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最高裁判所第一小法廷 平成6年(行ツ)52号 判決 1994年6月02日

石川県輪島市新橋通六字四番地の九

上告人

姜錫采

右訴訟代理人弁護士

堀口康純

押野毅

石川県輪島市河井町一五部九〇の一六

被上告人

輪島税務署長 梶谷尚史

右当事者間の名古屋高等裁判所金沢支部平成五年(行コ)第四号課税処分取消請求事件について、同裁判所が平成五年一一月二九日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人堀口康純、同押野毅の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、その裁量に属する審理上の措置の不当をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七法、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋久子 裁判官 大堀誠一 裁判官 小野幹雄 裁判官 三好達 裁判官 大白勝)

(平成六年(行ツ)第五二号 上告人 姜錫采)

上告代理人堀口康純、同押野毅の上告理由

第一 上告の理由

原判決は、経験則違背があり、また、審理不尽の違法がある。そして、この違背は原判決に影響を及ぼすものである。

第二 経験則違背

一 はじめに

原判決は上告人が主張する簿外経費の支出を全く認めていない。そして、上告人が提出した甲第一号証(上告人作成の上申書)の信用性を全く否定している。しかし、この認定は明らかに経験則に違背するものであり、採証の原則を誤ったものである。

二 甲第一号証についての原判決の内容

原判決は甲第一号証の信用性を否定する最大の理由として、その元となるべき「原始資料」の提出をしない点を挙げている。

三 経験則による考え方

1 たしかに、経験則に照らせば、一面において、上申書等については、その「原始資料」の提出があり、上申書等との対照ができれば、それだけ当該上申書等の信用性は増大するといえよう。

2 しかし、「原始資料」の提出がないからといって、当該上申書等の信用性がそのことで否定されるものではない。ことに「原始資料」の提出をしないことについて、合理的な理由がある場合はなおさらである。こうした場合には当該上申書等の内容自体を検討することによって信用性が肯定される場合もあるはずである。これもまた、経験則が示すところである。

しかるに、原判決はこうした内容の検討を行わず、「原始資料」を提出しないことからのみ、甲第一号証の信用性を否定している。この点において、原判決には経験則違背がある。

四 甲第一号証の信用性

1 本件においては、上告人が甲第一号証の「原始資料」を提出しないことについては、以下のとおりのパチンコ業界の特殊性を考慮すれば十分合理性が認められるものである。

(なお、以下の括弧内の丁数は、いずれも第一審における第五回口頭弁論調書中の本人調書の丁数を示す。)

2 すなわち、パチンコ業界は非常に開発競争が激しい業界であり、メーカーは人気の出る機械を日夜研究している業界である(六丁表)。ことに、昭和五六年いわゆるフィーバー台が開発登場するようになって以来、パチンコ店全体の売上げが非常に伸び、次々にモデルチェンジがなされていくようになった(七丁表以降)。こうした業界において、上告人本人は右フィーバー台の登場した時点において、自身が実質的に経営していた輪島市のパチンコ店「ゲームセンター」にフィーバー台を納入させる時期が非常に遅れたために右パチンコ店を倒産させてしまったものである(六丁裏)。もとより、パチンコ台のモデルチェンジが頻繁に行われるようになれば、客は当然に人気のある台がより多く集まっているパチンコ店にだけ出向くようになるから、店側としては、人気が出そうな台の情報を他の店に先だって収集し、より多く購入しようとするのは当然である。そして、モデルチェンジが激しく、人気が出る時期がごく短期間でしかないような状況になれば、それだけ台の購入のための資金投下について失敗が許されなくなってしまうことになる。いかに人気の出る台だけを買い集めていくかが業界での競争において勝ち残るための重要な要素になっていくのである。こうしてフィーバー台の登場により、より競争が激化するに至ったパチンコ業界において、上告人が大手といわれる店の情報の入手方法を真似ようとしたこと(八丁、二二丁裏)は十分首肯し得るものである。そして、上告人は現在は自身はパチンコ店の経営は行ってはいないものの、息子が店を経営している(二三丁)という現状にあっては、いかに裁判という場面ではあっても、接待先等を明らかにすることは大手ではない他の店を中心とした軋轢が息子の経営する店にかかってしまうことも十分に予想されるものである。

上告人が「原始資料」を提出しない理由の最大のものは、仮に「原始資料」等を提出するなどして、甲第一号証に示されている上告人の行動をより詳細に明らかにしようとすれば、右にみたような上告人の行動が判明し、接待先などが判明してしまうおそれがあるというものである。一般に、韓国人は恩義に厚いと言われるが、ことに大手店の手法を弱小店ではありながらも真似しようとした上告人においては、接待先等が判明し、ひいては接待先に迷惑がかかる危険をおそれるのは当然である。

したがって、上告人が甲第一号証の「原始資料」を提出しないことについては十分納得しうる理由があるものである。にもかかわらず、その内容を検討することなく信用性を排斥した原判決の認定は明らかに経験則に違背するものである。

3 他面、甲第一号証については、上告人の記憶に従ったものであり、その内容を詳細に検討すれば具体性も認められるから、その信用性は十分肯定しうるものである。

かように、原判決は経験則に違背し、採証の原則を誤ったものであり、判決に影響を及ぼす違法があるといわざるを得ない。

第三 審理不尽

また、原審においては、上告人本人尋問の申請を却下した点につき、審理不尽の違法がある。

すなわち、上告人は原審においてパチンコ業界の実態を明らかにすべく、本人尋問の申し出を行ったが、原審はこれを却下した。しかし、先にも触れたとおり、パチンコ業界にあっては、今日どれだけ他の店に先駆けて新機種台を導入できるかという点が店が生き残るための重要問題である。それだけ店間で競争が熾烈に行われている。この点、一審判決は、こうしたパチンコ業界の競争の熾烈さについての視点を欠くものである。それゆえ、原審においてはもう一度本人尋問を行うことによって、今日のパチンコ業界の実態を明らかにする必要があったはずである。にもかかわらず、原審は本人尋問を行うことなく判決を下している。ここにおいて、原審は審理不尽の違法がある。

第四 むすび

以上のとおり、原判決には経験則の違背があり、また、審理不尽の違法がある。よって、原判決は破棄を免れない。

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