例違反および法令解釈の誤り
一 上告人の主張と原判決の判示
二 最高裁判例について
三 原判決の違法性
四 解雇理由の不存在
五 小括
第六点 原判決の事実認定における理由不備・理由齟齬、経験則違背<省略>結び
はじめに
上告人は、原審において、第一審では、一九八五年(昭和六〇年)五月二三日の第一回口頭弁論期日から一九九〇年(平成三年)一一月二六日の判決言渡期日まで約五年半にわたり、二六回の弁論ないし証人尋問期日が開催されたのに、第一審の判決書は枚数にして、全部で一一枚、そのうち判決の実質的な理由部分にあたる「当裁判所の判断」はわずか二枚半、字数にして二、一〇〇字という、杜撰かつ粗雑なものであることを批判し、また、第一審判決が本件について民事判決書の「新しい様式」の方式によっているのは、不適切であって、結局、判決書の作成にあたって「手抜き」しようとしたものとしかいいようがないと批判した。
これに対し、原審の判決書の枚数は第一審の三倍の三四枚となり、しかもその様式は、いわゆる司法研修所方式によって、事実と理由に分け、事実では請求原因、請求原因に対する認否と反論を摘示し、理由中でこれに従って判断してゆくという方法をとった。この点では原判決は形式面において、一応上告人の批判に応えたものになったといえる。
しかしながら、原判決の判示の内容面においては、「日々雇用職員」たる上告人に対する期限付任用は許容され、また大阪大学当局による上告人に対する解雇(雇止め)は違法ではないとする結論のみが先行していて、理由中の判旨は一読しても極めて不分明であり、その論旨を的確に把握することは著しく困難なのである。その理由は「始めに結論ありき」にあるのであって、原審裁判所は、本件についてもともと、真剣に取り組む姿勢がなかったと解するほかないのである。
いうまでもなく、常勤的「非常勤職員」は、その必要性の故に、不可欠の存在として、公務員制度の周辺において絶えることなく生みだされては雇用され続けてきたのであり、実際には極めて多数の常勤的「非常勤職員」が公務の中枢部分を担ってきたし、現に担っているのが実情である。常勤的「非常勤職員」がいなければ、公務の遂行は全く不可能な事態に追い込まれることは必至である。
しかしながら、このような常勤的「非常勤職員」の法的地位については、その場限りの弥縫策が講ぜられるだけで、長年にわたって不安定なまゝ放置されてきたのであって、このような行政の怠慢をこのまゝ看過することは許されないのである。今や常勤的「非常勤職員」の問題について、司法の最高機関である最高裁判所としての正面からの正当な判断が要求される由縁である。
以下、本上告理由書において、まず第一に、原判決の判決文それ自体に理由不備・理由齟齬があること、第二に、常勤的「非常勤職員」の法的根拠について原判決には理由不備・理由齟齬および憲法・法令解釈の誤りがあり、かつ最高裁判例に違反すること、第三に、「非常勤職員」と期限付任用に関する判示には理由不備・理由齟齬および法令解釈の誤りがあり、かつ最高裁判例違反すること、第四に、原判決の判示が憲法・国公法の定める平等原則に違反すること、第五に、いわゆる転化論ないしは解雇法理の適用に関する原判決の判示は最高裁判例に違反し、かつ法令解釈に誤りがあること、第六に、事実面において理由不備・理由齟齬ならびに経験則違背があることについて、順次述べてゆくこととする。
第一点 判決文それ自体における理由不備・理由齟齬<省略>
第二点 常勤的「非常勤職員」任用の法的根拠に関する理由不備・理由齟齬、憲法・法令解釈適用の誤りならびに最高裁判例違反
原判決は、国家公務員法附則第一三条、人事院規則(以下、「人規」という)八―一四、人規八―一二第七四条一項三号、二項をもって、右各法令が「任期を一日として日々雇い入れられる職員の存在を肯定」していると判示し、さらに人規一五―二第二条(人規一五―四第一条)も掲記したうえ、これらを現行法上、「日々雇用職員」についての法的根拠としているものと解されるのであるが、原判決の右解釈には、理由不備・理由齟齬の違法があり、また、憲法二七条に違反し、国家公務員法(以下、「国公法」という)一条、同附則第一三条の解釈・適用を誤り、かつ、最高裁判所昭和三六年(オ)第一、三〇八号・昭和三八年四月二日第三小法廷判決(民集一七巻三号四三五頁)に違反し、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
一 原判決の判示
1 原判決は、次のとおり判示している。
まず理由第二項で「控訴人の任用」と題して、
① 「国公法は、職員の採用は競争試験又は選考(競争試験以外の能力の実証に基づく試験)によらなければならない旨(三三条、三六条)及び一般職員につき、その職務と責任が特殊性を有する場合には法律又は人規で国公法の特例を定めることができること(附則一三条)を定めている。これを受けて人規八―一四(非常勤職員等の任用に関する特例)は、非常勤職員の採用は競争試験又は選考のいずれにもよらないが行うことができる旨定めている。また、人規八―一二第七四条一項三号、二項は、任期を一日とし日々雇い入れられる職員の存在を肯定している。そして、控訴人(上告人)が昭和五六年五月一一日に日々雇用職員として採用されるについては競争試験及び選考のいずれも経ていないことが明らかである。したがって、控訴人(上告人)は、任命権者である大阪大学総長(昭和三二年七月二二日文部省訓令「人事に関する権限の委任等に関する規程」三条参照)により、日々雇用の非常勤職員として採用されたこととなる。」(原判決二一枚目表以下)。
また原判決は上告人を「時間雇用職員」として採用した根拠として「人規一五―一二第二条後段(当時は、人規一五―四第一条後段)」をも掲記する(原判決二二枚目表)。
② さらに原判決は第三項「控訴人(上告人)の職務の性質・内容と日々雇用職員として任用されるに至った事情」と題する項で、上告人が昭和五四年九月一日大阪大学附属図書館中之島分館に雇用されて以降に従事した業務を認定し、次いで昭和五六年五月一一日大阪大学附属図書館の日々雇用職員に採用されるに至った経緯について「控訴人(上告人)が日々雇用に任用されることになったのは、大阪大学付属図書館本館閲覧課の日々雇用職員の一人が自己都合で任用更新されなくなったためであり、同課の事務員の増加その他一時的事情によるものではない」と判示して(原判決二四枚目表)、その後上告人が従事した業務について認定したうえ、
「右事実によれば、控訴人が日々雇用職員として従事した業務内容は、単純な肉体労働ということはできないけれども、手引書に従い、時に先輩の助言を受けるならば容易に習熟できる程度のものであり、その遂行に専門的知識や経験を必要としない代替性の強い種類のものであるということができる。したがって、このような性格の業務に従事する控訴人を日々雇用の形態で任用したとしても、国公法の定める公務員の身分保障の趣旨に反するとはいえず、また、公務の能率的運用を阻害する等の国公法の趣旨に反するともいえない。要するに、控訴人を日々雇用職員として任用したことを違法ということはできない」。(原判決二五枚目裏)と結論づけた。
③ さらに原判決は「任命権者によって日々雇用の非常勤国家公務員として任用された職員につき、その任用を期限の定めのない非常勤国家公務員の任用とする余地はない」とも判示する(原判決二六枚目裏)。
2 原判決の右①の判示は、必ずしも明確ではないものの、国公法附則一三条、人規八―一四、同八―一二第七四条一項三号、二項、さらには人規一五―一二の第二条(人規一五―四第一条)をもって、現行法上、非常勤職員として「日々雇用職員」というものを肯認しうる法的根拠と解しているものと思われる。しかしながら、国公法上、常勤職員と同一時間勤務して同一の業務に従事し、長期間にわたって任用を反復されることによって、外形上常勤職員と何ら変わるところがないような「日々雇用職員」という存在は全く予定されていない。
また、原判決の右②の判示は、③の判示とあいまって(③の判示が違法であることは、上告理由第三点で述べる)、結局、「日々雇用職員」である上告人について期限付の任用は許されるものと判示したものと解すれば、最高裁昭和三八年四月二日第三小法廷判決が地方公務員について示した、期限付任用を必要とする特段の理由があり、かつ、職員の身分保障の趣旨に反しないという二要件を意識した判示と思われるが、そうだとすれば原判決の右判示には理由不備・理由齟齬の違法があるし、かつ右最高裁判例にも違反するものといわざるを得ない。
二 国公法と非常勤職員ならびに期限付任用
1 国公法の原則
(一) 日本国憲法は、一五条一項において「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定し、また同条二項は「公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と規定しているが、これは旧憲法下の官吏制度に対する反省のうえに立って、公務員についても国民主権主義、民主主義の徹底をはかろうとしたものである。さらに日本国憲法はこれを具体化して、七三条四号において、内閣の行う事務の中に「法律の基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること」を掲げ、官吏の任免権を内閣の権限とするとともに、この事務を掌理する基準は法律で定むべきものとした。この場合に法律の形式によるべきものとされるのは、国民がもっている公務員として服務する権利を基本的な前提として、その採用、勤務内容、罷免、懲戒等に関する原則等、公務員の勤務関係の全般に及ぶのである(鵜飼信成・国家公務員法(新版)(昭和五五年)二〇頁)。
国公法は、昭和二二年に制定され(旧国公法)、翌二三年の大改正を経て、現行国公法となったものであるが(昭和二三年一二月施行)、その一条一項において「国家公務員たる職員について適用すべき各般の根本基準(職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む。)を確立し、職員がその職務の遂行に当り、最大の能率を発揮し得るように、民主的な方法で、選択され、且つ、指導さるべきことを定め、以て国民に対し、公務の民主的且つ能率的な運営を保障することを目的とする」ことが明記されている。
(二) 国家公務員法の性格については、国公法一条一項が「各般の根本基準」としている点で「基準法としての性格」、同項が「職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置を含む」としている点で「保護法としての性格」、人事行政の技術を規範化したことにおいて「技術法としての性格」、および成績制度を樹立している点で「成績制度としての性格」、従来の制度を根本的・包括的に変更すべき任務を担う法律である点で「改革法としての性格」を、それぞれ有するものと言われているところであるが(浅井清・国家公務員法精義(新版)(昭和四五年)二六頁以下、中村博・国家公務員法(昭和五一年)一八頁)、その中で本件において特に重視さるべき点は基準法ないしは保護法としての性格である。
この点については、全農林警職法事件・最高裁昭和四八年四月二五日大法廷判決(判例時報六九九号二六頁)は、憲法二八条の規定する労働基本権が国家公務員について制約される根拠の一つとして、国公法における勤労条件法定主義を強調して、「その争議行為等が、勤労者をも含めた国民全体の共同利益の保障という見地から制約を受ける公務員に対しても、その生存権保障の趣旨から、法は、これらの制約に見合う代償措置として身分、任免、服務、給与その他に関する勤務条件についての周到詳密な規定を設け、さらに中央人事行政機関として準司法機関的性格をもつ人事院を設けている。ことに公務員は、法律によって定められる給与準則に基づいて給与を受け、その給与準則には俸給表のほか法定の事項が規定される等、いわゆる法定された勤労条件を享有しているのであって、人事院は、公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件について、いわゆる情勢適応の原則により、国会および内閣に対し勧告または報告を義務づけられている。そして、公務員たる職員は、個別的にまたは職員団体を通じて俸給、給料その他の勤務条件に関し、人事院に対しいわゆる行政措置を要求し、あるいはまた、もし不利益な処分を受けたときは、人事院に対し審査請求をする途も開かれているのである。このように、公務員は、労働基本権に対する制限の代償として、制度上整備された生存権擁護のための関連措置による保障を受けているのである。」と判示している。
右最高裁判決は、憲法二八条の明定する「勤労者」の労働基本権を、公務員について不当に制約するものとして、厳しい批判を免れないのであるが、右判旨によるとしても、少なくとも、国公法は国家公務員に関し憲法二五条等の規定に基く生存権を保障するものとの位置づけが与えられなければならないのであって、換言すれば、前述した国公法の基準法および保護法としての性格が重視されなければならないとの結論が導かれるのである。
現行国公法上は、平等取扱の原則(二七条)、能力主義の原則(三三条)、不利益処分公正の原則(七四条)、身分保障の原則(七五条)、などを明らかにしているが、これらの諸規定も国公法について右に述べた観点から把握され、運用されなければならない。
(三) ところで、国公法上、国家公務員の任用にあたって、その任期を無期限とするのが原則である(鵜飼信成・前掲書一〇五頁、山本吉人「公務員における臨時職員の地位」季刊労働法一一〇号(昭和五三年)六一頁、同「官公労働における臨時職員の法的地位」季刊労働法一一七号(昭和五五年)九六頁、奥平康弘「行政と期限」行政判例百選Ⅰ(昭和五四年)二四八頁)。それは職員の身分を保障し、職員に安んじて自己の職務に専念させ、公務の民主的・能率的運営を保障するということに根拠を有することはいうまでもない。
この原則に対する例外として国公法が定めているのが、「条件付任用」に関する五九条、「臨時的任用」に関する六〇条の場合である。
「条件付任用」の職員とは、試験によって一応の能力の実証を受けてはいるが、未だその能力が完全でないため、一定期間その職務を良好な成績で遂行すれば完全な能力の実証が得られたものとして正式に任用するとの条件の下で、任用されている職員をいうとされる。「臨時的任用」の職員とは、「緊急の場合」、「臨時の職に関する場合」または「任用候補者名簿がない場合」について任用でき、その任用の期間は「六月を超えない」期間であり、六月の期間で一回これを更新できるが、再度の更新はできないとされ、その要件は厳格である。
そして「条件付任用」「臨時的任用」の職員には国公法上の身分保障に関する規定が適用されないのであって(国公法八一条)、それらの理由は、これらの職員については未だ正式任用されておらず、または正式任用されていても任期が著しく短いため、期限の定めなく正規に任用された職員と同一の身分保障をする必要がないからとされている(中西又三「公務員の観念、種類、範囲」現行行政法大系九巻(昭和五九年)六八頁)。
ところで、右臨時的任用は、任期付任用および非常勤職員としての任用と混同されてはならないことはいうまでもない。任期付任用は、任期が付されているという点が通常の任用と異なっているにすぎず、それはあくまでも正規の任用であって、臨時的任用とは異なるものである。また、非常勤職員は、臨時職員と呼ばれることもあるが、六〇条の臨時的任用職員ではなく、非常勤職員の場合は、「その充てられる官職自体が短期、臨時的なもの」であって、定員法上の定員外とされるものであるが、六〇条の臨時的任用職員は「常勤」の官職に定員内職員として任用されるものであるとされる(鹿児島重治・逐条国家公務員法(昭和六三年)三八四頁)(したがって、ここにいう非常勤職員は、いわゆる常勤的「非常勤職員」とはカテゴリーを異にすることとなる)。
