最高裁判所第一小法廷 平成7年(あ)239号 決定 1998年3月26日
本店所在地
仙台市青葉区上杉一丁目七番一号
株式会社フジ都市開発
右代表者代表取締役
後藤本子
本籍
仙台市太白区八本松一丁目一三番
住居
同所同番一一号 八本松マンション七〇五号
会社員
後藤勉
昭和二二年五月二日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成七年一月二六日仙台高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人浅野孝雄の上告趣意は、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出俊郎)
平成七年(あ)第二三九号
上告趣意書
被告人 株式会社フジ都市開発
被告人 後藤勉
右の者に対する法人税法違反被告事件について、弁護人は左記の通り上告趣意書を提出する。
平成七年四月二〇日
弁護人 浅野孝雄
最高裁判所第一小法廷 御中
原判決は、被告人の控訴を棄却したが、著しく正義に反すると認められ、判決に影響を及ぼすべき重大な事実誤認があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものである。
一、原判決は、明細表番号一ないし八の不動産の売買取引とこれらの取引の仲介に関する事項が被告人会社の会計帳簿や取引台帳に概ね記載されていることを認めながら、これらの取引による売買益及び仲介手数料収入の一部が被告人会社の所得として申告されていない旨の原判決の認定は明らかに事実を誤認し、違法なものである。
被告会社は、右各取引に関する売買の経緯及び仲介手数料収入等を全て被告会社の企業帳簿に記載していたことは原判決の認定した通りであり、そして本事業年度における申告にあたっても、右各取引に関する売買益及び仲介手数料収入を除外することなく申告しているのであるから所得を隠匿した事実も、隠匿しようとする故意も存在しない。
なお、被告会社は確定申告にあたり、土地譲渡益重課税制度により税率計算を省略するため、収入又は資産の部の勘定科目の金額の一部を減額し、これに対応する支出又は負債の部の勘定科目の金額の一部を対等額で減額し、圧縮経理処理(その詳細は原審における弁護人の弁論要旨を採用する)して記帳しているが、所得には変更を加えていないのであるから、脱税にはあたらない。
二、原判決が、昭和六二年三月期における貸倒損失金二〇二八万八四六四円の存在を、認めなかったのは事実を誤認した違法がある。
原判決は、三和銀行仙台支店の普通預金口座の入金の事実からは不良貸付があったとはいえないし、第一審公判廷では被告人後藤は小口の貸付は昭和五六、七年頃やめた旨供述し、後藤一は被告人会社設立後は新規の貸付はほとんどない旨供述していることなどの事実からすると被告人ら主張の貸付金がないとしてこれを損金に計上しなかった原判決の認定・判断には事実誤認は認められない旨認定している。
しかしながら、、右三和銀行の口座への入金は小口貸付の一部の入金関係を示すものにすぎないものであるし、被告人後藤のこれまでの供述に明らかなごとく、被告人会社設立当初から貸付事業を営み昭和五四年頃の最盛時には、四~五〇〇名に対して貸付が総額五~六〇〇万円に達したこともあり、その後小口貸付については多額の不良債権が発生するに至り、昭和五六、七年頃から規模を縮小していったものである。そして被告人会社は貸付対象者についても十分な信用調査もしないまま東北六県に在住する主婦やサラリーマンを対象に多数の者に、多額の貸付をなしたものであり、このような貸金事業において、回収不可能な不良債権が発生しなかったなどということは常識的に考えられないことであり、不良貸付の存在を認めなかった原判決は全く事実を無視した判断といわざるを得ない。
又、被告人後藤の供述及び関係証拠によって明らかなごとく、被告人会社は昭和五六、七年頃を境に小口貸金業の規模を縮小したものの、その後も小口金融を含む貸金業を継続してきたものである。
三、原審が、大成名義で被告人に支払った利息約四〇〇万円の存在についてこれを認めなかった自刃を誤認した違法がある。
