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最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)1649号 判決 1997年10月23日

三重県鈴鹿郡関町大字萩原一四七番地の一

上告人

株式会社エムアールシー

右代表者代表取締役

落合繁雄

同所

上告人

落合繁雄

右両名訴訟代理人弁護士

伊藤保信

東京都港区南青山二丁目一番一号

被上告人

本田技研工業株式会社

右代表者代表取締役

川本信彦

右訴訟代理人弁護士

平尾正樹

右当事者間の名古屋高等裁判所平成八年(ネ)第六三三号、第八七一号販売促進用品製造行為差止権等不存在確認等、商標権侵害行為差止等請求控訴、同附帯控訴事件について、同裁判所が平成九年六月六日言い渡した判決に対し、上告人らから一部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人伊藤保信の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄)

(平成九年(オ)第一六四九号 上告人 株式会社エムアールシー 外一名)

上告代理人伊藤保信の上告理由

原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。すなわち、原審の事実認定は経験則に違反し、違法なものであり、この法令違背は判決に影響を及ぼすことは明らかである。

一、 原判決は名古屋簡易裁判所昭和六一年(メ)第七七号金銭給付内容確定調停事件において昭和六二年六月二九日成立した調停において一定の条件のもとにおいても被上告人商標付自動車用マットの製造、販売が許されていない旨判断し、上告人落合が悪意もしくは重過失であった旨判断する。

二1 右調停事件第二回調停期日(昭和六二年二月一九日)において調停委員から<1>被上告人代理人に対し六〇〇〇万円を上告人会社に支払う旨の案が提示され(甲第三〇号証の三-これは被上告人提出にかかる乙第一五号証-名古屋簡易裁判所保管記録-の一部であり、かつ、被上告人代理人作成の文書である)、<2>上告人代理人に対しては被上告人から四〇〇〇万円を受領することにより解決する旨の案が提示されていた(甲第三三号証19項、原審証人浅井正証人調書18頁五行目ないし19頁五行目)。

2 そして、昭和六二年四月三〇日の第四回調停期日において、同日浅井正弁護士が提出した調停条項案に調停委員が加筆、訂正した『申立人は相手方の商標、商号、ロゴ、サービスマーク等(以下「商標等」という)を使用しない。但し、申立人は相手方又は相手方製造にかかる自動車の販売店の注文を得た場合には注文者の指定した商標等を使用した物品の製造委託を受けることができる。』(甲第三三号証-乙第一五号証-前同-の一部)との「販売に関する条項」が提示され、双方これを検討すると共にこれを前提とする解決金(上告人会社二〇〇〇万円の主張、被上告人二〇〇万円の主張)について検討することとされた(乙第一五号証中「調停経過票(第四回)」内容欄)。

3 右1、2の事実は上告人会社が被上告人商標付自動車用マットを製造する権利を有することを前提とするものであり、右2の事実は上告人会社が被上告人商標付自動車用マットを委託製造することを許容されるということを前提とするものである。そして、右2を前提として本件調停条項が合意されたものであり、本件成立した調停条項の趣旨は右2の調停委員案の内容と同一の趣旨として合意されたものである。

4 右1、2の事実は、被上告人代理人作成、発送による文書であり、かつ、裁判所保管の調停記録の一部である甲第三〇号証の三、裁判所保管の調停記録の一部であり、調停委員の加筆、訂正による甲第三二号証から明白に認定され、動かすことのできない公的、客観的事実とも言いうる重要な事実であり、右1、2の事実を前提として事実認定することが事実認定、判断のための論理の積み重ねの法則、経験則と言うべきであり、右1、2の事実を認定せず判断することは経験則違反、違法と言うべきところ、原判決は右1、2の事実を無視して事実認定をしているものであり、法令に違反した違法な事実認定をし、誤った判断をしているものである。

三 さらに、第二回調停期日における六〇〇〇万円、四〇〇〇万円の調停委員からの提示(調停委員会の目指したところは「五〇〇〇万円」での解決と推測される)が、第四回調停期日においては『但し、申立人は相手方又は相手方製造にかかる自動車の販売店の注文を得た場合には注文者の指定した商標等を使用した物品の製造委託を受けることができる。』という調停委員からの条項提示に変わっているが、六〇〇〇万円、四〇〇〇万円(五〇〇〇万円)という金額の持つ意味あい(単なる判付料的な解決金ではなく、何らかの権利に対する補償でなければ考えられない金額である。)と右第二回期日、第四回期日における調停委員からの提示を総合すると本件調停は第四回期日当時において上告人会社に一定の条件のもとに被上告人商標付自動車用マットの製造を認めるということで協議が進められていたことは明らかである。

そして、上告人会社代表者落合繁雄及び上告人会社代理人弁護士浅井正において、右第四回期日の調停委員の提示案の具体化であるとの前提のもとで、そのように信じて第五回期日において基本的な合意をなし、第六回期日において調停条項の合意をなしたものである。

上告人会社代表者落合繁雄は毎回調停期日に出頭し、右二項1、2の事実を熟知しており、これらの事実と浅井正弁護士から上告人落合に対する調停中、調停成立時、調停成立後の説明、指導により、上告人落合は調停条項により上告人会社が一定の条件下で被上告人商標付自動車用マットの製造、販売を認められたと信じていたものであり、このように信ずるについて上告人落合には故意、重過失はもとより過失すらなかったにもかかわらず、そして、右六〇〇〇万円、四〇〇〇万円の提示、第四回期日に調停委員が前記案を提示したという事実を前提とする限り、そのように判断せざるを得ないにもかかわらず事実認定、判断の経験則に違背し、違法にこの事実を黙殺し、この事実がないという事実上の論理操作により悪意もしくは重過失があったと判断しているものであり、違法な事実認定である。

四、 以上の原判決第二回期日におけるの調停委員の六〇〇〇万円、四〇〇〇万円の金額提示、第四回期日における調停委員の前記二項2の案提示を認定せず調停調書により上告人が一定の条件のもとにおいても被上告人の商標付自動車用マットの製造、販売することは認められていなかったとする判断及び上告人落合に悪意もしくは重過失があった旨の判断は事実認定の経験則に違背し、法律論理の積み重ねに論理矛盾、法律適用の誤りがあるものと言うべきであり、法令に違反しているものであり、これらの法令違背が判決に影響を及ぼすものであることは明らかである。

以上

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