(四) また、「常勤」と「非常勤」の区別は、その職を占める公務員が、正規の時間を勤務するかどうかによって生ずるといわれている。
国家公務員は「常勤勤務」を原則とする(佐藤功・鶴海良一郎・公務員法(昭和二九年)六四頁)。そして国公法上は「非常勤職員」に関する具体的な規定を有しておらず(なお、地方公務員法三条三項二、三号参照)、国公法附則一三条が「一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基いて、この法律の特例を要する場合においては、別に法律又は人事院規則を以て、これを規定することができる。但し、その特例は、この法律第一条の精神に反するものであってはならない」と規定しているにとどまる。ここでも重要なことは、右附則は、わざわざ、国公法一条の定める「職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置」を含め、国家公務員に適用すべき根本基準を確立し、公務の民主的かつ能率的な運営を保障するという趣旨に反してはならない旨を規定していることである。
また、「非常勤の観念と在任期間の不継続性の観念は必ずしも一致するものではない」とされていることに注意すべきである(佐藤ほか・前掲書六五頁)。
2 非常勤職員及び期限付任用に関する規定
非常勤職員および期限付任用に関する規定には、次のようなものがある。
① 一般職の職員の給与に関する法律(以下、「給与法」という)二二条一項は「委員、顧問若しくは参与の職にある者又は人事院の指定するこれらに準ずる職にある者で、常勤を要しない職員」とか、同条二項は「前項に定める職員以外の常勤を要しない職員」という規定をしている(なお、昭和六〇年一二月法律九七号により給与法の改正が行われ、同条四項に「常勤を要しない職員の勤務時間及び休暇については、その職務の性質を考慮して人事院規則で定める」という項が追加された。なおこの法律の規定については、上告理由書第三点で述べる)。
② 人規一五―四第一条は「非常勤職員の勤務時間は、日々雇い入れられる職員については一日につき八時間をこえない範囲内において、その他の職員については常勤職員の一週間の勤務時間の四分の三をこえない範囲内において、任命権者の任意に定めるところによる」としている(昭和二五年二月八日施行)。(なお、人規一五―四は、昭和六〇年一二月、人規一五―一二となり、右条項は同規則二条におかれ、さらに常勤職員の一週間の勤務時間数の改定に伴って昭和六三年一二月に、同条は「一週間当たりの勤務時間」と改正されている)。
③ 人規八―一四第一条は「非常勤職員の採用は、競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができる」とする(昭和三〇年九月一日施行)。
④ 人規八―一二(昭和二七年六月一日)の第七四条は、第一項に
「次の各号の一に該当する場合においてその任用が更新されないときは、職員は、当然退職するものとする。法第六〇条第三項の規定により臨時的任用が取り消されたときもまた同様とする。
一、臨時的任用の期間が満了した場合
二、法令により任期が定められている場合において、その任期が満了した場合
三、前号の場合を除くほか、任期を定めて採用された場合において、その任期が満了した場合(昭和四三年一二月一〇日施行」とし、
第二項に「前項第三号の場合において、日々雇い入れられる職員が引き続き勤務していることを任命権者が知りながら別段の措置をしないときは、従前の任用は、同一の条件をもって更新されたものとする。」とする。
⑤ 他方人規八―一二の第一五条の二は「任命権者は、臨時的任用及び併任の場合を除き、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき職員を任期を定めて任用してはならない。ただし、三年以内に終了する予定の業務を行なうことを職務内容とする官職で指令で指定するものについては、当該業務の終了時までの期間をこえない任期で職員を採用することができる。(昭和四三年一二月一六日施行)」としている。
以上に述べたように、国家公務員について非常勤職員ないしは期限付任用の可否に関する規定は、給与法や人事院規則にわずかに散在してはいるものの、その要件や勤務内容については極めて不明確なまゝ放置されているのが実情である。この点についてはつとに「立法的措置を含めた整備が必要であろう」と指摘されているところである(中西・前掲論文六七頁)。このような非常勤職員や期限付任用の可否について法令上の規定が極めて不明確であるのは、このような国家公務員の存在や任用が脱法的に行われてきた歴史的経過によるのである。即ち、脱法的な実態が先行し、これに対し一貫した政策もなく、その場限りの弥縫的な措置を施してきたことによるのである。
三 常勤的「非常勤職員」が発生するに至った歴史的経過
上告人らは、第一審および原審において、非常勤職員ないしは期限付任用の問題については、これらの職員が生みだされてきた歴史的経過こそ重要であることを主張したところ、原判決は「当事者の主張」の請求原因の3(一)でその一部を摘示して、請求原因に対する被上告人の認否として「認める」と記載しているが、この点は理由中の判示には全く生かされてはいないのである。
上告人のような常勤的「非常勤職員」は「変態的任用」とも呼ばれるのであるが、これが発生するに至った歴史的経過をここに人規を中心にして概観しておこう(この点については、山本・前掲各論文が要領よくまとまっており、これを基本として記述する)。
1 非常勤職員の発生
(一) 現行国公法の制定される以前から、我が国においては、嘱託制度があり、多くの官公庁で正規の官吏以外の職員を数多く採用していた。旧国公法は、これを特別職とし、二条一三号で「顧問、参与、委員その他これに準ずる職員で、法律又は人事委員会規則で指定するもの」を国公法の適用外とし、一四号で「単純な労働に雇用される者」も同様とした。また、現業庁及び公団の職員(一二号)も同じ扱いであった。
ところが、現行国公法では、これらはいずれも一般職に含められることになった。即ち、昭和二三年三月嘱託員制度の廃止に関する政令(昭和二三年政令第五六号)により、約四万二〇〇〇人の嘱託員が解嘱となり、暫定的に非常勤、常勤の「臨時職員」となった。他方、単純労働者などの臨時職員は、旧国公法において特別職とされていたものが、現行国公法により一般職となったのである。
この間、政府は昭和二一年に雇傭人等給与支給準則(昭和二一年大蔵大臣官房秘令四三号)を定め、「嘱託員、雇員、傭人及び工員」を「雇傭人」と定義している(一条)。これは官吏以外の雇傭人の給与についての統一を図ったのであるが、当時相当数の「雇傭人」が存在したことを意味するものであり、その数は同年九月約三万名、二四年三月には約二万名であった。このようにして、旧国公法二条一三号のみならず一四号該当者が、昭和二三年一二月からは一般職となった。
(二) しかしながら、このような臨時職員については、国公法の成績主義の原則、身分保証の原則といかに調和させるか、さらに、国公法五九条の条件付任用、同六〇条の臨時的任用の例外を認めうるかどうかという問題を生じ、人事院は、結局昭和二四年三月臨時職員制度を廃止することとし、これに伴って非常勤職員の取扱いを次のとおりとすることとした。
① 臨時職員を昭和二四年五月末で廃止し、常勤の臨時職員は定員法の定員に組み入れる。
② 非常勤の臨時職員は人事院規則で統一的に規律する。
③ 臨時職員の扱いを受けていなかった人夫、作業員なども非常勤の職員については②と同一の規則で規律する。
④ 臨時的な業務に一定期間従事する者は国公法六〇条の臨時的任用について規則を制定して規律する。
人事院は、右の方針に基づき、昭和二四年五月人規八―八によって「臨時職員」の制度の廃止し、他方「非常勤職員の任用」に関する人規八―七および「非常勤職員の勤務時間および休暇」に関する人規一五―四を制定して非常勤職員の任用制度を整備し、その任用に関する原則と、勤務時間について「常勤職員の一週間の勤務時間の四分の三を越えない範囲」とするという基準を定めた。また人夫、作業員なども人規八―七で規律することとした。
この人規八―七により、「これまで実態的に常勤職員と職務内容を同じくし、同じ職務形態で勤務していた事務補佐員、技術補佐員、一日八時間勤務の人夫、作業員その他単純な労務に従事する者等が日々雇用される非常勤職員として、その存在を明らかにするようになった」とされている。
2 常勤的「非常勤職員」の発生
(一) 昭和二四年、公務員の定員を明確にして増員をおさえるために、行政機関職員定員法(以下、「定員法」という)が制定され、常時勤務する者を全員常勤職員として定員に組み入れたが、二ヶ月以内の雇用期間を定めて日々雇用される者を除外し、他方で昭和二五年二月には人規一五―四を改正して日々雇用についてはこれを非常勤とし、勤務時間を常勤職員と同じく一日八時間まで勤務できることとした。このため勤務形態のうえでは、常勤・非常勤の区別がなくなり、二ヶ月という期間更新を利用することにより、「定員外の常勤職員」ないしは常勤的「非常勤職員」が存在することとなった。
さらに昭和二七年五月、「職員の任免」に関する人規八―一二が制定され、その一四条、一五条により常勤労務者および非常勤職員の任用が定められ、大幅な特例を認めて、いずれも任命権者の自由採用となり(当時の人規は「指令で指定する非分類官職への採用又は昇任は、競争試験又は選考のいずれにもよらないでできる」としていた)、また、同規則七四条二項には、日々雇用職員の任用の自動的な更新に関する規定が置かれた。
(二) この点について浅井清氏は次のように述べておられる。
昭和二四年の定員法は「はなはだ厳格に守られたのみならず、行政整理の声とともに、定員減少の方向にこそあれ、その増加は容易に望むべくもなかった。その結果、二つの抜け路ができて、同法の堅い壁を破りはじめた。つまり常勤職員の不足を非常勤職員で補充しようとするためである。
その一は、非常勤職員の一部が、漸次常勤職員の職域に進出して、常勤職員の勤務形態をとり始め、『常勤的非常勤職員』という、その語自体すでに矛盾するような公務員を生じたことである。
その二は、上述の定員法が、『二箇月以内の期間を定めて雇用される者』を定員の外においているのを利用して、この二箇月の雇用期間を無制限に更新することによって、『常勤労務者』と称する特殊の公務員を生じたことである。これらは定員法本来の趣旨ではないこと、もちろんである。この種の職は、はじめは人夫、作業員等の肉体的、機械的な労務者を内容とするものであったが、漸次一般の常勤職員の職場に進出し、『二箇月以内の任期を限られた常勤職員』となり、常勤職員への任用の特例を認められるまでに成長した。これら二種の非常勤職員の数は、数万にのぼっていた。」(浅井・前掲書五七頁)。
(三) このような経過の中で、昭和二九年度には、「常勤労務者」三万名、常勤的「非常勤職員」二万七〇〇〇名に達したとされている。そこで人事院もこれらの規制に着手せざるを得ず、昭和三〇年八月に人規八―一四(「二箇月以内の任期を限られた職員等の任用に関する特例」)を制定し、その第一条で「常勤労務者」および「非常勤職員」の採用について競争試験又は選考のいずれにもよらないで行うことができる」としたうえ、その第二条において「非常勤職員」の定員内への異動を選考によるものとしたが、他方で「昭和三〇年八月三一日以降引き続き在職する非常勤職員」については例外を認めたので、古くから在職する非常勤職員の常勤職員への「すべり込み」を認め、その「抜け穴」を、ここに作ったと言われた(浅井・前掲書二四一頁)。
3 昭和三六年および昭和三七年閣議決定
(一) このような状況下において、政府はようやく昭和三六年二月二八日の閣議決定(「定員外職員の常勤化の防止について」―以下、「昭和三六年閣議決定」という)により、「日々雇用の非常勤職員の任用期間は会計年度の範囲内とし更新しない、常勤労務者は新規に任命しない」旨の原則を明示し、その一方で、五万名弱を定員化したため「常勤労務者」というものは原則としてなくなり、「定員外」の職員は大幅に減少していったとされている。
まず、昭和三六年閣議決定によると、昭和三六年二月二八日以降においては、①継続して日々雇い入れることを予定する職員については、必ず発令日の属する会計年度の範囲内で任用予定期間を定めること、②被雇用希望者に対しては、任用条件、特に任用予定期間を示し、確認させること、③採用の際交付する人事異動書には、②の任用条件を明記すると共に、任用予定期間が終了した後には自動更新しない旨をも明記すること、④採用の際は、必ず人事異動通知書を交付すること、⑤任用予定期間が終了したときには、その者に対して引き続き勤務させないよう措置すること、を主な内容としている。
しかし他方で、右閣議決定以前に採用された常勤的「非常勤職員」については、右の①、④の措置をとって行政管理庁に報告すれば、従前の処遇を維持しつつ、任用予定期間終了後も引き続き任用更新ができるとして、その身分保障につき考慮を払っている。そして昭和三六年六月二日に人事院規則八―一四が「非常勤職員等の任用に関する特例」と改正されたうえ、さらに「昭和三六年六月一日以降引き続き在職する常勤職員」の定員化についても、従前の例によるとして、ここにも前述した「抜け穴」が用意された(浅井・前掲書二四一頁)。
(二) 次いで昭和三七年一月一九日の閣議決定(「昭和三七年度の定員外職員の定員繰入れに伴う措置について」―以下、「昭和三七年閣議決定」という)により、定員繰り入れ措置は終了したものとされ、前記昭和三六年閣議決定において例外措置を認められた者以外の「非常勤職員」については、任用予定期間終了時に、その者を引き続き勤務させないよう必ず措置すべきこととされたが、昭和三六年閣議決定によって行政管理庁に報告された者で今回の定員繰り入れから除かれたものは、なお従前の処理によるものとされ、ここでも常勤的「非常勤職員」制度はそのまゝ残された。
4 総定員法の制定と「非常勤職員」の定着
このような経過の中で、昭和三六年に定員法は廃止されることとなったが、定員法の廃止後は一年以内の期間を限定して定員の増加を政令で行うことができるようになり、これを基礎にして、既成事実を先行させて、正規の定員増を求めてゆく傾向が生ずる一方、昭和四三年七月頃には、定員法の廃止でなくなったはずの「常勤労務者」が約一五〇〇名もおり、「非常勤職員」にいたっては約二五万五〇〇〇名にも達するという有様であった。
そこで、昭和四四年になって政府は一旦廃止していた定員法に代えて総定員法(「行政機関の職員の定員に関する法律」)を再度制定し、公務員の定員を抑制しようとするに至った。すなわち、内閣の機関(内閣官房、内閣法制局、国防会議事務局)並びに総理府および各省の所管事務を遂行するために「恒常的に置く必要がある職に充てるべき常勤職員の定員の総数」を五〇六、五七一人とし(同法一条)、各官庁のそれぞれの定員は、政令で定めることにしたのである(同法二条、昭和四四年政令一二一号行政機関職員定員令)。しかし、この定員抑制の反面において「非常勤職員」の常勤化に対しては何の手も打っていなかったため、昭和四六年七月時点では「非常勤職員」は一八万六〇〇〇名に増加していた。このうち国立大学関係については、文部省当局の「昭和三六年の閣議決定の趣旨に沿ってできるだけ運用につとめている」との発言にもかかわらず、一万七〇〇〇名余の「非常勤職員」が存在し、そのうち三年以上勤務のものが総数の二四%、二六〇〇名にも達していた。
