最高裁判所第一小法廷 平成8年(オ)312号 判決 1998年7月16日
上告人 楠本茂 ほか五〇名
被上告人 国
代理人 吉川隆
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人石坂俊雄、同松葉謙三、同村田正人、同福井正明、同伊藤誠基、同渡辺伸二、同谷口彰一、同良原栄三、同中村亀雄の上告理由について
一 本件訴訟は、被上告人国の行う本件バイパス建設工事及び右道路の供用が周辺住民である上告人らの権利ないし法益を違法に侵害するものであるとして、建設工事の差止め及び供用開始部分の収去を求めるものである。
国の行う公共事業が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するに当たっては、侵害行為の態様と侵害の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか、被害の防止に関して採り得る措置の有無及びその内容、効果等の事情をも考慮し、これらを総合的に考察して決すべきものである(最高裁昭和五一年(オ)第三九五号同五六年一二月一六日大法廷判決・民集三五巻一〇号一三六九頁、最高裁平成四年(オ)第一五〇四号同七年七月七日第二小法廷判決・民集四九巻七号二五九九頁参照)。
二 所論に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らし首肯することができる。右事実及びその余の原審の適法に確定した事実によれば、(一)本件バイパスは、周辺地域の交通の円滑と安全を確保する高い公共上の必要からその建設が要請されているものである、(二)上告人らが本件バイパス建設工事におけるトンネル掘削工事により生ずると主張する被害のほとんどは、工事の実施に当たっての工法の選択、被害防止対策によりその発生を防止することが可能である上、トンネル掘削工事施工区域の地質等の状況及び掘削工事の工法等に照らせば、上告人らが主張する地崩れ、地すべり等の被害の発生する蓋然性が高いとは認められない、(三)本件バイパス供用開始後において上告人らが環境基準を超える騒音被害を恒常的に被る具体的危険があるとまでは認められず、大気汚染物質による健康被害を被る蓋然性を肯定することもできない、(四)本件バイパス建設に伴い飯盛川改修等の治水事業が進められたこと等により飯盛地区において水害の激化をもたらすとも認められない、(五)その他、本件バイパス建設により、上告人らに受忍限度を超える被害をもたらすとは認められない、というのである。そうすると、本件バイパス建設工事及び右道路の供用についての上告人らの本件差止め及び収去請求は理由がないとした原審の判断は正当として是認することができる。原判決に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って若しくは原判決を正解しないでこれを論難するものであって、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判官 小野幹雄 遠藤光男 井嶋一友 藤井正雄 大出峻郎)
当事者目録<略>
上告者理由<略>