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最高裁判所第一小法廷 平成8年(オ)1559号 判決 1998年10月22日

上告人

百万両住宅建設株式会社

右代表者代表取締役

平田博通

右訴訟代理人弁護士

永松達男

被上告人

ミリオンコーポラス高峰館管理組合理事長

外山憲一

右訴訟代理人弁護士

山上知裕

三津橋彬

笹森学

田中峯子

吉田康

鈴木高志

石川善一

花井増實

折田泰宏

中村広明

河村利行

石口俊一

吉野正

村山博俊

中島繁樹

村井正昭

梅野茂夫

矢野正剛

三浦邦俊

椛島修

中村仁

佐藤進

服部弘昭

荒牧啓一

金弘正則

山喜多浩朗

松本光二

主文

原判決を破棄し、第一審判決中、被上告人の予備的請求に関する部分を取り消す。

被上告人の予備的請求を棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人松永達男の上告理由について

一  本件は、マンション分譲業者である上告人が、マンションを分譲するに際し、区分所有者の共有となるべきマンション敷地の一部に駐車区画(以下「駐車場」という。)を設け、建物専有部分の区分所有権及び敷地の共有持分とは別に、マンションの購入者(以下「購入者」という。)のうち駐車場の使用を希望する者に対して右駐車場の専用使用権(以下、原則として「専用使用権」という。)を分譲して対価を受領したため、この対価が分譲業者とマンション管理組合のいずれに帰属すべきものかをめぐって争われている事案である。マンション管理組合の管理者である被上告人は、主位的に不当利得返還請求権に基づき、予備的に委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき、上告人に対して右対価の返還又は引渡しを請求したところ、第一審は、右予備的請求を認容し、原審も、第一審の判断を正当として上告人の控訴を棄却した。

原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

1  上告人は、マンション分譲業者であるが、昭和六三年七月ないし同年一一月に、本件マンションについて建物専有部分の区分所有権及び本件敷地の共有持分を分譲販売した。本件マンションの専有部分の建物戸数は、三二戸(うち一戸は未登記)である。

2  本件敷地は、本件マンションの区分所有者がその所有する建物専有部分の床面積の割合に応じて共有している。

3  上告人は、本件マンションを分譲販売するに際して、本件敷地の一部(空き地部分)に二五区画の駐車場を設け、駐車場の使用を希望する購入者に対し、本件マンションの分譲とは別に、専用使用権を一区画八〇万円ないし一一〇万円で分譲し、合計二四四〇万円を受領した。

4  本件マンションの管理委託契約書には、購入者は、上告人に本件マンションの管理等を委託するが、上告人は、本件マンション竣工後六箇月以内、又は入居者が八〇パーセント以上となったとき、建物の区分所有等に関する法律に基づいて区分所有者全員で構成する管理組合に管理業務を引き継ぎ、管理委託契約を解除する旨が規定されている。

5  本件マンションの土地付区分建物売買契約書には、「売買代金は、駐車場対価としての代金○○円也を含む。」(一条)、「本件マンションの買主は、本件敷地の一部を駐車場として特定の区分所有者に専用使用させることを認諾する。専用使用権を取得する買主は、専用使用に当たり、別に定める費用を支払わなければならない。」(九条)との趣旨の規定がある。右一条の駐車場対価としての代金欄には、専用使用権を取得する者については具体的な金額が記入され、それ以外の者については空欄とされた。

6  購入者に対して交付された重要事項説明書には、「専用使用権に関する規約等の定め」として「駐車場」の欄に、「専用使用をし得る者 特定区分所有者」、「専用使用共益費の有無 有り・一区画当たり一箇月五〇〇円」、「専用使用共益費の帰属先等管理組合」との記載がある。

7  上告人が作成した本件マンションの管理規約案にも、区分所有者は、特定の区分所有者がバルコニー、駐車場、屋上テラス等につき専用使用権を有することを承認する旨の条項がある。右管理規約案は、後に区分所有者全員に承認され、管理規約として成立した。

二  原審は、右事実関係の下において、要旨、次のとおり判断して、被上告人の予備的請求を認容すべきものとした。

1  本件マンションの分譲に際し、購入者は、専用使用権の性質、効力等、契約の基本的な部分について十分に理解した上で契約を締結したとはいえないから、上告人と購入者全員との間において、上告人が専用使用権を分譲し、その対価を得ることについて、有効な合意が成立したと解することはできない。上告人による専用使用権の分譲は、その効力を否定すべきである。

2  一方、委任契約に基づく委任事務を処理するにつき、受任者が、外形的に委任の範囲に属する行為を自己のためにする意思の下に行い、これにより金員を収受したときは、委任者は、受任者に対し、右金員を委任事務処理を行うにつき収受したものとして、受取物引渡請求権を行使することができると解される。

3  本件の場合、上告人は、購入者から本件敷地の管理に関する業務を行うことの委任を受けていたものであり、本件敷地の一部につき特定の区分所有者のために駐車場として専用使用することを許諾した行為は、外形的に右委任業務の範囲に含まれるということができるから、購入者は、上告人が専用使用権分譲の対価として収受した金員の引渡しを求めることができる。