また、前記昭和三六年閣議決定は、日々雇用の常勤的「非常勤職員」については、任用予定期間が終了した後は更新しないこととしているが、実態はこれに全く反しており、期間満了退職、直ちに再雇用という形式をとるのが一般的となり、長期にわたる「日々雇用」という常勤的「非常勤職員」の実態が完全に定着していった。
このようにして、「非常勤職員」の制度が完全に定着し、何の抜本的対策もないままに、各官庁が多数の「定員外」の職員をかかえるという今日の実態が生み出されてきたのである。
四 国立大学における常勤的「非常勤職員」の実情
国立大学は、国立病院(厚生省)、北海道開発庁、林野庁などと並んで、もともと、最も常勤的「非常勤職員」の数が多い官公庁の一つであり、かつこれらの職員の勤続年数も著しく長期化していた。そして、これら常勤的「非常勤職員」が担当する職務も、大学内の各々の部局、課、係で恒常的に必要とされる職務が殆どであって、少なくともその職務あるいは勤務形態上は、定員内職員と常勤的「非常勤職員」を区別することは困難な状況にあった。それ故、国立大学においても常勤的「非常勤職員」の定員化の要求は非常に大きく、前述したように昭和三三年から同三七年にかけて各省庁で大量の常勤的「非常勤職員」が定員化された際に、国立大学でも多数の常勤的「非常勤職員」の定員化が行われた。
1 昭和三六年文人任第五四号・昭和三七年文人任第四六号・昭和四二年文人任第五一号
(一) 右のような大量の定員化が行われた後、昭和三六年閣議決定および昭和三七年閣議決定に対応して、文部省でも一応、「非常勤職員」とりわけ「日々雇用職員」について常勤化の防止策を打ち出した。
文部省は、昭和三六年閣議決定を具体化するため各国立大学に対し、昭和三六年三月三一日文人任第五四号「非常勤職員の任用およびその他の取扱いについて」を発し、「非常勤」のフル・タイム及びパート・タイム職員の任用手続についての細目を定めた。右文人任第五四号によれば、「一日につき八時間をこえない範囲内で日日雇い入れられる職員」については、①任用を更新する場合には、任命権者は六ヵ月の範囲内で終期を付さなければならず、その終期が採用日の属する会計年度をこえることとなる場合には、当該会計年度の末日を終期としなければならないこと(なお、後記のように、右の「六ヵ月」は、昭和四二年文人任第五一号によって、「一二ヵ月」に延長された)、②任用更新の終期到来後は、引き続いて採用してはならないこと、③ただし、採用の日から終期到来の日までが六ヵ月未満の場合においては、引き続き採用することが出来るが、この場合も当初の採用の日から起算して六ヵ月に達する日(その日が採用しようとする日の属する会計年度をこえることとなる場合においては、当該会計年度の末日)までの範囲内で終期を付さなければならないことなどが指示された。これによれば、国立大学の「日々雇用」の「非常勤職員」については、任用を続けてもその期間は最大限で六ヵ月であり、それを超えて任用を続けることは許されないことがはっきりと決められたことになる。
(二) 次いで、昭和三七年閣議決定を受けて、文部省は昭和三七年三月二七日文人任第四六号を各国立大学に発した。これによれば、国立大学において、「日々雇い入れられる職員」は、①季節的または一時的に増加した業務を処理させるため必要がある場合に限り、臨時に採用するものとすること、②業務量の増減がある場合には、これに見合う配置転換等の措置をとって対処し、日々雇用職員の採用はしないことなどが指示された。
(三) 右のような経過の後、右昭和三六年文人任第五四号は、昭和四二年三月一八日付文人任第五一号によって改正され、「日々雇用職員」の「任用期限」を「六ヵ月」から「一二ヵ月」と改められた。このことの意味は決して軽視しえない。
三六年閣議決定は、真に非常勤職員を無くそうと意図し、もはや非常勤職員が不要となる体制を整備することを期していたのであるから、文人任第五四号が、日々雇用職員の「任用期限」を定めるに当たり、当初これを「六ヵ月」という短期としていたのは当然のことであった。
しかしながら、実態は早晩建前を無視させることになった。その原因は昭和三〇年代後半以降特に顕著となったわが国の高度経済成長に伴う官民における業務量の増加にあるものと解されるが、何よりも問題とされるべきは、これに対する当局の雇用政策の貧困さ、安易さ、無秩序さであろう。何等の定見もなく、民間企業における臨時工採用と軌を一にして、本来定員内職員を採用すべきところであるのに、安上がりの「非常勤職員」を次々と採用していったのであって、結局のところ、文人任第五四号の当初の「六ヵ月」という期間は、当局にとって単に形式とはいえ余りにも非現実的なものとなり、その結果昭和四二年になって文人任第五一号を発し、右期間を「六ヵ月」から「一二ヵ月」に伸長せざるを得なくなったのである。
2 各閣議決定とこれらにもとづく各通達の空洞化
(一) 以上のような経過から明らかなように、昭和三六年閣議決定及び三七年閣議決定、ならびにこれらにもとづく文人任第五四号(文人任五一号)及び同第四六号によって、国立大学において「日々雇用」の「非常勤職員」を採用するについては、「季節的または一時的に増加した業務の処理のため」「必要がある場合に限り」「臨時に」採用することとし、その任用継続期間は最長一二ヵ月間で、それを超えてはならないことが明確に打ち出されたのであった。これによれば、少なくとも昭和三七年以降については、「非常勤職員」が増加したり、ましてやその勤務が常勤化し、あるいは定員内職員と同様の恒常的職務に従事して、外形上定員内職員と区別出来ないような事態など生じ得ないはずであった。したがってまた、「非常勤職員」の側から見ても、雇用期間は、最大限一年間でしかないのであるから、それ以上に雇用を継続されることによって他への適切な就職の機会を奪われたり、或いは逆に恒久的雇用に対する期待を抱かされるということも起こり得ないはずであった。
(二) ところが、恒常的な職務は増加する一方であるのに、他方では行政職職員の定数が削減されるという状況の中で、右の二つの閣議決定、ならびにそれらにもとづく行政指示は全く無視され、各国立大学における「非常勤職員」の任用においては、昭和三六年閣議決定以前に採用された者に限らず、その後の新規採用者についても、「任用予定期間が終了したときには、その者を引き続き採用しない」という指示を免れるために、当該会計年度の末日たる三月三一日に、一日のみ雇用中断日を形式的に設定するというやり方で、同一職員の任用更新が、本来の任用期限を超えて行われるという取扱いが継続し、その結果、一〇年以上の継続勤務者の存在も決して珍しい事例とはいえなくなってきたのである。各国立大学において、このような常勤的「非常勤職員」は、今日でも多数存在し、任用予定期間を超えた雇用の継続は、各大学における確立した人事慣行といえるものになっている。
そして、雇用中断をいわば偽装するため形式的に設定された三月三一日の「空白の一日」も、実態としては何ら「空白」ではなく、この日も勤務するというケースが極めて多い実情にあり、そのために大学は、この「勤務日」の賃金を支給せざるを得ず、名目上は三月三一日の賃金ということに出来ないので、他の日の超勤手当等何らかの名目で実質的に賃金を支給するということが行われてきた。また、これら常勤的「非常勤職員」が従事する職務は、昭和三七年文人任第四六号にも拘わらず「季節的または一時的に増加した業務」に限定されず、ほとんど例外なく定員内職員と同様の恒常的職務であるというのが実態であった。
(三) ところで、「非常勤職員」の年次有給休暇について、人事院規則一五―四によって、労働基準法第三九条に定められた基準が準用されることとなっているが、この規定の運用について人事院事務総長通知(昭和三〇年八月九日)が出されていて、これによると、「非常勤職員」の勤務の「継続」の有無については、「雇用関係が社会通念上中断されていないと認められる場合」には「継続勤務」しているものとして取扱うべきことが指示されている(乙第一四号証九五五頁参照)。国立大学においても、右指示に則り、たとえ一日の雇用中断日が形式上設定されていようとも、それは「雇用関係が社会通念上中断されていない」ものと解して、労働基準法第三九条一項の基準が準用されるとともに、常勤的「非常勤職員」の任用更新が二年以上に亘っている場合に、同条二項の基準をも準用して、経験年数一年につき一日の有給休暇を加算するとの取扱いがなされてきたのである。これらの事実は、たとえ形式的な雇用中断日が設けられていても、それは「社会通念上」は「継続勤務」であるとしか見られないということを、人事院のみならず、文部省ならびに各国立大学当局自身が認めていることを示すものである。即ち、常勤的「非常勤職員」の身分が、形式的に「任用予定期間」を付されていても、「社会通念上」は「任用期限の定めのない職員」と見る外ないという前提の下に立つものであることは明らかといえよう。
更に「非常勤職員」は、社会保険関係は厚生年金保険に加入する取扱いとなっているが、右保険についても三月三一日の「一日の雇用中断」など存在しないものとして取扱われており、ここにおいても右中断日に関わりなく雇用は継続しているものとされている。
(四) このように、常勤的「非常勤職員」について、わずか一日の空白期間をもうけて任用、退職を繰り返し、何年にも亘って雇用を継続され、恒常的業務に従事するということは、昭和三六年および昭和三七年の各閣議決定等が全く予定しておらず、その決定等の趣旨に反することは明らかであり、著しく不当なものである。従って、常勤的「非常勤職員」について、形式的に「任用予定期間」が定められ、その期間満了をもって「退職」する旨の通知がなされ、わずか「一日の中断期間」が置かれていても、それは右閣議決定等を潜脱して、正に次の「任用」に至るための形式的手続に過ぎず、その間に何らの中断はなく、雇用は継続しているものと解すべきことは当然である。
(五) このような現象が生ずる要因として、何よりもまず、これらの常勤の「非常勤職員」が、大学の研究・教育体制を維持・遂行していくうえで必要不可欠な恒常的な職務に従事しているという事実自体から端的にうかがえるところの、現実の要請というものを指摘しなければならない。即ち、これら常勤の「非常勤職員」は、「事務補佐員」とか「技術補佐員」等の雇用上の名称を付されてはいるものの、実際には「補佐」だけでなく、一定の専門性ないし職務上の経験・熟練が要求される職務に従事しているという実情にある。このため、毎年、年度毎に別の職員を新規に採用するという方法では、とうてい大学の研究・教育水準を維持・発展させていくことが出来ないのである。換言すれば、各国立大学の抱える恒常的事務量からすれば、定員が大巾に増加されない限り、「非常勤職員」を常勤化し継続的に任用していく以外に、大学が国民から求められている期待にはとうてい答えられない実情にあるということを示している。そしてさらに、昭和四四年制定の「総定員法」に伴う厳しい定員削減政策が、このような現実の要請を一層強め、常勤的「非常勤職員」の大学で果たす役割の比重をより一層高める結果となっていったのである。
3 常勤的「非常勤職員」の給与の「頭打ち解消」と文人給第一〇九号
(一) 昭和五四年七月一日現在における「日々雇用職員」の実態は以下のとおりである(国立学校等任用関係法令集非常勤編四九三頁省庁等別非常勤職員(日々雇用職員)の在職状況等一覧表―甲第八四号証)。
右の当時、「日々雇用職員」の総計は三万〇六三七人であり、そのうち、文部省が八八〇五人、内国立学校が八三一四人である。そして日々雇用職員のうち六か月以上の任用予定期間の者を見ると、総計一万三四〇六人のうち文部省は過半数の七〇〇〇人を占め、うち国立学校が六七四五人を占めているのである。三六の省庁の中で文部省はただ一省で六ヶ月以上継続勤務する日々雇用職員の過半数を占め、また、他の省庁のうち六ヶ月以上の者の多いのは厚生省であってその数は五五四七人を数えており、結局右二省で六ヶ月以上継続勤務する「日々雇用職員」の93.6パーセントを占めていた。さらに六ヶ月未満の「日々雇用職員」については総計一万七二三一人のうち、北海道開発庁が三九六八名で一番多く、文部省は一八〇五名で五番目に位置しているのであるが、これらの点からすると文部省の日々雇用職員の常勤化は歴然としており、もはや季節を問わず、また時限を問わず、常時職員が不足し、これに常勤的「非常勤職員」をもってあててきたことは何人も否定し難いところであろう。
かくして、昭和五四年当時の数値を見ても文部省における非常勤職員の常勤化は常態化していたことが明白であり、非常勤職員の定員化、給与面におけるいわゆる「七―四頭打ち」の解消が叫ばれるのは必然の結果であった。
(二) 前記のように国立大学における常勤的「非常勤職員」の任用については、任用予定期間が形式上毎年四月一日から翌年三月三〇日までとされるため、三月三一日も実体としては雇用継続していると見る外ないのに、形式上は「一日の雇用中断」があるとされる関係上、毎年四月一日に新規採用するという形がとられ、その結果、「非常勤職員」の給与は、常に「初任給」として取扱われてきた。しかるところ、各国立大学当局は、「非常勤職員」が実態としては定員内職員と全く同様の職務に従事し、責任ある業務を任されているにも拘わらず、雇用名目が「何々補佐員」となっているというだけで、行政職俸給表(一)の適用を受ける職員について、「特に高度の知識又は経験を必要とする業務を行う職務」とされている同表六等級(定員内職員であれば実際には年数がくれば誰でも昇格できる等級に過ぎない)以上の等級に「非常勤職員」の給与を格付けすることを文部省が認めていないため、人事院規則九―八の第一五条を形式的に適用して、「非常勤職員」の給与については同表七等級四号俸を超えては格付けしないという取扱いをしてきた。この結果、「非常勤職員」は何十年勤務しようと、七等級四号俸以上には給与が上がらないということにされていたのである。
しかしながら、このような取扱いは誰の目にも明らかに不合理であって、文部省もついにこの取扱いの非を認め、昭和五五年五月一六日文人給第一〇九号をもって、右のような「非常勤職員」の給与の昇級頭打ちの解消を図らざるを得なくなった(但し、同年三月三〇日以前に採用された者に限っている)。これは、それまでの文部省の公式見解からすれば、前記各閣議決定や人事院規則九―八の第一五条を脱法する取扱いになるはずであったが、結局文部省としても、そのような形式論で済む問題ではなく、実態としての「非常勤職員」の常勤性を直視し、これを前提として少しでも現実の雇用条件を改善せざるを得なかったことを示している。そして、このような文部省の態度は、文部省自身が、常勤的「非常勤職員」の任用が実体的には期限の定めのない状態で行われていることを承認していることを物語るものである。
4 その後の非常勤職員の状況
平成二年六月一八日発行の「文教ニュース」(甲第八五号証)によれば、文部省任用班は非常勤職員の現状について、次のように説明した。
「昨年七月一日現在の国立学校における日々雇用職員の在職数は五、七四一人で前年度と比較して一六八人減少しているが、国立学校の教官を除くそのほか職員の総定員の8.6%に相当し、以前(ママ)高い数字を示している。したがって、安易に非常勤職員の任用に頼ったり、定員削減を非常勤職員の採用で肩代わりすることのないよう、特に非常勤職員を採用することで教育・研究に支障のきたすことのないよう配慮されたい。日々雇用職員の在職年数は在職者の33.9%が五年以上にわたり事実上継続雇用されており、長期化防止のための具体的な方策を検討し実施されたい。パートタイム職員の昨年七月一日現在における在職者数は一〇、三九六人で、ここ五年間で二、一〇〇人以上も増えており、十分配慮されたい。」