被告人会社に営業資金が不足したときは、被告人後藤は大成名義で被告人会社に金員を貸付て運転資金にあて、これに対する利息として被告人会社が右金員を支払ったものである。そして右の事実は元帳の借入金科目の記載により明らかである。
四、エスコア仙台に関する手数料収入
原審はエスコア仙台と門間正一間の売買取引に関する仲介手数料として八五万円を認定しているが、右認定には事実誤認がある。
右に関する仲介手数料は二五万円にすぎない。
被告人後藤の供述によれば、七五万円は被告人後藤が個人として貸付た貸金の返還をうけたものであり、ただエスコア仙台の要望により、領収書には売買仲介料と記載したものにすぎないし、一〇万円については領収書に記載通り、右貸金の利息として受領したものである。
売買代金一三五〇万円の仲介手数料は建設省告示によればその上限は四六万円であり、不動産業者である被告人会社がこれを超える仲介手数料を受領するはずがないことからも、被告人後藤の供述は信用性がある。
五、原審は、被告人会社は、リオチェーンから昭和六二年三月二日仲介手数料として七万二〇〇〇円を受領した旨認定しているが、被告人会社は、同年三月二日アース不動産から仲介手数料として金三万六〇〇〇円を受領したものにすぎないものである。又、貸主と借主間の仲介契約が実際に成立したのは同年四月六日契約金を受領したときであって、右契約成立により得た仲介手数料収入七万二〇〇〇円については翌年度の所得として計上し申告している。
六、原審は明細表番号九ないし一六の取引につき、実質契約当事者は被告人会社であり、その取引による利益は売買益及び手数料収入とも被告人会社に帰属するものであると認定している。
しかしながら、右各取引のうち、一〇ないし一六についての実質契約当事者は被告人であり、その取引による売買益は被告人に帰属する。被告人の取引について仲介した仲介手数料は被告人会社に帰属する。
被告人は、昭和六二年一〇月、被告人会社が将来経営不振に陥った場合の備えとして被告人個人の預貯金を蓄積しようと考え、以後の不動産取引を個人として取引することとした。そして、被告人が従来預金として保有していた被告や被告人の家族名義の預金を原資とし、又不足するときは、被告人が被告人会社から経理上仮払処理をして金員を借り受け、明細表番号一〇ないし一六の取引をなしたものである。
従って、明細表番号一一の取引における売上金の一部が他の不動産取引の仕入れ代金に充てられたり、形式的には従前の取引同様フジエンタープライズの名義で取引がなされた事実があったとしても、被告人は明細表番号一〇ないし一六の取引については(但し、一〇の仕入れについては被告人会社の取引である)、あくまで被告人個人の取引とする認識で被告人会社の取引と区別して取引し、その売却利益も個人の利益と認識して被告人会社の会計帳簿に計上せず、被告人や被告人家族名義で預貯金してきたものであるから、その売買利益は被告人会社のそれと区別され被告人個人に帰属する。
尚、明細表番号一四の取引について、原判決は、本件土地が元被告人個人が購入したものであるが、その後被告人会社の資産として計上され、被告人会社が代金の一部を支払い、その後第三者に売却するにあたって被告人名義に変更したにすぎないのであるから、右土地は被告人会社の資産であると認定している。
しかしながら、右土地は被告人会社設立以前に被告人個人が所得した資産であるところ、被告人会社の銀行等に対する信用を得るために一時被告人会社の資産として計上したにすぎないのであり(そのために所有名義を変更していない)、会社の資産として計上されている間、会社で残代金の一部を支払った事実はあるにしても、最終的に被告人の資産に戻す際には、被告人との間で経理上も清算処理していることは明らかであるから、右土地を処分する時点での土地の所有権は被告人にあり、これを売却したことによる売買益も被告人に帰属する。
又、明細表番号九ないし一六の取引の仲介料収入は被告人会社の収入として帳簿に記載されており、確定申告するにあたっても、圧縮経理処理をして正しく申告している。
七、明細表番号一五の取引における売買代金についても、原判決は金二億二五〇〇万円であると認定しているが、右は事実を誤認しており、売却代金は一億八〇〇〇万円である。