三  しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

1  前記一の売買契約書、重要事項説明書、管理規約案の記載に照らすと、本件駐車場の専用使用権は、本件マンションの分譲に伴い、上告人が特定の区分所有者に分譲したものであるところ、右専用使用権を取得した特定の区分所有者は右駐車場を専用使用し得ることを、右専用使用権を取得しなかった区分所有者は右専用使用を承認すべきことをそれぞれ認識し理解していたことが明らかであり、分譲業者である上告人が、購入者の無思慮に乗じて専用使用権分譲代金の名の下に暴利を得たなど、専用使用権の分譲契約が公序良俗に反すると認めるべき事情も存しない。なお、本件のように、マンションの分譲に際し分譲業者が専用使用権を分譲して対価を取得する取引形態は、好ましいものとはいえないが、このことのゆえに右契約の私法上の効力を否定することはできない。

2  そして、右売買契約書の記載によれば、分譲業者である上告人は、営利の目的に基づき、自己の利益のために専用使用権を分譲し、その対価を受領したものであって、専用使用権の分譲を受けた区分所有者もこれと同様の認識を有していたと解されるから、右対価は、売買契約書に基づく専用使用権分譲契約における合意の内容に従って上告人に帰属するものというべきである。この点に関し、上告人が、区分所有者全員の委任に基づき、その受任者として専用使用権の分譲を行ったと解することは、右専用使用権分譲契約における当事者の意思に反するものであり、前記管理委託契約書の記載も右判断を左右しない。また、具体的な当事者の意思や契約書の文言に関係なく、およそマンションの分譲契約においては分譲業者が専用使用権の分譲を含めて包括的に管理組合ないし区分所有者全員の受任者的地位に立つと解することも、その根拠を欠くものといわなければならない。

3  したがって、委任契約における受任者に対する委任事務処理上の金員引渡請求権に基づき右対価の引渡しを求める被上告人の予備的請求は、理由がない。

四  そうすると、右と異なる原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の予備的請求は理由がないから、第一審判決中、右予備的請求に関する部分を取り消した上、これを棄却することとする。

よって、裁判官遠藤光男の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官遠藤光男の補足意見は、次のとおりである。

私は、本件におけるマンション販売方式ないしマンション管理業務に関連して、若干補足して意見を述べておくこととしたい。

一  分譲業者がマンションを分譲するに当たり、建物専有部分(敷地の共有持分を含む。)とは別に、駐車場の専用使用権を分譲してその対価を取得する販売方式については、(1) 分譲業者が、購入者に対して分譲したはずの敷地について二重の利益を得ている疑いが持たれるのみならず、(2) マンション分譲後においても、専用使用権の譲渡、存続期間、有償化ないし使用料の増額などをめぐって専用使用権者と管理組合との間に紛争が生ずる等の問題の存することは、被上告人の指摘するとおりである。したがって、既に建設省が行政指導において明らかにしているように、このような販売方式は好ましいものではなく、速やかに根絶されなければならないと考える。

しかし、立法論や行政指導としてであれば格別、基本的に契約自由の原則が妥当する現行法の下における解釈論としては、おのずから限界があるものといわざるを得ない。

二  まず、(1)の二重の利益の点については、右の販売方式が分譲業者に常に二重の利益をもたらすものということはできない。分譲業者がマンションを分譲するに際しては、まずもって、その原価、諸経費、利益金等を念頭に置き、分譲代金の総額を定めた上、各建物専有部分につきできる限り分譲しやすい販売価格を設定するべく、その一つの方法として、購入者のうち駐車場の使用を希望する者に対して駐車場専用使用権付きでマンションを分譲し、別途その対価を支払わせることによって、その分だけ建物専有部分を廉価に販売することも十分に考えられるところである。このように価格の設定が経済的合理性に基づいて行われている限り、専用使用権の分譲代金は、自己の利益のために専用使用権を分譲した分譲業者に帰属するものと解するほかはない。原審の判示するように、価格の設定が合理的なものかどうかを判定するのは実際上容易なことではないが、このことのゆえに、右の販売方式の効力を否定したり、分譲代金の帰属について当事者の意思と異なった解釈を採ることはできない。

また、(2)の点については、このような問題が生ずる可能性があるからといって、直ちに右の販売方式の私法上の効力を制限する解釈を採ることは困難というべきである。これらの問題は、別途、建物の区分所有等に関する法律の規定の解釈などを通じて、妥当な解決を図るほかはない。

三  そうすると、購入者の無思慮に乗じ、専用使用権分譲代金の名の下に分譲業者が暴利を得ているような場合には、公序良俗違反(暴利行為)として専用使用権分譲契約自体の効力を否定することができ、また、分譲業者が二重の利益を得たことが客観的に立証された場合には、不当利得返還請求を認めることができるとしても、前記のような問題が存することのみに依拠して、契約当事者が合意の上で締結した専用使用権分譲契約の効力を否定すべきいわれはなく、いわんや、分譲業者において、管理組合が活動を開始するまでの間、管理業務の一部を代行している事実があるからといって、契約に明示された当事者の意思に反し、専用使用権の分譲までもが委任事務の一環であるとして、その収受金を委任事務処理上受領した金員と評価することなどはできない筋合いである。原判決の意図するところは理解し得ないではないが、結果的な妥当性を追求する余り、解釈論としての範囲を超えた無理な法律構成、法律解釈を採るものといわざるを得ない。

四  私は、法廷意見も、以上の言わば現行法の下における解釈論上の当然の帰結を明らかにしたにとどまるものであり、本件の販売方式を積極的に容認したものではないとの理解の下に、法廷意見に賛成するものである。

(裁判長裁判官藤井正雄 裁判官小野幹雄 裁判官遠藤光男 裁判官井嶋一友 裁判官大出峻郎)

別紙上告代理人の上告理由<省略>

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