このように国立学校における日々雇用職員は、あい変わらず多数にのぼっており、しかもその内、五年以上も「継続雇用」されるものがなお多数おり、パート職員については、この五年間で二、一〇〇人以上も増えているのであり、従来の数多くの閣議決定や通達にもかかわらず、これら常勤的「非常勤職員」の問題は未だに未解決のまゝであることは驚くべきことである。ここにはいかなる掛け声をかけようとも、国立学校には恒常的に非常勤職員が必要不可欠であるということが如実に示されているといえよう。
五 判例と期限付任用が許される場合
前述したように、国公法上、公務員の任用にあたってその任期は無期限とし、かつ常勤とするのを原則としている。他方現行法上非常勤職員が認められる法的根拠はすこぶるあいまいである。この点に関し、判例・学説は、国公法上、一般職の公務員について期限付任用は許されないとする原則を肯認しつつも、国公法には期限付任用を否定する明文の規定もないところから、例外的にこれが許容される場合があることを認めるに至っている。
1 判例の考え方
(一) 最高裁判例
(1) 最高裁昭和三八年四月二日第三小法廷判決(民集一七巻三号四三五頁)は、地方公務員についてであるが、「地方公務員法がいわゆる条件付採用制度をとり(二二条一項参照)、また分限免職および懲戒免職の事由を明定して(二八条、二九条参照)職員の身分を保障していることや、特に臨時的任用に関する規定を設け、その要件、期間等を限定していること(二二条二項参照)に懲すれば、職員の任用を無期限のものとするのが法の建前であると解すべきこと、まさに所論のとおりである。しかし、右法の建前は、職員の身分を保障し、職員を安んじて自己の職務に専念させる趣旨に出たものであるから、職員の期限付任用も、それを必要とする特段の事由が存し、且つ、それが右の趣旨に反しない場合においては、特に法律にこれを認める旨の明文がなくても、許されるものと解するのが相当である」とし、当該事件については、期限付任用が勧奨退職の円滑な運用のためにとられたこと、上告人も期限について同意していたこと、地公法の職員任用に関する規定が適用されたのが更新期間中であったこと等の事情の下では、その期限付任用は「前記要件を欠く違法のものとは認められない」と判示している。
(2) この事件の原審判決においては、期限付任用が許される場合について「期限を付すことに特別な合理的な事情が存し、しかも、それが本人の利益に合致するものとして、本人自らが自由な意思に基づいてこれを承諾している」ことを要件としていたのに対し、最高裁は「それを必要とする特段の事由が存し」、且つ、それが「右の趣旨に反しない場合」即ち、地方公務員法上の職員の身分保障の趣旨に反しない場合という要件を課することによって、「さらに、法の建前を勘案してその要件を厳重にしぼるべきであるという趣旨に出たもの」(渡部吉隆・最高裁判所判例解説民事編昭和三八年・一〇三頁)なのである。特に最高裁によって新たに付け加えられた後段の要件の趣旨は、仮に期限付任用を必要とする行政上の理由があっても、職員の身分を保障する法の目的に反する場合には、任用に期限を付すことは許されないことを明確にしたものであって極めて重要である。
即ち、期限付任用が許されるには、先ずそれを必要とする特段の事情があり、さらに特段の事情があっても職員の身分保障に反する場合には、期限付任用をすることは許されないというのが、右最高裁判決の趣旨であって、期限付任用の許容範囲を厳格に絞り、具体的事案においても限られた要件の下でのみ、これを認めようというのである。
(3) そしてこの最高裁判決の判旨については、その基本的考え方は国公法下の国家公務員にも妥当するものと考えられており、人事院規則八―一二の一五条の二第一項が「任命権者は臨時的任用及び併任の場合を除き、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任用してはならない」としたのは、地公法に関する右最高裁判決をうけて人事院が国公法レベルで反応した所産であるとされている(古城誠「公務員の期限付任用」公務員判例百選(一九八六年)二〇頁、奥平・前掲論文二四八頁)。
(二) 下級審判例
(1) さらに国家公務員に関する下級審判例としては、①東京国税局江東西税務署事件・東京地判昭和四七年五月二五日(労働判例一五五号六八頁)、②建設省甲府工事事務所事件・東京地判昭和四七年六月二四日(判例時報六八六号九六頁)、③室蘭工大事件・札幌地判昭和五三年七月二一日(労働判例三〇三号二二頁)、④山形大学病院事件・山形地判昭和六一年二月一七日(労働判例四七〇号四八頁)、⑤福井郵便局事件・名古屋高裁金沢支判昭和六三年一〇月三日(労働判例五二九号五八頁)などがあるが、いずれも国公法上期限付任用が許されるとしている。
右各下級審判例の判旨には幾多の問題点があり、上告人としてはとうてい賛同できないのであるが、そのことはさておいて、右各下級審判例が国家公務員法について期限付任用を肯認した業務を見た場合、①の東京国税局江東西税務署事件では税務署庁舎の清掃用務、②の建設省甲府工事事務所事件では河川の堤防や道路等の草刈や補修等の用務、③の室蘭工大事件では事務補助的な会計課の帳簿の記帳、伝票整理や雑用等の業務、④の山形大学病院事件では病院の外来受付、カルテの搬送等の職務に従事する「パート職員」に関するもの、⑤の福井郵便局事件では郵便局の集配業務に関するものであった。このように、国家公務員に関する下級審判例は、およそ肉体的労務や単純業務であることが一見して認められる場合に限って期限付任用を認めているものと言えるのである。
2 期限付任用が許される場合
(一) 国公法上、一般職の公務員について、期限付任用が許される場合を肯認しうるとしても、それは前掲最高裁判例が示した要件、即ち公務員の期限付任用を必要とする特段の事由が存在し、且つ期限付任用が職員の身分を保障した法の趣旨に反しない場合に限るという二要件を、極めて厳格に解した場合に限られるものというべきである。
このような見解は、政府や文部省における定員外職員に対する従来の規制からも導くことができる。即ち、政府が従来の「非常勤職員」を定員化する措置をとる一方で、文部省は昭和三六年閣議決定とこれに対応する同年文人任第五四号通知、昭和三七年閣議決定とこれに対応する同年文人任第四六号通知、さらには昭和五五年文人給第一〇九号通知等を繰り返し発することによって、新たに定員外職員が常勤化するようになる事態を防止し、特に「日々雇用職員」の採用にあたっては、「季節的または一時的に増加した業務の処理のため」「必要がある場合に限り」「臨時に」という厳格な要件下で極めて例外的になされるべきことや、「厳正な取扱いの徹底を図」り「日々雇用職員の雇用については極力その抑制に勤め」「長期にわたる雇用とならないようにすること」などを指示してきていることに合致する。
このことは、文部省としても国公法上も根拠の乏しい「非常勤職員」、特に「日々雇用職員」の安易な採用とその常勤化を防止し、常勤的「非常勤職員」と呼ばれる不安定雇用を極力解消しようとしているものであって、したがって、期限付任用が許される要件もまた右に述べたように厳格に解さなければならないのである。
(二) 右要件をより具体的に述べると、まず、最高裁判例の要件の一つである「期限付任用を必要とする特段の事由」の有無の判断にあたっては、国公法六〇条の「緊急の場合」とか、「臨時の官職に関する場合」とか、或いは「任用候補者名簿がない場合」などの趣旨が類推的に生かされなければならないし、又設定しうる任期についても、同条の「六月を超えない任期」とか「六月の期間でこれを更新することができるが再度更新することはできない」などの規定が類推適用されなければならないのである。そうでなければ、職員を余りに長期間中途半端な身分に置き続けることになり、そのため当該職員の適切な再就職の機会を奪うなど、著しく職員の利益に反することになるし、さらにはその職員に無用な誤解と期待を抱かせることともなって、国公法が職員の身分を保障し、これによって職員を安んじてその職務に専念させようとした趣旨に背反することとなるからである。そして人事院規則八―一二の第一五条の二第一項但書の「三年」という期間は業務自体が三年以内に終了してしまうという場合をさしているのであるから、このような場合以外は、国公法並びに人事院規則に従って、職員の身分と公務の民主的かつ能率的運営を保障するために、職員の期限付任用が認められるとしても、それは臨時的業務という制約の下でその期限は「六ヵ月からせいぜい一年(一二ヵ月)」を限界として許されるにすぎないと解さるべきである。
(三) そして前記③の室蘭工大事件判決は、「恒常的に置く必要がある官職に対し、期限付任用の常勤職員を充てることは、一般的に職務の習熟を妨げ、又は職務専念を不安定にさせることがあり、その結果、公務の能率的運営を阻害すると考えられる……したがって、官職の内容が専門知識や経験を必要とするとき、行政の一貫性の保持、及び責任体制の維持を必要とするときなどは、恒常的に置く必要のあるものとされ、かつ常勤職員を以て充てられ、従って原則としてかかる職員を任期を定めて任用することは許されないこととなろうが、官職の内容たる業務が恒常的にあるとしても、それが特別の習熟、知識、技能又は経験を必要としない補助的、代替的なものであるときには、常勤職員を以て充てられなくとも、即ち期限付任用の非常勤職員を充てても、公務の民主的、能率的運営の提供を阻害することがないといえるから、特別の必要性のある場合には、そのため非常勤職員を期限付で任用することも許されるものと解すことができる」と判示しているが、ここでも「特別の必要性のある場合」という要件は強調されなければならない。
さらに山本吉人教授は、公務員の期限付任用の可否に関する各下級審判例を検討したうえの結論として、「日々雇用制度が例外として容認でき得るのは、専門的でない『臨時的』業務でかつ文字通りの非常勤職員で職務が完遂できかつアルバイト的で、身分保障の考慮を加える必要のない単純な肉体的労務に従事する労務職員に限定されることになる。」(山本・前掲論文季労一一七号九六頁)と言われ、また鵜飼信成教授が期限付任用が許される具体的な場合として、①定年退職に代わるもの、②単純な肉体的労務を内容とするものを掲げておられるにとどまるのは(鵜飼・前掲書一〇五頁)、国公法の原則に立ち、前記最高裁判例や各下級審判例を検討すれば、当然の理というべきであろう。
六 原判決の違法性
1 常勤的「非常勤職員」(「日々雇用職員」)の法的根拠に関する法令解釈・適用の誤り
(一) 原判決は、日々雇用職員についての法的根拠として国公法附則一三条、人規八―一四、人規八―一二第七四条一項三号、二項、さらには人規一五―一二(一五―四)を挙示している。
しかしながら、国公法附則一三条は、前述したように「一般職に属する職員に関し、その職務と責任の特殊性に基づいて、この法律の特例を要する場合において別に法律又は人事院規則を以て、これを規定することができる」としているものの、同条但書は、「この法律の第一条の精神に反するものであってはならない」こと、即ち「職員の福祉及び利益を保護するための適切な措置」を含め、国家公務員に適用すべき根本基準を確立し、公務の民主的かつ能率的な運営を保障するという趣旨に反してはならない旨を規定しているのであり、同条には、国家公務員の期限付任用を肯認する明文の規定も、右期限付任用について人事院規則に委任する旨の規定もない。したがって、人規八―一二、同八―一四が、右条文に基づいて定められたものとするなら、右各規則は結局国公法上の根拠の点で疑義が生ずるというべきである。
のみならず、人規八―一二第七四条一項は、「期限を限って採用された場合において、その任期が満了した場合」職員は当然退職する旨を規定しているが、右規定を期限付任用を予定した規定と解することについては、「当時存在していた常用人夫等で雇用期間を二月または三月と限って採用されていた者の退職事由を定める必要があったところから設けられたまでであり、従ってこの規定から逆に推論して、法が新規に期限付任用をすることを予定しているものと解することは許されない」(渡部・前掲論文一〇二〜一〇三頁)と解されている。そのうえ、右人事院規則八―一二の第七四条各項には、法六〇条と異なって「任期」の規定もなく、逆に同条二項は日々雇用職員の同一条件による更新さえ予定しているのである。たとえこれらの人規各条項の有効性を否定できないとしても、右規定はその充てられる官職自体が短期、臨時的な場合であって、国公法の基本精神に反しない職員の場合を想定して設けられている規定であり、これを逆転させて「日々雇用職員」即ち常勤的「非常勤職員」の法的根拠と解することはとうてい許されないのである。
(二) のみならず、右各人規にいう「日々雇用職員」とは、昭和三六年閣議決定や前記昭和三六年文人任第五四号および昭和四二年文人任第五一号によって、任用を更新する場合には一二ヵ月の範囲で終期を付し、任用更新の終期到来後は引き続いて採用してはならないし、他方、昭和三七年閣議決定や昭和三七年文人任第四六号によって、季節的または一時的に増加した業務を処理させるため必要がある場合に限り、臨時に採用されるものでなければならない。
しかしながら、上告人を含む常勤的「非常勤職員」たる「日々雇用職員」は原判決の前記判示によっても、季節的または一時的な業務を処理させるために臨時に採用されたものでないことは明らかであり、また、人事異動通知書には、一二ヵ月の範囲で終期を付されているものの、終期到来後も引き続いて採用を継続されているものである。したがって、上告人ら常勤的「非常勤職員」たる「日々雇用職員」は、前記各人規にいう予定された「日々雇用職員」とは全く異なるものというほかないのである。
したがって、原判決が挙示する法律や規則は上告人については何ら法的根拠となりえないのである。
(三) このように上告人は、原判決が挙示する人規が予定する「日々雇用職員」には該当しないにもかかわらず、原判決は右人規等を敢えて法的根拠とするものであって、かかる意味で原判決には法令解釈・適用の誤りがあり、しかも、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明白である。
2 期限付任用の可否に関する理由不備・理由齟齬ならびに最高裁判例違反
(一) まず、前述したように国公法ならびに判例の趣旨からすれば、職員の期限付任用が認められるのは、「臨時的業務」という制約の下で、その任期はせいぜい「六ヵ月から一二ヵ月」を限度とする場合に限定さるべきところ、上告人については右のいずれにも該当せず、そもそも期限付任用は許されないものといわなければならない。
(二) 前述のとおり、原判決は「控訴人が日々雇用職員に任用されることになったのは、大阪大学付属図書館の日々雇用職員の一人が自己都合で任用更新されなくなったためであり、同課の事務量の増加、その他の一時的事情によるものではない」と認定しているが、原判決の右認定によれば、上告人が従事した職務は、「恒常的に置く必要がある官職」にかかるものというべきである。
そして原判決は上告人が「日々雇用の非常勤職員として採用された」と判示しているが、上告人は「日々雇用職員」として、正規の職員と同一時間勤務していたことを当然の前提としているのであるから、常勤、非常勤の区別を勤務時間をもってするなら、上告人は「常勤」職員であったといえる。そうだとすれば、上告人が就いた官職の業務は、人規八―一二第一五条の二によって「任期を定めて任用してはならない」場合に該ることとなろう。
