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最高裁判所第一小法廷 平成8年(行ツ)202号 判決 1998年2月26日

川崎市中原区小杉陣屋町一丁目四番一号

上告人

吉岡克己

右訴訟代理人弁護士

黒木芳男

武田章治

阿部博

山田勝利

小川憲久

山田洋史

池田眞一郎

川崎市高津区久本二丁目四番三号

被上告人

川崎北税務署長 山下二三夫

右指定代理人

深井剛良

右当事者間の東京高等裁判所平成七年(行コ)第一〇四号相続税更正処分等取消請求事件について、同裁判所が平成八年四月一八日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人黒木芳男、同竹田章治、同阿部博、同山田勝利、同小川憲久、同山田洋史、同池田眞一郎の上告理由について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、所論の点に関する原審の判断は、いずれも正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するものであって、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井嶋一友 裁判官 小野幹雄 裁判官 遠藤光男 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

(平成八年(行ツ)第二〇二号 上告人 吉岡克己)

上告代理人黒木芳男、同竹田章治、同阿部博、同山田勝利、同小川憲久、同山田洋史、同池田眞一郎の上告理由

第一、原判決には判決に影響を及ぼす法令適用の誤りがある。

一、原判決は、本件建物の評価について、相続時点という一時をとらえて、賃貸目的の建物二一室中、四室のみが賃貸に供せられていたことから、建物全部についての借家権減価を為すことを否定している。

しかしながら、本件においては、建物の全部について借家権の減価を為すべきであり、これと異なる原判決は法令の適用を誤ったものというべく、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明白であるから破棄されるべきである。

二、本件の建物は一棟全部が賃貸目的のものとして築造されたことは明白な事実である。

すなはち、

1.被相続人吉岡又二郎は、本件建物を賃貸目的のものとして建築計画を立案し、

2.本件建物の建築費用は、住宅金融公庫からの借入金を利用しており、そのため、その設計から賃貸料まで全て右公庫の承認が必要とされるなど厳格に管理されており、賃貸目的以外の用に供することはできないこと、

3.被相続人は生前から、本件建物の賃貸人の募集について、全て不動産業者である有限会社丸三商事に委託する旨の委託契約を締結して、すでに募集は開始されていたものであり、相続人たる上告人においても、これを一方的に解約することは許されないものであること、

4.本件建物については、順次賃貸借契約を締結し、昭和六三年三月には、一室を残して全て賃貸の用に供されていること、

5.本件建物を売買目的のものに変更するには、多額の費用と労力を必要とし、容易に為し得ないこと、

等の事実は全て証拠上明白であり、右事実からすれば、本件建物が賃貸目的のものであることは疑いがない。

本件においては、右に述べた建物自体の持つ客観的性格に着目することが必要である。

三、上告人は、財産の評価については、単に相続時点という瞬時のみをとらえてこれを為すべきものではなく、建物自体の持つ性格、相続前後の利用状況など事情を総合的に判断することが正当であると思料する。

このことは、財産評価基本通達が、評価の原則1、(3)において、「財産の評価にあたっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する」と定めているところとも合致するものである。

四、財産評価基本通達は、「家屋の評価は、原則として一棟の家屋ごとに評価する」とも定めている。そして、区分所有建物については別途に評価方法を定めている(評価通達3)のであるから、本件建物の評価は一棟全体として為されなければならない。

五、上告人の主張に関する原判決の判断

原判決は、次のとおり述べて、上告人の主張を排斥している。

相続開始時点において、本件建物のうち四室以外は借家権の目的になっていない以上、残りの一七室の相続開始時点における交換価値は借家権のないものと認めざるを得ないのであり、これが住宅金融公庫又は不動産業者等との契約の内容および相続開始時点の後に生じた事情等により左右されるとは言えない。

六、原判決の判断に対する反論

原判決の判断は、右結論について、いかなる理由からこれを導いたものであるか何らの合理的説明を欠くものであり、是認することのできないものである。

(一)評価通達の定める借家権の減価は、建物が借家権の目的となっている場合、賃貸人は一定の正当事由がない限り、賃貸借契約の更新拒絶や解約申し入れができないため、立退料等の支払をしなければ借家権を消滅させられず、また借家権が付いたままで、貸家及びその敷地を譲渡する場合にも、譲受人の建物およびその敷地の利用が制約されることからして、貸家建付地および貸家の経済的価値がそうでない土地および建物に比較して低下することを考慮した制度である。

(二)右のような借地権の減価の適用を受け得る要件は如何なる基準を以って決すべきであるかが本件の争点である。

財産評価通達は、「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべき全ての事情を考慮する」とさだめる。

上告人が主張した二項記載の事実はまさしくこれに該当する事情であり、建物の評価に当たって当然に考慮されなければならない事情である。

原判決は、相続開始時という瞬間的な時点をとらえて、右時点に賃貸されていた四室分についてのみ借家権の減価を為すべきものとするが、これは極めて皮相的な見解と言わざるを得ない。

賃貸目的にする建物と処分(分譲)目的にする建物は、当初の建築計画段階から明白に区別して考えられる。

けだし、処分目的のための貸家は、その区分所有の登記、土地の利用形態(所有権か地上権かなど)を明確に定めておくことが必要とされるからである。

本件では、当初からそのようなことは全く予定されていないし、構造的に部分的譲渡は不可能となっている。

建物自体に附着した契約上の利用の制限も当然に価額に影響を及ぼすべき事項である。

本件建物が貸家目的以外に利用できないものであることは被相続人と住宅金融公庫との契約上明白である。

利用目的の制限が債権的効果のみしか持たないものであっても、本件では、その制約を免れることは事実上不可能である。

上告人は相続開始後約半年以内に全二一室中一室を残して全て賃貸の用に供している。

これは当初からの建築計画、資金の借入とその条件、不動産業者との間の業務委託契約等の実現として為されたものであり、これら一連の行為を全体として評価することが必要であると思料する。

七、以上のところから原判決は破棄されるべきである。

第二、除斥期間に関する上告人の主張と原判決の判断について

上告人は、課税賦課権が除斥期間により消滅した後に、他の相続財産が存在することを前提として、これに対する税額を考慮して、前にした更正処分の正当性を維持することは国税通則法七〇条に違反し、許されないと主張したが、原判決は、上告人の主張を排斥した。

その理由とするところは、更正処分により確定された税額の総額が客観的に定まる税額を超えないことの攻撃防衛の方法として為されたものであるに過ぎないというにある。

しかしながら、本件訴訟の争点は、特定の相続財産の評価方法そのものであり、具体的に特定されたものと言うべきである。

原判決の判断は、既に除斥期間の経過により消滅した課税賦課権を実質的に行使せしめたもの同じ結果を認めるものであり是認できないものである。

したがって、原判決は法令の適用を誤ったものというべく、右誤りが判決に影響を及ぼすことは明白であるから破棄されなければならない。

以上

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