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最高裁判所第一小法廷 平成9年(オ)1771号 判決 1999年10月21日

上告人

株式会社みちゆき商事

右代表者代表取締役

細川栄子

上告人

北野壽子

右両名訴訟代理人弁護士

大谷美都夫

泉谷恭史

被上告人

和歌山県商工信用組合

右代表者代表理事

市川龍雄

右訴訟代理人弁護士

田中幹夫

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人大谷美都夫、同泉谷恭史の上告理由第一点について

民法一四五条所定の当事者として消滅時効を援用し得る者は、権利の消滅により直接利益を受ける者に限定されると解すべきである(最高裁昭和四五年(オ)第七一九号同四八年一二月一四日第二小法廷判決・民集二七巻一一号一五八六頁参照)。後順位抵当権者は、目的不動産の価格から先順位抵当権によって担保される債権額を控除した価額についてのみ優先して弁済を受ける地位を有するものである。もっとも、先順位抵当権の被担保債権が消滅すると、後順位抵当権者の抵当権の順位が上昇し、これによって被担保債権に対する配当額が増加することがあり得るが、この配当額の増加に対する期待は、抵当権の順位の上昇によってもたらされる反射的な利益にすぎないというべきである。そうすると、後順位抵当権者は、先順位抵当権の被担保債権の消滅により直接利益を受ける者に該当するものではなく、先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができないものと解するのが相当である。論旨は、抵当権が設定された不動産の譲渡を受けた第三取得者が当該抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができる旨を判示した右判例を指摘し、第三取得者と後順位抵当権者とを同列に論ずべきものとするが、第三取得者は、右被担保債権が消滅すれば抵当権が消滅し、これにより所有権を全うすることができる関係にあり、右消滅時効を援用することができないとすると、抵当権が実行されることによって不動産の所有権を失うという不利益を受けることがあり得るのに対し、後順位抵当権者が先順位抵当権の被担保債権の消滅時効を援用することができるとした場合に受け得る利益は、右に説示したとおりのものにすぎず、また、右の消滅時効を援用することができないとしても、目的不動産の価格から抵当権の従前の順位に応じて弁済を受けるという後順位抵当権者の地位が害されることはないのであって、後順位抵当権者と第三取得者とは、その置かれた地位が異なるものであるというべきである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に現われた本件訴訟の経過に照らし、正当として是認することができ、その課程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難し、原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうか、又は独自の見解に立って原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官遠藤光男 裁判官小野幹雄 裁判官井嶋一友 裁判官藤井正雄 裁判官大出峻郎)

上告代理人大谷美都夫、同泉谷恭史の上告理由

第一点 法律(民法第一四五条)解釈の誤り

1 原判決は上告人みちゆき商事は被上告人の本件根抵当権に後れる抵当権(又は根抵当)者であって、時効を援用し得る「当事者」に該当しない、又その援用を認めるとその把握した以上の担保価値を与えることとなって不合理(反射的利益の意)とする。

2 確かに民法第一四五条に関する従来の判例は「直接に権利を取得し、または義務を免れる者」に限られるとする。

そして、後順位抵当権者はこれに該当しないとしている。

然し、他方抵当不動産の第三取得者に被担保債権の消滅時効の援用権を認めているのも確定した判例の立場である。

そして、右第三取得者は経済活動(価値を把握する手段)として所有権を取得した者を除外する趣旨では決してない。

抵当不動産の第三取得者は前記の「直接に権利を得、義務を免れる者」に該当しないことは明白で、せいぜい抵当権の負担を免れる者(抵当権設定者)の承継人でしかない。

もし、この第三取得者が右の意味の承継人であるが故に被担保債権の時効援用権が承認されているとすれば、所有権の第三取得者と後順位抵当権との間に(先順位抵当権の被担保債権の)時効消滅援用権を差別又は区別するだけの合理的理由は毫も存しない。

けだし、後順位抵当権者も所有権の第三取得者も、新たに(先順位の)抵当権設定者(所有権者)との法律関係によりその権利又は地位を取得した者であって、その取得した権利の内容に差があるにすぎない。

しかし、今日の経済活動においては所有権といえども経済的価値の取得が主眼であり、その所有権の実現は結局は経済的価値によって(競売における剰余金の第三取得者への支払など)充足されるのである。

言うまでもないが、後順位抵当権者は換言すれば「経済的価値」の承継人であることは明白である。

時効援用権に関する前記判例の違いが、前記「承継性」とも言うべき点にあるとすれば、第三取得者も後順位抵当権者も援用権を認める必然性・必要性・合理性・妥当性において差異はない。

3 後順位抵当権者は、将来において先順位抵当権の被担保債権が消滅することによって、その把握する担保価値が増大することは事実である(この点は第三取得者も変わらない)。

その原因が弁済・相殺・混同・放棄・免除の場合は後順位抵当権者に担保価値増大の利益が認められるが、時効消滅の場合は認められないとする合理的理由はない。

この理は被担保債権の債務者が時効を援用するか否かに拘らず異なるものではない。

又、後順位抵当権者の前記担保価値増大の期待は法律上も正当で且つ保護するに値するものであって、これを債務者の恣意に委ねる結果になることこそ問題である。

4 従って、民法第一四五条(法文上も援用権者を限定していない)は、時効を援用するに法律上の正当な利益を有する者であり、広く法律上利害関係のある者を含むものと解釈されなければならない。

してみれは、時効制度をどのように解釈するかの問題もあるが、後順位抵当権者の立場は明らかに先順位抵当権者との法律上の利害関係にあり、そしてその援用権の承認は決して不合理性は存在せず、「反射的利益」と言えるものではない。

5 従って、原判決は民法第一四五条について援用権者を限定的に解釈して本件控訴を棄却した原判決は違法である。

第二点〜第四点<省略>

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