たゞこの場合、前述の室蘭工大事件・札幌地判が判示しているように「官職の内容たる業務が恒常的にあるとしても、それが特別の習熟、知識又は経験を必要としない補助的、代替的なものであるときには、常勤職員を以て充てられなくとも、即ち期限付任用の非常勤職員を充てても、公務の民主的、能率的運営を阻害することがないといえる」として、かつ、原判決が判示するように仮りに上告人が従事した業務は、その遂行に「専門的知識や経験を必要としない代替性の強い種類のもの」であるとしても(この判断が違法であることは、上告理由第六点で述べる)、そのことは上告人が従事した業務に任用期限付の非常勤職員を充てうるということを意味するにすぎない。
したがって、まず第一に、原判決が判示するように「上告人が従事した業務の遂行に専門的知識や経験を必要としない代替性の強い種類のものである」ということから、直ちに「国公法の定める身分保障の趣旨に反するとはいえない」という結論を導き出すことは、あまりにも論理の飛躍があるというべきである。
(三) のみならず、原判決は、前掲最高裁判例の掲げる二要件の一つである「期限付任用を必要とする特段の事由」について何らの判断もしていない。この点は前掲室蘭工大事件・札幌地判も、業務の性質に加えて、「特別の必要性があるときは」という要件を掲げていることは前述したとおりである。
そして原判決はむしろ、上告人が従事した業務について「事務量の増加その他一時的事情によるものではない」と認定しているのであるから、むしろ、期限付任用を必要とする特段の事由が存在しないことを積極的に認定しているものと言えるのである。
このように、前掲最高裁判決の判旨にてらせば、原判決の判示それ自体から上告人について期限付任用が許されないという結論が導かれるべきことが明らかとなるのである。
(四) このように、原判決の右判示部分は前掲最高裁判所判例に違反し、かつ期限付任用を必要とする特段の事由の存否について、何らの判断をしていない点で理由不備の違法があり、また、上告人が従事した業務が、原判決が認定するように仮りに「その遂行に専門的知識や経験を必要としない代替性の強い種類のもの」であるとしても、そのことから直ちに「期限付任用をしても国公法のいう身分保障の趣旨に反しない」ということはいえず、原判決の右判示には著しい論理の飛躍があって、ここにも理由齟齬の違法があるといわなければならない。
3 任期の定めのない「日々雇用職員」であること
以上述べてきたように、上告人は任期の定めのない「日々雇用職員」であるといわなければならないし、また人事異動通知書に任期の記載があったとしても、それは違法かつ無効である。
(一) この場合、人事異動通知書の「形式」は全く問題とならない。
上告人は大阪大学総長から、「日々雇用職員」として採用された昭和五六年五月一一日以降控訴人に対し、控訴人の任用、退職の都度、異動内容を記載した人事異動通知書を交付され、また退職金を受け取ってきた。しかしながら、このことについては、まず第一に、人事異動通知書の交付は、前述した昭和三六、三七年閣議決定およびその後の各通知を潜脱する脱法行為の形式を整えようとしたものに過ぎず、このことは、上告人の前任者である今井倶子に対する人事異動通知書の交付が極めて形式的なものであり、また、任用通知書の交付を前提として、その前後の手続としての退職通知書が交付されるという実態を考えてみれば、人事異動通知書の形式性は極めて明白である。この点は、「パート職員」についても同様であって、通知書に一応任期の記載があっても、「パート職員」本人が退職を申し出ないかぎり雇用は継続されるのであって、その任期の記載は全くの形式であり、実質的には期限の定めのない任用なのである。
また「退職金」の支給も、前同様に右脱法行為を整えるための形式にすぎないのであって、形式的な退職通知書が発せられることに伴って、形式上「退職金」として支給されるにすぎないのである(実質的にはこれは真正な意味において「賃金の後払」である)。また「退職手当の受給方法の届」(乙第一七号証の一、二)も、単にその「受給方法」を記載させるだけのものであり、単なる任用更新の脱法行為の形式を整えるためのものにすぎないことは明々白々である。
したがって、常勤的「非常勤職員」について、人事異動通知書の交付や退職金の支給という形があったとしても、全く問題にならず、常勤的「非常勤職員」たる「日々雇用職員」は、常勤職員と同一時間、同一の業務に継続して雇用されてきたという実態こそ重要なのであって、形式をもって雇用の継続という実態を消し去ることは不可能である。このことは、上告人についても同様であることはいうまでもない。
(二) また人事異動通知書の任期の定めは違法かつ無効であり、上告人は任期の定めのない「日々雇用職員」である。
公務員の期限付任用における期限は行政行為の附款に該当するとされているところ(見上崇洋「行政行為の付款」行政判例百選Ⅰ(新版)(一九八七年)二〇〇頁)、この点については「その附款が行政行為の重要な要素である場合には、附款が無効のときは、行政行為全体の無効を来すのに反し、その附款が行政行為の重要な要素でない場合には、附款が無効となるだけで、附款のつかない行政行為としての効力を生ずるものと考えるべき」であるとされている(田中二郎・新版行政法上巻(一九七四年)一三〇頁)。したがって本件では上告人の任用、即ち、上告人から労務の提供を受けることこそが行政行為の要素であって(任命権者の合理的意思もここにあるものと解すべきである)、期限である附款は重要な要素と解せられないことは明らかである。上告人に対する任用の附款たる期限は違法であり無効であるから、原告に対する任用は、附款のつかない行政行為、即ち期限の定めなき任用と解されなければならないのである。
七 小括―憲法二七条一項、国公法一条、同附則一三条違反
憲法二七条一項は「すべての国民は、勤労の権利を有」すると規定し、労働権を保障している。憲法による労働権の保障は、人間は社会生活において生きる存在であり、個々の人間の労働は、当然に他の人間の労働との共同・連帯の関係においてはじめて、真の価値と意義があることを認め、生存権原理に基いて「人間の尊厳」に値する労働の権利を保障することにある。そのためには労働権の保障は、単に国民の労働権の実現のために必要な措置を講ずるべき国の「政治的責務」を定めるにとどまらず、さらに「就労という状態」からも発する権利として「人間らしい生活(生存)を人間らしい労働の持続(労働権)によって獲得する観点から確保され」なければならないのである(片岡昇「労働権の理念と課題」季刊労働法一〇〇号(昭和五一年)二七頁以下)。もとより労働権は公務員についても認められるものであるところ、上告人が任用期限のある日々雇用職員であるとして、任用の継続を認めない原判決の判示は、結局、上告人について右にいう「労働の持続」に関する権利を剥奪するものであって、かかる意味で原判決には憲法二七条一項にも違反するものといわなければならない。また、何ら理由もなく上告人の任用継続を認めない原判決の判示は、結局、国公法一条、同附則一三条の職員の身分保障について解釈・適用を誤っているということにも帰するものであって、右法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
原判決はこの点でも破棄を免れない。
第三点 日々雇用職員の任用期限に関する法令違反・最高裁判例違背
原判決の理由第四項の判示には、国家公務員法一条、三三条、三六条、七五条、同法附則一三条、人事院規則八―一四の解釈適用を誤った法令違反があり、また最高裁判所昭和三七年(オ)第一四七二号・昭和三九年五月二七日第三小法廷判決(民集一八巻四号七一一頁)にも違背するところ、右法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
一 原判決の判示
国家公務員の任用にあたっては、国公法六〇条が認める臨時的任用の場合や、これに準ずるような例外的な場合でなければ、期限の定めを附することが出来ないことは、前述のとおりである。
然るに原判決は、理由第四項において、「任命権者によって日々雇用の非常勤国家公務員として任用された職員につき、その任用を期限の定めのない非常勤国家公務員の任用とする余地はない。」(原判決二六枚目裏)と断定し、その理由として、国家公務員の任用は公法的規制に服する法律関係であるから、「その任用方法、服務規律、定員等につき国公法、一般職の職員の給与等に関する法律、行政機関の職員の定員に関する法律、人規八―一二、同一五―一二(ただし、昭和五六年当時は人規一五―四)等により厳格に規制されており、能力の実証に基づいて任用されたわけではない控訴人(上告人)につき常勤職員としての地位を与えることは許されず、また右各法律等の規定からすれば、国公法は、任期の定めのない非常勤職員(能力の実証に基づかないで任用された任期の定めのない職員)の存在はこれを許容していないと解されるからである」(原判決二七枚目表)としている。
ここで原判決は、右判示の前段では「日々雇用職員」の任用においてはそもそも期限の定めがないとすること自体が不可能であると断定しているようでもありながら、右後段の理由を述べるところでは、「能力の実証に基づいて」任用されたかどうかが任期の定めの有無に関する判断の分かれ目であるかのようにも判示しており、原判決の言わんとするところが、一体右のいずれにあるのか、甚だ不分明であると言わざるを得ない。仮に前段が真意であるとするならば、「日々雇用職員」という名目で任用された以上、そもそも期限の定めがないとすることは出来ないというのが原判決の解釈ということになるし、後段が真意であるとすると、「能力の実証に基づかず」に「日々雇用職員」として任用された職員については、任期の定めのない職員としての地位を与えることが、前記各法律等によって許されていないのだということになるのであろう。
然しながら、原判決の解釈が右のいずれであるにせよ、原判決は明らかに誤っていると言わざるを得ない。
二 任期の定めのない「日々雇用職員」の存在
まず、「日々雇用職員」との名目で任用されれば、任期の定めが無いという余地は無く、常に任期の定めのある任用であるなどという議論は、問を以て答とするが如き暴論でしかない。そして、何よりも、現在もなお大量に存在する「日々雇用職員」の実態に明らかに反している。この点については、実は被上告人でさえも、いわゆる三年期限の申し合わせが為されたという昭和五五年七月二三日以前に任用された「日々雇用職員」については、実質的に任期の定めが無いものとして、無期限に任用更新を続けている事実を自認しているのである。また、右の三年期限の申し合わせの発端となったとされている文人給第一〇九号の通知(乙第五号証の一)にしても、昭和五五年三月三〇日以前に任用された日々雇用職員の給与について、その者の任用が無期限に更新されることを前提に、その給与の取扱いに関する不合理(いわゆる初任給格付けによる昇給の頭打ち問題)の解消を目的として発せられたものに外ならない。更には、「日々雇用職員」の常勤化の防止を打ち出した昭和三六年閣議決定(乙第三号証の一)にしてからが、同日現在における「任用予定期間を定めず更新して雇用」する「日々雇用の職員」の存在を認め、これらの者については、何ら雇用打切りの措置を取ることを要求せず、期限の定め無く雇用を継続することを容認しているのである。そして、この場合に人事異動通知書の形式的な記載を問題とする余地のないことは前述したとおりである。
右のように、「日々雇用職員」という名目で任用される職員でも、その任期に定めのない職員は現実にいくらでも存在するのである。従って、「日々雇用職員」であるということと、任期の定めの有無ということとは、必ずしも連関しないのであって、原判決の前記の如き判示が誤りであることは多言を要しない。
三 上告人の採用における能力の実証
次に、原判決が理由第四項の後段の「なぜなら、」以下で判示している内容についてであるが、右判示の前提として、上告人の「日々雇用職員」としての任用が、「能力の実証に基づいていない」とする点が、まずもって誤っている。
1 右の点について、原判決は理由第二項の終わりの部分で、上告人の「日々雇用職員採用については、その一年八ヵ月余の時間雇用職員としての勤務実績も参考とされたが、右の実績考慮は、控訴人(上告人)を昭和五六年五月一一日から昭和五七年三月三〇日までの間任用を更新する日々雇用職員として採用するかどうかの観点から為されたものであって、控訴人を常勤職員或いは任用期限の定めのない非常勤職員として採用するかどうかの見地から行なわれたものではな」く、従って上告人が「能力の実証に基づく試験により日々雇用職員に採用されたとするに足りない」などと判示しているが(原判決二二枚目表以下)、かかる判示内容は詭弁に等しいもので、極めて不当と言う以外にない。上告人に対する実績考慮が、判決の言うが如き僅か一〇ヵ月余りの短期雇用の観点から為されたなどというのは、全く事実に反し、本件各証拠にも反する。右実績考慮は、当然のことながら、上告人の日常の勤務態度、能力、司書資格、学歴、職歴等の総合的見地から行なわれ、然も、昭和五七年四月一日以降も、更に昭和五八年四月一日以降も任用を継続する「日々雇用職員」として採用するか否かの観点から為されたものであるし、何よりも上告人は、上告人の前任者であった「日々雇用職員」今井倶子の自己都合退職に伴う後任として採用されたものであり(この事実は前述のとおり原判決も理由第三項の5で確定している)、従って、同女の後任として適切かどうかという観点から上告人の実績考慮が為されたことは、疑いを容れる余地が無いのである。然るところ、右今井倶子は、昭和五五年七月二三日以前に採用された「日々雇用職員」で、実質的にその任期の定めの無い職員として任用されていた者であるから、その後任としての上告人の採用にあたっても、その実績考慮は、当然、任期の定めの無い「日々雇用職員」として採用するかどうかの見地から為されたものと言う外ないのである(なお、この点については、上告理由第六点でも触れる)。
2 そして、国公法三六条に定めのある「能力の実証に基づく試験」即ち「選考」なるものが、「選考される者の当該官職の職務遂行能力の有無を選考の基準にしているかどうかに基いて判定するもの」(人規八―一二第四四条)と言われているものの、実際はそれ程厳密な方法で行なわれている訳ではなく、実質的には人事責任者の推挙程度で足りていることは公知の事実であるから、上告人の場合についても、実質的に見れば、「能力の実証」が行なわれたものと考えて何ら差支えないのである。
このことは「非常勤職員」の定員化の場合について、歴史的にみても明らかである。即ち、これまでに約一〇万人を越える「非常勤職員」が定員化されているのであるが、「いずれも法の改正によるものではなく、行政措置であった。定員法、条例の改正による定数の変動はあったにしても、自由任用された者の定員化について両公務員法を一時的に改正し、その条件、基準を定立したわけではない。地方公務員関係における自治省の指導も、(1)相当長期間勤務していること、(2)勤務実績が良好であること、(3)任用しようとする職の職務遂行能力を有することが適性な方法により実証されること、などの三点であり、改めて採用試験をしたわけではない」(山本・前掲論文・季刊労働法一一七号九六頁)のである。かかる歴史的経過は、長期にわたって定員内職員と同種の業務に従事している常勤的「非常勤職員」については、すでに能力の実証は充分尽くされていることを前提として行われたものにほかならない。
のみならず、文部省においては現在も「非常勤職員」の定員化がなされているのであり、例えば東京大学では、昭和六〇年には六七名、同六一年には二九名、同六三年には一二名が、それぞれ「非常勤職員」から定員化されており、その人数の多さも刮目に値するし(甲第八二号証参照)、現に大阪大学においても理学部で昭和五九年度に「日々雇用職員」として採用された(したがって「三年期限」対象者である)續木佐知子は、昭和六一年四月一日付で定員化されているのである(甲第七六号証、甲第八六号証の一および二)。これらについても、特に競争試験がなされたわけではなく、それまでの実積が考慮されたにとどまるのである。
上告人については、「定員化」ではなく、任期の定めのない「日々雇用職員」としての任用であるところ、前記のとおり上告人の実績が考慮されている以上、原判決が、上告人の任用について「能力の実証」に基づいていないと前提すること自体がそもそも誤っていると言う外ない。
四 原判決の法令解釈の誤り
ところで、右の「能力の実証」の有無の点は暫く措くこととし、仮に上告人の任用にあたり「能力の実証」が行なわれなかったものとしてみても、そのことから、直ちに上告人の任用について「任期の定めの無いことが許されない」などという結論が導き出されるものでは全くないのである。
1 原判決は、理由第四項において、国公法、給与法、総定員法、そして人規八―一二や同一五―一二を、右の如き結論を導き出すための根拠規定として掲げているけれども、これらの法令は、何ら原判決の右結論の根拠規定とはなり得ないものである。何故なら、原判決の掲記する右各法令には、「能力の実証」がなされることなく国家公務員が採用された場合、その任期についてどのように考えるべきかという問題について、その問題解決に直接答える条項が無いのは勿論、解決にあたって参考となるべき条項すら存在していないからである。確かに国公法三条や三六条は、職員の採用にあたって「能力の実証」がなされることを求めてはいるけれども、他方で同法一条、六〇条、附則一三条但書の趣旨からすると、国公法は国家公務員の任用に任期を附し得る場合をごく限定的に考えていることも明らかであり、結局国公法の諸規定から一律的に右問題の解決方法を導き出すことなど、とうてい出来るものではない。
また給与法二二条では「常勤を要しない職員」という用語が使われ、昭和六〇年の改正で追加された同条四項でこの「常勤を要しない職員」の勤務時間、休暇等については人事院規則で定めるとし、これを受けて人規一五―一二(人規一五―四)が制定され、同規則一条で右の「常勤を要しない職員」という用語を更に「非常勤職員」と言い換えて使用しているが、右の給与法、人事院規則のいずれにおいても、「非常勤職員」の任用については任期を定めなければならないなどということを、何ら規定してはいないのである。それどころか、給与法一条二項は、同法よりあくまでも国公法の規定の方が優先することを明確にしているし、また人規一五―一二とその運用に関する事務総長通知に至っては、労働基準法に準じ、その年次休暇を毎年加算していかなければならない「非常勤職員」、即ち任期の定めなく継続して雇用される「非常勤職員」が存在する事実を当然の前提としているのである。また人規八―一二にしても、任期を定めて任用した職員に関する取扱いを規定しているのみで、「非常勤職員」や「日々雇用職員」の任用にあたっては、必ず任期を定めなければならないとか、或いは「能力の実証」に基づかずに任期の定めのない職員を採用してはならないなどということを規定している訳ではない。
更に総定員法についても、同法は内閣の機関並びに総理府及び各省の恒常的に置く必要がある職に充てるべき常勤の職員の定員の総数の最高限度を設定し、もって一般職の国家公務員の定員管理を政府全体として行なおうと意図したものに過ぎず、同法自体は、各行政庁における個別の定員管理すら直接に規制するものではないのである。従って、同法を理由に、個々の職員の任用行為の内容を論ずるのは全くナンセンスな議論と言う以外にないのである。
2 むしろ、国公法一条、六〇条、七五条、同法附則一三条の趣旨からすれば、国家公務員の任用については、期限の定めのないのが原則であると考えなければならないことは前記のとおりであるし、この理は、たとえ任用の際に同法三三条、三六条に違反するようなことがあったとしても、同様であると言わなければならない。また、「非常勤職員」の任用に関する特例を定める人規八―一四にしても、その規定する趣旨は、「非常勤職員」の採用が競争試験または選考のいずれにもよらないで行なうことが出来るというだけのことであって、その場合の任期については何ら触れるところがなく、却って「非常勤職員」の他の官職への異動まで前提しているところから見れば、原判決の立論とは逆に、「非常勤職員」の任用についても任期の定めが無いことを前提にしていると考えられるのである。
そして現実に、実質的に任期の定めのない「日々雇用職員」が多数存在していること、また被上告人も昭和五五年七月二三日以前に採用した「日々雇用職員」については、実質的に任期の定めが無い取扱いをしていることを自認していること、更に、「日々雇用職員」の常勤化の防止を打ち出した昭和三六年閣議決定ですら、同日以前採用の「日々雇用職員」については、期限の定め無く雇用を継続することを容認している事実などは、前記のとおりである。これらの現実は、原判決の如き軽薄な法論理で、「非常勤職員」や「日々雇用職員」の任期の定めの有無を論じられないことを端的に示しているものである。
以上のように、原判決が「能力の実証」に基づかず任用された職員について、任期の定めをしないことが許されないなどと判示しているところは、国公法一条、三三条、三六条、七五条、同法附則一三条、人規八―一四の解釈適用を誤った結果であることは明らかである。
五 最高裁判例違背
右に述べてきたように、現行法の解釈として、「能力の実証」に基づかず任期の定めの無い職員として任用されることが許されないなどとは、とうてい言うことが出来ず、むしろ「能力の実証」が無くとも、任期の定め無く任用されることは有り得ると言うべきなのであるが、これは何も上告人が独自の見解を述べている訳ではなく、最高裁判所の判例も右と同旨の法令解釈を採用しているのである。即ち、地方公務員の任用の違法、適法が問題となった事例において、最高裁昭和三九年五月二七日第三小法廷判決(民集一八巻四号七一一頁)は、「原判決の認定するところによれば、前記七名の吏員昇任は競争試験または選考の方法によらないで行なわれたというのであるから、いずれにせよ、右七名の昇任は、原判決も判示しているとおり、違法と言わなくてはならない。しかし、それだからといって、右昇任が法律上当然に無効といえないことも、原判示のとおりである。もともと、条例定数を超えて任用できないこと及び試験または選考を経て任用すべきことは、任命権者の義務ではあるけれども、これらの義務に違反したからといって、任用された者または他の吏員に対する関係において、違法行為があったということはできず、」との判断を示しているのである。右最高裁判例の判断を本件上告人のケースに敷衍して述べるならば、仮に、上告人が競争試験又は選考のいずれにもよらないで任期の定め無く任用されたことが、国公法に違反するとの解釈に立ったとしても、そのことは任命権者の義務違反でしかなく、この点の違反によって、任用された上告人に対する関係で、違法行為があったとすることは出来ないということになるのである。従って、右判例に従えば、上告人の任用にあたって競争試験または選考による「能力の実証」がなされなかったからといって、上告人の任用に期限が附されたとか、期限が附されないことが許されないなどということには、全くならないのである。
右のように、「能力の実証」に基づかずに任用された以上、任期の定めがないということは許されず、必ず任期の定めがあるべきであるとする原判決の判示内容は、右に挙示した最高裁判所の判例にも違背することが明らかと言わなければならない。
六 小括
以上述べてきたところから明らかなように、上告人の任用に期限の定めが有ったか無かったか、また仮に有ったとしてそれが違法か適法かは、まさに上告人の任用の経緯や任用の継続状況、他の「日々雇用職員」の任用状況、そして上告人の職務内容等々の本件をめぐる総合的な事実から決せられるべきであるのに、原判決は、「能力の実証」が無かったから任期の定めがないことは許されないなどと全く誤った法令解釈に基づく独自の法理を導き出し、これにより、いともたやすく上告人の請求を排斥したものであり、その誤りは顕著であると共に、右法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、原判決はとうてい破棄を免れないものと言うべきである。
第四点 平等原則違反
原判決は、昭和五九年三月三一日をもって上告人の解雇(雇止め)を肯認したが、原判決の判示は、憲法一四条一項、国公法二七条に違反する。
一 上告人に対する解雇(雇止め)の理由
―いわゆる「三年期限の申し合わせ」と原判決の判示
1 上告人に対する本件解雇(雇止め)の理由として、大阪大学当局が挙示していた理由は、唯一、昭和五五年七月二三日開催された全学事務長会議における、いわゆる「三年期限」の申し合わせである。大阪大学当局が上告人や教職員に対して一貫して説明してきた理由は右「三年期限」の申し合わせがあり、右期限を超えて上告人を任用することができないということであった。
即ち、被上告人は、文人給第一〇九号の通知の趣旨に沿って、大阪大学では昭和五五年七月二三日開催の全学事務長会議において、
① 非常勤職員の雇用の抑制並びに長期化の防止等、今後とも厳正な取扱いを行なうことを確認した。
② 日々雇用職員を採用する場合は単年度を原則として、継続して雇用する必要がある場合でも、その期間は二年を限度とし、特別の場合にあっても三年を超えないものとする旨を申し合わせ、日々雇用職員の採用についての前記閣議決定等において示された趣旨の徹底を図っている。
と主張した。
そして被上告人側の第一審証人砂本真および同林尚章も右「申し合わせ」が上告人に対する本件解雇(雇止め)の根拠である旨証言しており、第一審における証拠調べも、上告人が日々雇用職員に採用されるにあたって、右告知があったか否かが、最大の争点であって、その点をめぐって証拠調べが集中されたのである。
2 この点に関して、原判決は「控訴人(上告人)を日々雇用職員に任用するにあたって任用期限は三年であることが大阪大学当局から控訴人(上告人)に少なくとも明確に告知されていたことを認めるに足りる証拠はない。」と認定しながら、他方で「しかしながら、他方、控訴人(上告人)を日々雇用職員に任用するに際し、任用事務担当者その他の大阪大学当局が、控訴人(上告人)に対し、人事異動通知書の記載にもかかわらず任用は無期限に継続される旨を告知したものと認めるに足りる証拠もない」と判示する(原判決三〇枚目裏)。
原判決の右後段の判示に、理由不備・理由齟齬および経験則違背の存することは上告人理由第六点で述べるとおりである。
ところで上告人は第一審および原審を通じて、上告人に対する本件解雇(雇止め)は、他の多数の「日々雇用職員」及びパート職員が事実上期限の定めなくして任用継続がなされている中においてなされたものであって、しかも右解雇(雇止め)には何等合理性もなく、これが差別的取扱いであることは明らかであり、上告人が解雇(雇止め)がされたことにより身分上の不利益を受け、これが身分保障の趣旨に反する(一条、附則第一三条)ことを主張して来たところである。しかしながら、原判決は右主張について何等言及することなく、上告人の控訴を棄却したのであるが、原判決の右前段の判示はかえって上告人の右主張を根拠づけるものであって、原判決には「憲法ノ違背アルコト」、そして「判決ニ影響ヲ及ボスコト明ナル法令ノ違背アルコト」(民訴法第三九四条)は明白となったものといえる。
二 大阪大学附属図書館における常勤的「非常勤職員」の実情
まず、ここで大阪大学附属図書館における常勤的「非常勤職員」の実情をみておく必要があり、その実情をみれば、常勤的「非常勤職員」の職務がいかに不可欠で恒常的なものであるか明らかとなる。
1 常勤的「非常勤職員」の職務の不可欠性、恒常性
(一) 大阪大学付属図書館においては、全職員中に「非常勤職員」の数が、昭和五六年五月一一日の時点で九五名中四〇名、同五九年二月二八日の時点で一〇五名中五三名の多数を占めていた。その割合は年々上昇する傾向にあったが、右時点で遂に過半数を超えるに至ってるのである(乙第一一号証)。
まず、「非常勤職員」が年々増加し、減少することがないということは、「非常勤職員」が決して一時的、季節的、臨時的業務のために採用されているのではなく、図書館運営にとって恒常的な職務に従事していることを示している。
(二) 大阪大学付属図書館では、「パート職員」にせよ「日々雇用職員」にせよ、定員内職員と全く同様に、各自が配属された部門において定まった職務を担当している。それ故、ある職員が辞職したり他に配転されたりした場合は、もとの担当職にいわば「欠員」が生じた状態となり、必ずその「欠員」が補充されている。上告人が昭和五四年九月一日「パート職員」に採用されたのも、同五六年四月一日中之島分館の中で運用掛から目録掛へ配転されたのも、同年五月一一日「日々雇用職員」に採用されたのも、いずれも従前の職員が異動或いは退職したことに伴う欠員補充であった。また、上告人が任用を更新されず解雇(雇止め)されたあとも、上告人の補充として新たな職員を採用して機構改革を行ないながら大巾な人員補充を行なっている(甲第七一、七三号証)。また、「日々雇用職員」には後述のように産休が認められており、かつその産休期間中は、当該職員に就労を続ける意思がある限り、定員内職員の産休の場合と同様、その担当職を空席とし、他の在籍職員の間でやりくりして人手の足りない部分を補っていた。
もとより、「日々雇用職員」は、定員内職員と全く同一時間勤務しており、また、定員内職員と同様、土曜休暇も付与されており、かつ休暇を取得するにあたってのローテーションは定員内職員と全く一体として組まれていた(甲第六、七号証)。
(三) さらに、大阪大学付属図書館の本館受入掛では、その業務内容を大別すると発注、納品、検収、入力、支払の五種類があるところ、支払を除くあと四種類の業務を、定員内職員一名、日々雇用職員一名、パート職員二名の合計四名で担当しており、かつその分担の仕方はいわゆる縦割り方式で、学部ごとの分担を決め、一職員が右四種類の業務を全部行なっている(甲第二七号証一三頁)。このことは、定員内職員と「非常勤職員」とが完全に同一内容の業務に従事していることを示している。また、本館目録掛においても、分類の決定や目録カードの作成等の業務を定員内職員七名、「日々雇用職員」二名、パート職員一名の合計一〇名で、和洋別、部局別に縦割りで分担を決めて行なっている(同号証一五頁)。ここにおいても、「非常勤職員」が定員内職員と全く同一内容の職務に従事していることを看取できる。更には、上告人が配属されていた本館閲覧第一掛においても、係長を除く定員内職員二名、「日々雇用職員」一名、パート職員二名の合計五名で、図書館業務に不可欠の貸出カウンター業務を全く同等に行なっていたことが窺われるのである(同号証一六ないし一八頁)。
このように、同図書館においては、「非常勤職員」が定員内職員と全く同一内容の勤務に従事していた。
(四) 以上のような「非常勤職員」の勤務実態、職務内容からすれば、大阪大学附属図書館の運営にとって、「非常勤職員」は決して一時的、季節的、臨時的、或いは補助的、代替的な職務に従事する短期雇用の職員ではなく、図書館の運営に不可欠な恒常的職務に従事する職員であることは明らかである。したがって、その任期も恒常的職務を果たすにふさわしく、期限の定めのないものとなされなければならないのである(人事院規則八―一二の一五条の二)。
2 大阪大学附属図書館における常勤的「非常勤職員」の取り扱い
(一) 大阪大学附属図書館の「日々雇用職員」については、原則として同図書館のパート職員の中から、経歴が長くかつ能力のある職員を任用する取扱いとなっていた。このような任用の実情に鑑みると、同図書館における「日々雇用職員」の任用にあたっては、国公法第三六条一項(人事院規則八―一二の第四四条)に定める「能力の実証」が実質的に行われていたものと言える。
(二) 「日々雇用職員」の任用或いはその任用継続の確認にあたっては、毎年四月一日に任用予定期間を翌年の三月三〇日とする人事異動通知書が交付される取扱いとなっていた。しかし、前述したように、この人事異動通知書交付は、昭和三六年閣議決定を潜脱するための形式を整えようとしたものに過ぎなかった。このことは、上告人の前任者である今井倶子について、昭和五六年三月当時産休中であったところ、産休中は「日々雇用職員」は無給であるにも拘らず、大阪大学当局から同女に対し、同年三月末には例年どおり退職通知が交付され、かつほとんど時を同じくして同年四月一日付の任用通知書が交付されたものの、同女はまもなく四月末日をもって退職したい旨を申し出て、退職まで一貫して休職中で唯の一日も就労した事実がなかったというような事例からも明らかに看取出来るところである。また通常の場合においても、「日々雇用職員」については、既に四月一日から継続任用が決まっているのに三月三一日付の退職通知書を交付するという取扱いが行われているが、このような取扱い自体からも、かかる通知書交付というものが、全くの形式でしかないことが指摘出来るのである。
前述したように、このことは「パート職員」についても事は同様であって、一応通知書に任用期間は記載されているものの、職員本人が辞めたいと言わない限り任用は継続されるのであって、結局右任用期間の記載は全くの形式に過ぎないのである。
(三) 大阪大学附属図書館の「日々雇用職員」については、建前上は人事院規則にもとづき労働基準法に準じて年次有給休暇が与えられることになっていたが、実際の取扱としては定員内職員と全く同様に、一律に年二〇日の年次有給休暇が与えられていた。控訴人も「パート職員」から「日々雇用職員」に任用された時点で、無条件で年二〇日の年次有給休暇が与えられたのである(なお、人事院規則一五―四の運用に関しては前述したとおりである)。
また、「日々雇用職員」については、年金は厚生年金保険が、健康保険は政府管掌保険がそれぞれ適用されていたが、ここにおいても、人事異動通知書の上で設けられていた毎年三月三一日の空白期間は存在しないものとして、つまり雇用は継続しているものとして取り扱われている。
「日々雇用職員」については定員内職員と同様に残業が命ぜられることがあったし、またいわゆる産休の取得も認められていた(乙第一四号証九五三頁)。
なお大阪大学附属図書館においては、「非常勤職員」についても定員内職員と全く同一様式の身分証明書を発行し、これを携帯させていた(甲第三、四号証)。
(四) 「パート職員」については労働保険として雇用保険が適用されているが、「日々雇用職員」については、雇用保険の適用は為されていない(労災については、いずれも国家公務員災害補償法が適用される)。従って、「パート職員」から「日々雇用職員」に任用された時点で、雇用保険が打ち切られる取扱いとなっているのである。このような取扱いは、「パート職員」と「日々雇用職員」の身分上の取扱いに差異があること(例えば、「日々雇用職員」には雇用保険法に代わって国家公務員退職手当法が適用されることになる)、とりわけ雇用面に関して、「日々雇用職員」のそれが長期に安定しており、定員内職員に準じた身分保障が与えられているとの前提があったことを示している。
この点については、原判決も「昭和五六年当時大阪大学附属図書館に勤務する職員間では、日々雇用職員は時間雇用職員よりも勤務条件が良く、一段上に格付けされるとの認識が一般であ」ったと判示しているところである(原判決二三枚目裏)。
以上述べたところから明らかなように、大阪大学附属図書館においては、「パート職員」を含め非常勤職員は、当該職員の方から辞めたいと言わない限り、その雇用が継続される取扱いが為されてきた。とりわけ「日々雇用職員」は、「パート職員」に比し労働条件が優れた地位であると意識され、その身分が安定していることはもとより、その労働条件も定員内職員に準ずるものとして取扱われており、従って職員一般の間でもそのように認識されていたのである。
三 いわゆる「三年期限」の法的根拠の欠如と差別性
1 ところで文人給第一〇九号それ自体は、一応「日々雇用職員の雇用については極力その抑制に努める」としているものの「日々雇用職員」を採用するにあたって雇用継続期間などを定めてはいない。この点については、文部省はあくまで各大学の自主性に委ねており、右雇用継続期間の最終決定権者は各大学であるとしている(甲第七四号証)。原判決は「他の主要国立大学においてもほゞ同時期に最長任用期限を二年又は三年とする旨定めた」と判示しているが(原判決三一枚目裏)、原判決の右判示は相当ではなく、実際のところも、右最終決定権者は各大学であることから、「日々雇用職員」の雇用継続期間については各国立大学毎に区々となっており、「日々雇用職員」の雇用継続期間を決めず、期限を定めなく任用している大学も多いのである(甲第八三号証)。のみならず、雇用期限を定めている大学でも、それに基づく形式的な運用をしておらず、例えば東京大学では昭和六〇年以降も毎年「非常勤職員」が定員化されるなどしているのである(甲第八二号証、なお、甲第八〇号証参照)。
2 大阪大学における「日々雇用職員」の雇用継続期間を最長でも三年を超えないものとするという前記申し合わせには、何ら法的根拠はない。
「三年期限」の法的根拠については、かかる申し合わせを大阪大学の全学事務長会議において行ったとされる際の事務担当責任者(人事課長)であった第一審証人林尚章や、上告人を日々雇用職員に任用した際の大阪大学附属図書館の人事担当の整理課長であった第一審証人砂本眞も、この「三年期限」を申し合わせた法的根拠ないし実質的根拠を何ら説明出来なかったのである(第一審証人林尚章第一審第15回40ないし42丁、同審証人砂本眞第一審第13回11ないし15丁)。
結局「三年期限」の申し合わせというのは、任命権者たる大阪大学総長の命令というのですらなく、単なる事務処理レベルの文字どおりの「申し合わせ」に過ぎない。ところで、この「三年期限」なるものがどこから登場してきたかというと、それは文人給第一〇九号であるというのが被上告人の主張であり、また大阪大学の人事担当者の認識のようであるが、「文人給」というのは文部省人事課給与班の出す事務通達であり、本来職員の給与の取扱いに関するものであって、職員の任用については直接の関連性がないものである(このことは、被上告人も認めている)。つまり文人給第一〇九号自体は、文部省としての「日々雇用職員」の任用の有り方そのものに関する通達ですらないのであって、従って、これに基づく「三年期限の申し合わせ」なるものは、少なくとも日々雇用職員の任用の取扱いという観点からは、はなはだその根拠は薄弱なものに過ぎないのである。
加えて、「三年期限」の申し合わせについては、大阪大学の各部局の人事担当者の間では、それ程厳格に守られるものとは意識されておらず、むしろ弾力的に運用されるとの期待が多かったというのが実情であって(第一審証人砂本第一審第13回6丁、甲第二七号証四頁)、このようなことからも、「三年期限」についてはその規範性を肯認することはとうていできない。
3 「三年期限」は合理性に欠け、他方で著しく差別的である。
「日々雇用職員」の任用期間を最大限三年とするとの「三年期限の申し合わせ」については、前述したところからみても、とうてい合理性を見出すことが出来ないし、実際にも極めて不合理である。前記のとおり「日々雇用職員」は、いずれも大阪大学附属図書館の運営に不可欠な恒常的職務に従事している。つまりその職務は同図書館が存続する限り必ず必要とされるのであるから「日々雇用職員」の職務内容から、三年という期限を導き出すことは不可能である。他方、「日々雇用職員」の法的身分からするならば、「三年期限」の適用の分かれ目とされる昭和五五年七月二三日以前に任用された職員であろうと同日より後に任用された職員であろうと、それぞれの任用方法、任用通知書、退職通知書(毎年のように形式的に交付が繰り返され、かつその際形式的な「退職金」が支給される)、職務内容、勤務形態、その他の労働条件等について全く差異はないのであって、結局その法律上の地位は完全に同一であると見る以外にない。にもかかわらず、雇用期間が期限付か無期限(実質上であろうとも)かというような根本的な身分上の差異が、任用時期の如何によって生じてよいなどとすることはとうてい許されないところである。
従って、任用に関わる具体的個別的事情に考慮を払わないで、一律に「三年期限」を適用し雇止めをすることは、昭和五五年七月二三日以前に採用された「日々雇用職員」と比較して、著しく不合理な差別的取扱いをすることとなり、かかる取扱は違法と断ぜざるを得ないのである。現に大阪大学付属図書館では、上告人が解雇(雇止め)された後も、昭和五五年七月二三日以前に採用された「日々雇用職員」が七名も継続雇用されており、さらに前述したように理学部の續木佐知子は本来いわゆる「三年期限」の対象者であるにもかかわらず、定員内職員とされているのであって、本件で上告人が被上告人から受けた国公法違反と人権無視の取扱いに比べ、際立った対照を見せているのである。
かかる意味で、いわゆる「三年期限」を理由とする上告人に対する解雇(雇止め)は憲法一四条一項、国公法二七条に違反するといわなければならない。
四 原判決の憲法一四条一項、国公法二七条違反
1 前述したように原判決は、大阪大学当局が上告人に対し、いわゆる「三年期限」の告知をしたことを認めるに足りる証拠はないと判示しながら、他方で大阪大学当局による上告人に対する解雇(雇止め)を肯認したという点で、原判決の憲法一四条一項、国公法二七条違反はいっそう明らかとなったというべきである。即ち、原判決の右の認定事実からすれば、少なくとも「三年期限」の申し合わせの前後により雇い止めにつき差別をなすことには何等合理性は存しないことを原判決自体が明らかにしたのである。
そもそも「日々雇用職員」の処遇については、「三年期限」の申し合わせの直接的契機となった文人給第一〇九号が通達される以前よりその建前と実態との完全な乖離が長年に亘り問題とされて来たのである。
前述したように文人給第一〇九号は、常勤的「非常勤職員」について、その給与面において実態に即すべく、いわゆる七―四頭打ちを解消して、昇給の道を招くこととした。しかし一方において、常勤的「非常勤職員」の解消をも謳い、大阪大学においてもこれに従って日々雇用職員についての三年期限の申し合わせがなされたというのである。
しかし、右「申し合わせ」は昭和五五年七月二三日になされたにも拘らず、原判決も判示するように、同五六年五月一一日に日々雇用職員に任用された上告人には、その申し合わせは告知されることはなされてはいないのである。
他方、上告人は、「日々雇用職員」に任用されたことにより、常勤的「非常勤職員」の中でも最も好条件の下で働くことが出来るようになったものと、喜び勇んでいた。上告人がかような認識を有するに至ったのは、三年期限申し合わせ以前に「日々雇用職員」に任用された職員らは、その者達が希望することがない限り、雇い止めとなることもなく、事実上、無期限の任用がなされて来たからである。そして、現に、大阪大学において、「三年期限申し合わせ」前に任用された「日々雇用職員」の多数が現在でもなお任用更新を継続されているのであって(上告人原審本人調書一丁裏乃至二丁表)、この点は被上告人においても争わないところである。
このように多数の「日々雇用職員」が任用期限の点において制約を受けることなく任用期限を継続されて勤務する中において、上告人自らがすすんで退職を希望するのでない限り、任用更新が継続されると考えたとしても、そのこと自体当然のことであって、上告人のかような期待をもって、充分法的意義を有する期待権と位置付けることは、何等不合理なものとは考えられない。
2 原判決は前述したように、上告人に対する三年期限の告知はなされていないとしながら、他方で大阪大学当局が上告人に対して「任用は無期限にされる旨を告知したものと認めるに足りる証拠もない」と判示する。
しかしながら、原判決の見解は全く現実離れをしたものと言わねばならない。本件三年期限の申し合わせから三年以上を経た後にも大阪大学において多数の「日々雇用職員」が三年を越えて任用されていることは先に述べたとおりであるが、それらの「日々雇用職員」にしたところで、正式に任用期限につき無期限であることを告知された者など存するはずもないところである。蓋し、常勤的「非常勤職員」といい、また事実上無期限の「日々雇用職員」といい、それらは建前と現実が乖離する中、任用権者においてかような職員が不可欠であるところから、正に運用の妙をもって形成して来たものであり、その任用期間の無期限性は暗黙の了解事項とされて来たのが実態であった。このような経緯の下において、そもそも「人事異動通知書の記載にもかかわらず任用は無期限に継続される旨の告知」などが正式になされる方が不自然である。
しかし、上告人が「日々雇用職員」として任用された際、上告人がこれを喜び、他の職員も、上告人の右任用を祝ったのは、「日々雇用職員」として任用されること自体において、無期限に任用が継続される趣旨が暗黙に含まれており、その前提とした取扱いが既に慣行として確立していたからにほかならない。何よりもそのことを証するのは、本件「三年期限の申し合わせ」以降において、右申し合わせの時期から更に三年を越えて任用を継続されている「日々雇用職員」が多数存するという厳然たる事実である。
このような状態からすれば、原判決のいう「告知」は明示的になされるなどして、その存在を直接的に立証しうる類のものではなく、既述の如き「日々雇用職員」を取り巻く諸事情から間接的に立証されるべきものであることは明白であり、しかも上告人としては、かような立証は第一審・原審を通じて充分になされているものと考える。
3 ところで、上告人の勤務態度については、他の職員と比べ特に劣るところはなく、現に被上告人もその点については何ら主張はしておらず、上告人について解雇(雇止め)を認めるべき特段の事由が存しないことについては争いのないところといってよい。一方、上告人は三年期限の申し合わせによる期限の点については告知を受けておらず、勿論この点について同意もしていない。そして、他方で、上告人より前任の日々雇用職員らの多数は今日に至る迄任用更新の継続がなされているのである。
かような事情からすると、上告人について三年をもって雇止めをなす合理的根拠は全く存せず、右雇止めが憲法第一四条一項、国公法第二七条に反するものであることは明白となったものというべきである。
第五点 期限の定めのない任用への転化論ないしは解雇法理の類推適用に関する最高裁判例違反および法令解釈の誤り
原判決は、国家公務員の任用は公法関係であるから、日々雇用職員としての任用更新の継続により、任用期限の定めのない非常勤職員としての任用に転化することは認められないし、また、日々雇用の一般職国家公務員の地位は、任用期限の満了によって当然消滅し、解雇法理を適用すべき余地はないと判示する。しかし、右判示は、後掲各最高裁判例に違背しており、また、国家公務員の任用に関する規定の解釈適用を誤り、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
一 上告人の主張と原判決の判示
1 上告人は、次のとおり主張してきた。
上告人は昭和五四年九月一日「パート職員」に採用されて以降、昭和五六年五月一一日「日々雇用職員」に配置転換され、本件雇止めに至るまで、六回にわたって反復して任用を更新されてきたのであって、上告人の各採用の経過ならびに上告人の従事していた業務内容を併せ考えると、被上告人との間では大阪大学付属図書館の「期限の定めなき事務補佐員(日々雇用職員)」としての任用に転化したものと解することができ、大阪大学総長が上告人に対し本件雇止めをなし昭和五九年四月一日以降の任用を更新しなかったことは、解雇の意思表示と解され、したがって、解雇の法理が適用されるべきである。
もし仮に、転化したといえなくとも、右事実関係の下では、本件雇止めには解雇の法理が類推適用されるべきである。
2 しかるに、被上告人は、形式的な任用期限の満了をいうのみで解雇理由を主張・立証することはなく、原判決もこれについても何ら判断することはなく、原判決は単に、「国家公務員の勤務関係は公法上の関係であって、その任用については国公法、人規その他の公法的規制下にあり、日々雇用職員としての任用の更新が継続されたことを理由として、控訴人の日々雇用職員としての任用が期限の定めのない非常勤職員としての任用に転化することを認めることは、結局、任用の要件、手続、効果等について、それぞれ法律によって定めている右国公法等の規定の趣旨を潜脱する結果となるから、許されないものと解するのが相当である。」と述べて転化を否定し、さらに、「公法的規制を受ける国家公務員の任用関係の性質からすると、日々雇用の一般職国家公務員の地位は、任用期間の満了により当然に消滅するものというほかなく、したがって、期間が満了した非常勤職員を再度採用するかどうかは任命権者の自由裁量に属し、解雇に関する法理を類推適用すべき余地はないものと解するのが相当である。」との結論を述べるのみである。
二 最高裁判例について
1 期限付の雇用契約が長期にわたって反復されることによって、期限の定めなき雇用契約へ転化するという法理(いわゆる「転化論」)は、東芝臨時工事件・最高裁昭和四九年七月二二日第一小法廷判決(判例時報七五二号二七頁)が、いちはやく認めているところである。
すなわち、契約期間を二か月とする雇用契約が更新されていた臨時工について、「本件各労働契約は、期間の満了毎に当然更新を重ねてあたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、本件各雇止めの意思表示は右のような契約を終了させる趣旨のもとにされたのであるから、実質において解雇の意思表示にあたる」として、雇止めの効力の判断にあたっては、その実質に鑑みて「解雇に関する法理を類推すべきである」と判示した。
そして右法理は下級審ではいわゆる公法関係についても肯認されている例がある。即ち、北九州市立病院事件・福岡地裁小倉支部昭和四六年一〇月七日判決(労働経済判例速報八四〇号)が、地公法三条三号三項の臨時職員について、「すでに期間の定めのない雇用契約に転移したものと解するのが相当」であり、「その者の任免、服務等については、地公法上一般職に準じた取扱を認めるのが相当である」と判示し、さらには加古川市臨職事件・神戸地裁姫路支部昭和四九年九月二日判決(労働法律旬報八六七号五五頁)も、「債務者は、債権者らを採用するにあたり、形式的には、期間の定めのない契約をくり返して締結するという方式をとったもの、実質的には、当初から期間の定めのない契約を締結する意思を有していたものと推認される」とし、「債権者らと債務者との雇用契約は、期間の定めのないもの」と認めるのが相当であると判示しているところである。
2 また、期限の定めなき任用に転化したものとまでは言えない場合についても、現に任用が反復更新されてきたことを重視し、雇止めの効力について判断するにあたっては、解雇に関する法理が類推適用されるべき場合があることを、日立メディコ事件・最高裁昭和六一年一二月四日第一小法廷判決(判例時報一二二一号一三四頁)は明確に認めている。
右判決は、「(本件臨時雇の労働者は)季節的労務や特定物の製作のような臨時的作業のために雇用されるものではなく、その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、上告人との間においても五回にわたり契約が更新されているのであるから、このような労働者を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、解雇であれば解雇権濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が新契約を締結しなかったとするならば、期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係となるものと解される」というのである。
3 さらに、平安閣事件・最高裁昭和六二年一〇月一六日第二小法廷判決(労働判例五〇六号一三頁)は、次のように判示した二審判決(東京高裁昭和六二年三月二五日判決)を、支持する。
右東京高裁判決は「本件雇用契約を期間の定めのない契約ないしはその定めのない契約に転化したものと解することはできないものの、実質においては、期間の定めは一応のものであって、いずれかから格別の意思表示がない限り当然更新されるべきものとの前提のもとに、雇用契約が存続、維持されてきたものというべきであるから、期間満了によって本件雇用契約を終了させるためには、雇止めの意思表示及び剰員を生ずる等従来の取扱を変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情の存することを要するものと解するのを相当とするところ、控訴人は、期間満了を主張するのみであって、被控訴人らに対し雇止め(契約更新拒絶)の意思表示をしたこと、ないしは右特段の事情の存することにつき何ら主張立証しない(右意思表示、特段の事情の存在を認めるに足りる的確な証拠もない。)から、控訴人の抗弁は理由がなく、被控訴人らと控訴人間の雇用契約は控訴人主張の期間満了により終了することなく、なお存続しているものというべきである。」
4 期間の定めのない雇用契約について、単にその契約の形式ではなく、雇用関係の実態に目を向けようとする最高裁の判例の傾向は、神戸弘陵学園事件・最高裁平成二年六月五日第三小法廷判決(労働判例五六四号八頁)にも顕著に現れている。
すなわち、明示の合意がない場合であっても、期間の定めのある雇用契約につき、「試用期間付労働契約」と解しうる場合があること、右契約の法的性格につき、一定の限定付きではあれ解約権留保付雇用契約であるとし、期間満了を理由とする雇止めにつき、本採用拒否の法理が適用されるとし、次のように述べて原判決を破棄し、原審へ差戻している。すなわち、「本件雇用契約締結の際に、一年の期間の満了により本件雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が上告人と被上告人との間に成立しているなどの特段の事情が認められるとすることにはなお疑問が残るといわざるを得ず、このような疑問が残るのにかかわらず、本件雇用契約に付された一年の期間を契約の存続期間であるとし、本件雇用契約は右一年の期間の満了により終了したとした原判決は、雇用契約の期間の性質についての法令の解釈を誤り、審理不尽、理由不備の違法を犯したものといわざるを得ず、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。」
5 右のような各最高裁判決の趣旨は、更新の経過、労働の実態からいって労働者の継続雇用が十分期待されているような場合には、使用者の側には信義則上、単なる期間満了の抗弁のみでは更新拒絶が許されない状態が成立するとみているというべきであろう。
これは、有期契約が反復更新されていわゆる連鎖契約の形態となったと認められる場合には、その連鎖契約を構成する各個の有期契約の期間は効力なきものと判断すべきであるという多数の学説や、下級審判例の趨勢を踏まえるものであり、転化否定の立場にたったとしても、合理的理由なしには労働者を職場から排除できないことを確認しているわけである。そこには、労働者の生存権・労働権に対する配慮が窺われるのである。そしてこの論理は、必ずしも私企業に限られるものではないことはいうまでもない。すなわち、労働の実態、雇用及びその更新の経過を重視して、労働者の生存権、労働権を検討するとき、そこには、民間企業労働者と公務員の間に格別の差異を認めることはできないはずである。
三 原判決の違法性
1 原判決は、「公法上の関係」とか「公法的規制」を述べて、期限の定めのない非常勤職員としての任用への転化を認めることは、「国公法等の規定の趣旨を潜脱する結果となるから許されない」という。
しかし、すでに詳述してきたように、常勤的「非常勤職員」の存在そのものがすでに国公法等の趣旨を潜脱して生じているのが実態であって、任用の継続の点について限ってそのようにいうことは、あまりにも均衡を失しており、信義則に反するものである。
非常勤職員の勤務関係についても、採用方法や労働実態を実質的にみれば、民間の労使関係と何ら異なる点はないと言えるのであって、前掲の最高裁判例がいずれも、契約の形式よりも更新が繰り返されてきたという実態に重きをおいていることを考えると、公務員の場合において最高裁判例の趣旨を排除する理由はどこにも見出し得ないといわねばならない。
この点について学説は、「脱法的任用=定員外職員を恒常的業務に充当し、劣悪な労働条件下で長期更新を繰り返しているという事実については何ら配慮」せず、「任用の面では法の遵守を強調して労働者側の要求を押え、他方、雇主側の脱法的対策を肯定する判旨は大いに批判されねばなるまい。」とし(山本・前掲論文季刊労働法一一七号九六頁)、あるいは地方公務員について「形式的に中断期間をおいて再雇用更新を繰り返すことにより長期間雇用を継続した場合は、二二条の制限規定の趣旨に違反することは明らかであり、しかもこのような脱法的行為をした当事者たる地方公共団体が自らの責任を被用者に転化して一方的な解雇を正当化することは許されないというべきである。」(照井敬「臨時・非常勤職公務員の団結権」ジュリスト八五五号(一九八六年)五六頁)と言われていることが国家公務員についてもそのまゝ妥当する。
2 さらに、前掲最高裁判例(最高裁平成二年六月五日第三小法廷判決)によれば、「期間満了によって雇用契約を終了させるためには、雇止めの意思表示及び従来の取扱いを変更して雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情の存することを要する」というのである。これに対し、原判決は、「再度採用するかどうかは、任命権者の自由裁量に属す」ると述べているが、右最高裁判例の立場にたてば、原判決が判示するような「自由裁量」が認められることにならないことは明白であり、この点においても、原判決は右最高裁判例に違背している。
本件において、「従来の取扱を変更してもやむを得ないと認められる特段の事情」は、被上告人によって、何ら主張・立証されるところではない。また、被上告人は解雇理由に該当する事実を何ら主張・立証しないし、再任用しなかったことが裁量権の濫用にあたらないという主張・立証もみられないのである。
原判決は、民間労働者であると公務員であるとを問わず、労働者の雇用実態を直視し、労働者の生存権・労働権をより評価しようとする最高裁判所の前記各判例の趣旨に背反して、転化論ないしは解雇法理の適用に関する法令に違反し右法令違反が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
四 解雇理由の不存在
そして上告人については、前述したように解雇理由と目すべきものは一切存在しない。
(一) 大阪大学当局は昭和五八年一〇月六日の図書館長交渉において、上告人および松村圭子については、業務も存続し、また財政上も雇用の継続は可能であり、他方、両名については解雇理由は全く存在しない旨述べており、同年一一月一七日の総長交渉においてもこれをいずれも再確認し、また昭和五九年一月三〇日の文系学部長交渉においても、上告人および松村は図書館にとって有用な人材であることを認め、さらに、昭和五九年三月三一日の図書館長交渉では、今村慶之助事務部長は控訴人と松村の地位を存続させるために大学当局となおも折衝をしたのである。もとより上告人が従事していた業務は、図書館の恒常的業務であって、それが存続するものであることは当然のことであるし、また上告人ら「非常勤職員」の賃金は人件費ではなく、いわゆる校費(物品費)をもって支弁されていたところ、任用の継続にあたって財政上の問題が生じたわけではないことも明らかである。このことは前述したとおり、上告人に対する本件雇止め後に、上告人の後任として「非常勤職員」たる後藤みどりが新規に採用されるに至ったことからも極めて顕著である。そのうえ、大阪大学当局は団体交渉の経過の中で、上告人に解雇理由は存在しないことを積極的に認めており、本件雇止めの理由は、唯一、昭和五五年七月の全学事務長会議の申し合わせによる、いわゆる「三年期限」であったことを明らかにしているのである。もとより、これが解雇理由たりえないことは前述のとおりである。
(二) 他方、上告人に対する本件雇止めはむしろ労組法上の差別的取扱いであると言える。即ち上告人は昭和五八年七月九日、いわゆる「三年期限」の不当性を訴えて大阪大学教職員組合の執行委員に就任し、以後上告人は職組を通じて定員外職員の理不尽な「解雇」に反対する運動に積極的に取り組んだのであるが、これに対し大阪大学当局は十川一登閲覧課長をして上告人にいやがらせをさせたり、また、同年九月一三日には三川禮図書館長は、勤務中の上告人を四時間にわたって連れ出し、控訴人に対し組合活動から離脱するよう慫慂したりしたのであって、これらの対応は大阪大学当局が上告人の正当な組合活動を嫌忌していたことを示すものである。
他方、上告人および松村とともにいわゆる「三年期限」により、昭和五九年三月三〇日をもって「解雇」される予定であった平井多美子のみは、右組合活動に参加しなかったところから、昭和五九年四月一日以降も大阪大学吹田構内大型計算機センターにおいて非常勤職員として勤務し、現在に至るまで勤務を続けているのである。これらの点からすれば、上告人に対する本件雇止めは上告人の正当な組合活動を嫌忌した大阪大学の差別取扱いと言うことができよう。
(三) 以上述べたように、上告人に対し本件雇止めをなすについては解雇理由は全くなく、かえって本件雇止めに解雇の法理を適用すれば、解雇権の濫用、さらには裁量権の濫用に該り、本件雇止めは無効といわなければならない。
五 小括
以上のとおり、いずれの点からみても、上告人に対する任用関係は大阪大学附属図書館における任用期間の定めのない非常勤職員(日々雇用職員)に転化しているものというべきであり、仮りにそうでないとしても、少なくとも上告人の採用経過、勤務期間ならびに業務実態からみて解雇の法理が類推適用されるべきであるところ、上告人には解雇理由は一切存在せず、本件雇止めは無効であるから、上告人は大阪大学総長に任用されたと同様の法律関係にあって、現在なお大阪大学附属図書館における事務補佐員(日々雇用職員)としての地位を有するものである。
第六点 原判決の事実認定における理由不備・理由齟齬、経験則違背<省略>結び
以上述べてきたように、原判決は法律面および事実面において、理由不備・理由齟齬にみちみちていること、また、ほとんどあらゆる点で法令解釈の適用を誤っており、さらに事実面では経験則違背があって、それらがいずれも判決に影響を及ぼすことは明らかである。
上告人を含む常勤的「非常勤職員」は常勤職員と同一時間、同一職務に従事しながら、あらゆる局面で差別的に取扱われ無権利状態に置かれているのであって、このことは常勤的「非常勤職員」が置かれた実情にほんの少し目を向ければ、すぐにわかるところであるし、それをしさえすれば、上告人が「期限の定めのない事務補佐員(日々雇用職員)」であることは極めて明白となるであろう。
原判決はいずれの観点からしても破棄を免れないものと確信する。